テーマ
行政による子育て支援
問題意識
近年、ひとり親による子育て世帯は増加傾向にある。ひとり親は仕事とすべての家事・育児の両立が求められ、子育てをめぐり育児の担い手と稼ぎ手としての葛藤を抱える(渡辺 2020)。このような厳しい状況である世帯に対する支援は十分なのか、行政による子育て支援の現状を明らかにしたい。
基礎概念
・家族主義
「家族を理想のケア環境とみなし、ケアに対する家族の責任を強調すること」と定義する(藤間 2017)。
子育てはふたり親家族で、母親が主な担い手(渡辺 2020)。
家族制度そのものが本質的に資源の不平等性を抱え込んでいることに無批判なまま、家族責任を強調する考えや立場(松本 2017)。
・個人主義
社会の権威に対して個人の意義と価値を重視し、その権利と自由を尊重することを主張する立場や理論。
(Weblio辞書、https://www.weblio.jp/content/%E5%80%8B%E4%BA%BA%E4%B8%BB%E7%BE%A9)
・子育ての社会化
子育てが家族の責任だけで行われるのではなく、社会全体によって取り組む(内閣府 国民生活白書 2005)。
・子ども・子育て支援新制度
『子ども・子育て支援新制度』とは、平成24年8月に成立した「子ども・子育て支援法」、「認定こども園法の一部改正」、「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の子ども・子育て関連3法に基づく制度のことをいう。
子ども・子育て関連3法のポイント
1.認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付(「施設型給付」)及び
小規模保育等への給付(「地域型保育給付」)の創設
2.認定こども園制度の改善(幼保連携型認定こども園の改善等)
3.地域の実情に応じた子ども・子育て支援
(利用者支援、地域子育て支援拠点、放課後児童クラブなどの「地域子ども・子育て支援事業」)の充実
4.基礎自治体(市町村)が実施主体
5.社会全体による費用負担
6.政府の推進体制
7.子ども・子育て会議の設置
(内閣府,子ども・子育て支援新制度とは,https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/index.html)
研究者
・藤間公太(とうまこうた)
お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 人間発達科学専攻 非常勤講師(担当科目:現代社会論)。
研究キーワード:社会学、家族社会学、福祉社会学、教育社会学、家族主義、社会的養護、児童相談所、虐待相談記録、ケア、子育て、三世代同居、ダブルケア
主な論文:「ケアの多元化と脱家族化」大原社会問題研究所雑誌(722)58-69(2018),「社会的養護にみる家族主義」三田社会学(22)38-54(2017)
*主に家族主義に焦点当て、そこから生じる様々な問題を研究している。家族主義に関する他の研究者の論文ではこの人物の論文から引用されることが多く、社会学において家族主義の研究を最も行っていると考えられる。「子育て支援政策における家族主義」に関して,保護者に子どものケアの第一義的責任をおくことを明記することで家族責任を強化し,他の国民や国,地方公共団体の関与を残余的なものにとどめる方向に作用していると述べ、これが,子育て支援政策における家族主義のあらわれであると主張している。
・阿部彩(あべあや)
東京都立大学人文社会部人間社会学科教授
研究キーワード:社会政策 貧困 社会保障
主な著書:『子どもの貧困―日本の不公平を考える』岩波書店(2008),「日本の子どもの貧困:失われた「機会の平等」」学術の動向14(8)66-72(2009)
*貧困・格差論を主に専門としており、日本における貧困・格差・社会的排除の測定とそれに対する政策の評価を行い、子どもの貧困の現状とその影響の分析をしている。その中でひとり親の家庭についても触れており、子育て支援に関する論文には彼女の論文が多く引用されている。
量的データ
・内閣府 男女共同参画白書 令和元年度版 第2節 高齢者、ひとり親の状況
ひとり親世帯は平成15年からほぼ同水準で推移している。平成28年は父子世帯は18.7万世帯、母子世帯は123.2万世帯というように圧倒的に母子世帯が大きく占めている。
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-06-06.html
・厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
1 ひとり親世帯になった理由別の世帯構成割合
母子世帯になった理由別の構成割合は、前回調査に比べて死別世帯が 0.5 %増加する一方、生別世帯が1.4 %減少しており全体の約9割を占めている。
父子世帯になった理由別の構成割合は、前回調査に比べて死別世帯が 2.2 %増加する一方、生別世帯が3.2 %減少しており全体の約8割を占めている。
母子世帯も父子世帯でもひとり親世帯になる一番の理由は離婚である。
質的データ
児童扶養手当
離婚によるひとり親世帯等、父又は母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について手当を支給し、児童の福祉の増進を図ることが目的である(平成22年8月より父子家庭も対象)。 支給対象者は18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童(障害児の場合は20歳未満)を監護する母、監護し、かつ生計を同じくする父又は養育する者(祖父母等)とされる。
支給要件は父母が婚姻を解消した児童、父又は母が死亡した児童、父又は母が一定程度の障害の状態にある児童、父又は母の生死が明らかでない児童などを監護等していることである。 手当額は全部支給だと月額43,160円であり、一部支給は43,150円~10,180円である。
1961年に児童扶養手当制度が創設された。当時は母子福祉年金の補完的制度として発足した。1985年に母子家庭の生活の安定と自立の促進を通じて児童の健全育成を図る福祉制度に改正された。その後何回も制度の改正があり、多子加算額の倍増、全部支給の所得制限限度額の引き上げ、支払い回数を年3回から年6回へ見直し、ひとり親の障害年金受給者についての併給調整の方法の見直しが行われた。
厚生労働省 母子家庭等関係 ひとり親家庭の支援について 経済的支援
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/index.html
年表
経済産業省,年表から見る経済産業統計,https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/topics/maruwakari/nenpyo.html
男女共同参画局母子世帯数及び父子世帯数の推移, https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-05-09.html
厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計の年間推計, https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/dl/2019suikei.pdf
調査計画
調査対象 自助グループに属するひとり親の当事者
調査方法 インタビュー
質問 行政からの具体的な支援内容、行政に対して求めていること、ひとり親家庭を取り巻く周りの環境
分かること 行政からの支援に対する満足度、支援の課題点
文献リスト
<論文>
(インターネット上で閲覧可能)
阿部彩,2009,「日本の子どもの貧困:失われた「機会の平等」」,学術の動向14(8)66-72
大森弘子、清水脩、伊藤萌,2016,「社会的養護を必要とする母子世帯へ子育て支援が与える影響:シングルマザーの現状と育児不安について」,社会福祉学部論集(12)17-25
斎藤知洋,2018,「ひとり親家庭の所得格差と社会階層」,家族社会学研究30(1)44-56
遠山 景広,2020,「子育てサロンの利用状況にみる母親の子育て意識の相違」,現代社会学研究(33) 23-42
藤間公太,2017,「社会的養護にみる家族主義」,三田社会学(22) 38-54
藤間公太,2018,「ケアの多元化と脱家族化」,大原社会問題研究所雑誌(722)58-69
日下慈、笠原正洋,2016,「地域子育て支援施策の変遷:支援者の専門性を中心に」,中村学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要(48)7-22
笹川拓也,2014,「地域社会における子育て支援の現状と課題:子育て支援制度の変遷と子育て家庭の現状について」,川崎医療短期大学紀要(34)13-18
(インターネット上で閲覧不可)
渡辺恵,2020,「地域子育て支援における課題を考える;ひとり親家族に関する最近の研究を手がかりに」,杏林大学研究報告(37)35-45
<書籍>
柏女霊峰,2015,『子ども・子育て支援制度を読み解く―その全体像と今後の課題』,誠信書房
松本伊智朗,2017,『「子どもの問い直す問いなおす 家族・ジェンダーの視点から」,法律文化社