本来の意味
・子供の意識の成長
身近な親子関係のコミュニケーションのみで育つ
→他人の存在に気づき、恥ずかしがったり身構えたりする=人見知り
人見知りと性格
生まれ持った性格だけに原因があるわけではない
⇒育った環境や、過去の経験などから人格が形成されていく
若者の友人関係 ―人見知りは個性か―
<問題意識>
近頃、書店などで人間関係を円滑に築くための方法を説いた本が多く目に入る。私たちにとって他人との関わりというのは生きていく上で避けて通れないものであり、時には不安やストレスの原因になるものである。その人間関係のなかでも特に友人関係は身近な悩みの原因としてよく聞かれる。このような友人関係の悩みは現代社会だけに起こっていることなのか、友人関係における現代の傾向や特徴、またその原因として考えられることはなにか、特に若者の友人関係についてまとめる。
また、友人関係を築いていくなかで、“人見知り”という言葉が使用されることがある。ネット上のコミュニティなどで自分は“人見知り”であると“公言するひとも増えているように、人見知り”であると自覚している人は少なくない。では“人見知り”とは一般的にどの様な人のことを指すのか、一見ネガティブなイメージがある“人見知り”は、多くの人が公言できる個性のように認められたものとなっているのか、友人関係の変化とともにその特徴をつかむ。
現代社会の友人関係
<背景にある社会の変化>
対人関係は社会的な要因(慣習・制度・状況など)によって左右される
(対人関係の「常識」は普遍的なものではなく、別様にもありうるような社会的な合意事項にすぎない)
多様化する人間関係
国際化・情報化
↓
脱伝統化(対人関係のローカル化・ルールの相対化)・空間的距離の克服
↓
価値観の多様化・選択肢の増大・個人の主体化・プライバシーの確立
↓
利害対立の危険・意味喪失の危険(多様な対人関係に振り回され「自分らしさ」を見失う危険)
↓
人間関係の複雑化
「対人恐怖社会」であり「対人満足社会」でもある
メディアの発達
対人関係の希薄化の原因=メディアの発達?
《ネガティブな面》
・本来のコミュニケーションの機会を奪う
・コミュニケーションギャップの可能性を高める
・触れ合いがもたらす公共心やモラルを失わせる
《ポジティブな面》
・遠距離恋愛…物理的な距離を克服し対面状況でのコミュニケーションの後押しとなる
・実際に電話やメールをする相手の多くは普段から直接会う友人…対面的なコミュニケーションを強めるものになる
・生身の友人では得られない何かをメディア上の友人に求める…対人関係をより豊かにする
⇒メディアの発達…対人関係の「多様化」
コミュニケーション能力
〈従来〉
・価値観や欲求のありようが今ほど多義でなかった時代
→関心対象も重なりあう部分が多く対立点も顕著化しにくい⇒繊細な能力を必要としない
〈現在〉
・互いの関心対象の差異化の時代
→理解可能性は前提とされにくい⇒高度なコミュニケーション能力が必要に
<希薄化論>
1990年代から
共同体の崩壊・価値観の多様化
↓
若者の秩序・意味世界を支える規範の失効
↓
人間関係・コミュニケーションの希薄化
「希薄な関係」対「濃密な関係」
〈希薄な関係の原因・特徴〉
・都市化→個人主義の増大…「自由」と「プライバシー」の獲得
・コミュニケーション不全症候群…知人以外の他人に対する想像力を欠き人間関係をうまく処理できない人々の精神状況を指す(中島梓1995)
・脱伝統化した社会…共同体の伝統に基づいて周囲の人々が自分の生き方を教えてくれることは期待できない・「自由」や「プライバシー」によって人々は主体的に自分の生き方を自分で選択できる
〈濃密な関係の原因・特徴〉
・コミュニケーションが活発化している状態(山田昌弘)
・行為者が受容者の通常の個人的領域への侵害についてなんの配慮を示す必要もなく、またそのプライバシーに侵入することで相手を汚染することになんの危惧を懐く必要もない場合(アーヴィン・ゴフマン)
・その人との独特なルールを持ち、相手へのコミットメントが大きく、互いに頻繁に大きな影響を与え合い、共有する情報が多く、円滑で効率のいい安定したコミュニケーションが可能で緊張が少ない状態…親密な関係の形成における自己開示の重要性を指摘(大坊郁夫)
対人関係が親密であるには
⇒自己に関するメッセージの発信とその肯定的受容が円滑に行われ、安心と信頼が構築されることが不可欠
関係の希薄化
〈従来〉
自分の周囲に家族や親友、恋人など何でも話し合える親密な他者をもち、さらにその周囲にそれほどでもない友人や知り合いを持つ=同心円的な対人関係
〈現在〉
ひとりの個人がお互いに隔離された複数の友人関係の中に身を置き、それぞれのなかで異なった趣味や話題に没入する傾向
コミュニケーションにおける希薄化
〈従来〉
直接的な対面状況において微妙な感情やニュアンスをやり取りする「心の触れ合い」
〈現在〉
間接的なコミュニケーションの発達・都市化による地域共同体の崩壊
→お互いの心を触れ合わせるホットな関係を避ける
希薄化論の図式(悪循環)
対人スキルの低下
↓
相手に対して「自己」を開示できない(深い自己表示が行われない)
↓
信頼が築かれない=希薄化する
↓
ますます対人スキルが身に付かない
<選択化論>
本当に希薄化しているのか
親密さに関する図式そのものの解体
・友人のカテゴリーが拡大
従来の友人概念も残しながら、これまでは友人とは呼びえなかった希薄な関係も友人のカテゴリーに含まれるようになった
・友人関係の多様化
選択的に使い分けられる
⇒選択化論(従来の希薄化論を批判)
包括的な関係(家族や恋人)は徐々に収縮
↓
参入・離脱の比較的容易な関係において世界の文脈を限定的・選択的にのみ共有するような親密性
選択化論の特徴
・選択化論ではあるが「自己の内面を開示して人格的な信頼を築く度合いが減少した」という点では希薄化
・友人関係が希薄である人・そうでない人 傾向として分散している
・一人の人が持つ友人関係の中にも、希薄な関係とそうでない関係が混在(選択的に使い分け)
選択化論の背景
・友人関係において自己の内面を開示し、人格的な信頼を築いていくというやり方が難しくなっている
・自己を開示する→そこで否定されたり、会話に詰まったりするリスクのほうが大きく意識される
⇒若者は一様に友人に人格的信頼を求めるのではなく
あるところでは人格的な信頼を、あるところでは傷つけあわないことといった具合に、
それぞれに居心地のよい、さまざまな内容を持つ親密な関係を気付き使い分ける
<現代における若者の友人関係の特徴>
友人との関わり方
・多チャンネル化
友人関係を取り結び維持するためのチャンネル→相対的に多様化
原因・友人数の増加や友人と知り合う場所の変化(アルバイト・ネット上など)
・状況志向
状況や関係に応じた顔の使い分けとそれぞれの関係へのそれなりの熱心な没入
→ルール化はされておらず、使い分けが明らかになったときは驚きを伴う
・繊細さ
相手への関係の持ち方にこれまでと異なるセンスが必要(→KYなど)
→人間関係に対して敏感・繊細
・情緒的関係を嫌う…その場が楽しければよい
・「ペルソナ人間」…傷つくのを恐れ他人が自分の内側に入ることを拒否
・対人関係の葛藤に耐えるのが弱くなっている
(ゼミの司会など機械的・形式的関係…〇 雑談をともなうような日常的関係…×)
・何となく雰囲気によってだけ関係を維持…状況依存的
例:ぼかし表現(断定を極力さける)
・対立関係のあり方
〈従来〉
対立点や相違点に目を凝らして解決を目指す・決別と和解を何度も繰り返すことで関係を創り上げていく
〈現在〉
対立が顕著化しない・対立そのものをなかったことにする→相手に対してではなくその関係性に繊細な配慮
・自己開示のあり方
「素の自分の表出」…自分の思いを優先し、そのままストレートに発露すること
「装った自分の表現」…相手との関係性をまず優先し、その維持のために感情を加工
⇒親密圏では「素の自分の表出」から「装った自分の表現」にシフト
公共圏では「装った自分の表現」から「素の自分の表出」にシフト
(第三者との関わり方にも影響を与える)
第三者との関わり方
・公共の場でのマナー
マナーが成立するには意味のある人間としての他者が認識されなければならない
〈現在〉
そのように感受される他者の範囲が狭い(電車の中の化粧・大声など)=「素の自分の表出」
⇒他者の存在を無視した悪意の結果ではなく、他者に無関心
(欠けているのはマナーについての教養や態度ではなく、意味ある人間としての他者の認識)
⇒・親しい間柄の人間には過剰なほどの配慮
・第三者に対しては全くの無関心
・「集団内自閉」…自分の属するグループ以外の第三者には意識なし
<現代における友人関係の問題点>
・厳しい排除に反転…いじめなど
・過剰な配慮による苦労…ストレス疲労など
人見知り
<基本概念>
<社会における人見知り>
人見知りだと思い込む人々
人見知りであると自覚し、他人に公表する場合が多い
言葉だけが都合の良いように使われる
→どのような人が本当に人見知りであるか
⇒ネット上では様々な「人見知り診断」が作られている
例:人見知り診断
・初対面の人には、自分から話しかけられない。
・知り合いを街で偶然見かけても、声を掛けられない。
・人前で話すときに、顔が火照ったり、汗をかく。
・人前で話すとき、声が震えたり上ずったりする。
・人前で話すとき、脈が早くなる。
・会話が思うように続けられない。
・相手の目を、真っ直ぐに見ることができない。
⇒3~4項目以上の心当たりがあった人は人見知りの可能性が高い
中でも特に、顔が火照る、汗をかく、声が上ずる、脈拍が早くなるという
身体に表れる症状がある場合は神経症のものである可能性が高い
人見知りが社会に広まった理由
社会人理想像…"会話上手"の"コミュニケーション上手"が広く浸透
〈従来〉
会話上手という尺度に限らず様々な尺度で自己や他人を評価
〈現在〉
様々な評価基準の中で会話上手が最上位に登りつめた
・背景
頑固親父、無口がちな職人気質、しとやか美人などが、日常的風景にあらわれなくなった
→とにかく人と上手に会話をすることが成長で、うまく会話ができないのを成長途上として幼少期の戸惑いと重ねられる傾向に
<参考文献>
相川 充,2010,『コミュニケーションと対人関係(展望現代の社会心理学 2)』,誠信書房
1996,『社会的スキルと対人関係 : 自己表現を援助する』,誠信書房
浅野智彦,2002,『図解社会学のことが面白いほどわかる本!』,中経出版
2006,『証・若者の変貌 失われた10年の後に』,勁草書房
安藤延男,1988,『人間関係入門』,ナカニシヤ出版
伊賀光屋,2004,『大学生の友人関係「心の友」と「気の合う仲間」』,新潟大学教育人間科学部紀要
岩田 考,2006,『若者たちのコミュニケーション・サバイバル』,構成者構成各
鈴木郁子,1998,『現代学生、気質(3)あなたは人付き合いが上手ですか?』,北里大学保健衛生専門学院紀要4(2)
星野 命,1998,『対人関係の心理学 (こころの科学セレクション)』,日本評論社
松井 豊,1992,『対人心理学の最前線』,サイエンス社
吉田富二雄,1998,『人間と社会のつながりをとらえる「対人関係・価値観」』,サイエンス社
<参考ホームページ>
人間関係改善法~脱・人見知り,2009,人間関係の悩み(http://www.naitoh.net/)
思考の社会学~隠されていた言葉の影響~,2010,人見知り(http://gold1513.blog48.fc2.com/blog-entry-63.html)