ジェンダーレス男子はどう見られているのか(タイトル変更後)
問題関心
2015年頃からメディアで多く取り上げられるようになった「ジェンダーレス男子」は、その性別の枠を超えた中性的なファッションと美容への強い関心から、これまでたびたび話題に上がってきた。彼らは男性服だけではなく女性服をも着こなし、普段からメイクをするなどの美意識の高さから、主に若い女性からの支持を集めるインフルエンサーとしても注目されている。
ジェンダーレス男子は意図的に異性のジェンダーを獲得しようとしているのではなく、自分らしさという個性を表現するためにこのような装いを選んでいるとされているが(小川2017)、彼らがジェンダーレスなファッションをしている理由は本当に「自分らしさ」を表現するためなのだろうか。
本稿では、ジェンダーレス男子がどのような考えで美容やファッションを楽しんでいるのか、また、彼らのジェンダーレスファッションがどのようにして成り立っているのか、彼らのSNS等の分析を通して明らかにしていきたい。
【変更後】
2015年頃からメディアで多く取り上げられるようになった「ジェンダーレス男子」は、その性別の枠を超えた中性的なファッションと美容への強い関心から、これまでたびたび話題に上がってきた。彼らは男性服だけではなく女性服をも着こなし、普段からメイクをするなどの美意識の高さから、主に若い女性からの支持を集めるインフルエンサーとしても注目されている。
ジェンダーレス男子は意図的に異性のジェンダーを獲得しようとしているのではなく、自分らしさという個性を表現するためにこのような装いを選んでいるとされているが(小川2017)、彼らがジェンダーレスなファッションをしている理由は本当に「自分らしさ」を表現するためなのだろうか。また、一般的な男性とは異なる装いであるにもかかわらず、主に若い女性を中心とした多くの人々からの支持を集める彼らは、世間一般の人々からどのように評価・認識されているのだろうか。
本稿では、ジェンダーレス男子がどのような考えで美容やファッションを楽しんでいるのか、また、彼らのジェンダーレスファッションや行動は人々からどう見られているのか、 彼らのSNS等の投稿内容とそれらに寄せられたコメント欄の分析を通して明らかにしていきたい。
基礎概念
○ジェンダーレス男子
ジェンダーレス男子(ジェンダーレスだんし)とは、従来の性規範にとらわれないファッションで自己を表現する男性の総称。一般に、美容に関心が高い、レディースの服装も着用する、ネイルアートを施すなど、服飾において女性的とされる特徴を取り入れている人を指す。性的指向とは関係がない。
ジェンダーレス(genderless)は、社会的・文化的な性を意味するgenderに、それがないことを表すlessがついてできた語で、社会的・文化的な性差がないことを意味する。特にファッションにおいては、性別にかかわらず着こなすことができる服飾を指す。
ジェンダーレス男子は、2015年頃からメディアで多く取り上げられるようになり、広く認知されるようになった。ジェンダーレス男子として著名な人物に、こんどうようぢ、とまん、りゅうちぇるなどがいる。いずれもSNSの発信を積極的に行っており、インフルエンサーとしても注目されている。
「ジェンダーレス男子」と似た言葉に、1994年頃の流行語「フェミ男」がある。「フェミ男」が「女性的なファッションの男性」を指したのに対し、「ジェンダーレス男子」は女性的か男性的かといった規範にとらわれていないというニュアンスを持つ。
Weblio辞書(2021/04/04最終閲覧)
https://www.weblio.jp/content/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9%E7%94%B7%E5%AD%90
○ジェンダーレス男子のメイクの特徴
普段の工程でいうと、スキンケアをしてから、日焼け止めと下地を塗り、ファンデーション、コンシーラー、ハイライト、シェーディングをします。さらに、アイブロウやアイライナー、マスカラ、チーク、リップをしたら完成。肌感やカラーは、その日の気分で変えます。
”メイクをする男性、いいよね”と言ってくれる女性は多いですが、恋愛対象として見てもらえてるのかなって・・・。というのも、もし僕が女性だったら、自分はタイプじゃないと思うから。実際、純粋にモテません(笑)。みんな友だちみたいになっちゃうんです。だから、ちょっと気になる子とごはんに行く時には、メイクを薄くする(笑)。”すっぴんかな?”と思わせるくらいに抑えておいて、男らしさを感じてもらいたいんです
(””ジェンダーレス男子”こんどうようぢ「メイクで自身が持てるように」”,anan NEWS,2019年11月2日)
男性の方は、韓流アイドルのようなメイクが流行しています。基本的には、先ほど述べたようなものと同じですが、ファンデーションとコンシーラーで肌のムラをなくし、ひげや肌をマットに整えていくことが重視されるようです。
アイメイクは男性も、暗めのブラウンやベージュを使うことが多いようです。
ジェンダーレスメイクのポイントをまとめると、このようになります。
素肌や透明感を大事に
目元や眉はブラウン系ではっきりとさせる
チークやリップなどの血色は抑えめに
(”ジェンダーレスとは?【「男子だから」「女子だから」じゃない】”,Job Rainbow MAGAZINE,2021年5月10日)
○フェミ男
柏尾他(2002)によると、「フェミ男」とは、従来の男らしさを表現した外見とは異なり、ファー付きの衣服やピアス、イヤリング、ネックレスなどの装身具を身に付け、ソフト素材のブラウス、身体にぴったり密着した衣服を着用するなど、女性の被服を取り入れて女らしい雰囲気を漂わせている男性を指す。彼らは美容にも関心を持ち、男性でありながら女性物も着用するため、「ジェンダーレス男子の前身的な存在」と言える。1993年から1994年にかけて、原宿・渋谷・下北沢、大阪のアメリカ村などを中心に若者の間で流行した。フェミ男として著名な人物に、武田真治、いしだ壱成などがいる(小川2018)。
調査方法
○ジェンダーレス男子に関連した文献を探す
○ジェンダーレス男子が流行した背景を調べる
○文献やメディア等からジェンダーレス男子の特徴を考える
・ジェンダーレス男子の定義(どこからジェンダーレス男子と言えるのか)
・ジェンダーレスファッションをしている理由や目的
・フェミ男等の類似概念との共通性や相違点
・性自認との関係性 など
○ジェンダーレス男子と呼ばれている、または名乗っている著名なインフルエンサーのSNSやブログを分析する
ジェンダーレス男子の著名なインフルエンサー
○りゅうちぇる(ryuchell)RYUCHELL OFFICIAL BLOG ❤️ りゅうちぇる - アメブロ
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/ryuzi33world929/?hl=ja
公式ツイッター:https://twitter.com/ryuzi33world929?lang=ja
生年月日 1995年9月29日
血液型 O型
出身地 沖縄県
サイズ T:172cm S:26cm
高校卒業後に上京し、原宿でショップ店員をするかたわら読者モデルとして活躍。その後、テレビのバラエティ番組出演をきっかけに、人気を集める。一児の父となった現在は、育児やダイバーシティに関する発信が注目を集めている。
○ゆうたろう ゆうたろう 公式ブログ Powered by LINE - LINE BLOG
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/aaaoe__/?hl=ja
公式ツイッター:https://twitter.com/aaaaao_e
1998年6月3日生まれ
広島県出身
身長:166cm
趣味・特技:カメラ、ファッション
2016年、ショップ店員から“可愛すぎる美少年”モデルとして芸能界デビュー。2017年からドラマや舞台で精力的に俳優活動を行う。2018年、「3D彼女 リアルガール」で映画初出演を果たし、今年は月9ドラマ「シャーロック」(CX)にレギュラーキャストして大抜擢され、映画「かぐや様は告らせたい -天才たちの恋愛頭脳戦-」や「殺さない彼と死なない彼女」等の話題作にも出演。2020年にはNetflix オリジナルシリーズ「FOLLOWERS」のなど出演作品の公開が続々と控えており、若手個性派俳優として今後さらなる活躍が期待される。
ASOBISYSTEM(2021/04/05最終閲覧):https://lb.asobisystem.com/talent/yutaro/
○こんどうようぢ こんどうようぢオフィシャルブログ Powered by Ameba
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/kondoyohdi/?hl=ja
公式ツイッター:https://twitter.com/yohdiworld
Type :Actor / Model
Birthday :1992年12月25日
Birthplace :大阪
Height :169cm
KETEL(2022/05/07最終閲覧):https://ketel.tokyo/talent-member/yohdikondo
高校時代に自身のブログにコーディネートを投稿していたところ、1日あたり60万アクセスを記録するなど大きな話題を呼んだ。その後、2011年に上京し、イベント出演やモデル等で活躍。SNSでファッションの発信を続け、モデル・タレントとしての活動を本格化させたことで、「原宿系」の人気男性読者モデルとなった。同じく読者モデルのりゅうちぇるやとまん、ゆうたろうらとともに、「ジェンダーレス男子」としても注目されている。
Wikipedia(2021/03/30最終閲覧):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%A9%E3%81%86%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A2
○とまん とまん 公式ブログ Powered by LINE - LINE BLOG
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/_sweatm/?hl=ja
公式ツイッター:https://twitter.com/_sweatm
サイズ: T163cm /S 25cm /Wt 39kg
生年月日: 1993年 09月 14日
出身地:宮城県
血液型:A型
趣味: ゲーム,掃除,韓国グルメ
特技: 美容,韓国語
株式会社プラチナムプロダクション公式サイト:https://talent.platinumproduction.jp/toman
高校時代に仙台のモデル事務所からスカウトされ、モデル活動を始める。高校卒業を機に事務所を抜けシドニーに2年間留学。帰国後、仙台のアパレルショップで働いた後、2014年3月に上京し、読者モデルとしての活動を始める。ファッション雑誌やファッションイベント、バラエティ番組出演などで活動し、その中性的なファッションやキャラクターから「ジェンダーレス男子」として注目される。2018年2月よりプラチナムプロダクションに移籍し、俳優、モデルなどマルチに活躍している。
Wikipedia(2021/04/05最終閲覧):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%81%BE%E3%82%93
○井出上漠(いでがみ ばく)
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/baaaakuuuu/?hl=ja
公式ツイッター:https://twitter.com/i_baku2020?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
生年月日:2003年1月20日
血液型:B型
出身地:島根県
ジャンル:モデル・タレント
井手上漠(イデガミ バク) タレント。2003年生まれ、島根県出身。2018年、『第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト グランプリ』でDDセルフプロデュース賞を受賞。“かわいすぎるジュノンボーイ”として話題のジェンダーレス男子。
ORICON NEWS(2021/04/09最終閲覧):https://www.oricon.co.jp/prof/990001738/profile/#:~:text=%E4%BA%95%E6%89%8B%E4%B8%8A%E6%BC%A0%EF%BC%88%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%AC%E3%83%9F%20%E3%83%90%E3%82%AF,%E8%A9%B1%E9%A1%8C%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9%E7%94%B7%E5%AD%90%E3%80%82
2003 年生まれ。第 31 回ジュノン・スーパーボーイコンテストにて DD セルフプロデュース賞を受賞。
2019 年 1 月に放送された『行列のできる法律相談所」やサカナクションのミュージックビデオ『モス』 等、数多くのメディアに出演。
常に自然体で自分らしくを標榜し、容姿のみならずそのアイデンティティにも多くの支持を集めている。
ディスカバリーネクスト(2021/04/09最終閲覧):https://www.discovery-n.co.jp/talent/%E4%BA%95%E6%89%8B%E4%B8%8A%E6%BC%A0/
○板垣李光人(いたがき りひと)
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/itagakirihito_official/?hl=ja
公式ツイッター:https://twitter.com/itagaki_rihito
生年月日:2002年1月28日
血液型:AB型
出身地:山梨県
趣味:写真、音楽を聴くこと、アニメを観ること、ゲーム
特技:イラストを描くこと
スターダストプロモーション(2021/04/09最終閲覧):https://www.stardust.co.jp/section1/profile/itagakirihito.html
2歳からモデルとして活動し、小学5年生のときに『第1回スターダストプロモーション芸能1部モデルオーディション』に合格し、現在の事務所に所属。俳優として活動をスタート。2014年から本格的に俳優として活動を始め、『仮面ライダージオウ』や『約束のネバーランド』、『ここは今から倫理です。』など、話題作に次々と出演し、中性的なルックスと抜群の演技力で注目を集めている。
Aidoly(2021/04/09最終閲覧):https://aidoly.net/I0003031
<ジェンダーレス男子>
●小川 麻衣,『ファッションビジネス学会論文誌』22, 57-65, 2017-03,ファッションビジネス学会 (研究ノート)
「ジェンダー表象としてのファッション : "ジェンダーレス男子"の事例分析」 Webなし
ジェンダーレス男子の”ジェンダーレス”とは、「男らしさ」「女らしさ」などの社会的役割の差を示すジェンダーを取り払った、男女の境界線のない中性的なという考え方である。
ユニセックス・・・男女兼用の衣服
ジェンダーレスファッション・・・男性用・女性用を男性が着ても、女性が着てもよいジェンダーに縛られない自由な装い
☆ジェンダーレス男子の特徴
・コーディネートによって男性服・女性服ともに着こなすファッションスタイルを持つ
・女性のおしゃれとされてきたメイクやネイルを日常的に行うなど、性意識にとらわれず美意識が強い
・今まで男性ジェンダーの特徴とされてきた筋肉質で逞しい体とは対照的な華奢な体型をしているため、女性服をも着こなせる
フェミ男・・・90年代中頃に流行した、体型や物腰、ファッションなど、女性っぽい雰囲気を漂わせている少年のこと。体の線が細く、なで肩で、”ピチT”と呼ばれた体にぴったりなサイズの小さいTシャツや裾の広がったパンツを着用し、ピアスやアクセサリーを身に付ける。(いしだ壱成や武田真治など)
草食系男子・・・2009年の流行語大賞トップ10にも選ばれた、恋愛やセックスにがつがつせず、女性とも対等な関係を持っていることを自認していて、家族や地元を大事にするといった特徴を持つ男性のこと。
☆ジェンダーレス男子の分析(こんどうようぢ、とまん)
○ジェンダーレス男子のファッションの特徴←本当か?
ⅰ.細身のパンツ ?
ⅱ.メイクの重視
ⅲ.女性服、男性服にこだわらない
ⅳ.複数のピアス ?
ⅴ.明るいヘアカラー ?
ⅵ.白やピンクなどのカラーコーディネート
”オネエ”や”女装子(じょそこ)”と呼ばれているクロスドレッサーはいわゆるトランスジェンダー、衣服によって異性のジェンダーを獲得しようと試みているのに対し、”ジェンダーレス男子”は意図的に異性のジェンダーを獲得しようとしているのではなく、自分らしさという個性を表現するためにこのような装いを選んでいる。
彼らはジェンダーの一般的な固定概念には抵抗しつつも、それは表層的、美的感覚的なものであり、ジェンダーを意識していないようで、実は男女の二項対立としてのジェンダー規範からは逸脱していないと思われる。
→男性であることがすぐわかる。
ジェンダーレスをしているように見えて、女性ジェンダーを獲得するための装いをしているにすぎない。
コーディネートのすべてを女性もので着ることはないため、ジェンダーに囚われていると言える。
異性装者が異性装を行った場合、異性のジェンダーを獲得しようとしていたにも関わらず、結果としてより自身のジェンダーを強調することとなっていたのに対し、ジェンダーレス男子は細身の体やメイクも手伝って異性装を行っているにも関わらず、元の性を強調することなく装えている。
→ジェンダーをうまくコントロールし、個性の表現として装えている。
”ジェンダーレス男子”は、ファッションアイコンとして男性だけでなく女性もが真似をし、参考にする存在である。
”ジェンダーレス男子”の装いは、ジェンダーの垣根をこれまで以上に限りなく低くしているかのように見えるが、彼らはジェンダーの規範意識から逸脱してはおらず、性自認においても極めて一般的であることが分かった。とはいえ、ファッションにおけるジェンダー表象としての基本的な規範性は次第に弱くなり、個性や趣味の表現としての意味が強くなりつつあることは否定できない。ジェンダー規範の緩やかな変化とともに、ファッションにおけるジェンダー表象の役割も変化しているといえる。
●奥野 佐矢子,『女性学評論』(32), 147-176, 2018-03,神戸女学院大学女性学インスティチュート
「『ジェンダーレス男子』が拓く明るい未来?(女性学連続セミナー「女性学と男性学」)」 Webあり
☆なぜ「女性=消費」のイメージなのか
1920年代に合衆国憲法が改正され、女性に参政権が与えられたことで女性が一人前とみなされ、女性をターゲットとした消費を促す広告が増加した。(結婚後の女性は、主婦として家族のための買い物の主導権を握ったり、子育てにお金を使ったりするため、消費単位を家族として消費行動をする。)その後、女性が働き出したり、子どもに消費文化のマインドが行き渡ったりしたことで、消費単位が家族から個人に変化した。現在の消費社会において、女性は自立した、洗練された消費者として見られているが、このイメージを構築したのは高度資本主義社会だといえる。
ジェンダーレス男子は、メンズやレディースにとらわれずに服を選び、化粧品や美容グッズも自分がいいと思ったら取り入れるため、市場の線引きに関係なくものを選ぶ、非常に洗練された消費者だと言える。
「美しくあること」がジェンダーレス男子の大きなセールスポイントのひとつである。彼らを美しいと承認するたくさんのフォロワーを必要とし、そのことによって影響を与えるインフルエンサーという立場である以上、彼らは新しい美の枠組みではなく、これまで主に「女性」に押し付けられてきた既存の美しさをわかりやすく増幅することを戦略として、ストイックに美を追求する。
ジェンダーレス男子はモテたいからストイックに努力するのではなく、「あんなふうになりたい」と思ってもらいたくて努力する。彼らは女性性にこれまで背負わされてきたわかりやすい美を強調することで、わかりやすくフォロワーに支持されている。→彼らの愛用品が売れる。
しかし、男性に美しさや清潔さが求められるようになることで、一部の男性が生きづらくなる可能性も考えられる。
<「かわいい」について>
●工藤 保則,『カワイイ社会・学 成熟の先をデザインする』2015,関西学院大学出版会
第3章 かわいいの来し方
2 「かわいい」に関する研究(p32~)
○「かわいい」に関する研究の嚆矢ではないか。
→山根一眞、1986年『変体少女文字の研究―文字の向こうに少女が見える』講談社
「『かわいい』は、きれいだ、面白い、美しい、素敵だ、素晴らしい、見事だ、楽しい、やさしい、といった多くの意味に使われている」(山根 1986:212)(p32)
「『かわいい』は、きれいな姿かたちを備えた弱者を許容する言葉である。そういう弱者にいとおしさを認め、それを容認するのが、『かわいい』である。『かわいい』ものは安全なのである。『かわいい』ものは、自分よりも弱い。楽々と自分にとりこめる見込みがある」
(山根 1986:214)(p32~33)
○より風俗的な観点から「かわいい」をあつかった研究
→島村麻里、1991年『ファンシーの研究―「かわいい」がヒト、モノ、カネを支配する』ネスコ
(同書でいわれる「ファンシー」は「かわいい」と同じ意味)
島村は、ファンシーの四大要素は、形容詞でいうと、小さい、白っぽい(パステルカラーを含む)、丸い(丸みをおびた)、やわらかい(ふわふわした)、であるといい、「それを見て私たちが思わず『かわいい!』と声をあげてしまうモノにはそれぞれ、この四つのうちのどれかの要素が必ず当てはまっているのだ。ひとつでも多くの形容詞を併せ持っていれば、さらに〈ファンシー〉係数が高まる」(島村 1991:199)とする。(p35)
……
これらを示したうえで島村は、「一見かけ離れた世界に在るモノが『小』『白』『丸』『柔』という四つの要素を共有してさえすれば、極端に言えばすべて同じカテゴリーのモノ―つまり〈ファンシー〉―に属していることが、あらためて見えてくる」(島村 1991:203―204)という。(p36)
○「かわいい」を社会学に研究したのは、これが最初ではないか。
→宮台真司・石原英樹・大塚明子、1993『サブカルチャー神話解体―少女・音楽・マンガ・性の30年とコミュニケーションの現在』PARCO出版局
宮台らは、島村の定義は雑にすぎるという。宮台らは少女文化の歴史的分析を行い、そのうえで少女のコミュニケーションの分析から、島村のいうような属性を含むもののなかにも次のような傾向を区別しなければならないとする。
①人間工学的……「人にやさしい」ことを追求した結果としての丸さや白さ、軽さ、皮膚感覚に沿ったソフト化やライト化などの「人間工学的」カテゴリー。これは島村のいうファンシーの要素と重なる
②ロマンチック……「自分と世界のロマン化」とも考えられる「ロマンチック」要素。「あなたとわたしの二人の愛に包まれた世界」とか、自分のまわりのものを「アーリーアメリカンの生活のように」、「アンのいるプリンセスエドワード島みたいに」ロマンチックなものとしてみて、ノイズを無視する。
③キュート……愛らしさや無邪気さや明るさ活発さ、無垢など、個々のモノやコトについてのある種の「子ども的」属性であるキュートさ。花やフルーツの模様、動物のキャラクター、ミッキーマウスやスヌーピー、キティちゃんなどがここに含まれるが、②とは別種のもの。(p36~37)
3 子どもに関する「かわいい」(p38~)
島村麻里は、「まず、私たちの多くは『小さい』に対して『かわいい!』と反応する場合がいちばん多いと思う」(島村 1991:200)といっている。人間において「小さい」といえば「子ども」である。子どもに関する「かわいい」は、おそらくもっとも基本的な「かわいい」であろう。
まずもって、無垢という意味での子どもそのもの、つたなく未完成なそのしぐさは誰が見てもかわいいと感じる。また、子どもが好むもの、子どもにまつわるものもかわいいといわれる。これは、幼さ、やわらかさ、愛らしさ、小ささ、そしてさらにいえば、はかなさ、弱さ、もろさ、などが呼び起こす感性である。(p38~39)
……
子ども向けテレビ番組においても、かわいいキャラクターはあふれていて、一部のキャラクターは子どもだけでなくおとなも取り込んでしまった。これはキャラクター好きな日本人の感性によるのだろう。日本人にはキャラクターというかわいいものへの嗜好があり、キャラクターが「子どもが好むもの」、「子どもらしいもの」にとどまらず、広く一般的なものとして定着していると考えてみたい。(p40より)
実際、最初からおとな向けであるキャラクター、おとな向け消費財につけられたキャラクターも2000年代に入ってから目立ってきた。……かわいいイラストはもはや子ども向けだけのものではなくなってきている。(p40~41)
……
こうみてみると、当初は子ども向けだったキュート、未成熟、丸い、やわらかい、などから成り立つかわいいキャラクターが子ども用だけではなくおとな用としても私たちのまわりにあふれていることがわかる。
このように、1970年代以降、徐々に「子ども」かわいいをおとな(おとこおとな)もかわいいというようになってきた。そして今ではそれは当然のようにもなっている。(p42)
4 少女に関する「かわいい」
○香山リカ・バンダイキャラクター研究所、2001『87%の日本人がキャラクターを好きな理由―なぜ現代人はキャラクターなしで生きられないのだろう?』学習研究社
少女に関する「かわいい」は1970年代前半に顕在化してきたといわれる。……物語性をもたないかわいいキャラクター、少女がちょっともってみたいと思うようなキャラクターが、ハローキティ以外にも次々と生まれていったのが1970年代なのである(香山・バンダイキャラクター研究所2001:85)。(p42~43)
○古賀令子、2009『「かわいい」の帝国』青土社
少女による「かわいい」モードをまとめた古賀令子の『「かわいい」の帝国』では、「『かわいい』は未成熟を嗜好する美意識である」、「『かわいい』モードは装飾(デコ)志向である」、「『かわいい』は女の子のための特別な価値観(エクスクルーシブ)である」、「『かわいい』は日本的高度消費文化の象徴的構造物である」、「『かわいい』はリスペクトのないフラットな価値観である」と、多面的にかわいいを定義づけている。また、「『究極の個人主義的価値観』を背景とする少女趣味的(幼さ)嗜好」、「過剰なまでの装飾スタイル」ともいっている(古賀 2009:203、204、206、207、210、215)。
さらに、ファッション誌を例にしながら、「『私たちだけがわかる』という共感性の強い同性間コミュニケーションとしての『CUTiE』の『かわいい』と、異性に『私のかわいさをわかってもらいたい』というコミュニケーション手段としての『CanCam』の『かわいい』。ファッション誌が形成してきた『かわいい』という言説のイメージは、その読者が誰なのか、そして誰に自分の価値観(かわいさ)をわかってもらいたいかによって大きく二分されていた。その異質の要素を包含したものが、現在の広く受容されている『かわいい』イメージなのである」(古賀 2009:136―137)ともまとめている。(p45)
……
○『装苑』(2010年8月号)、2010 文化出版局
『装苑』2010年8月号では、「少女たちが『かわいい』という言葉を使うのは、なにか内実があることをいいたいわけではなく、『自分はこれをいいと思う』という態度表明としてである。実際に何がかわいいかはそれほど問題ではない。それは『何かをいいと思う自分が好き』という自己肯定のマニュフェストだからである」との指摘もされている。これらからわかるように、いまや「かわいい」は、同性に向けて、異性に向けて、自分に向けてという、三方向を包摂して用いられる便利な言葉となっている。そのうちの異性コミュニケーションとしての「かわいい」の成果でもあるのだろうか、「少女」かわいいをおとこ(おとこおとな)もかわいいと感じるようになってきた。
ここまで、「子ども」と「おんな(少女)」を分けてみてきたが、そのことによって、かえってそれらは明確に区別できるものではないことがわかるだろう。「かわいい」はさまざまな要素が重なりあいながら、そして、「おとこおとな」も取り込みながら形成されているのである。(p46)
5 クールジャパン
○クールジャパンがいわれだしたころに出版された、かわいいの美学的感性に注目した研究→四方田犬彦、2006『「かわいい」論』筑摩書房
「ひとたび、『かわいい』という魔法の粉をふりかけられてしまうと、いかなる凡庸な物体さえ、急に親密感にあふれた好意的な表情をこちらに向けてくれることになる」
(四方田 2006:15)(p48)
「小さな物、どこかしら懐かしく、また幼げなる物を『かわいい』と呼び、それを21世紀の日本の美学だと見なしたところで、どうしていけないことがあるだろう」
(四方田 2006:18)(p48~49)
『「かわいい」論』では、かわいいにはただの未成熟さだけではなく、なにか別の要素が含まれる可能性が示唆されている。そのことにも関係するのだが、前節のことも含めて考えると、かわいいは「おんな(少女)」や「子ども」に親和的ではあるものの、今やなににでも使える言葉になっており、「おとこおとな」を含むかなり広い範囲をカバーする言葉になっていると考えることができる。何度も繰り返すが、ほとんど「なんでもかわいい」のである。だからこそ四方田は「かわいい」を「21世紀の日本の美学」と見なしたのではないだろうか。(p49)
第4章 もうひとつのカワイイ
1 かわいいとカワイイ(p51~)
ほとんど「なんでもかわいい」一方、どういう「かわいい」にも含まれない、かわいくないもの、かわいくはならないもの、もある。逆にそういうものに対して、「かわいい」といっているようなフシもある。「かわいくないもの」ははっきりしている。端的にいうと、「おとこおとな」の要素が強いものはかわいくない。あえて単純化した言葉でいうと、伝統、権威、力強さ、押しつけがましさなどはかわいくない。(p51より、下線部はそのまま引用)
<男性と美容>
●飯野 智子,『実践女子短期大学紀要』(34), 83-99, 2013-03,実践女子短期大学 「『男らしさ』とファッション・美容」 Webあり
男性が美しくなるために努力し時間や費用をかけるのは「男らしくない」ことであるとされる。女性が男性の服を着てもお洒落な着こなしとして許されるが、男性が女性の服を着ると女装と言われるように、「男性性」の否定というより「男性であること」そのものが否定されてしまうため、男性の場合、ジェンダー拒否は即セクシュアリティ拒否と結びつけられてしまう。
☆インタビュー
○美容に関する男性の行動や意識の変化について:エステサロン、男性専用化粧品会社、美容形成医院
・男性の場合、エステの目的は女性より明確で、メタボと診断されたので痩せるためという理由が一番多い。フェイシャルでは、髭の濃さに悩んだり、日々の髭剃りをおっくうに思い脱毛する人が多い。リラクゼーション効果への期待は中高年層に多いが、女性エステティシャンとのコミュニケーションを楽しむというのは男性利用者の特徴である。エステは多くの女性と少しの特別な男性が利用するものと考えられているため、エステの利用を恥ずかしく思う男性が多い。エステサロンは特別に美意識が高い男性が利用するのではなく、「何らかの悩みを持った、普通の」男性が利用していると言える。
・男性にも、見る女性にとっても、メイクには心理的な抵抗感がある。しかし、「コンプレックスの解消」や「他者に良い印象を持ってもらいたい」という理由でファンデーションが売れていることから、「変身願望」を満たしたり、目立ちたいためではなく、自信を持って他者と接し、社会に溶け込みたいという願望がうかがえる。
・美容外科手術の患者にも、エステや化粧品と同様、美の追求というよりはコンプレックスの解消や健康のためなど実用的な目的が見られる。しかし、二重まぶた手術の要望が多いことから、コンプレックスを解消して「普通になりたい」から一歩進んで、「美しくなりたい」という目標を持った男性も存在することが分かる。
○美容やファッションの傾向、意識の変化について:1館全て男性向けの百貨店、男性専門コーディネート会社
男性は、自分がどのような服装が好きで似合っているのか分からないという場合が多い。美しく装う必要のない男性は、女性に比べて自分自身の外見を客体化できないため、服選びにおいて主体的な選択ができないのは当然であり、コーディネーターに職業や日常生活などを語ることで服を選んでもらう。
○「普通の」若者のファッション感覚の変化について:ストリートカジュアル系のファッション雑誌
男性にとって、「自分が美しくなりたいから」お洒落をすることはナルシストのすることであり、男性らしくないという規制が働く一方、「女性にもてたい」と思うことは異性愛者としての男性らしさを示す。男性は外部に目的があり、それが男性的な目的でないと、美しくなるための努力ができないのではないか。
近代の性別的役割から、男性は身体もファッションも機能的であるべきだという理念が存在し、それが生物学的必然であるかのように決めつけられてきたため、男性の自己の身体への配慮や美容に対する消極的な姿勢を生んでしまった。「美の追求」は依然「男らしさ」からの逸脱であると見なされている。
●飯野 智子,『実践女子短期大学紀要』(29), 237-245, 2008-03,実践女子大学 「男性の美意識の変化--その可能性」 Webあり
☆年代別メンズエステで期待する効果
・20代・・・清潔感、コンプレックスの解消、おしゃれをしたい→対女性
・30~40代・・・清潔感、好感、健康→対社会、仕事、社会的責任
・50代以上・・・健康、リラクゼーション、癒し→対自己
自分の身体に無頓着であることが男性らしいとされてきたため、女性に比べ、男性は衛生や健康、美に関する自己配慮は求められてこなかった。その分、男性は母親や恋人、妻などの女性に自身の生活を管理してもらっているため、自己の身体に関して曖昧なイメージしか持てず、美に関して無関心になる。
<男性学、男らしさについて>
●飯野 智子,『実践女子大学短期大学部紀要』(39), 51-67, 2018,実践女子大学 「男性学・男性研究と今日の男性問題についての考察」 Webあり
「『人間』というカテゴリーの残余として不可視化されてきた女性の経験を可視化させようとする女性学の試みは、その副産物として、それまで普通だとみなされてきた男性の経験を相対化し、男性もまた女性とは異なる意味でやはり特殊な存在であるという認識をもたらした」(多賀太「男性学・男性研究の諸潮流」『日本ジェンダー研究』5:1-14,2002)
☆「男性学・男性研究」の本稿における定義
①男性および男性性を研究対象とする
②フェミニズム、女性学の影響を受け、ジェンダー構造の解明において共通の認識ーセクシズムの存在の認識がある
③当事者である男性研究者によるものと女性研究者によるものがある
ジェンダーレス男子はファッションによって自分を表現するときに、「男らしさ」より「自分らしさ」が優先する。大きな変化とはいえないまでも、社会が多様性を認める方向へ向かう中で、男性が自己表現として美を追求することにもある程度寛容になり、若者の流行にとどまっている限りは、性秩序の問題だなどと批判されなくなったことは指摘できる。(飯野智子「セクシュアリティ表現の多様化『異装』のコンセプトカフェ」『実践女子大学短期大学部紀要』37,2016,p45-62)
男性の美容をめぐる状況として、男性化粧品の種類の増加や、専用に扱う企業の誕生も見られる。しかし、エステサロンや美容医療、男性化粧品の使用目的は、単に美しくなることではなく、若年層は異性の評価を気にして、中高年層は仕事に有利であるから、さらに年齢が進むと癒しを求めてなど、明らかに女性とは異なる。(飯野智子「『男らしさ』とファッション・美容」『実践女子短期大学紀要』34,2013,p83-99)
●正保 正惠,『日本教育社会学会大会発表要旨集録』(52), 177-178, 2000,不明
「'90年代における『男性』規範の変容 : 男性ファッション雑誌を読む(III-7部会 ジェンダーと教育(2))」 Webあり
女性は、1970~1980年代のフェミニズム言説のなかで、「社会のなかでキャリアをめざす」などの新たな規範もありという生きやすさを獲得してきている。それに対し、男性には新たな規範として「イケてること」がand規範として生じてきていることで、相変わらず学力や経済力が求められるのに加えて、3C(Communicative, Cooperative, Comfortable)や、「イケてる」モノを身につけている、髪型や服装がださくない、うまく自己実現しているといったことも求められるようになった。
●神野 由紀,『デザイン学研究特集号』16(1), 8-13, 2008,一般社団法人 日本デザイン学会
「近代日本における消費と男性 : ファッション消費をめぐる言説を中心に(<特集>ファッション・デザインとメディア)」 Webあり
☆近代社会の中で生み出された性別役割
「生産する性としての男性」「消費する性としての女性」
→男性は、物質的な世界よりも精神性を追求すべきであり、浮薄な流行のファッションとは距離を置かなければならない。
しかし、精神性の優位が強調される男性イメージに反して、近代的な都市文化が形成されようとしていた明治末期以降、実際の男性は女性以上に流行のファッションを楽しむ消費者になっていた。
☆明治期の礼儀作法書に見る理想的男性像
○波多野鳥峰『紳士と社交』・・・多くの部分を「服装」「化粧」といったファッションに関するアドバイスに割いている。
【化粧について】
男女を問わず化粧を推奨しており、美しい容貌は健全な身体と高潔な人格の発露であるため、紳士に不可欠であるとしている。「男子最上の化粧法は、即ち健康の美観を得るの方法である」として、人為的に男らしい健康的な「美男子」になるための具体的な化粧方法が紹介されている。(艶やかな頭髪、疲れていない澄んだ眼、雪のように白い歯、清潔な身体の獲得の仕方や、相応しい香水の身に付け方など)
明治期の紳士論・作法書の一部は、男性にとってのファッション情報出版物として機能していた。男性消費は「紳士」という精神的卓越性を拠り所にした、女性に比べて屈折した消費の形式をとっていた。
明治以降、男性は「紳士」という理想的男性像を支持するダンディズムの美学を建前としながら、そこに到達する手段としての流行のファッションを追求する、一見矛盾するような消費文化を形成していった。
昭和初期には従来の精神論にとらわれない、自由な消費文化がモダン・ボーイのもとに新たに再編され、紳士的価値観と融合しながら戦後に引き継がれていった。
●辻 泉,『人文学報』(467), 27-66, 2013-03,首都大学東京 人文科学研究科 「雑誌に描かれた『男らしさ』の変容 : 男性ファッション誌の内容分析から」 Webあり
男性ファッション誌は、1970年代に女性ファッション誌から派生・模倣する形で登場し、1980年代以降に「関係性志向」が高まる中で、女性を相手にするための消費やデートのマニュアルとして発展を遂げ、2000年代に向かって「関係性志向」が衰退し「自分志向」が高まるとともに、さらにジャンルを多様化させて今日に至っている。
しかし、男性ファッション誌はどれも内容が比較的似通っており、「生き方やライフスタイル」を考えるページが少ない。男性たちのジェンダーが流動化している中、「生き方やライフスタイル」は多様化していくべきであり、その多様化のための主体的かつ先進的な提言や探求を進める役割を、男性ファッション誌はさらに担っていくべきではないか。
<フェミ男>
●小川 麻衣,『文化学園大学短期大学部紀要』49, 49-56, 2018-01,文化学園大学 「ファッションとジェンダー : "フェミ男"現象と『男らしさ』の考察」 Webあり
1990年代以降、経済成長から高度消費社会が到来しファッションが経済や文化に与える影響が大きくなると、欧米を先端としてジェンダー研究、フェミニズム研究、メディア研究が盛んになり、身体・性・サブカルチャーに注目した研究が問われるようになった。
1986年の男女雇用機会均等法施行やバブル崩壊などの社会の進展に伴い、男女共働きをしなければ生活が成り立たない時代に移行。
→”フェミ男”はその時代の変化の中で一過性の流行として出現し消えていったが、”フェミ男”は現代の”草食系男子””ジェンダーレス男子”の先駆けとなる、ジェンダーの変化をいち早く捉えた重要な現象なのではないか。
「”性”は男性と女性の生物的な差異、すなわち生殖器の目に見える差異、産む機能に関連した差異を指した言葉である。だが、”ジェンダー”は文化的な事柄であり、”男らしさ”や”女らしさ”という社会的な分類に関する言葉である」(Oakley, A. Sex, gender and society, London, (Temple Smith), 1976, p.16)
☆”フェミ男”現象
・1993年から1994年にかけて若者の間で流行
・1993年9月頃から”フェミ男”(別名”カマ男”)が突如として現れた
・原宿・渋谷・下北沢、大阪のアメリカ村などで見られた
”フェミ男”現象は社会の先端を走るジェンダー意識の変化をいち早く取り入れたファッションであったと言えるが、一過性の流行として衰退していったのも事実である。しかし、力強さや筋肉質などと結び付けられた「男らしさ」というジェンダー既定に、新しい「男らしさ」を加えたことはジェンダー既定に大きな影響を与え、ファッション表現における「男らしさ」の変化に”フェミ男”は貢献したと言える。
●柏尾 眞津子 , 土肥 伊都子 , 神山 進,『広告科学』43(0), 79-97, 2002,日本広告学会
「ジェンダー・フリーな男性ファッションに関する研究--フェミ男の写真評定による実証的検討」 Webあり
○「フェミ男」・・・従来の男らしさを表現した外見とは異なり、ファー付きの衣服やピアス、イヤリング、ネックレスなどの装身具を身に付け、ソフト素材のブラウス、身体にぴったり密着した衣服を着用するなど、女性の被服を取り入れて女らしい雰囲気を漂わせている男性を指す。(神山1996、箱井1996)
フェミ男を促進する主要な動機には、「美しさ」「やさしさ」「柔らかさ」という特性を示す女性性という自己概念を内在化している『女性性内在化』要因がある。それに加えて、人よりおしゃれで流行に敏感でありたいと願う、肉体を他者に誇示したい、ごく身近にあるから、気分転換したいといった多様な動機も、フェミ男という被服行動を支えている。(土肥1998、矢島他1998)
☆研究の目的
若い男性をジェンダー・フリーなファッションへ向かわせると考えられる、雑誌風の広告を作成し、その広告を見て、本当にジェンダー・フリーへの志向を高めるか、またフェミ男モデルへのイメージはどのようなものか検討する。
☆研究結果
・広告効果は認められなかったが、フェミ男の着装行動を促すメッセージを受け取った人は、概して、フェミ男に対し肯定的な態度を示した。
→何らかの接触刺激を与えることは、ジェンダー・フリーの着装動機の促進要因となりうる。
・『女性性内在化』以外にも、小さめサイズがよさそう、ファッショナブルに見えるかもしれない、リフレッシュできるかもしれない、と思った人は、フェミ男に対しての動機も高く、肯定的な態度を示した。
・フェミ男の衣服をまとった男性モデルを刺激写真として被験者に呈示し、それに対するイメージ評定を行った結果、ピンク色の服については、『人のよさ』『活動性』『親しみやすさ』、黄緑色の服については、『人のよさ』『活動性』『信頼性』の3因子から構成されるイメージをもつことが分かった。
・他者がフェミ男の服装をすることは拒否まではしないが、実際の自分の着装となると受容できにくいという、認知レベルと行動レベルにズレがあることが分かった。
・男性に比べて、女性の方がフェミ男を見て、着用や着用動機や面白さを促進させることが分かった。
・男性が着用した場合についての評価は、女性が男性より辛く、人のよさを感じる傾向は、女性より男性の方が強いことが分かった。男性の場合フェミ男に対して、実際自分たちが着用したことがないにもかかわらず、女性よりも肯定的に評価していることから、ジェンダー・フリ-な服を身に付けることに抵抗を示していないことの現れかもしれない。
●平松 隆円,『佛教大学教育学部学会紀要』(7), 211-223, 2008,佛教大学教育学部学会 「現代における女装行動に関する文化心理的考察」 Webあり
○「ギャル男」・・・2004年に渋谷で見られた、奇抜なメイクに女性物の衣服を着た、男性版ヤマンバギャルのこと。わずか1年足らずで街から消えた。
フェミ男は、ピアスやペンダントなどのアクセサリーや女性物の衣服を身に付けるだけでなく、身だしなみに高い関心を持ち、中には化粧をする男の子も登場した。彼らには、女性物を着たい、女装がしたい、女性になりたいといった願望はなく、70年代ファッションやクラブファッションをしたい男の子にとって、そういった衣服が女性物にしかなかったということが理由の一つである。
従来の男の子のファッションから外れたフェミ男への批判は少なくないが、批判の多くはフェミ男とは異なる世代で行われた。男の子が女性物の衣服を着ることへの直接的な批判と、おしゃれに関心を持つことへの伝統的性役割に関する批判である。そのため、フェミ男に対して否定的なメディアは、彼らを「カマ男」と表現することもあった。
☆ギャル男の意味の変化
1990年・・・女性化したやさしい男の子。甘いもの好きで、サラダを食べ、雑貨が大好きで、まめでセンスもいい、心やさしき若い男性。
1993年・・・ファッションを語り、プレゼントにセンスを発揮する女性的な男性
2001年・・・女っぽい容姿の男
2004年・・・ちゃらちゃらしている男
初期のギャル男は、内面的な部分に対して女性的であったため、外面的な部分は従来の男性像から外れておらず、だからこそ他の男性からも肯定的に受け止められてきたのだと考えられる。
1970年代のクラブファッションは、女性的ではあっても「女の格好」ではなかったため、1970年代に青春を過ごした大人は、女っぽい容姿に女っぽい格好をしたフェミ男に批判的であった。
フェミ男が街に増えたのは、女の子に好意的に受け入れられ、それを通じて男の子の間でファッション性の高さが受け入れられたことが一因である。
フェミ男や「ギャル男」は、女の子が好意的に受け入れたために、女物の衣服を着たことは共通している。しかし、フェミ男はファッション性の高さを追求した結果、女の子の服しかなかったため、「おしゃれ=女の子と仲良くなる方法」だったのに対し、「ギャル男」は「女の子と同じファッション=女の子と仲良くなる方法」として、女の子に近づくために女物の服を着ていた。
<ジェンダーレスファッション>
●北方 晴子,『文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要』50, 43-48, 2019-01,文化学園大学・文化学園大学短期大学部 「男性とスカート考(1)」 Webあり
●北方 晴子,『文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要』51, 69-74, 2020-01,文化学園大学・文化学園大学短期大学部 「男性とスカート考(2)」 Webあり
1960年代から女性の自立が見られたことで、女性のスカートが徐々にズボンに置き換わると同時に、ファッションにおける性差の意識にも変化が見られ、ユニセックスファッションが普通となり、新しい時代を迎えた。しかし、その当時に登場した男性用スカートは、現在のようなファッションアイテムになるまでには至らなかった。
1980年代に女性の社会進出が加速すると、女性が意思が強く見えるよう着飾る一方、男性は女性の領域であったファッションで着飾ることを始め、ファッション消費を楽しむようになった。この時代に提案された男性用スカートは、それまでのような女性用スカートの模倣ではなく、スカートを着用しながらも、体格やポーズで力強い男らしさを表現するスタイリングによる、新しい現代的な男性用スカートであった。これによって、男性用スカートは徐々に男性用のファッションアイテムとして受け入れられるようになった。
1990年代に入ると、一部ではあるが、ラグジュアリーなブランドの世界でも男性用スカートが発表されるようになった。2000年代以降には、コレクションにも男性モデルがスカートをはいたショーが披露されている。中には、前から見ると男性用タキシード姿、後ろから見るとウェディングドレス姿という、男性ファッションと女性ファッションが融合した服も登場した。ハイブランドでも男性用スカートが登場してくると、若者だけでなく、大人の男性にも受け入れられやすいと言える。
日本でも、1990年代に入ると、若い男性のお洒落が定着し、服だけには留まらず、肌やヘアスタイルといった身体そのものへの関心が高まり始めた。男性ファッション誌でも、盛んに眉を整える特集やヒゲや体毛を処理する特集が組まれるようになり、そこには少年のような、中性的なイメージの男性の存在があった。女性文化を抵抗なく受け入れ、スマートで美しくありたいという思いが新たに付け加えられ、全体的にユニセックス化が進んでいった。
ストリートにおいてもジェンダーレス化が進み、ピアスやネックレスを飾るなど、一見すると女性と見間違う格好をした男の子が登場した。彼らは「フェミ男」「カマ男」と呼ばれ、女の子の可愛らしさを志向し、中には好んでスカートをはく男の子もいた。
ジェンダーレスファッションは度々コレクションに登場してくるようになり、ジェンダーの隔たりを大幅に超え始めている。そこには、「何故、スカートは女性だけのものなのか」など、当たり前のように社会の中で決められたファッションの規範への問いかけが表現されている。
最近では日本でも、学校制服において女子生徒がスカートかズボンを選ぶことができる学校も増えつつある。将来はそれが逆転し、男子生徒もスカートかズボンを選択できる時が来る可能性もある。
●新實 五穂,『お茶の水女子大学人文科学研究』15, 41-51, 2019-03,お茶の水女子大学
「『ジェンダーレス』な服飾における性差 : 全国紙三紙の掲載記事を対象として」 Webあり
☆学生服メーカーの多様な性に対応した学生服(『朝日新聞』)
○ジェンダーレス制服(トンボ)・・・性別に関係なくスラックスやスカート、ネクタイ、リボンを自由に選ぶことができるデザインの制服。男性用スカートは製作しておらず、スカートに似たスラックスのデザインは製作しているが、採用には至っていない。
○ボーダーレス(菅公学生服)・・・女性向けスラックスをはじめ、身体のラインをひろいにくいデザインなどを用いている。
いずれも両性間でデザインの差が少なく、男女共用のものである一方、女性のデザインをもともとの男性のデザインに近づけているように見受けられる。ここには性的少数者への配慮以外にも、防寒のために女性向けスラックスを採用する学校が増加している事実も関係していると思われる。
☆ジェンダーレスな服飾流行が生じた社会的な背景
○『朝日新聞』
「ズボンは男性/スカートは女性」に代表されるヨーロッパのジェンダー観に基づく服装規範が長らく支配的であったものの、ジェンダー規範を如実に反映する服飾がその先駆けとして、人間や性の多様性に対する社会意識の変革を察知し、これまでの規範に疑問を投げかけているのではないか。
○『読売新聞』
・合同ショーが増加した
・政治経済の世界規模での不安により従来の規範が揺らいだ
・欧米と比較して日本は洋裁文化の歴史が浅いため、日本での服作りは特に制約が少ない
☆男性服と女性服のショーを統合した「合同ショー」が増加したのはなぜか(合同ショーの利点)
○『朝日新聞』
・経費を削減し、ショーにかかる予算を減らす
・合同ショーをするブランドはもともとジェンダーレスなデザインの服飾が多い
・ジェンダーレスな服飾デザインは新奇性が求められた場合、デザイナーの新たな表現手段として生じやすい傾向にある
・男女ともに着用できる服飾デザインによって顧客層を狭めない方が、歴史の浅い若手のブランドにとって商品が販売しやすい
○『日本経済新聞』
・コスト削減や開催時間の短縮
・男女で一体化したブランドイメージを買い付け担当者(バイヤー)によりわかりやすく伝達することができる
・既存のデザインではなく新たなものを欲する購入者の意図に応えるため、ジェンダーレスな服飾デザインが発生する
→新奇性、新鮮味、他人との差別化が画一的でない服装を求める個人の欲求を満たす
・被服費の節約、節約志向によってジェンダーレスな服飾が重用される
→家族や夫婦間で共有することで被服への出費が抑えられる上、より多くのデザインを享受できる
・既成概念や固定概念を覆すことに通じる、多様性を認め、従来の男らしさ・女らしさを見直し、捉われない姿勢にジェンダーレスな服飾の隆盛がある
「ジェンダーレス型の消費」・・・男性用・女性用の枠組みに捉われず、より良いものを求め、使用したいという考えに基づく消費スタイル。
この消費スタイルは、性別の枠に固定されない新たな消費や消費の活性化につながると考えられているため、商品デザインはもちろん、ブランドの刷新、従来型の店舗や売り場の統合などの目新しい事業モデルの原動力となっている。(『日本経済新聞』)
女性の社会進出が進んだ結果、男女の違いや性差を日常的に強烈に認知する機会が減少し、現代人のジェンダー意識は低下する傾向にある。よって、今日のジェンダーレスな服飾は、20世紀後期に性を揺るがしたとされる服飾の事例ほどデザインの奇抜性がなく、そこにジェンダー規範および性差への主張や申し立て、意義や反発は込められていない。また、ジェンダー意識の低下に伴い、性による境界に縛られず、自由にものやデザインの良さを判断し、評価することができる購入者が生まれ始めていると言われている。(『日本経済新聞』)
☆全国紙三紙が共通して報じているジェンダーレスな服飾の特徴
・オーバーサイズやビッグサイズ(シルエット)と称される身体線を強調しないデザインを重用したり、サイズ展開を豊富にすることで、服装で性別を曖昧にしている
・「女らしい」とされるイメージを持つ色調・模様・素材・装飾などを男性服のデザインに活用することで、性差を感じさせない
→反対に、男性服に起源がある衣類を女性向けに色調・素材などのデザインを工夫したりすることも「ジェンダーレス」である
近代のジェンダーレスな服飾にはジェンダーレスといえども、その装いが意味するものや役割は、性別によって異なる部分や差異が生じている
<トランスジェンダー>
●米沢泉美編著『トランスジェンダリズム宣言―性別の自己決定権と多様な性の肯定―』社会批評社,2003年
☆トランスジェンダー用語集(p.265~)からいくつか引用
○トランスジェンダー
自分の生物学的な性別、または社会的に決められた性別およびその性別「らしい」振る舞いを求められることに対し、何らかの違和感を感じている人びと。
○トランスセクシュアル
自分の持つ、性器をはじめとする性差を意識させる身体特徴に対し、不快感・違和感を持つ人びと。
○トランスヴェスタイト・クロスドレッサー
別の性別に変身するために、異性装(いわゆる女装・男装)を行う人びと。ただし、ドラァグクイーン/キングは含まないことが多い。
○ジェンダーアイデンティティ
自分の性別をどう自覚しているか。もちろん、「男性」や「女性」以外にも、「どちらでもない」「変化する」などの多様な形態がある。
○ジェンダーロール
社会が性別に対して与えてきた役割。例えば、「女は家事、男は仕事」といった偏見や、「女は化粧をし、スカートを履くが、男はそうしない」といった社会的常識が含まれる。
○ジェンダーフリー
ジェンダーバイアス(ジェンダーの違いに対するさまざまな不公平・偏見)から「自由」であること。
○ジェンダーベンダー・ジェンダーブレンダー
ジェンダーアイデンティティが男女のいずれか一極に向かうのではなく、「男でも女でもある」「どちらでもない」「中間」などの様態となっているあり方。
○性のスペクトル
個々人のレベルでは「100%典型的な男」「100%典型的な女」というのは実在せず、誰もが「男らしい」「女らしい」面を持っていることに着目し、一人の人間の中にも多様な男性性・女性性があってよい、とする見解。日本では「性のグラデーション」と呼ばれるが、英語のニュアンスとして「男女に価値的な差異がある」ように聞こえるため、あえてこのように言い換えた。
○n個の性
そもそも性別は男女二種類ではなく、人間の数だけ存在する、全人類の性別は各々異なっている、という説。フランスの思想家、ドゥルーズとガタリが提唱した概念。
☆異性装の原因(p.135、ヴァージニア・プリンス『トランスヴェスタイトとその妻』1967年より)
(A)徳を得、美を経験する願望
(B)着飾り、個性を表現する願望
(C)男性としての義務からの解放
(D)社会の要求からの解放
<その他>
●飯野 智子,『実践女子大学短期大学部紀要』(37), 45-62, 2016,実践女子大学,「セクシュアリティ表現の多様化 : 「異装」のコンセプトカフェ」 Webあり
日常において異装はタブー視されており、特に公共の場における男性には禁忌の感情が強い。そもそも男性の服装は女性と比較して選択の幅が狭いため、規範が厳格であり、「男らしくない」服装をした時の制裁は厳しい。「女装」は祭り等の非日常な場では規範として強要されることがあるが、日常において男性が女装することは逸脱であるとみなされ、そのような男性は男ではないとされる。男性は、男性性の競争とその結果である階層のために、男性らしくない行動は、男性性の否定というよりも、男性である事そのものの否定につながる。対して女性は、男性より服装選択の幅が広いため、全体として男性的なファッションをしていても、それはあくまでも「ファッション」と見なされ、女性である事の否定にはつながらない。
男性が女性に比較してジェンダーアイデンティティを獲得する事の困難さはよく指摘されるが、服装一つをとっても「男性である事」には厳しい条件があるのであれば、自分の好みよりも「男性らしさ」を優先せざるをえないのも当然である。ジェンダーアイデンティティの危機を回避するため、男性は女性的な要素のあるファッションを「女装」として退ける。
●矢島 誠人 , 柏尾 眞津子 , 乙井 一貫 , 土肥 伊都子 , 箱井 英寿 , 永野 光朗 , 松本 敦,『繊維製品消費科学』39(11), 723-729, 1998,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
「被服行動におけるクロス・セックス化 男性ファッションの女性化の規定因に関する研究」 Webあり
○被服行動のクロス・セックス・・・異性の服を着用するという意図から、男性が女性のような服を着ること
○被服行動のユニ・セックス・・・異性の服を着用するという意図がなく、男性が女性のような服を着ること
性役割同一性つまり自分自身をどの程度、男らしく、または女らしく見ているかについての自己認知、すなわち自己概念と被服行動との間に密接な関連がある。伝統的な性役割を受容する人は性的なステレオタイプを象徴するような被服を身に付け、また逆に、伝統的な性役割に縛られまいとする人は、それらを拒否することが予想される。
☆男性の被服行動におけるクロス・セックス化の規定因
(土肥伊都子;日本繊維製品消費科学会第57回クリーニング研究会(1998))
・男性の女性性が増してきたため、それに整合して被服行動も女性化しているという「女性性志向」
・ジェンダー・フリーな社会による個人の心理的変化の一側面である「男らしさの規範からの逸脱」
・ジェンダー・フリーな社会によって引き起こされる男女の社会的役割の分業から協同への変化「類似性による異性関係」
その他・・・「ファッション志向性」、「男らしさの誇張」「女物の被服の入手しやすさ」
普段から自分自身の中に女性的な一面を持っていると自覚しており、店で男女両方の服がおいてあれば男物、女物を気にせずに購入したいと思っており、友達と似た服を着たくないと考えている男子学生は、過去において、女性用衣服(アクセサリーを含む)の着用経験があり、現在もそれらを着用することがあり、将来もその可能性がある。
文献リスト
●飯野 智子,『実践女子短期大学紀要』(29), 237-245, 2008-03,実践女子大学 「男性の美意識の変化--その可能性」 Webあり
●飯野 智子,『実践女子短期大学紀要』(34), 83-99, 2013-03,実践女子短期大学 「『男らしさ』とファッション・美容」 Webあり
●飯野 智子,『実践女子大学短期大学部紀要』(37), 45-62, 2016,実践女子大学,「セクシュアリティ表現の多様化 : 「異装」のコンセプトカフェ」 Webあり
●飯野 智子,『実践女子大学短期大学部紀要』(39), 51-67, 2018,実践女子大学 「男性学・男性研究と今日の男性問題についての考察」 Webあり
●小川 麻衣,『ファッションビジネス学会論文誌』22, 57-65, 2017-03,ファッションビジネス学会
「ジェンダー表象としてのファッション : "ジェンダーレス男子"の事例分析」 Webなし
●小川 麻衣,『文化学園大学短期大学部紀要』49, 49-56, 2018-01,文化学園大学 「ファッションとジェンダー : "フェミ男"現象と「男らしさ」の考察」 Webあり
●奥野 佐矢子,『女性学評論』(32), 147-176, 2018-03,神戸女学院大学女性学インスティチュート
「『ジェンダーレス男子』が拓く明るい未来?(女性学連続セミナー「女性学と男性学」)」 Webあり
●柏尾 眞津子 , 土肥 伊都子 , 神山 進,『広告科学』43(0), 79-97, 2002,日本広告学会
「ジェンダー・フリーな男性ファッションに関する研究--フェミ男の写真評定による実証的検討」 Webあり
・川野 佐江子 , 徳迫 栞 , 沢辺 祐馬 , 日比野 英子『Research Bulletin of Osaka Shoin Women's University』(11), 23-34, 2021-01-29,大阪樟蔭女子大学
「男性化粧に対する現代人の意識とその社会的背景」 Webあり
●北方 晴子,『文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要』50, 43-48, 2019-01,文化学園大学・文化学園大学短期大学部 「男性とスカート考(1)」 Webあり
●北方 晴子,『文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要』51, 69-74, 2020-01,文化学園大学・文化学園大学短期大学部 「男性とスカート考(2)」 Webあり
●工藤 保則,『カワイイ社会・学 成熟の先をデザインする』2015,関西学院大学出版会 大学にあり
●正保 正惠,『日本教育社会学会大会発表要旨集録』(52), 177-178, 2000,不明
「'90年代における『男性』規範の変容 : 男性ファッション雑誌を読む(III-7部会 ジェンダーと教育(2))」 Webあり
●神野 由紀,『デザイン学研究特集号』16(1), 8-13, 2008,一般社団法人 日本デザイン学会
「近代日本における消費と男性 : ファッション消費をめぐる言説を中心に(<特集>ファッション・デザインとメディア)」 Webあり
●辻 泉,『人文学報』(467), 27-66, 2013-03,首都大学東京 人文科学研究科 「雑誌に描かれた『男らしさ』の変容 : 男性ファッション誌の内容分析から」 Webあり
●新實 五穂,『お茶の水女子大学人文科学研究』15, 41-51, 2019-03,お茶の水女子大学
「『ジェンダーレス』な服飾における性差 : 全国紙三紙の掲載記事を対象として」 Webあり
・西岡 敦子,『繊維製品消費科学』54(4), 332-338, 2013,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会 「男性の化粧は受け入れられるのか:―男性の化粧行動から―」 Webあり
・馬場 まみ,『日本衣服学会誌』54(2), 91-94, 2011,日本衣服学会 「ファッションにみるジェンダー:―婚礼衣装と学校制服―」 Webあり
●平松 隆円,『佛教大学教育学部学会紀要』(7), 211-223, 2008,佛教大学教育学部学会 「現代における女装行動に関する文化心理的考察」 Webあり
・平松 隆円,『佛教大学教育学部学会紀要 (4), 165-179, 2005,佛教大学教育学部学会
「大学生の化粧行動の実態解明と社会的スキル・性役割・自意識・他者意識との関連性」 Webあり
・平松 隆円,『繊維製品消費科学』48(11), 750-757, 2007,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会 「スキンケアによる感情調整作用に関する研究」 Webあり
・平松 隆円,牛田 好美『繊維製品消費科学』48(12), 843-852, 2007,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
「化粧規範に関する研究―化粧を施す生活場面とそれを規定する化粧意識と個人差要因―:―化粧を施す生活場面とそれを規定する化粧意識と個人差要因―」 Webあり
・平松 隆円,『繊維製品消費科学』55(2), 140-147, 2014,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
「化粧規範に関する研究:― 社会的場面と化粧基準の評定に基づく化粧規範意識の構造化 ―」 Webあり
・平松 隆円,『繊維製品消費科学』55(11), 849-856, 2014,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
「化粧規範に関する研究:― 化粧規範意識を規定する個人差要因(他者意識・自意識・形式主義・独自性欲求)―」 Webあり
・松岡 依里子,『一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集』54(0), 279-279, 2002,一般社団法人 日本家政学会 「服装に内在する性役割についての再検討」 アクセスできない
●矢島 誠人 , 柏尾 眞津子 , 乙井 一貫 , 土肥 伊都子 , 箱井 英寿 , 永野 光朗 , 松本 敦,『繊維製品消費科学』39(11), 723-729, 1998,一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
「被服行動におけるクロス・セックス化 男性ファッションの女性化の規定因に関する研究」 Webあり
・山村 明子,『一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集』61(0), 217-217, 2009,一般社団法人 日本家政学会
「メンズ・カジュアルファッションにみるジェンダーとファッション」 アクセスできない
●米沢泉美編著『トランスジェンダリズム宣言―性別の自己決定権と多様な性の肯定―』社会批評社,2003年
〈CiNiiヒット件数〉
・ジェンダーレス男子…2件 ・ジェンダーレス ファッション…1件 ・ジェンダー ファッション…37件 ・男性 ファッション…106件 ・フェミ男…3件 ・草食系男子…54件