■文字起こしの要領■
文字起こしを断続的に行なう場合や、複数の人が文字起こしをする場合などは、「起こし方に一定のルールがほしい」と思うことがあります。そのような場合にこれを利用してください。(必ずこのように起こさなければならない、ということではありません。)
<0>冒頭には少なくとも次の情報を書いておく。
・インタヴュイーの氏名と基礎的な情報(年齢、職業、組織への参加年数など)
・インタヴューの日時と場所
・インタヴューの内容に関する簡単な紹介(後で自分が一目見て内容を瞬間的に思い出したり、調査グループの他のメンバーに対して内容をガイドしたりするのが目的)
<1>発言者の名前のあとに「:」(全角)を入れ、そのあとに発言を書く。
<2>発言者が変わるたびに改行する。
<3>ひとつの発言の終わりには「。」を入れる。「,」「.」は使わない。
<4>沈黙は「…」(だいたい1秒以内)や「……」(だいたい2~3秒)とする。かなり長い沈黙は「(約4秒沈黙)」などと表記する。
<5>長音には「ー」「ーー」を使う。「―」を使わない(例:「うーん」)。
<6>聞き取れなかった場合は「(??)」と表記する。聞き取りに自信のない言葉は「(当該の言葉?)」と表記する。
<7>笑いは「(笑)」と挿入する。ただし、言葉としてはっきりと聞き取れる笑いは「ハハハ」などとする。
<8>動作、出来事などを補足説明として挿入する場合は、「(* )」を使う。
<9>切れ目なく発話者が移行した場合には、前の発話の末尾と後の発話の最初とに「=」を付ける。
(例)
川島:それで、今日は何の話だっけ?
牧畑:はい。今日は川島さんの恋愛観について伺いたいんですけど=
川島:=そりゃまた何だね、(変わった?)話だね(笑)。
牧畑:いや、どうもすみません。
川島:ま、ま(*菓子を勧める)。
牧畑:あ、どうもありがとうございます(*菓子をひとつつまむ)。それで、えーー、川島さんが最初に恋愛されたのはいつですか。
川島:んーー。(5秒沈黙)
<10>「あのー」「そのー」「えー」「でー」「こう」など意味のなさそうな言語や、「あー、うー」などの音声の起こし方は一貫した方針が必要。
(例)
・精確型;正確だが、読みにくい。
そう、うー、ですねえ、ま、まあ、これがあのう、おー、難しい、まあ問題ですから、えー……、ま、うーん、ど、どう考えても、ねえ(笑)、えー、へへ、うーん…、
・省略型;見やすいけれど、断言しているニュアンスに見える。
そうですね。これが難しい問題ですから、どう考えても。
・中間型;省略はするが、ためらいのようなニュアンスをある程度残す。
そうですねえ、ま、これが難しい問題ですから、うーん、どう考えてもねえ、うーん。
→文字起こしの前にどれにするか確認する。通常は中間型。問題関心によっては他のタイプのものにする。
*会話分析の場合は、精確型よりもさらに精確なトランスクリプトが必要になる。詳細は、好井裕明他編『会話分析への招待』(世界思想社、特に目次直後のxii-xiv)、あるいはジョージ・サーサス『会話分析の手法』(マルジュ社、特にp.155-)を参考にすること。
<11>たとえ意味が同じでも、言葉を変えたりしない。
(良くない例)
・実際の録音
そういうことが、たまーにあるってことですよ。
・文字起こし
そういうのは、たまにしかない。
<12>相手の発言の合間に打つ短い相槌は「(牧畑:はい)」というふうに、丸括弧でくくって挿入する(改行は不要)。
<13>ワープロ変換による過剰な漢字化は避ける。以下に訂正例をあげる。
(誤)そう言う風な事が在る訳よ=>(正)そういうふうなことがあるわけよ
(誤)割と可能性何かが有る様なのよ=>(正)わりと可能性なんかがあるようなのよ
(誤)其処の所がねえ=>(正)そこのところがねえ
<14>複数の読み方を混同しやすい漢字はひらがなを選択するよう心がける(「方」、「家」、「後」など)。
(例)
・「あの方が正しい」=>「あのかたが正しい」のか「あのほうが正しい」のかわからない。
・「この家ではね」=>「このうちでは」なのか「このいえでは」なのかがわからない。
・「その後」=>「そのご」「そののち」「そのうしろ」のどれかがわからない。
・「直に」=>「ちょくに」「じかに」「すぐに」のどれかがわからない。
・「中では」=>「うちでは」「なかでは」のとちらかがわからない。
・「その下で」=>「そのしたで」「そのもとで」のどちらかがわからない。
<15>逆に漢字でなければ意味がわからない場合は漢字にするよう心がける。
(例)
・「ここの会員」=>「此処の会員」なのか「個々の会員」なのかわからない。
・「かわった人」=>「変わった人」なのか「代わった人」なのかわからない。
・「会報をおくらせた」=>「送らせた」のか「遅らせた」のか。
<14>数字の使用は統一しないと意外に気になってしまう。今回は、原則として全角算用数字を使用する方針をとる(「1」「2」…)。ただし、桁数が複数になる場合は、半角算用数字を使用してください(例:「平成11年」ではなくて「平成11年」)。
ただし、算用数字に直すと不自然な場合に漢数字を使用する(例:「第三者からみると…」「第一歩」「一生」)。どちらの数字を使っても不自然ではないケース(例:「第二」と「第2」)は、どちらを選んでも構わないが、一つの起こし原稿の中ではどちらかが一貫して使用されているようにする。
<16>促音記号「っ」の前には「、」をつけない。
(例)
(誤)いいよ、って言うんですね。=>(正)いいよって言うんですね。
<17>トランスクリプト内に録音経過時間などを(思いついたときにだけでも)書き入れておくと、後で探索するときに便利なことがある。