<本の読み方に関するアドヴァイス集>(社会学実習(2年生)、2018年6月、伊藤)
■どんな文献を選んだらよいのか
日本社会学会文献データベース などで、自分と同じテーマを追いかけている社会学の文献が見つかると、研究の進め方は一気に楽になる。しかし、そうそううまくいかないこともある。研究テーマがまだ漠然としていたり、注目する現象が新しくてまだ研究がでていなかったり、といった場合である。そのような時は、検索したものの中から、次のような文献をピックアップしてみよう。
・社会学の入門書(『~入門』『~概論』『~の社会学』『~への招待』等々のタイトルを持つ本)で、できるだけ新しいもの。
・レヴュー論文(「~の動向」「~のいま」「~の展望」といったタイトルのもの):どのような研究が行われているかを概観するタイプの論文で、文献リストが豊富である可能性が高い(ただし3~4ページの短いものは別)。
・データベース検索結果の中に、あるいはいくつか文献を読むうちに、「よく出てくるな、この人」という人(社会学者に限らない)が出てきた場合。こういう人は、広範な読者を獲得して話題になっている人であり、したがって、当該のテーマを語るうえで欠かせないオピニオン・リーダーになっている可能性が高いので、著者名検索してみよう。
・なかなか検索語(キーワードや研究者名)が出てこない場合は、学会発表(日本社会学会、等々)に関する情報検索をしてみるのもひとつの手だ。(ただし、学会発表はしても論文は未発表という場合もある。)
■「書き手は誰か」
特に社会学者による文献以外のものを読む場合、「書き手は誰か」を常に意識して読む方がよい。実践的な推進者なのか、反対者なのか。心理療法や医療の専門家なのか、ジャーナリストなのか。研究者にしても、どの学問領域をバックグラウンドにした書き手なのか。書き手の立場や背景によって、書かれる内容は変わってくる。それをしっかりふまえて、「では、自分はどのようにテーマ化すればいいんだろうか」と考えることが大切。
次のことを読む前にしてみよう。
・雑誌論文の場合、そもそも雑誌名で学問分野が分かることがある。また、目次が見られる場合は、他にどんなタイトルの論文が掲載されているかを見ると、おおよそのその雑誌の性格が分かる。
・同じ著者の名前で検索してみる。他にどんなタイトルの本や論文を出しているか。雑誌名に傾向はあるか。またオンライン書店(アマゾンなど)での検索する場合、検索結果に著者紹介や情報や書評が参考になる場合もある(ただし書評をすべて鵜呑みにしないこと)。
・本の場合、奥付のページ(もしくはそのあたり)に、「著者紹介」が付いていることが多い。雑誌論文の場合、最初のページに著者の所属が書かれていることがある(その号の執筆者の所属がまとめて最後の方に掲載されている雑誌もある)。
・本の場合、目次にどんなことが書かれているか。索引にどんな言葉が目立つか。
・翻訳書の場合、訳書による「解説」が本文のあとに付いていることが多い。ここに、著者に関する情報が書かれていることも多い。
書き手の立場を意識することで、自分の研究テーマに関してどんなことが既に言われているかについて、「こういう人から、こういう主張がなされているのか」というふうに、鳥瞰的に眺められるようになる。当然、著者に関する情報は地図に書き込むことになる。
■速読のススメ
学生は一般的に速読が苦手なように思う(私も学生のときはそうだった…)。文献を手にとると、とても偉いことが書いてあるような気がして、全部理解しなければいけないような気がする。意気込んで一行目から順に読んでいく。理解できない文や言葉があると、その段落を何度も読み返し、それでも分からないので、「やっぱり私って、バカ」とタメ息をつく。ふと気が付くと、2,3ページ目にヨダレをたらして眠りこけている。そんなことを数日くりかえした挙句の果てに頓挫。先生に「難しく分かりませんでした。もっと簡単な本はないんですか」と泣きつく。
気持ちは分かるが、発想を変えてみよう。最初から全部分かろうなんて、無茶だし、必ずしもその必要はないのだ。分からない部分が分かるようになるのは、その文献を丁寧に読むことよりも、むしろ、他の文献をたくさん読むことによってもたらされる。大量の本の海に自分を投げ込んで、速く読み進めるよう自分にプレッシャーをかけてみよう。泳げない状態の私を海の真ん中に放り込むようなものだ、とイメージしてみてほしい。最初はわけもわからず手足をバタバタさせているが、そのうちにどうにか形がついてくる。新しい研究領域に親しむのも、それと同じようなものだ。
経験を積むにつれてわかってくるのは、本の読み方というのは一通りではないということだ。「この本は、自分の研究テーマにとって最重要だから、繰り返しじっくり読もう。」ということもあれば、「この本は、どのようなタイプの研究かよくわからないから、どのような問題関心で、だいたいどのようなことを主張しているのかを把握しよう」ということもある。あるいは「この本では、~についてふれているだろうか、ふれているとしたらどのようにふれているだろうか」という一点にだけ関心を持って読む場合もある。それぞれの読み方によって、かかる時間も違うし、収穫も違う。全部一本調子で読むのではなく、読む前にまずどんな読み方をしたいのか少しだけ考えてから読む習慣をもとう。
速く読めと言われても言われてもなかなか…という人は、機械的に時間を区切ってみよう。「この論文を1時間で読もう」とか「この本を1日1章ずつ、1週間で読もう」とか。一見「ええー、そんなの無理だよ」というぐらいの時間しか自分に与えないのがポイント。失敗もあるだろうが、それでも、時間に見合った読み方をするようになるものです。
ただし、どんなに速く読んだとしても、何か収穫はあるはずだ。「こんな調査をやったようだ」とか「だいたいこんな結論が出ているみたい」とか「全体的に難しかったが、この部分だけは読めたし、面白いと思った」とか。そういったことを地図にメモしよう。その文献の末尾にちょこっと書き足してもよいし、別に「知見」とか「アイディア」といったコーナーを作ってそこにメモしてもよい。本の特定の部分についてメモするときは、必ず著者名、刊行年、ページ数を書いておこう。そうすれば文献リストと原本ですぐ確認できる。
そのようにして、どんどんと読み飛ばしていこう。全部わからなくてもよい。ただし、後で必要を感じたものは再読する。たとえば、自分の研究が行き詰ったとき(「自分は何をやっているのだろう?」)に、もう一度重要と思える文献を読み直してみる。また、新しい検索語(キーワードや著者名)で改めて検索する必要がないかも考えてみよう。「読みたい文献が見つからない」「文献を読んでも期待するほど役に立たない」と思う場合、必ず自分のどこかに問題があり、できることをやり尽くしていない可能性が高いと思ってほしい。