<問題意識>
近年、スマートフォンの普及に伴い、インターネットの利用率が高まっている。そして、それにつれて、インターネット上における詐欺などの犯罪が増加している。特に、インターネットオークションでは、架空の商品を購入させるだけでなく、購入時に入力した情報を使って新たに詐欺を働く事件も起きている。このままインターネットオークションなどの電子商取引が普及していく中で、詐欺も増えていく可能性は大いにある。そのため、私はネット犯罪の中でも特にインターネットオークション上の詐欺に注目し、その現状と現在とられている対策を調べ、今後の課題を明らかにしていきたい。
<基礎概念>
・電子商取引:電子商取引とは、金銭的な対価を伴うモノ、サービスの提供について、インターネ ットなどのコンピュータネットワークを介して成約(受発注が確定)したものをいいます。したがって、実際のサービスの提供がオンラインによる必要はない。(平成26年経済センサスー基礎調査 商業統計調査)
・エスクローサービス:エスクローサービスとは、物品などを売買する際に取引の安全性を保証する仲介サービス。売買の当事者以外の第三者が決済を仲介して、代金を一時的に預かる。インターネットオークションなどで、出品者(売り手)と落札者(買い手)との間の代金支払いや商品受け渡しを仲介するサービスを指すことが多い。(ITpro)
・ID乗っ取り詐欺:パスワードを推測または違法な方法で入手し、IDそのものを乗っ取り出品すること。(林 2008)
・返品詐欺:完全匿名・返品自由の楽天オークションで確認された新種の詐欺である。落札し、送られてきた商品にクレームをつけ、まったく別の品物を送り返す、電子記録媒体をコピーした後に傷をつけて返品する、常体の悪い同じ商品と取り替えて返品するなど、楽天オークションの匿名性を上手く利用しているのが特徴である。(林 2008)
・ペニーオークション:ペニーオークション(英: penny auction)あるいは入札手数料オークション(英: bidding fee auction)は、毎回の入札毎に手数料が必要になる形式のインターネットオークションである。表示上の開始価格や落札価格は通常のオークションに比べると低額であるが、入札時の手数料が高額になることがある。2005年に開設されたSwoopo(ドイツ・旧名:Telebid)がこの形式の発祥とされる。日本国内では2009年頃から広まったが、後述のトラブルが頻発し、現在この形式のオークションは行われていない。(ウィキペディア)
・少額訴訟制度:民事訴訟のうち,60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて,原則として1回の審理で紛争解決を図る手続です。即時解決を目指すため,証拠書類や証人は,審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られます。法廷では,基本的には,裁判官と共に丸いテーブル(ラウンドテーブル)に着席する形式で,審理が進められます。(裁判所)
・Yahoo!オークション補償:Yahoo! JAPANによる補償審査の結果、Yahoo!オークション補償規定の要件を満たすと判断した場合に、補償する制度です。補償規定は当社がYahoo!オークションの利用者に対して、Yahoo!オークションの利用登録時やYahoo!オークションにおける出品・落札時など、補償規定に定める補償審査を通過する前に、あらかじめ補償金を支払うことを約するものではなく、補償審査をお申込みいただいた場合でも審査の結果、補償金支払の対象とならない場合もあるもあることをご了承ください。(ヤフオク!)
<研究者>
・吉田純
1984年に京都大学教育学部を卒業し、1990年に京都大学大学院文学研究科修士課程社会学専攻を修了する。現在は京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻教授。過去には電気通信普及財団賞テレコム社会科学賞や日本社会情報学会研究奨励賞を受賞した。主な論文・は新しいものから、2017年の「シンポジウムの趣旨(特集 戦争と軍事文化の社会学」、2016年の「現代日本におけるミリタリー・カルチャーの計量的分析」「情報社会のリスク制御としての監視/監査」、2014年の「モダ二ティの変容と公共圏論の展開」などがある。
研究テーマは「再帰的近代化の観点からみた情報ネットワーク社会論および公共圏論」で、研究分野は社会学と社会情報学。研究概要は「ハーバーマス、ギデンズらの社会理論をベースとしつつ、「情報化」「ネットワーク化」を基軸とする現代社会のマクロな構造変動とミクロな行為/コミュニケーションの変容との関係について、両者を媒介するする空間としての公共圏」としている。
<量的データ>
・ネットワーク利用犯罪検挙件数
法務省 平成28年版 犯罪白書
<質的データ>
・ネットオークション詐欺の実例
(既存の研究が少なく、論文内で比較的注目されている種類のものと、参考として現在はサービスが終了したものだが過去に問題視されたオークションサイトの事例を挙げておく。)
「落札がキャンセルされた」 ネットオークション出品者装い現金だまし取る 詐欺容疑で逮捕
インターネットオークションの出品者を装って落札に失敗した入札者から現金をだまし取ったとして、警視庁などは詐欺容疑で、東京都新宿区原町、無職、小林一男容疑者(40)ら男女4人を逮捕した。捜査2課によると、いずれも容疑を否認している。
小林容疑者らはネットオークションの落札済み商品の入札情報を入手し、「落札がキャンセルされた。最終入札額で入手できる」などと落札に失敗した入札者に嘘のメールを送信。銀行口座に現金を振り込ませる手口で平成25年5月~今年7月、100人超から計約1500万円をだまし取っていたとみられる。
逮捕容疑は今年2月、ネットオークションで落札済みの高級自転車の出品者を装い、「まだ譲れる」などと嘘のメールを送り、入札した大田区の男性会社員(48)に現金約10万円を振り込ませたとしている。
(産経ニュース 2015.9.19)
→「落札がキャンセルされた」と当人同士の直接の連絡にしてオークションサイトを介さずに取引をした。
「ペニーオークション」で逮捕 詐欺容疑、入札ごとに手数料
入札のたびに手数料が取られる「ペニーオークション」と呼ばれるインターネットオークションで手数料をだまし取ったとして、京都、大阪両府警は7日、詐欺の疑いで、大阪市中央区の会社役員、鈴木隆介容疑者(30)=不正指令電磁的記録保管罪などで起訴=を再逮捕、同市浪速区の会社員、足立浩之容疑者(30)ら3人を逮捕した。
ペニーオークションを使った詐欺の摘発は全国初とみられる。鈴木容疑者は容疑を否認、3人は認めている。
ほかに逮捕されたのは、兵庫県西宮市の会社員、金成貴容疑者(40)ら。4人はいずれも出会い系サイト運営グループの関連会社に勤務。両府警は鈴木容疑者が主犯格とみている。
ペニーオークションは入札ごとに少額の手数料が必要。入札が多数回にわたることもあるが、落札できなくても手数料は返金されず、国民生活センターには苦情が寄せられていた。
逮捕容疑はペニーオークションサイト「ワールドオークション」を開設し、事実上商品を落札することができない仕組みなのに、「激安価格で落札できる」などと表示して落札できるように装い、顧客の女性2人に6~7月、入札に必要な仮想通貨を購入させ、計6千円をだまし取った疑い。
京都府警によると、サイトは2010年6月までに開設され、運営会社名義の口座に入金が確認されている。
京都府警は10月、スマートフォンから個人情報を抜き取るウイルスを保管したとして、鈴木容疑者を逮捕。押収した証拠のデータを解析した結果、仕組みが分かった。〔共同〕
(日本経済新聞 2012.12.8)
→入札ごとの手数料が問題化、何度も入札させ落札させないことで詐欺に。現在ではすべてのサイトが閉鎖。
・国民生活センターの「相談事例と解決結果」から
相談内容
インターネットオークションでパソコンを約18万円で落札した。入金後3週間で発送される条件だったが、発送予定日を過ぎても商品が届かず、出品者とも連絡が取れなくなったため、警察に被害を届け出た上、事業者が設けている補償制度の申請を行った。
しかし、事業者から「商品の納品までの期間が不相当に長いため、補償制度の規定対象外となり、補償は受けられない」旨の電子メールが届いた。3週間が不相当に長いとの判断基準が明確でないと感じたため、より詳しい説明を再三求めたが、納得のいく説明は得られなかった。
その後、出品者が詐欺罪で逮捕され、出品者の弁護士から連絡があったため、補償制度で補填される必要はなくなったが、補償制度があることを宣伝しておきながら、実際にトラブルに遭った際に適用されず、その理由も十分に説明されないのは納得できない。
(40歳代、男性、給与生活者)
処理概要
補償制度の適用の可否について事業者の説明は不足していると思われたため、当センターから事業者に聴いたところ、「商品の納品までの期間が不相当に長いこと、同様のトラブルに対してはホームページで注意喚起しており、補償制度の対象外であることも告知している点などを考慮したうえで、総合的に判断を下した。3週間という期間だけで判断したわけではない」とのことであった。 (中略)補償制度の適用の可否について具体的な基準を提示すると、基準が一人歩きしてしまう危険性があり、却って柔軟な対応ができなくなってしまう懸念がある。申請者に対しては、なるべく理由を説明しているが、見直していきたい。また、商品の納品までの期間が不相当に長い出品物に関しては、出品できないように削除することでトラブルを減少させていくつもりである。
<リサーチクエスチョン>
インターネットオークション詐欺において、有効的な対策は何かを明らかにしていきたい。
現在とられている対策や制度は主に詐欺被害にあった後のもので、詐欺を防止するためのものではなく、詐欺を減らす手立てになっているとは言い難い。また、Yahoo!オークションが導入した補償制度は様々な条件のもとでしか実行されず、安心感をえられるものではない。特に、質的データで扱った、最終的にオークションサイトを介さない取引には適用されず、被害者が泣き寝入りしてしまうこともある。一方で、被害にあう前の対策として挙げられる「エスクローサービス」は知名度が低く、実際推し進められているのか疑問が残る。
そこで、国民生活センターや法律相談所などの実例を知っている場の人に問い合わせ、詐欺被害にあう前とあった後で、それぞれどの対策や制度が有効的なのかについて検討していきたい。そして、その上で、これからどのような対策を考えていくべきなのかについて明らかにしたい。
<論文>
・林 利基(2008)「インターネットオークションにおける詐欺の現状と問題点に対する一考察」,関西大学大学院人間科学:社会学・心理学研究,68,99-110 ◎
・河合幹雄,2011,「ネット犯罪の現状と課題」,犯罪と非行,168,32-50 △
・成田康昭,2003,「インターネットにおける信頼の構造ーサイト閲覧者による情報信頼性確認の戦略ー」,応用社会学研究,45,31-43 △
・鞆大輔,2005,「電子商取引における決算手段の現状について」,商経学叢 52(2), 361-370
・稲毛 翔平(2016)「インターネット上での詐欺被害 ; 多様な決済手段ごとの返還請求・留意点 (特集 消費者被害救済の最新事情と実務) -- (身近な消費者被害事例と救済の実務)」,市民と法,101,57-60
・八代 峰樹(2007)「Yahoo!オークションにおけるユーザーの悪用問題と対策(「エージェント基礎」及び一般)」,電子情報通信学会技術研究報告.AI,人工知能と知識処理,107,27-29
<書籍>
・山瀬 和彦(2002)『ネット詐欺の手口』,データハウス
・ダルク(2004)『ネット被害対策室 ウィルスからネット詐欺まで』,技術評論社
・中島 慎一(2004)『金かえせっ!実録ネット詐欺との死闘』,宝島社
<URL一覧>
・「平成26年経済センサスー基礎調査 商業統計調査」,http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/campaign/term/post-6.htm
・「ITpro」,http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20080411/298784/
・「ウィキペディア」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
・「法務省 平成28年版 犯罪白書」,http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/mokuji.html
・「産経ニュース」,2015.9.19,http://www.sankei.com/affairs/news/150929/afr1509290009-n1.html
・「日本経済新聞」,2012.12.8,http://www.nikkei.com/article/DGXNASHC0702Y_X01C12A2AC8000/
・「オークション詐欺の手口と対策」,http://www.daddycop.com/Auction.php
・「詐欺対策ねっと|詐欺対策に関する情報サイト。」,http://fraud-measures.net/
・「裁判所|少額訴訟」,http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_04_02_02/index.html
・「Yahoo!オークション補償ーヤフオク!」,https://auctions.yahoo.co.jp/special/html/auc/jp/notice/compensation/compensation.html
・「インターネットオークションにおけるトラブル防止の注意喚起や補償制度に関する問題点について(相談事例と解決結果)_国民生活センター」,http://www.kokusen.go.jp/jirei/data/200501.html