〇問題意識
近年では三大都市圏の人口が総人口に占める割合は増加しているが、逆にその他の多くの地域では過疎化や少子高齢化が進んでいる。多くの地域では少子高齢化の影響 で地域経済の衰退が大きな問題となってきている。そこでその問題を解決するために地域の観光資源を活用し、観光客を集めて経済の再生に成功している地域もある。しかし観光資源の開発に成功してもそこに元から住む人々の文化や生活そのものが守られなければ経済の再生が成功したとしても問題が解決したということはできないだろう。そこで観光資源の活用による地域経済の活性化と地域住民の文化保護の両立が成されている地域に注目してその背景、現状や今後の課題について考察していきたい。
〇基礎概念
・リビングヘリテージ
「端的に言えば、宗教や慣例、祭事や芸能、生活環境そのものや生活習慣といったものまで、これらすべての習俗のうち、現在においても継続して生き存えている総括的な文化遺産を指し示している。」(藤木庸介、2010)
文化遺産を対象とする研究者の間において使用されるようになってきた言葉。正式な学術用語ではなく比較的新しい言葉。
「リビングヘリテージ(英: Living Heritage)とは、日本語で「生きている遺産」と訳されるもので、有形無形の“有効に活用されている文化遺産”の総称。リビングヘリテージに明確な基準はないが、リチャード・エンゲルハルト[1]が唱えた主張が一般的定義となっている。」(ウィキペディア リビングヘリテージ)
・イコモス国際文化観光憲章
1999年に草案が提起されて2002年に採択された。文化遺産と観光の両方が明確に定義され文化遺産と観光開発の関係性に対する評価の枠組みがしめされている。
・無形文化遺産の保護に関する条約
2003年に採択。人間の諸活動を総括的に文化遺産として保護していこうとする概念が提示されている。
〇研究者
・藤木庸介 滋賀県立大学 人間文化学部生活デザイン学科 准教授
地域における伝統的な居住文化との相関性について調査・研究している。地域とのつながりを重視した観光街づくりを行っている。研究分野は都市計画や建築計画のようだが近年は観光まちづくりの研究も行っている。
書籍等出版物:『世界遺産と地域振興−中国雲南省・麗江にくらす』世界思想社 2007年、『観光の空間・視点とアプローチ』 ナカニシヤ出版 2009年
・山村高淑 北海道大学 観光学高等研究センター 教授
文化遺産の継承とツーリズムの関係性のあり方について、ヘリテージツーリズムの側面から国内外の事例研究を行っている。文化遺産の保護や活用に関する研究も行う。
2002年4月 第1回旅の文化研究奨励賞 研究分野は地域研究、文化人類学、都市計画
書籍・論文:「世界遺産を観光資源とした観光産業の実態とその課題に関する研究-中国・麗江旧市街地における観光関連店舗の経営実態分析-」
日本都市計画学会学術研究論文集36号 pp.257-252 2001年、『世界遺産と地域振興 中国雲南省・麗江にくらす』山村 高淑 ・ 張 天新 ・ 藤木 庸 介 (担当:共著, 範囲:筆頭編者、第1章、第2章、第5章、第7章) 世界思想社 2007年12月
・リチャード・エンゲルハルト ユネスコ バンコク事務所 アジア太平洋地域文化担当アドバイザー
「ユネスコ・アジア太平洋遺産保護賞の歴史と重要性」、2011、 建築雑誌 126(1615), 36-37、一般社団法人日本建築学会
〇量的データ
・都道府県別人口推移(平成26年)
国勢調査による統計資料。(総務省統計局ホームページより)
・消滅可能性自治体について
日本創生会議の人口減少問題検討分科会は国立社会保障・人口問題研究所が昨年3月にまとめた将来推計人口のデータを基にして2040年の20代から30代の女性の人口を試算したところ、2010年と比較して若年女性が半分以下に減る自治体は全国の49.8%に当たる896市区町村に上った。2010年から2040年にかけて若い女性が半分以下に減る自治体は消滅可能性自治体と呼ばれ、近い将来消滅する可能性が高いとされている。このことから現在ある自治体の半分が2040年までに消滅すると予測されている。青森、岩手、秋田、山形、島根の5県では8割以上の市町村に消滅可能性があるとされた。
人口移動が収束しない場合の全国市区町村別2040年推計人口(地図)(http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_2_2.pdf)
・市町村の数の変化
平成16年は3100あった市町村が平成26年には1718に減っている。平成16年から26年までの10年間で1382の市町村が合併によりなくなっている。
また平成22年は1727で市町村の減少はなだらかにはなっている。
〇リサーチクエスチョン
人口減少と観光開発が同時に進行しており、かつ住民の暮らしや生活習慣が保護されている地域の自治体に政策についてインタビューを行う。またその地域の住民の代表者に観光開発や地域振興についてどう思っているか、問題点はないかインタビューする。
・具体的な地域について
広島県宮島、鹿児島県奄美大島、岐阜県高山市、
〇参考文献
○論文
・田島則行、2015、「人口縮小都市における衰退と都市再生の可能性の研究」、学術講演梗概集、947-948
・菅井憲郎、2006、「中心商店街の再生(<特集>地域経済)」、地域経済政策研究、7、15-55
・實清隆、2014、「富山における公共交通におけるまちづくり」、日本地理学会発表要旨集、37
○書籍
・蓑原敬、2003、『成熟のための都市再生:人口減少時代の街づくり』、学芸出版社
・山形大学人文学部街づくり研究会、2001、『地方都市における中心市街地の活性化に関する研究』、山形大学人文学部街づくり研究会
・田中克志,小桜義明、1995、『地方中核都市の街づくりと政策』、信山社出版
・藤木庸介、2010、『生きている文化遺産と観光 住民によるリビングヘリテージの継承』、学芸出版社
〇参考URL
・総務省統計局 都道府県別人口増減率 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2014np/
・ウィキペディア リビングヘリテージ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%98%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B8