女性就業支援(キャリアとライフイベントとの関係)
1, 問題関心
日本では1985年に男女雇用機会均等が制定されて以来、女性の社会進出に力を入れてきた。生産年齢人口の就業率は男女ともに上昇しているが、女性の就業率が15歳~64歳で66.0%(平成28年度)と上昇を続けている。
しかし第一子出産前後での就業継続は53.1%であり、出産退職は46.9%である。(平成30年 内閣府男女共同参画局)特に非正規雇用であるパート・派遣の就業継続率は25.2%と低い状態である。それに対し、出産後も正規に職員だった割合は62.2%である。
だが、正規雇用で育休を取得し、復職しても出産前と働き方が違く、以前のように働きたくても育児との両立のためにジレンマを感じている女性もいる。また、育休明けの職場で肩身の狭さを感じるなど状況が変化してしまう場合もある。
このように出産前と出産後とでは働き方が変わったり、出産を機に仕事を辞めざるを得ない女性を支援する制度や、どのように女性はライフイベントとキャリアを両立しているのか考察していきたい。
2. 基礎概念
育児休業制度
平成4年 「育児休業等に関する法律」が施行されてから平成29年に「育児・介護休業法」の改正がされるまで変遷してきたものであり、労働者が原則として1歳に満たない子を養育するための休業で、保育所に入れない等の場合に子が1歳6か月に達するまで延長できる。
育児・介護休業法の改正によって平成29年以降は、再度申し出ることにより、育児休業期間を2歳まで延長できるようになった。
父母がともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達する日までの間取得可能(パパ・ママ育休プラス)
短時間勤務制度
平成4年に施行された育児休業法で政策的に登場。この当時は育児中の柔軟な働き方の一つとして導入された。短時間勤務以外に所定外労働免除制度、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、事業所内保育施設の運営などからひとつ選択して制度を設けることが義務付けられる「選択的措置義務」として規定された。
平成21年の育児・介護休業法の改正により、3歳未満の子供を養育する労働者に対し、短時間勤務制度(1日原則6時間)を設けることが事業主に義務付けられた。
時間外労働の制限
3歳未満の子を養育する労働者が申し出た場 合、所定労働時間を超えて労働させてはならない
法定時間外労働の制限
小学校就学前までの子を養育する労働者が申 し出た場合、1か月24時間、1年150時間を超 える時間外労働をさせてはならない
深夜業の制限
小学校就学前までの子を養育する労働者が申 し出た場合、深夜(午後10時から午前5時まで)において労働させてはならない。
子の看護休暇制度
年5日間取れる。半日(所定労働時間の二分の一)単位の取得が可能。
小学校就学の始期(6歳)に達するまでの子どもの病気やケガの際に利用できる。
正社員に限らず、契約社員、パートタイム、アルバイトの形態の従業員が利用できる
マミートラック
仕事(キャリア)の追求より母親としての道を選択する女性の生き方のこと。特に、仕事と子育ての両立はできても出世コースからは外れてしまう女性の労働形態のこと。男女均等支援や子育て支援などが十分でない大企業で起こりやすく、育児休暇明けに補助的な職種や分野にまわされるなどして上級職への道が閉ざされるといった流れが多い。マミートラックに一度乗ってしまうとそこから抜け出すことは難しいため、育児を重視しつつ不本意ながらも仕事をし続けるか、転職・退職という道を選ぶことになる。
https://kotobank.jp/word/マミートラック-635713(コトバンク 出典 朝日新聞出版)
育児・介護休業法の変遷
平成4年に「育児休業等のに関する法律」が施行され、育児休業が自業主の「努力義務」から労働者の「権利」として確立され、女性だけではなく、男女共通の権利となった。子育てを行う労働者にとって仕事と家庭の両立をするための基本的権利として法によって保障されるようになった。
育児と仕事の両立のための制度として育児休業以外に短時間勤務制度、フレックスタイム制、所定外労働の免除なども定められた。
高齢化の増加に伴い、介護休業の導入が法政策課題となった。平成7年6月には、一部改正され、介護休業制度の法制化された。また、介護休業法以外の措置(勤務時間の短縮等の措置)に関する規定を設けた。平成11年には介護休業が義務化された。
平成13年に一部改正され、勤務時間短縮等の対象となる年齢の1歳未満から3歳未満への引き上げ、育児休業・介護休業の申し出や取得を理由とする不利益取り扱いの禁止、小学校就学の始期に達するまでの子の養育または要介護状態にある対象家族を介護する男女労働者の請求による1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働の免除請求権、子の看護休暇の努力義務等の規定がされた。
平成13年に育児介護休業制度は改正されたばかりだったが、改正法案は16年の12月に成立し、17年の4月1日から施行された。
改正法の内容は、育児・介護休業法が適用される範囲の拡大である。有期雇用者のうち
① 同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上あり、②子が1歳に達する日を
超えて雇用が継続することが見込まれる場合には育児休業の権利が認められる。
また、育児休業期間の延長である。改正前では、子が1歳になるまでの期間全てと一部期間ではいつでも育児休業を取得できた。改正後には、労働者またはその配偶者が育児休業制度を利用していて、かつ該当子が1歳になったときに保育所での保育を希望しつつも困難であったり、保育中の配偶者が死亡した場合等一定の事由が認められる場合には1年6か月に達するまで育児休業が出来るように制度が拡充された。
子の看護休暇の権利化もされた。改正前でも看護休暇については自業主の努力義務として設定されていた。しかし、改正後では労働者の権利として創設し、小学校就学前の子を養育する労働者は1年に5日を限度として病気や怪我した子の看護のために休暇を取得できることとなった。
平成21年に改正が行われ、3歳までの子を養育する労働者について短時間勤務制度(1日6時間所定労働時間)を設けることを義務とし、労働者からの請求があったときの所定外労働の免除を制度化する。また、子の看護休暇制度を拡充された。小学校就学前の子が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日に改正された。
パパ・ママ育休プラス制度ができ、父母がともに育児休業を取得する場合、1歳2か月 までの間に、1年間育児休業を取得可能とする。父親が出産後8週間以内に育児休業を取得した場合、再度、育児休業を取得可能とする。 配偶者が専業主婦(夫)であれば育児休業の取得不可とすることができる制度を廃止された。
平成28年に改正され、子の看護休暇の半日取得が可能になり、育児休業取得要件の拡大がされた。
(武石恵美子,2009 女性の働き方)
支援に関係する法律
調査対象候補
〇富山第一銀行
~取り組み~
・育児休業中の職員による「キラリMama’sクラブ」
・短時間勤務 小学校4年生 始期まで(法律では3歳まで)
・ジョブ・リターン制度
https://www.first-bank.co.jp/outline/woman.html
〇インテック
~取り組み~
・事業所内保育施設「インテックキッズホーム」
・最長3歳まで何度でも取得できる独自の育児休業制度(法律では最大2歳まで)
・短時間勤務 小学校6年生終了時まで 最大3時間短縮勤務可能(法律では3歳まで)
・育児のための特別休暇
小学校3年生修了時までの 1ヵ月に2日まで(半日単位の取得可)
・子どもの看護休暇
年間最大34日(小学校3年生修了時まで)
・時間外労働の免除
1か月24時間、1年150時間まで 小学校3年生修了時まで
(法:1ヵ月24時間、1年150時間まで 小学校就学の始期に達するまでの子)
https://www.intec.co.jp/recruit/wws-welfare.html
〇北陸銀行
~取り組み~
・産前産後休暇
・育児休暇 子が3歳になるまで
・結婚休暇 勤務地変更、再雇用制度
・育児短時間勤務 産前6週間 産後8週間
https://www.hokugin.co.jp/company/diversity.html
〇北陸電力
・育児休業制度
・子が満2歳に達する日までを限度に、本人が申請した期間で育児休業を取得できる。(法定:1歳)
・育児短時間勤務制度
子が満3歳に達する年度末まで、1日の勤務時間を5時間40分まで短縮できる。(法定:6時間)
子が満3歳に達する年度末の翌日から小学校3年生の年度末まで、1日の勤務時間を5時間40分まで短縮できる。(法定:小学校就学前)
・子の看護休暇
中学校就学の始期に達するまでの子の看護にあたるとき、子1人につき年5日、2人以上であれば年10日取得できる。(法定:小学校)
http://www.rikuden.co.jp/syokuba/
参考論文
検索キーワード
仕事と子育ての両立 出産後の育児復帰
雇用形態(正規雇用と非正規雇用)の違いにおける仕事と子育ての両立
ワーキングマザー 子育てしていても働きたい 継続就業
ライフイベントとキャリアの関係 女性活躍
武石恵美子,2013「短時間勤務制度の現状と課題」
file:///C:/Users/wakabayashinana/AppData/Local/Packages/Microsoft.MicrosoftEdge_8wekyb3d8bbwe/TempState/Downloads/13_cdg_10_takeishi%20(1).pdf
調査方法:ヒアリング調査
「短時間勤務制度利用者のマネジメントとキャリア形成」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2017/12/56.pdf
調査方法:女性社員に実施したアンケート
短時間勤務の利用者に対する仕事配分・目標設定・評価等の運用実態、課題を整理する
的場康子「育児のための短時間勤務の現状と課題」
調査方法:働く女性800人に対してインターネット調査
21世紀職業財団,2009 「休業取得者・短時間勤務者の評価・処遇のあり方に関する報告書」
https://www.jiwe.or.jp/application/files/4414/6061/4709/090818_houkoku.pdf
松原光代,2012「短時間勤務制度の長期利用がキャリアに及ぼす影響」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/10/pdf/022-033.pdf
参考文献
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_45/pdf/s1.pdf
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/measures/shidai13/pdf/s4_4.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000132020.pdf
(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h27_12.pdf
(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/english/policy/affairs/dl/06.pdf (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/dl/kurumin_leaflet.pdf
(厚生労働省)
編著 武石恵美子,2009 「叢書・働くということ⑦女性の働きかた」
武石恵美子,2013「短時間勤務制度の現状と課題」
法政大学紀要論文
生涯学習とキャリアデザイン10巻 p67-84
尾島有美,2017「短時間勤務制度利用者のマネジメントとキャリア形成」
李刊政策・経営研究2017(4), 56-68
三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2018 「平成29年度 仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書 企業アンケート調査結果」