★災害メディアの時代的変化と、それぞれのメディア別に特徴をまとめる(その際、どこからどこまでがどの文献(の何ページ)に書かれていたかがわかるようにする)。
災害とメディア
問題関心
災害が発生すると、メディアを通し被災地・被災地外の人々に災害情報が行き渡る。各種のメディアはどこにどのような情報を伝えているのだろうか。また、災害情報の伝達において、各種のメディアが持つ長所と短所は何か探っていきたい。災害メディアの時代的変化についても調べる。
主な研究者
中村功(なかむら いさお)
学習院大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院社会学研究科社会学(B)専攻博士課程単位取得退学(社会学修士)。松山大学人文学部専任講師、同助教授(社会心理学、マスコミュニケーション論を担当)、東洋大学助教授を経て、現職。災害情報論、メディアコミュニケーション学概論を担当。共著に『災害情報と社会心理』(北樹出版)など。
廣井修(ひろい おさむ)
東京大学文学部心理学科卒業。1975年東京大学新聞研究所助手。1980年東京大学新聞研究所助教授。
遠藤薫(えんどう かおる)
東京大学教養学部基礎科学科卒業。東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。信州大学人文学部人文学科助教授、東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授を経て、学習院大学法学部教授。日本学術会議連携会員。(理論社会学、社会情報学、文化論、社会シミュレーション)
メディア別の長所・短所
放送系メディア(テレビ、ラジオなど)
長所)
頑健性が強く、速報性がある。
短所)
強制性、個別性、検索性に欠ける。ラジオは聴取率に左右される。
通信系メディア(携帯電話・固定電話、インターネット、防災無線など)
長所)
設備面では比較的強い。インターネットは細かい気象情報などの災害因の情報や、行政のホームページを通じた災害広報、電話輻輳時の安否連絡などに適している。携帯電話・固定電話は個別性がある。
短所)
災害時には輻輳の問題がある。インターネットについて、強制性に欠け、停電するとネット接続できないという脆弱性があり、また情報の信頼性の問題がある。防災無線は整備コストが高い。
紙メディア(新聞、ハザードマップなど)
長所)
一覧性、蓄積性、記録性に長ける。
短所)
即効性はない。
口伝え
長所)
避難の際には、直接の説得が効果大きく、臨機応変に対応できる。
短所)
流言が発生する恐れがある。
メディア別の特徴(論者ごとに)
放送系メディア
中村(2007)p110-p111
流される内容としては、災害因に関する情報、被害情報、二次被害防止のための一般的な行動支持情報、生活情報が重要
大災害時には個人の安否情報が放送されてきたが、放送では個別性や検索性に欠けるために、集団の安否情報に絞って伝えるべき
テレビ
中村(2007)p110-p111
被災地外向け←家庭のテレビは停電すると見えなくなってしまう
※最近は携帯電話やカーナビでテレビが見えるようになってきたため、そうした傾向は改められるべき
地上デジタルテレビのデータ放送では郵便番号の単位で情報の提供ができ、テレビで個別的な情報提供をすることも可能になりつつある
遠藤(2012)
ダイナミックなリアルタイム・メディア p38
現代では、だれでもまずテレビから情報を得ようとする p17
報道メディアは、電気や水道とならぶ「ライフライン」である p36
首都圏と被災地では、緊急度や、何が緊急課題であるかは大きく異なる。被災地の中でも違いは大きい。被災地として取り上げられなかった地方でも、被害が大きかった例もある p49
←過度の報道集中による被災地の固定化(「災害の社会心理」から考えるマスメディアの超えるべき課題(特集 【検証】大震災報道の1年)2012関谷直也)
現在衰退がささやかれるローカルメディアにより大きな力を持たせる体制を考えていくことが必要 p49
映像を撮影し、記録し、公表したのは、プロフェッショナルとしてのカメラマンやジャーナリストだけではない(視聴者撮影の使用) p120
「非常時にパニックを起こさないために、大衆は正確な情報だけを信じなければならない」→マスコミは「情報の信頼性に強い自負」→東日本大震災ではすべてが「未曾有」で「想定外」であったために、マスコミも手探り状況→自らの責任において決断を下すしかない→現場から遠ざかるほど、事実との対峙よりも、踏み出すことのためらいのほうが先に立つ→キー局の報道が遅れ、報道しても曖昧な解説ばかり p146
テレビ・ドキュメンタリーの特徴
同時代性の強い表現手法
「客観的事実」ではない
制作者によってフレーミングされた「現実」であり、その時代の社会意識を色濃く反映する
過去のテレビ・ドキュメンタリーは見る人に違和感を覚えさせる
後の時代から見られた過去ではなく、過去から届けられる声としての役割を、時代を超えて果たす
バラエティ・ドキュメンタリーは番組の構成が制作者の視点だけではなく、番組に登場する普通の人々(視聴者)との双方向性を基盤としている→人気得る。視聴者が自分の問題として災害をとらえなおす契機になる可能性も拓く p226-228
ラジオ
中村(2007)p110
被災者向け←トランジスタラジオやカーラジオがある
廣井(1987)
聴取率に左右される→昭和60年から「緊急警報放送システム」実用化
通信系メディア
携帯電話・固定電話
中村(2007)p111
設備面では比較的強い
災害時には輻輳の問題がある
個別性があり、つながりにくいにも関わらず災害時に利用されること多い
伝えようとする主な内容としては、安否情報、119番などへの救助要請、被害情報の収集、ほかの防災機関との連絡(病院と消防など)
重要な通信は固定電話や携帯電話に頼らず、より頑健なメディアを用意する必要がある
インターネット
中村(2007)p112
一つのメディアではなく、メールやウェブ閲覧やIP電話など様々なメディアを支える基底的な技術
細かい気象情報などの災害因の情報や、行政のホームページを通じた災害広報、電話輻輳時の安否連絡などに適する
避難勧告など強制性が必要な情報伝達に向いていない(情報を引き出してくる典型的なプル・メディアであるため)
停電するとネット接続できなくなるという脆弱性あり
情報の信頼性の問題あり(ネット上に災害に関するうわさや誤情報が流れる)
遠藤(2012)
災害時、ネット利用は活発化するp54
安否情報サービスが利用される p54
ソーシャルメディアは、ほかの多様なメディアの媒介となる(マスメディアとソーシャルメディアが相互補完しつつ緊急情報を報道、ソーシャルメディアによりリアルなボランティア活動や復興支援活動を編成) p58
間メディア性(異なるメディアの間を情報が行き来すること) p84
インターネットを通じて多くの人に容易に発信できるため、だれもが報道者となる可能性が大きく開かれている p120
被災者は報道者であり、報道者も被災者であるという状況 p120
関谷(2012)
ソーシャルメディアへの信頼感が高まったわけではない
以下Twitterについて
三浦麻子、鳥海不二夫、小森政嗣、松村直宏、平石界(2016)
不安や恐怖、憎悪など強いネガティブ感情を伴う情報は拡散されやすい
個人の発信レベルでは災害の種類と感情の種類に一定の関連が見られ、また時間経過とともに表出頻度に減衰傾向が見られた
情報共有行動は災害の種類(天災か人災)とは無関係に「不安」が伝播されやすく、時間経過による影響が見られなかった
防災無線
中村(2007)p111-p112
日本独自の防災用の無線システム
頑健性あり
予報警報の伝達、被害情報の収集、避難勧告の伝達に使われる
中央防災行政無線(国―都道府県)、都道府県防災行政無線(都道府県―町村)、市町村防災行政無線(市町村―住民)がある
市町村防災行政無線には移動系(職員同士が連絡を取る)、同報系(屋外拡声器や戸別受信機を通じて一方的に住民に情報伝達する)がある
行政以外も含めた地域内の各防災機関(病院やライフライン会社など)をつなぐ地域防災無線もある
整備コストが高いという問題があり、普及が進んでいない地域もある
紙メディア
新聞
中村(2007)p112
小回りきくため、生活情報や行政施策の伝達に大事なメディア
生活情報の紙面を充実させている
遠藤(2012)
確定情報を記録/記憶するメディア p38
記録性に長ける p38
人々の思いを記憶するための媒体 p39
日本全体を見渡す全国紙(全体をバランスよく報じようとする)、地域の現実に密着したきめ細やかな情報源としての地方紙 p48
地方紙の経済基盤をどのように確保していくかが課題 p49
廣井(1987)
放送に比べて、新聞の災害報道には復旧関連の情報が多い←記録性や詳報性を活用。地方紙にとっては、住民の生活と密接にかかわる復旧関連情報を豊富に提供することはとりわけ重要な意味を持つ
平塚(2000)
表現の誇張→受け手に偏見与える
ハザードマップ
中村(2007)p112
平常時の啓発活動に重要な紙媒体
口伝え
中村(2007)p112-113
流言(ほかの情報源からの情報が欠如している場合に人々の間で作り出される情報)
避難の際には対面した直接の説得が効果大きい
身近な人への信頼、応諾に対する報酬(例 説得に応じた際に説得者が喜んでくれる)、確信を伴わない説得(例納得できなくてもいいからお願いだから逃げてくれ)など、臨機応変な対応が可能
災害メディアの時代的変化
大災害の報道より
・関東大震災(大正12年9月1日)郵便がもっとも普通のコミュニケーション手段だった。電話が普及し始める。被害の全貌を知るほとんど唯一の媒体は新聞→全面途絶
震災彙報の発行(政府の臨時震災救護事務局の情報部が発行。基本的には政府広報。東京、横浜の新聞が全壊したことが発行の理由。地方紙で扱われた流言がほとんど見当たらない)
・室戸台風(昭和9年9月21日)水害前に新聞報道→被害の軽減にあまり役立たなかった。危険を無視する人間の心理が働いたためかも(正常化の偏見)
新聞が活躍
ラジオは普及していた。停電と受信機水没のため聴取不能→自家発電の設置を促進
台風時の観測、予報体制、予報の出し方問題に→台風情報は襲来前に情報を迅速、的確に伝え、災害を未然に防ぐための防災情報へと大きく変わった(『災害情報とメディア』2000平塚千尋 p34より)
・新潟地震(昭和39年6月16日)新潟日報が号外を発行
ラジオとテレビの役割が分化(ラジオは被災地向け、テレビは被災地外向け)←テレビは停電、トランジスタラジオ可能
防災機関としての放送の機能が認識され、「安否情報」が登場
・宮城県沖地震(昭和53年6月12日)新聞や報道など報道機関の活躍目覚ましい
・日本海中部地震(昭和58年5月26日)行政のミスのため、多くの人が津波警報をラジオ、テレビから入手
秋田放送(ラジオ)では、市民からの情報を得る、多くの誤報
(『災害報道と社会心理』1987廣井修)
文献リスト
社会学文献情報データベースより
検索語「災害 報道」
◯087100471 //廣井,脩 (Hiroi,Osamu),1987『災害報道と社会心理』中央経済社. //JPN…富山市立図書館、富山県立図書館、高岡法科大学に有り
検索語「災害 メディア」
◯096010037 //田中,重好 / 村上,大和 (Tanaka,Shigeyoshi / Murakami,Hirokazu),1996「阪神・淡路大震災の間接被災体験 (Indirect Experience of Big Earthquake)」,『地域安全学会論文報告集』6: 299-306,地域安全学会. //JPN…CiniiOpenに有り
メモ…マスコミを通じた災害情報の享受が、災害文化にどう影響しているか考察。
新聞記事の分析により「間接的被災体験」をどう読者に与えたか調査。
現代社会においては、疑似環境(マスコミを媒体として伝えられる二次環境)が人々いとって環境としての十分な機能を果たすまでに至る「疑似環境の環境化」が起こっている(藤竹暁、1985)。
マスコミ情報を媒介とした「被災体験」=間接的被災体験
分析対象データ:朝日新聞青森版(1月18日から3月31日)の見出し文をもとに筆者らが作成したデータベース、および震災関連記事を集めたCD-ROM
被災体験は災害文化(防災意識や行動)、災害対応行動を高める。
新聞記事の内容によって、情報の受け手の行動がどうなるか考察を進めるべき。(筆者の主張)
マスコミ報道による間接的被災体験には制約がある。(体験の偏り、体験が観念的レベル、「中だるみ」「風化」がさらに加速)
伝えられた災害情報によって行動意識になんらかの変化がある。
CiniiArticleより
検索語「災害 メディア」
◯「ソーシャルメディアにおける災害情報の伝播と感情:東日本大震災に際する事例Relationship between Emotion and Diffusion of Disaster Information on Social Media: Case Study on 2011 Tohoku Earthquake」三浦麻子、鳥海不二夫、小森政嗣、松村直宏、平石界 人工知能学会論文誌 31(1), NFC-A_1-9, 2016
The Japanese Society for Artificial Intelligence …なし
メモ…研究の目的:災害に関する人間の心理と情報行動の関連にみられる特徴を抽出すること
東日本大震災発生前後の約20日間に一定数以上リツイートされた災害関連ツイートを対象に調査
分析対象データ:2011年3月5日から24日までにツイッターに投稿された日本語ツイート332,414,837件から、当該期間中に10回以リツイートされたツイート313,198件を抽出。これらのツイートを形態素解析した上で災害関連語辞書と感情語
辞書を適用し、それぞれ辞書中の単語が1つ以上含まれるツイート7,063件を抽出
不安や恐怖、憎悪など強いネガティブ感情を伴う情報は拡散されやすい。
災害時…不安感情は伝播性高める。
災害の種類(天災と人災)による伝播性の違いは見られなかった。
個人の発信レベルでは災害の種類と感情の種類に一定の関連が見られ、また時間経過とともに表出頻度に減衰傾向が見られた。
情報共有行動は災害の種類とは無関係に「不安」が伝播されやすく、時間経過による影響が見られなかった。
⇒災害直後の日本社会が極度に不安レベルの高い状況に「支配」されていた。
◯『「災害報道」もっとこうすれば? : 2015台風・洪水 テレビを検証する』坂本衛 放送レポート (257), 30-35, 2015-11 大月書店 …なし
メモ…災害報道…役所の発表を伝えることだけではない
「情報がない」というのは「問題が生じていない」ということではない
災害時の行動で、正しいことと駄目なことも伝えるべき(筆者の主張)
検索語「災害 報道 心理」
◯「災害の社会心理」から考えるマスメディアの超えるべき課題 (特集 【検証】大震災報道の1年)関谷直也Journalism (263), 42-51, 2012-04 朝日新聞社ジャーナリスト学校 …なし
メモ…震災後のマスメディアへの不信感高まる
「不安」と「善意の気持ち」が高まっているがゆえにコミュニケーション活発化←圧倒的な報道量とインターネットの情報量が増
大する一方、不安感を打ち消すだけの確定的な情報がなかった
⇒流言。エリートパニック(政治家やエリート層が必要以上に心理的に混乱)。クレーム。
ソーシャルメディアへの信頼感が高まったわけではない
過度の報道集中による被災地の固定化
伊藤先生より
◯『メディアは大震災・原発事故をどう語ったか』遠藤薫 東京電機大学出版局
◯『21世紀社会とは何か-「現代社会学」入門』船津衛・山田真茂留・浅川達人編著 恒星社厚生閣
メモ…p153第11章 災害と社会
①社会情報論的アプローチ
*パニック研究…「パニック」とは慌てて避難するだけではなく、規範の崩壊が構成要件となる。
パニックは極めて特殊な環境下でのみ出現する稀な行動傾向
パニック神話(災害時のパニックは稀だとわかっているが、災害下ではパニックが生じるという信念)
*災害情報論…「正常化の偏見」→適切な行動に導くには情報をどのように伝えるか
②組織論的アプローチ
*DRC型…災害研究センター(DRC)中心に行われた災害救援組織の構造、昨日分類に基づく分析。4つの型に分かれる。(確立型、拡大型、拡張型、創発型)
組織論型の特徴:災害救援組織の実態説明と課題発掘を一体的に扱いうる点。
③地域社会論的アプローチ
*災害過程…社会への影響過程。被災地域の特質に依存し、時代によって顕在化する災害の形態も変化。
被災地域社会がもつ種々の特性は重要な論点となる。
*災害下位文化…「個人や組織の災害体験を定位し、防災、減災のための心的対応と適切な行動の生起を計り、組織の機能維持と適応能力の向上を可能にするような地域共有の文化。
地域の住民、組織、行政の準備と対応を導き、災害の影響を吸収したり、脆弱性を露呈したりする。
都市の進展により「災害下位文化」の形成、維持難しくなっている。
災害社会学の構築には社会の多様性へのまなざし、社会の統合原理への洞察が重要である。
◯『災害社会学入門』弘文堂 2007 大矢根敦、浦野正樹、田中敦、吉井博明編著 p.108-113 第4章災害と情報 第2節災害情報とメディア 中村功
〇『災害情報とメディア』リベルタ出版 2000 平塚千尋