タイトル「若者とボランティア」
問題意識
大学生活を送っていると、自発的にボランティア活動にかかわっていく若者を見かける。
彼らはなぜ、利益の出ないボランティア活動に従事するのであろうか。
その動機に迫っていく。
基礎概念
ボランティア・・・自ら進んで行う援助行動。1日ぐらいの短期ボランティアと1週間以上行う長期ボランティアがある。有償でおこなうものもボランティアと呼ぶべきか、という論争がなされている。
研究者
・仁平 典宏 東京大学大学院教育学研究科比較教育社会学講座 准教授。社会学者。ボランティア以外にも「ホームレス」「野宿」状態に置かれた人々の生のあり方についても考察している。
主な著書:2011『「ボランティア」の誕生と終焉――〈贈与のパラドックス〉の知識社会学』名古屋大学出版会
・佐々木正道 中央大学 文学部 教授。
主な著書:『グローバル化のなかの企業文化―国際比較調査から』 中央大学出版部 2012年2月
・妹尾 香織 花園大学 社会福祉学部臨床心理学科 准教授。現代社会における家族関係についての臨床・社会心理学的研究などを行っている。
主な著書:
○近年のボランティア活動を行う意義
富樫 ひとみ論文の「若者ボランティア活動の現代的意義と コーディネート機関の新たな役割 ― ドイツのコーディネート機関を参考に ―」をもとにボランティア活動で若者が得ることができるものについて、見ていき、そこからボランティア活動を行う意義について見つめていこうと思う。
【得ることができるもの】
・「活動者自身の偏見を修正すること」
・「広い視野を体得すること」
・「経験や新しい友人の獲得」
・「満足やエネルギーの獲得」
以上の四つである。
よって、ボランティア活動では自己成長や満足感などの精神的な報酬と社会とのつながりの獲得や強化といった実際的な報酬が得ることができて、これらは活動者自身にとって財産となるとなるものである。
従来のボランティア活動の意義は,「社会貢献」という社会にとっての意義が強調されていた。この意義はボランティア活動の本質であり、今後も変わらない。
↓ ↓ ↓
しかし、近年になってボランティア活動から得る報酬が取り上げられるようになり、自己成長や友人の獲得など利己的な動機が認識されるようになった。
○若者のボランティア参加
短期ボランティア(妹尾論文)と長期ボランティア(佐々木論文)の両方の事象を見て、若者がなぜボランティアに参加するのか、という動機に迫っていく。
【短期ボランティア】
若者におけるボランティア活動とその経験効果 妹尾 香織 花園大学社会福祉学部研究紀要 16, 35-42, 2008-03 CiNiiオープンアクセス より
アンケート対象:福祉系専門学校生を非対象者。有効回答数は163名でその性別内訳は男性55名で女性が108名。平均年齢は20歳。
短期ボランティア(1日、2日のボランティア)が対象
・「仲の良い友達ができた」、「新しい友達ができた」、「人間関係の輪が広がった」などの質問項目からボランティアを契機に人間関係の輪の広がりに関する成果が得られなかった
・「活動を通して喜びを感じられた」、「人に対して思いやることが意識づいた」、「活動を通じて自分自身が成長できた」、「対象者や他のボランティアから様々なことを教えられ勉強になった」などの質問項目から自分たちの成や役
に立っていることに関する成果を得られた人が多かった。
→ボランティア活動をする動機が、自分自身の成長などを目的にするという利己的な動機の理由が多いことが分かった。
【長期ボランティア】
『大学生とボランティアに関する実証的研究』 佐々木正道編著
アンケート対象:1995年において、阪神淡路大震災の被災地に駆けつけた約4600人の対象から、大学生の約1400人を抽出した。また、大学との関係や大学の対応が重要となるという認識に基づき、1996年に被災地から近い大学、6大学の大学生(約1400人)を対象とした調査結果の中から、震災でボランティア活動をした約440人を抽出。
①ボランティア活動を始めた動機
Q.なぜ、ボランティア活動を始めようと思いましたか。その時の動機について二つまで選び、順位をつけて回答してください。
<結果>
1被災した人たちの生活の援助に役立とうと思ったから 37%
2居てもたってもいられなくなった 27%
3自分自身の勉強になると思ったから 14%
(一般の人との比較)
・1、2に関しては一般の人の割合が大きかった。
・3に関しては大学生の人の割合が大きかった。
→大学生は、一般の人と比べると、利他的動機より利己的な動機のものが多い
②ボランティア活動の継続期間
Q.ボランティア活動を5日以上行った人にのみお聞きします。ボランティア活動を続けようと思った動機に該当する番号をしたから2つまで選び、順位をつけてください。
<結果>
1被災した人の生活に役立てよう 51%
2自分自身の勉強になると思った 16%
3その他 11%
(一般の人との比較)
・2の自分自身の勉強になると思ったからが、大学生の人の方が一般の人よりも9%高かった
・1の動機を選んだ人の割合は、一般の人の方が14%高かった
→①同様、大学生の活動動機は、利己的要素が一般の人よりも強い
③活動を通じての満足感
Q.活動を通じて満足感は得られましたか。
<結果>
1かなり得られた 22.5%
2だいたい得られた 44.9%
3あまり得られなかった 28.6%
4まったく得られなかった 4.0%
(理由)
満足した理由
・「被災者の役に立てた」、「新しい経験ができた」、という回答が多かった
・他には「被災者の人に喜んでもらえた」、「多くの素晴らしい人を見ることができた」、「被災地の状況を見ることができた」など。
不満な理由
・「活動期間が短かった」、「被災者とボランティア間の人間関係があまりよくなかった」、「効率が悪かった」などの回答多数。
・他には「自分の力のなさを感じた」、「どれだけ役に立てたか疑問」、「行政の対応に関して不満」など。
④ボランティア活動を通じて、最もうれしかったことや良かったこと
Q.活動を通じて、あなた自身が最もうれしかったことや良かったことについて答えてください。
<結果>
1自分自身の勉強になった 31%
2被災した人たちの生活の援助に役立てた 16%
3自分でも人の役に立てることが分かった 10%
(『大学生とボランティアに関する実証的研究』 全体の分析)
ボランティア活動を始めた動機について、利己的動機からボランティア活動を始めた学生
・「自分自身の勉強になった」が47%、「新しい出会いや経験ができた」が24%と高い
→利己的動機で活動を始めた人は、利己的要素の項目をうれしかったことを挙げている
ボランティア活動を始めた動機について、利他的動機からボランティア活動を始めた学生
・「被災した人たちの生活の援助に役立てた」が21%と多いものの、「自分自身の勉強になった」が26%、「新しい出会いや経験ができた」が21%であった
→利他的動機でボランティア活動を始めた学生は、比較的高い割合で利他的要素のみならず利己的要素を挙げている人は興味深い
同様のことが、ボランティア活動を5日以上行った学生についてもいえる。
短期ボランティアと長期ボランティアに共通して言えること・・・利己的な動機が若者がボランティアをする動機につながっている。
○若者のボランティアのこれからの大学としてのあり方
荒川裕美子..他に2名の論文で興味深い発見を見つけた。それは、小中高の授業で行われるボランティア活動によって、子供たちにボランティアの「非自発的」イメージを抱かせることがあると、いうものである。
こういったことによって、ボランティア活動にマイナスイメージを持ってしまい、ボランティア活動が大学になって続かなくなる学生が多いことが分かった。
しかし、最近、大学では、学生のボランティア活動に単位をつける活動が行われ、そうすることにより、大学生をボランティアに参加させようとしている。
大学側としては、ボランティア活動に積極的に学生を参加させることによって、大学の評判を挙げようとしているようである。
しかし、このようなことによってボランティア参加させても、ボランティアの理念のひとつである、「自主性」がないため、そもそもボランティア活動と呼んでよいのかという疑問が浮かび上がってくる。
このような実態から、仁平論文では、これからの大学の在り方として、あくまで「大学側は大学の評判を挙げるためにボランティアを推進するのではなく、若者を側面からサポートするべき」であると述べて、ボランティア活動において、「自主性」の大切さを説いている。
(メモと文献リスト)
2016/05/27
<ボランティア 若者>
②原田,隆司 (Harada,Takashi),2006「ボランティア活動からみた若者論の試み (<特集I> 若者論の可能性、若者の可能性) (Interpretations of Volunteer Work : A Portrait of Japanese Youth)」,『フォーラム現代社会学 (Kansai Sociological Review)』5: 16-24,関西社会学会 (Kansai Sociological Association). //JPN ←富大OPACにあり
<ボランティア 意義>
①渡戸,一郎 (Watado,Ichiro),1993「ボランティア活動の今日的意義と展開方向」,西尾,勝(編) (Nishio,Masaru (ed))『コミュニティと住民活動』: 145-167,ぎょうせい. //JPN ←富大OPACにあり
(メモ)
・1970~1990のボランティア推進活動と推進過程などについて
・当時は、高齢者のボランティア活動が盛んだったため、あまり若者についての情報は得るものがなかった
柴田,和子 (Shibata,Kazuko),2009「<研究例会報告> ボランティア・NPOの意義と活動観」,日本労働社会学会(編)『労働社会学研究 (Journal of Labor Sociology)』10: 170-172,東信堂. //JPN
藤井,敦史 (Fujii,Atsushi),1999「ボランティア団体から「NGO」へ : 阪神淡路大震災「仮設」支援NGO連絡会とその意義」,『社会運動』232: 14-35,市民セクター政策機構. //JPN
<思いやり>
稲場,圭信 (Inaba,Keishin),2008『思いやり格差が日本をダメにする~支え合う社会をつくる8つのアプローチ』日本放送出版協会 (Japan Broadcast Publishing). //JPN
蛯江,紀雄 / 牧口,一二 / 室田,保夫 / 高田,真治 (Ebie,Norio / Makiguchi,Ichiji / Murota,Yasuo / Takata,Shinji),2000「<シンポジウム> 社会福祉におけるコンパション(人への思いやり) (<Symposium> Compassion and Social Work)」,『関西学院大学社会学部紀要 (Kwansei Gakuin University School of Sociology Journal)』85: 17-31,関西学院大学社会学部研究会 (Faculty of Sociology, Kwansei Gakuin University). //JPN
<ボランティア 意味>
桜井,哲夫 (Sakurai,Tetsuo),2002「「つながる」ことの意味するもの (What the Mutual Communication Means)」,『日本ボランティア学会 2001年度学会誌 (The review of The Japan Society for Studies of Voluntary Activities)』3: 38-51,日本ボランティア学会 (The Japan Society for Studies of Voluntary Activities). //JPN
2016/06/03
CiNii
○若者のボランティア活動から見える日本社会 (特集 若者が見た東日本大震災) 仁平 典宏 コミュニテイ -(148), 75-78, 2012
(メモ)
・東日本大震災後に日本の若者がどう変わったのかをボランティアの視点から
・個人の主観的な文であった
③若者におけるボランティア活動とその経験効果 妹尾 香織 花園大学社会福祉学部研究紀要 16, 35-42, 2008-03 CiNiiオープンアクセス
(メモ)
・アンケートを取って検討
・短期ボランティアについて
・若者は、自身の活動が役に立ったと感じると活動に満足し、活動を継続する
・新しい友達を求めて、活動に臨むわけではない
レジャー 面倒くさいもの、しんどいものは敬遠。ボランティア活動はおもしろ感覚で。 (特集 若者の意識 若者の行動) 薗田 碩哉 経営者 55(3), 50-53, 2001-03
若者たちが変えていく 街・人・こころ--風通しのよい街づくりをめざして (21世紀はボランティアの時代!?--共生社会をつくるボランティア活動<特集>) 鈴木 光尚 月刊社会教育 37(12), p36-41, 1993-12
若者のボランティア活動 末次 一郎 青少年問題 31(6), p12-18, 1984-06
2016/0617
amazon
<ボランティア 若者>
2016/07/08
・仁平論文:若者がどう変わったと著者に見えたのかという部分を詳しくメモに盛り込む。
→2000年代に入り、景気が低迷し、就職活動が難航し、社会全体がピリピリしだした。その中で、若者たちの社会への関心が高まり、社会的感性も鋭くなっていく。2008年後のリーマンショック後はその傾向がさらに強まる。
3.11後に変化したのは、東北の大学生や高校生であった若者たち。東北再建を掲げ、地元へ目を向けるようになった。東北では、高齢化社会が続いており、村の存続すら危いところも出てきた。そういった地域に若者の目が向く契機になった。
→3.11のあと、ボランティアで現地を訪れた人は、新しい出会いがあり、弱い紐帯(tie)=絆がたくさん生まれたのでは。
→大学側は大学の評判を挙げるためにボランティアを推進するのではなく、若者を側面からサポートするべき。
・妹尾論文:アンケートの対象を細かくメモすること。どの質問項目への回答を根拠にして「友人関係を求めるのではなく、役に立ってるか否かが動機」という主張が導かれたのかをメモに盛り込む。
アンケート対象:福祉系専門学校生を非対象者。有効回答数は163名でその性別内訳は男性55名で女性が108名。平均年齢は20歳。
→「仲の良い友達ができた」、「新しい友達ができた」、「人間関係の輪が広がった」などの質問項目からボランティアを契機に人間関係の輪の広がりに関する成果が得られなかった
→「活動を通して喜びを感じられた」、「人に対して思いやることが意識づいた」、「活動を通じて自分自身が成長できた」、「対象者や他のボランティアから様々なことを教えられ勉強になった」などの質問項目から自分たちの成長や役に立っていることに関する成果を得られた人が多かった。
2016/07/15
『大学生とボランティアに関する実証的研究』 佐々木正道編著 (2003年6月15日出版 ミネルヴァ書房)
大学生活のボランティア活動の意識と実態「阪神淡路大震災における大学生のボランティア活動に関する意識と実態」
アンケート対象:1995年において、被災地に駆けつけた約4600人の対象から、大学生の約1400人を抽出した。また、大学との関係や大学の対応が重要となるという認識に基づき、1996年に被災地から近い大学、6大学の大学生(約1400人)を対象とした調査結果の中から、震災でボランティア活動をした約440人を抽出。
①ボランティア活動を始めた動機
Q.なぜ、ボランティア活動を始めようと思いましたか。その時の動機について二つまで選び、順位をつけて回答してください。
<結果>
1被災した人たちの生活の援助に役立とうと思ったから 37%
2居てもたってもいられなくなった 27%
3自分自身の勉強になると思ったから 14%
(一般の人との比較)
・1、2に関しては一般の人の割合が大きかった。
・3に関しては大学生の人の割合が大きかった。
→大学生は、一般の人と比べると、利他的動機より利己的な動機のものが多い
②ボランティア活動の継続期間
Q.ボランティア活動を5日以上行った人にのみお聞きします。ボランティア活動を続けようと思った動機に該当する番号をしたから2つまで選び、順位をつけてください。
<結果>
1被災した人の生活に役立てよう 51%
2自分自身の勉強になると思った 16%
3その他 11%
(一般の人との比較)
・2の自分自身の勉強になると思ったからが、大学生の人の方が一般の人よりも9%高かった
・1の動機を選んだ人の割合は、一般の人の方が14%高かった
→①同様、大学生の活動動機は、利己的要素が一般の人よりも強い
③活動を通じての満足感
Q.活動を通じて満足感は得られましたか。
<結果>
1かなり得られた 22.5%
2だいたい得られた 44.9%
3あまり得られなかった 28.6%
4まったく得られなかった 4.0%
(理由)
満足した理由
・「被災者の役に立てた」、「新しい経験ができた」、という回答が多かった
・他には「被災者の人に喜んでもらえた」、「多くの素晴らしい人を見ることができた」、「被災地の状況を見ることができた」など。
不満な理由
・「活動期間が短かった」、「被災者とボランティア間の人間関係があまりよくなかった」、「効率が悪かった」などの回答多数。
・他には「自分の力のなさを感じた」、「どれだけ役に立てたか疑問」、「行政の対応に関して不満」など。
④ボランティア活動を通じて、最もうれしかったことや良かったこと
Q.活動を通じて、あなた自身が最もうれしかったことや良かったことについて答えてください。
<結果>
1自分自身の勉強になった 31%
2被災した人たちの生活の援助に役立てた 16%
3自分でも人の役に立てることが分かった 10%
(分析)
ボランティア活動を始めた動機について、利己的動機からボランティア活動を始めた学生
・「自分自身の勉強になった」が47%、「新しい出会いや経験ができた」が24%と高い
→利己的動機で活動を始めた人は、利己的要素の項目をうれしかったことを挙げている
ボランティア活動を始めた動機について、利他的動機からボランティア活動を始めた学生
・「被災した人たちの生活の援助に役立てた」が21%と多いものの、「自分自身の勉強になった」が26%、「新しい出会いや経験ができた」が21%であった
→利他的動機でボランティア活動を始めた学生は、比較的高い割合で利他的要素のみならず利己的要素を挙げている人は興味深い
同様のことが、ボランティア活動を5日以上行った学生についてもいえる。
2016/07/29
・アイディア;若者の動機や意味づけに関する関心が共有されている可能性がある。→利己的な動機を呈示する傾向。この点についてそれぞれの著者はどのように論じているかに着目。
特に、利己的な動機に関する点に論じているものは見つからなかった。
2016/0824
「小・中・高等学校におけるボランティア体験と 大学生のボランティア観の関連」 荒川裕美子.. 保住芳美. 吉田浩子. 2006 川崎医療福祉学会誌より
(http://www.kawasaki-m.ac.jp/soc/mw/journal/jp/2006-j16-1/18_yoshida.pdf)
→小中高の授業で行われるボランティア活動によって、子供たちにボランティアの「非自発的」イメージを抱かせることがある。
「若者ボランティア活動の現代的意義と コーディネート機関の新たな役割 ― ドイツのコーディネート機関を参考に ―」 富 樫 ひとみ 茨城キリスト教大学紀要第49号 社会科学 p.187~198
(file:///C:/Users/%E8%92%BC%E5%A4%A7/Downloads/2-03_togashi.pdf)
→ボランティア活動をして得られるものとして、「活動者自身の偏見を修正すること」や「広い視野を体得すること」、「経験や新しい友 人の獲得」や「満足やエネルギーの獲得」である。
つまり,ボランティア活動には自己成 長や満足感などの精神的な報酬と社会とのつながりの獲得や強化といった実際的な報酬が あり,これらは活動者自身にとって財産となるとなるものである。
「この教育的機能については,わが国でも2000年頃から教育現場でボランティア活動が奨 励され出したことから,教育機関で取り入れられるようになったようにみえる。しかし, わが国における教育的意義は,「奉仕」や「社会貢献」に重点を置いた道徳心の涵養であ る⑩。ボランティア活動の持つ教育的機能は利他性と利己性⑪の両方を併せ持っているの であり,利他性のみを強調するのは,かえって互酬性という社会規範の内在化を遠ざけて しまうことになりかねない。これまでは社会的認知がなされにくかった利己性の側面を認 めることは,ボランティア活動という行為を理解する上で必要であろう。 第二の社会関係資本の獲得・増強機能の意義とは,ボランティア活動をとおして新たな 193 若者ボランティア活動の現代的意義とコーディネート機関の新たな役割 ~ドイツのコーディネート機関を参考に~ 友人や知り合いが増えたり以前からの友人や知り合いとの関係が深まるという意義であ る。活動を一緒に行う仲間ができたり活動に伴う同行時間が多くなったりすれば仲間の関 係は親密さを増す。仲間との社会関係に留まらず,時にはボランティア受入施設などに就 職したりする。ボランティア活動者自身の持つ社会関係が大きく,強くなることが期待で き,社会関係資本を獲得し増強する機能が期待できる。 この他,社会にとっての意義もある。ボランティア活動をとおして様ざまな社会の人び ととの交流が生まれたり深まったりすると仲間意識が生まれ高まる。地域や国民,ひいて は世界で仲間意識が生まれ高まると,共生意識が強まり,社会にとっては平和や治安維持 に寄与したり助け合い精神を増長させたりすることが期待できる。 従来のボランティア活動の意義は,「社会貢献」という社会にとっての意義が強調されて いた。この意義はボランティア活動の本質であり,今後も変わらないであろうが近年に なってボランティア活動から得る報酬が取り上げられるようになり,自己成長や友人の獲 得などが認識されるようになった。しかし,これらの報酬は活動の反射的利益という認識 が強い。筆者は,ボランティア活動の報酬を反射的利益と捉えるのではなく,ボランティ ア活動が持つ利益そのものだと考える。」