☆テーマ:共働き夫婦の家事分担
☆問題意識
共働き夫婦が増えている中、家事のほとんどを妻が行っている。フルタイム共働きの20歳~49歳の男女を対象とした2016年の調査によると家事分担割合は夫10%妻90%という回答が最多となっている(「共働き家庭の家事分担状況調査」)。このことから私は、夫婦2人とも働いているにも関わらずほとんどの家事を妻が行っていることについて男性や女性はそれぞれどのように考えているか、またなぜこのような状況が起こるのかを調べたい。
☆基礎概念
・性別役割分業:性別によって役割や労働が異なること。日本の夫婦間では一般に「夫は仕事、妻は家庭」という分業がある(「性別役割分業ーWikipedia」)。
・セカンド・シフト:直訳すると「第二の仕事」、「二つ目の勤務」という意味になり、働いている人にとっては家事や育児などの家庭内労働を指す。主に共働き女性の忙しさを表している。社会学者のアリー・ホックシールドが1989年に出版した本のタイトルであり、アメリカの共働き世帯における自由時間の夫婦間格差について記述している。1980年代のアメリカでは共働き夫婦の妻が仕事から帰ってきたあとに休む間もなく家事に取りかかるという光景が多く見られた。日本では未だに一般的な光景となっている(大石、2015)。
・アンペイドワーク:収入を伴わない仕事。無報酬労働。主に育児や家事、介護、地域活動などを指す。多くの担い手は女性。反対の意味を示すペイドワークは価格という指標に基づき、仕事と担い手の社会的評価が明確になるが、アンペイドワークはその有用性にも関わらず指標がないため評価されにくい(小林、2010)。
☆研究者
・牧野カツコ
お茶の水女子大学名誉教授。専門分野は生活科学、科学教育、社会学。1996年から2001年まで日本家族社会学会理事を務める。著書は『子育てに不安を感じる親たちへ』(ミネルヴァ書房)、『青少年期の家族と教育』(家政教育社)など。
性別役割分業について「日本では身分秩序維持のために、幕府が儒教思想を広め人々に生まれながらの分を守ることを徹底させた。天ー地、長ー幼、陽ー陰、内ー外、尊ー卑が世の中にあることは自然の理とする朱子学を人々は倫理規範とし、男尊女卑という言葉があるように男性は左、女性は右の言葉に当てはまるとされた。貝原益軒の『和俗童子訓』には、『男子は外を治め女子は内を治む』と書かれており、寺子屋での教育に大きな影響を与えた。明治以降もこの思想は変わっておらず、第二次世界大戦後に男女平等が憲法により宣言されるまで、この考え方は人々に刷り込まれた。また、近代以降の教育でも家庭科、技術などのように、男女で異なる教育内容を受けさせることで、性別役割分業の考え方を国民に根付かせた」と記述している(牧野、2014)。
・松田茂樹
中京大学現代社会学部教授。専門分野は家族社会学。所属学会は日本社会学会、日本家族社会学会、日本人口学会。少子化の研究で有名で、内閣府の委員会にも加わっている。
少子化は結婚や家族の変容、雇用問題、地域社会の変化など様々な背景要因が絡み合ってもたらされているとし、それぞれの関係の一つ一つ解明し、日本に求められる対策を提言する研究活動を行っている。近年、女性の社会進出が多く見られるようになってから、「男は仕事、女は家庭と仕事」という新たな性別役割分業が生じてきたという意見をもっている(松田、2001)。
・久保桂子
千葉大学教育学部教授。専門分野は家族関係学、生活経営学、家族社会学。主な研究課題は仕事と子育ての両立支援に関する研究、共働き夫婦の家事・育児分担に関する研究。2010年から現在まで日本家政学会関東支部副支部長、日本家政学会家族関係学部会委員を務める。
論文では、20代から50代までの子どものいる共働き夫婦(夫婦とも正規雇用労働者、またはフルタイムの派遣社員・契約社員、かつ末子年齢18歳未満の子を持つ核家族世帯)を対象としたアンケートをして、夫婦の家事分担に影響を与える要因を調査した。結論として、フルタイム共働きの場合、妻の収入、夫の通勤・勤務の合計時間が夫の家事分担度に大きく影響する重要な要因としている(久保、2009)。
☆基礎データ(量的)
・男女計の家事・育児時間に占める男性の割合
内閣府(2007年発表)「平成19年版男女共同参画白書」
・夫婦の生活時間
内閣府(2009年発表)「平成21年版男女共同参画白書」
・「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に関する意識の変化
内閣府(2016年発表)「I-3-2図 『夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである』という考え方に関する意識の変化」
・男性の育児休業取得率の推移
内閣府(2015年発表)「I-3-8図 男性の育児休業取得率の推移」
☆基礎データ(質的)
・パパ・ママ育休プラス制度
父親、母親ともに育児休業を取る場合、休業取得期間を延長できる制度。育児介護休業法が2009年に改正されたことでできたもので2010年6月30日から施行された。基本的には育児休業は子が1歳になるまでだが、父親と母親が2人とも育児休業を取る(同時にだけではなく交代で取ることも含む)ことで2ヶ月延長できる。そうすることで取得率の低い男性の育児休業取得、及び男性の育児参加を促そうとしている。また、育児休業は連続した1回の取得が原則であるが、父親が産後8週間以内に育児休暇を取っていた場合、合計して1年を超えない範囲で再度取得することができるようになった。さらに法改正により、専業主婦の夫、または専業主夫の妻を育児休業の対象外とすることが禁止された(「改正育児・介護休業法のあらまし」)。
量的データにある、男性の育児休業取得率を見てみると、民間企業では2010年が1.38%、2011年が2.63%と約2倍、数値が高くなっている(2011年は岩手県、宮城県、福島県を除く全国の結果)。国家公務員では2009年が0.86%、2010年が1.80%と2倍以上、数値が高くなっている(「I-3-8図 男性の育児休業取得率の推移」)。
・NPO法人ファザーリング・ジャパン
「Fathering=父親であることを楽しもう」の理解、浸透を目的とした特定非営利活動法人。2006年設立。
事業内容は、子どもの世話の仕方や遊び方を学ぶワークショップ、育児をする時間を作るために仕事・育児・家事の両立や育休取得などのワークライフバランスの推進セミナー、男性向け料理講座、離乳食講座、父子での家事講座、夫婦で家事をシェアするためのワークショップ、専業・兼業主夫によるロールモデルの発信などがあり、様々な男性向け、夫向けのプロジェクトを行っている(「NPO法人ファザーリング・ジャパン|笑っている父親になろう! 父親の育児・家事・夫婦関係・子育て・働き方を支援します。」)。
☆リサーチクエスチョン
久保(2009)は妻の収入や夫の勤務時間が家事分担に与える大きな要因としていたが、それ以外の要因はないのか、また家事育児分担に関して実際にどのような意見を持っているのかを知りたいため、夫、妻、2つの視点からの主張をインタビューしたい。具体的には、NPO法人ファザーリング・ジャパンで行っているセミナーや講座の参加者(共働き家庭に限定)に「今までの家事育児分担はどのようだったか」「これに参加しようと思ったきっかけ」「参加する前と参加したあとで考え方や行動は変わったか」「夫の家事育児参加を増やすために必要なことはあるか」、そのうち男性には「今までなぜ家事をしてこなかったかorしてきたのか」「妻の評価(どう思っているか)」、女性には「夫の評価(どう思っているか)」「夫への希望(家事育児についてしてもらいたいこと、反対にしてほしくないこと)はあるか」などをインタビューしたい。
また、ファザーリング・ジャパンで活動している人に「なぜ夫の家事育児時間が少ないのか」「夫の家事育児参加を増やすために必要なことは何か」について意見を聞きたい。
☆論文
・乾順子(2014)「既婚男性からみた夫婦の家事分担:家父長制・資本制概念と計量研究の接合」大阪大学大学院人間科学研究科紀要40巻、93-110
・藤田朋子(2016)「共働き夫婦の家事:職務評価ファクターを援用した測定の試み」大阪府立大学女性学研究センター論集23号、109-130
・藤田朋子(2014)「妻の家事負担感と夫の家事遂行 : 記述回答からの分析」大阪府立大学女性学研究センター論集21号、142-161
・久保桂子(2009)「フルタイム共働き夫婦の家事分担と性役割意識」千葉大学教育学部研究紀要57巻、275‐282
・牧野カツコ(2014)「性別役割分業意識は、変えられるか? : 国際比較に見る日本・韓国」Peace and culture6巻1号、25-37
・髙山純子(2016)「共働きの夫の家事役割意識:妻との相互作用に着目して」一般法人日本家政学会家族関係学部会誌35号、47-60
・松田茂樹(2001)「性別役割分業と新・性別役割分業 : 仕事と家事の二重負担(<特集>変容する社会と家族)」哲學106巻、31-57
・大石亜希子(2015)「パネリスト講演 セカンド・シフトを超えて家庭内労働をめぐる諸側面 (第19回厚生政策セミナー 多様化する女性のライフコースと社会保障 : 人口減少社会を支え続ける社会保障の挑戦)」季刊社会保障研究51巻2号、167-173
・小林小津枝(2010)「アンペイドワークの評価とその課題--女子学生の意識調査から見えてくるもの」長野女子短期大学研究紀要12巻、1-13
☆書籍
・永井暁子・松田茂樹(2007)『対等な夫婦は幸せか』勁草書房
・安藤潤(2017)『アイデンティティ経済学と共稼ぎ夫婦の家事労働行動ー理論、実証、政策ー』文眞堂
☆ホームページ
・「共働き家庭の家事分担状況調査」<https://www.macromill.com/honote/20160913/report.html>
・「性別役割分業ーWikipedia」<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%A7%E5%88%A5%E5%BD%B9%E5%89%B2%E5%88%86%E6%A5%AD>
・「平成19年版男女共同参画白書」<http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h19/gaiyou/html/zuhyo/G_13.html>
・「平成21年版男女共同参画白書」<http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h21/zentai/html/zuhyo/zuhyo092.html>
・「I-3-2図 『夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである』という考え方に関する意識の変化」<http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h28/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-02.html>
・「I-3-8図 男性の育児休業取得率の推移」<http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h27/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-08.html>
・「改正育児・介護休業法のあらまし」<http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/dl/tp0701-1o.pdf#search=%27www.mhlw.go.jp%2Ftopics%2F2009%2F07%2Fdl%2Ftp07011o.pdf%27>
・「NPO法人ファザーリング・ジャパン|笑っている父親になろう! 父親の育児・家事・夫婦関係・子育て・働き方を支援します。」<http://fathering.jp/>