高齢者の終活
〈問題意識〉
近年日本では著しく高齢化が進んでいる。65歳以上人口は、昭和25(1950)年には総人口の5%に満たなかったが、45(1970)年に7%を超え、さらに、平成6(1994)年には14%を超えた。高齢化率はその後も上昇を続け、平成29年(2017)年10月1日現在、27.7%に達している(内閣府 平成30年版高齢社会白書)。そんな中、「終活」という言葉が生まれ、終活に関するビジネスや行政の支援も盛んになった。その中でも行政や地域が行うものに注目し、どのような支援が必要とされているのか、実際にどのような取り組みを行っていてどのような成果をあげているのかを明らかにしたい。
〈基礎概念〉
・「終活」 平成21年に週刊朝日が造った言葉で、当初は葬儀や墓などの人生の終焉に向けての事前準備のことだったが、現在では「人生のエンディングを考えることを通じて“自分”を見つめ、“今”をよりよく、自分らしく生きる活動」のことを言う。(一般社団法人終活カウンセラー協会)
終活で行うことは主に次の三つ。「エンディングノートの作成」「生前整理」「生前契約」
・ 「エンディングノート」 遺言書のように法的な拘束力は持たないものの、自分の身にもしものことが起きた時に、遺族に知らせておきたいことや指事しておきたいことを書き残しておくためのノート。具体的には、自分史、個人情報の処理のこと、遺言書や財産に関すること、治療・介護の希望について、葬儀・お墓に関する要望などについて一般的には書く。
・「生前整理」元気なうちに自分自身で身の回りの整理を行うこと。
・「生前契約」あらかじめ自分がはいるお墓を自分で決めておくこと。
〈研究者〉
・木村由香
横浜国立大学大学院 環境情報学府 博士課程後期
社会老年学を専門としている
特定非営利活動法人 シニアライフセラピー研究所 所長、広報支援部編集長
日本傾聴ボランティア研究センター センター長、理事
論文「独居高齢者における終活への取り組みと生活満足度の関連」「マス・メディアにおける終活のとらえかたとその変遷-テキストマイニングによる新聞記事の内容分析-」(どちらも安藤孝敏と共同研究)
https://8card.net/p/ki_ka
・安藤孝敏
横浜国立大学大学院環境情報研究院教授
社会老年学、高齢者心理学、人と動物の関係学を専門としている
著書「改訂・新社会老年学-シニアライフのゆくえ」
https://er-web.ynu.ac.jp/html/ANDO_Takatoshi/ja.html
〈量的データ〉
・内閣府 平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果(概要版)
調査対象:全国の60歳以上の男女6000人
調査方法:郵送配布・郵送回収法
調査期間:平成26年12月4日~12月26日
将来の日常生活への不安
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/sougou/zentai/pdf/s2-1-2.pdf
・公益財団法人 地方経済総合研究所 「終活」に関する意識調査~家族に向けて準備する「終活」とは~
調査対象:熊本県在住の50歳以上の男女
調査機関:2017年4月26日~5月2日
調査方法:調査会社登録モニターへのネット調査
有効回答:620人
終活への関心
終活の実施状況
エンディングノートへの関心
エンディングノートの作成状況
エンディングノートの作成項目
https://www.dik.or.jp/wp-content/uploads/2017/05/p_syukatsu_1.pdf
〈質的データ〉
・エンディングプラン・サポート事業-横須賀市
〈概要〉
現在横須賀市内には1万人を超える一人暮らしの高齢者がおり、増加傾向にある。また、身元がわかっていながら引き取り手がない遺体も年間50体にのぼっている。こうした背景から一人暮らしで身寄りがなく生活にゆとりがない高齢等の市民の方の葬儀・納骨・リビングウィルという課題について、あらかじめ解決を図り、生き生きとした人生を送ってもらうことを目指した事業を実施。
〈対象者〉
原則として、一人暮らしで頼れる身寄りがなく、月収18万円以下・預貯金等が225万円以下程度で、固定資産評価額が500万円以下の不動産しか有しない高齢者等の市民の方。
〈支援内容〉
①終活課題についての相談
葬儀・脳徳について、低額で生前契約を受ける協力葬儀会社の情報を提供。死亡届出人の確保について提案。「わたしの終活登録」事業について案内。
②支援プランの策定の保管
葬儀、納骨について協力葬儀社とともに支援プランを立て、これを保管し、リビングウィルも、希望により任意様式の書面を保管。また、登録カードを携帯してもらい、登録証を室内に提示してもらう。
③終活課題の解決に向けた連携・支援
支援プランに基づいて、安否確認の訪問を行い、本人の入院・入所・志望などの局面ごとに、あらかじめ指定された関係機関・協力事業者・知人の方々などに速やかに連絡し、連携して終活課題の円滑な解決に向けた支援を行う。
〈本事業の予算額(平成30年度)〉
17万3千円 内訳:エンディングプラン・サポート事業 10万3千円 , 新「わたしの終活登録」 7万円
・わたしの終活登録-横須賀市
〈概要〉
近年、本人が倒れた場合や亡くなった場合に、せっかく書いておいた終活ノートの保管場所やお墓の所在地さえわからなくなる事態が起きている。横須賀市ではこうした終活関連情報を生前に登録してもらい、万が一の時、病院・消防・警察・福祉事務所や本人が指定した方に開示し、本人の意思の実現を支援する事業を平成30年5月から開始。
〈登録できる人〉
希望する市民の方なら誰でも登録できる。
〈登録できる内容〉
本人の意思で追加・削除も含め自由に選択できる
①本人の氏名、本籍、住所、生年月日
②緊急連絡先
③支援事業所や終活サークルなどの地域コミュニティー
④かかりつけ医師やアレルギー等
⑤リビングウィルの保管場所・預け先
⑥エンディングノートの保管場所・預け先
⑦臓器提供意思
⑧葬儀や遺品整理の生前契約先
⑨遺言書の保管場所とその場所を開示する対象者の指定
⑩お墓の所在地
⑪本人の自由登録事項
エンディングプラン・サポート事業
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3040/syuukatusien/endingplan-support.html
わたしの終活登録
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/3040/syuukatusien/syuukatutouroku.html
・エンディングサポート(終活支援)事業―千葉市
〈目的〉
安心して最後を迎えられる体制づくりの一つとして、エンディングサポート事業を始めた。
〈事業内容〉
①民間事業者との共同によるエンディングサポートの取り組み
千葉市協働事業提案制度により、民間事業者と協働し、そのノウハウを活かした事業を共同で取り組む。
②総合相談支援の強化
あんしんケアセンターでは、介護・保険・医療などの高齢者に関する悩み、主任ケアマネージャー・社会福祉士・保険氏がそれぞれの専門分野を活かして連携を取りながら対応しており、介護等の相談を通して、高齢者や家族の方等が終活について考える機会となるように働きかけるとともに、不安に思っている将来について相談者と一緒に考える。
③終活に関する小規模講演会の開催
社会福祉協議会地区部会単位など小規模ごとに市民の方々にとって足の運びやすい会場で終活に関する講演会を開催。
④終活に関する検討会の立ち上げ
終活に関する現状の課題を共有し、課題解決に向けた検討を進めるため、終活に関わる医療機関・介護事業者・企業・NPOなどの関係者をメンバーとする終活に関する検討会を立ち上げる。
〈年表〉
〈調査計画〉
富山県内で終活支援を行っている機関(地方公共団体、民間企業)があるかを調べ、どのようなことを行っているのか調査する。
富山県の行政は終活に対してどのように考えているのか調査する。(富山県ではあまり終活をやっているとは思えないので、終活支援を必要だと思っているがまだできていないのか、そもそも終活支援をする必要を感じていないのか)
富山県の高齢者はどのようなことに不安を抱いているのか、どのような支援を必要としているのかなど、高齢者の意識調査を行う。
〈文献リスト〉
検索語:終活
・林真二,2019,「地域特性からみた人々の生活を支援する保健医療の課題」吉田いつこ,堀井利江,永井眞由美,『安田女子大学紀要』(47),301-310
・木村由香,安藤孝敏,2018,「〈論文〉マス・メディアにおける終活のとらえ方とその変遷―テキストマイニングによる新聞記事の内容分析―」『技術マネジメント研究』(17),1-19
検索語:エンディングノート
・谷口聡,2019,「『事前指示書』の普及に対する自治体の取り組み―宮崎市の“エンディングノート”を素材として―」『地域政策研究』21(3),19-39
・小林二三夫,2016,「Gerontologyとしてのエンディングノートの普及―大学発超高齢化社会への対応」伊藤裕久,野口幸子,横山千尋『横浜商科大学紀要』(11),203-224
検索語:エンディングサポート
・山下恵子,2014,「悲しみに温かい地域社会を目指した包括的ライフエンディング・サポート活動」目久田純一,赤沢昌子[他],飯島恵道,山口裕貴『松本短期大学研究紀要』(23),69-75
〈参考URL〉
・一般社団法人終活カウンセラー協会
・横須賀市エンディングプラン・サポート事業
https://www.chiikinogennki.soumu.go.jp/jokyo/kanagawa/14201/2017-0309-1648-1901.html
・千葉市エンディングサポート(終活支援)事業
https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/hokatsucare/endingsupport.html
・一般社団法人エンディングサポート協会
・一般社団法人日本エンディングサポート協会
・富山終活事務所
https://www.toyama-endinglife.com/
・富山終活の窓口
https://www.toyama-syuukatsu.com/
・一般社団法人老活研究所
http://roukatsu.com/
・一般社団法人日本老活支援協会
https://roukatu.jimdo.com/
・「終活」から「老活」へ 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/SDI201801292060.html