メディアで表現される性的マイノリティ
映画、ドラマ、テレビ、漫画、アニメ、音楽などのメディアで表現される性的マイノリティの表象は偏ったものになっていないだろうか。かつて、主にテレビでゲイに関する表象に偏りがあり「ゲイ=口調や装いが女性らしく恋愛対象が男性の男性」というような偏見を助長した例があった。そのような表象は見られなくなってきているものの、また別のステレオタイプを作り上げることになっていないかなどを考察したい。
特に注目したいのは性的マイノリティが主要なテーマになっていない作品である。そのような作品をいくつか取り上げ、性的マイノリティの表象に注目することで何らかの共通点が見られないか探求していきたい。
木場安莉沙,2016,「子供向けテレビアニメにおける「オカマ」キャラの表象 : 性的イデオロギーと想定される参与者からの排除」『言語文化共同研究プロジェクト』(大阪大学大学院言語文化研究科)2016: 41-50 < https://doi.org/10.18910/62058 >(読了)
《感想》昨今のメディア表象について映画クレヨンしんちゃんシリーズを取り上げ、「オカマ」キャラクターについての分析を行っている。個人で性的アイデンティティはそれぞれ異なるにも関わらずメディア表象における性的少数者の表象のされ方はあまりにも画一的・固定的であることを指摘している。「オカマ」キャラが逸脱・恐怖の象徴として描かれている。
木場安莉沙,2018,「メディアにおける性的少数者のセクシュアリティ―その表象と性的イデオロギー―」『言語文化共同研究プロジェクト 相互行為研究④―談話とイデオロギー』(大阪大学大学院言語文化研究科)4: 49-58< https://cir.nii.ac.jp/crid/1010285300602510336 >(読了)
《感想》メディアでの性的少数者の表象がどのように行われているかを分析、考察している。タレントであるカズレーザーが出演する番組を分析の対象として取り上げ、対象のセクシャリティが番組内で逸脱・恐怖の対象として表象されていることを指摘している。
木場安莉沙,2019,「メディアに見る性的少数者の表象―再名づけの実践とイデオロギーの戦略―」『年報カルチュラル・スタディーズ』7: 117-142< https://doi.org/10.32237/arcs.7.0_117 >(読了)
《感想》性的少数者の表象がどのように行われているか、いわゆる「オネエ」キャラとその周辺を取り上げ分析、考察している。メディアによる「オネエ」キャラの表象の仕方は形式化されており、カズレーザーのような例はメディア表象に攪乱を起こしている。多様な性のあり方が可視化されたり、セクシャリティが適切に表象されたりすることは、従来の狭まった表象を攪乱するきっかけとなると木場氏は述べている。木場氏が過去に書いた論文を多く引用しているようだったので、2017年と2018年の論文も見ている必要がある。p120,2-1-1の一段落目にある『日本のメディアにおける性的少数者の表象については、大別して(漫画や小説、 アニメなどの)「二次元」エンターテインメントに関する研究と、(タレントが出 演するテレビ番組などの)「三次元」エンターテインメントに関する研究の 2 つ の潮流がある。 』という文は覚えておきたいと思った。
柴田勝二,2018,「表象としての同性愛――『仮面の告白』とLGBT」『東京外国語大学国際日本学研究報告』3: 27-28< http://hdl.handle.net/10108/92260 > (読了)
《感想》最後の段落の『現代のLGBT(中略)多いようである。』という一文の出典が気になる。「仮面の告白」以外にも性的マイノリティに関する表現がある作品をいくつか挙げ、三島文学と比較しつつ共通点を挙げて考察している。
福井洋平,2017,「「おネエ」しかいらない : LGBTはメディアでどう扱われてきたか (LGBTブームという幻想 : 虹のふもとにある現実)」『Aera = アエラ』30(26): 13-15< https://cir.nii.ac.jp/crid/1522825130105190400 > (未読)
宮﨑 理久, 瀧本 眞人,2021,「翻訳を通してみえる LGBTQ+ 観−大学生によるゲイとバイセクシュアルの表象の考察−」『通訳翻訳研究』21: 61-76< https://doi.org/10.50837/its.2104 >(読了)
《感想》翻訳を通して大学生がゲイとバイ・セクシャルのキャラクターについてどう思っているかを分析した論文。学生がもともと持っているLGBTQ+に対する印象が見いだせているというよりは、該当するキャラクターの性格や振る舞いに翻訳が影響を受けているようだったので、どの作品を扱うかによって結果が変わってくるのではないかと思った。
堀あき子,2019,「『彼らが本気で編むときは、』におけるトランス女性の身体表象と〈母性〉」『人権問題研究』16: 47-67< https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/il/meta_pub/G0000438repository_1346454x-16-47 > (読了)
《感想》トランス女性を主人公に置いた映画で主人公がどのように表象されているかを分析している。主人公はこれまでの日本映画にない表象のされ方をしており、トランス女性と母性についての表象もされている。 p49、2-1二行目『ドキュメンタリー映画『セルロイド・クロー ゼット』(ロブ・エプスタイン/ジェフリー・フ リードマン監督, 1995)はハリウッド映画におい て、ゲイやレズビアン、異性装者たちが「嘲笑 の対象」や「気の狂った人」「殺人鬼」「無残に 殺される人」といった周縁的キャラクターとし て表現されてきた“歴史”を明らかにした。』
黒岩裕市,2018,「文学作品を通して〈(性の)多様性〉を再考する : 中島京子『彼女に関する十二章』 (特集 ダイバーシティ推進政策とジェンダー/セクシュアリティの政治 : 「LGBT主流化」をめぐって)」『女性学 = Journal of the Womens Studies Association of Japan : 日本女性学会学会誌』26: 38-50< https://cir.nii.ac.jp/crid/1520009408008755456 >(未読)
隠岐さや香,2019,「『おそ松さん』にみるクィア性 : 性愛と「自立した男性」からの逸脱」『超域的日本文化研究』10: 18-32< https://doi.org/10.18999/juncture.10.18 > (読了)
《感想》おそ松さんにおける男性の描かれ方を詳細に分析しそこにクィア(ヘテロセクシャル以外の人を指す)性を見出していた。性的マイノリティよりもジェンダーの話に近い印象だった。
張小青,2013,「クィア映画におけるレズビアンの可視化問題 : 『刺青』を中心に」『多元文化』13: 67-81< https://doi.org/10.18999/muls.13.67 > (読了)
《感想》レズビアンの表象におけるステレオタイプの例を挙げ、『刺青』でどのようにレズビアンが描かれているかを事細かに分析している。『刺青』におけるレズビアン表象は従来の作品に比べてステレオタイプへの抵抗が見られることを張氏は指摘している。
河野礼実,2016,「“おネエ” キャラクタの人称 : バラエティ番組とフィクション作品を材料に」『比較日本学教育研究センター研究年報』(お茶の水女子大学比較日本学教育研究センター)12: 115-122 < http://hdl.handle.net/10083/58738 > (読了)
《感想》フィクション 作品(映画、テレビドラマ、小説、マンガ)に 登場する「おネエ」キャラクタの一人称、二人称について分析、考察している。日本語とジェンダーに関する研究。『1.はじめに』に「おネエ」に関するメディア表象の基礎概念のようなことが載っているので参考にしたい。抜粋→『「おネエ」とは、もともとゲイコミュニティのことばで、「言葉遣いやしぐさが女性的なゲイ」を指す。(中略)近年メディア上では、その人の性的指向にかかわらず、「生物学的に男性だが(あるいは男性であったが)、装い・しぐさ・言葉遣いなどで女性ジェンダーの特徴を有する人」のことを「おネエ」と呼ぶ傾向にある。』
原田雅史,2005,「セクシュアル・マイノリティとヘテロセクシズム : 差別と当事者の心理的困難をめぐって」『ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究センター年報』(お茶の水女子大学ジェンダー研究センター)8: 145-157 < http://hdl.handle.net/10083/35610 > (読了)
《感想》大学生のゲイに関する授業の感想文を用いて異性愛者の心理を明らかにしようとしている。原田氏はヘテロセクシズム(異性愛主義)を前提として社会が回っているため、ゲイ男性はストレスに晒される傾向にあるが、彼らの人権を守るシステムが十分に整備されていないことを指摘している。学生たちはゲイについて考える機会が少ないことや、メディアが与える影響の大きさ(ゲイ=女装している男性というステレオタイプなど)について述べていた。
安倍宰,2022,「変質する集合表象 : "LGBT"に関わる日本的政治人類学」『政経論叢』90(3・4): 135-165 (未読)
諸橋美沙穂,2021,「タイ国テレビ・ドラマにおける性的マイノリティ表象とその課題」『表現文化研究 / 「表象文化の比較総合的研究」プロジェクト 編 』(新潟大学大学院現代社会文化研究科)(17): 53-66 (未読)
王飛,2014,「性的マイノリティの身体表象をめぐる映像テキスト : アン・リー『ブロークバック・マウンテン』」『21世紀倫理創成研究』(神戸大学)(7): 84-99 (未読)
春日美穂,2022,「多様な生き方を嘉する世界 ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』が導くもの」『大正大學研究紀要』(107): 269-286 < http://id.nii.ac.jp/1139/00001902/ > (読了)
《感想》『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』のドラマ版と漫画版(原作)を取り上げ、作品が社会に与えた影響について検討している。同性婚の制度がない現状が作品に与えた影響や、作品が恋愛にこだわらず多様な生き方を肯定していること、またドラマ内のミソジニーについても言及があった。漫画は2022年3月時点でまだ連載中である。この先連載中の作品を取り上げて論じることになったら参考にしたい。
岩根彰子,「ドラマのなかのジェンダー表現 : 多様なジェンダーを描く作品の魅力 (特集 テレビが描くジェンダー)」,『Galac = ぎゃらく / 放送批評懇談会 編』(633): 18-21(未読)
「フリーワード:(漫画 OR アニメ OR 映画 OR 音楽) (LGBT OR 性的マイノリティ OR 性的少数者 OR クィア)」104件
「フリーワード:(性的マイノリティ OR 性的少数者 OR LGBT)、タイトル:(表象)」15件
「フリーワード:(NOT 治療)、タイトル:(ドラマ OR 漫画 OR マンガ)」29366件