居合道で使う刀は真剣、あるいは合金製の模擬刀です。
いずれも購入する場合は、稽古場の先生や練習生に聞いた方が間違いないでしょう。武道具屋さんの多くは剣道・柔道がメインで、居合や刀について詳しくないことがあります。以前は店頭に模擬刀を数振り置いていた時期もありますが、現在は取り寄せになっています。
刀は体格で長さや重さが微妙に違うため、既製品を置いていても滅多に売れません。それに、模擬刀も半オーダーメイド的で選択肢があります。刀の標準寸法は2尺3寸5分・・・これを定寸といいますが、僅か1寸の違いで刀の扱いやすさは極端に変わります。長さや拵えの違いで金額も変化します。
◎模擬刀について
模擬刀でも真剣拵えは100,000円以上なので、初心者は25,000円~40,000円の練習刀で構いません。 安いからといって10,000円くらいの刀は購入しないようにしましょう。これは観光土産の玩具(オモチャ)です。このほか、新聞広告などに「名作!居合刀」などとして掲載されているものも、稽古では使いづらいです。 これらは飾って楽しむもので刀身はアルミダイキャスト、見た目は良いのですが重さは1kgを大きく超え、手持ちバランスも悪く練習には不向きです。
例えば、同田貫(ドウタヌキ)「時代劇に詳しい人なら、子連れ狼の拝一刀(オガミイットウ)の刀か!」は豪壮で格好良いのですが、1.2kg以上もあり、片手で扱うには無理があります。
模擬刀は大半がアルミ合金製、製造法の良いものから「砂型鋳造・金型鋳造・ダイキャスト」です。 ダイキャストは脆いので床に当たって折れる心配があり、刀身が抜けて他の練習生に刺さる事故が懸念されます。
廉価な商品では刀身を固定する柄の「目釘」の品質も問題です。稽古には居合専用で販売している模擬刀を選びましょう。
重さと長さ、バランスは非常に大事なポイントで、少年用は650g程度、初心者・女性用で750~800g、男性では900~950gくらいが一般的です。同じ重さでもバランスで感じ方は大きく変わります。稽古場の先生や経験者に聞いてからの購入が間違いありません。
長さを決めるには色々な方法や計算式がありますが、私は右手で刀の鍔元を握って真下に下げた時、切っ先が床に届くか届かないかの長さをお勧めしています。これで購入すると、最初は刀の抜き差しは厳しいこともありますが、半年くらいで出来るようになります。逆に、初心者が抜き差ししやすい長さで購入すると、いずれ適した長さに買い換えしないといけないケースが起き無駄になります。
男性と女性で身長が同じでも、使う刀の長さは少し違います。
デザインについては制限はありません。好きな刃紋などを調べて慎重に決めましょう。例えば、直刃(スグハ)の刃紋だと、素人では真剣と見分けがつきにくいものもあります。柄巻きの色も何でも良いですが渋めの色合いが好まれます。ただ、白や茶色の柄巻きはあまり見かけません。
私が3段まで愛用した模擬刀です。重さが1050gと重く模擬刀ゆえのバランスの悪さ、それに未熟な腕の使い方で、幾度も肘を痛めました…
有名なメーカーの模擬刀なんですが…
やはり、模擬刀の選択は入門先の先生に相談された方が間違いないと思います。
上の写真は、私がかつて3段まで使用していた2尺5寸(直刃:スグバ)の模擬刀です。1050gもあったため片手での取り回しは重く、知らずに購入すると怪我のもとになり、居合人生が短くなります。
※有名なメーカーの模擬刀で、現在では10万円近くしますが、私はお勧めしません。
これを参考に、居合道日記には真剣写しの最近作った模擬刀のコメントがあります。参考にしてください。今ではネットで簡単に色々な模擬刀を選べますから、探してみるのも楽しみです。なお、メーカー(美濃坂さんなど)は個人値引きはしませんのでご注意下さい。
(私が入門した当時はこのことを知らず、高い買物をしてしまいました)
模擬刀といっても素人には真剣と区別しにくいものもあります。刀袋に入れずに持ち歩くと警察のお世話になるので注意しましょう。※最近、諸事情で公共交通機関(JRなど)では日本刀や類似刀剣の持ち込みが拒否されることがありました。※これに対して、大会参加者は所持理由書を携帯し、指摘があったときはこれを見せて承諾を頂くようになってきています。
◎真剣について
真剣とは古来の製法で鉄を鍛えた日本刀を指します。ただし、居合で使う日本刀は美術品としての日本刀に比べ、重ね(厚さ)は薄く(軽く)、手持ちのバランスも振りやすいように造られています。そのため、美術刀剣に詳しい方は「日本刀ではない」と言い、刀匠にも「居合刀は作刀しない」とする方がいらっしゃるようです。
確かに言わんとすることは判りますが、日本刀も時代や目的で形は変化していますし、目的が変われば道具も変化するのは自然でしょう。居合で使うと傷つき型崩れしますので、そこに一振り数百万円の美術刀剣は勿体なくて使えません。居合の真剣も刀匠が目標を持って作刀したものであることは間違いないでしょうから、居合用の日本刀作りを厭にならないで欲しいです。こうした日本刀は居合道専門の刀剣商や、各地で開催される競技会の傍らで模擬刀と併せて販売されています。
金額も模擬刀の10~20振分、最近は60~70万円で、美術刀剣の半値とは言え高価なものです。真剣になると長さ・重ね・反り・鍔・はばき・柄巻き・金具類など、大半がオーダーになります。もちろん、刃紋は作刀で一番気になる部分で、中には切っ先の形まで細かく指定する方もいらっしゃるそうです。納期は半年~1年、有名な刀匠ではそれ以上掛かります。
写真は私が現在使用している2尺5寸5分の真剣で、納期は10ヶ月掛かりました。
濃州堂さんで作刀した真剣です。
現在は少し手を加えました
刃紋は濤乱刃(トウランバ)、波のうねりや飛沫を表現しています。拵えの金具(頭金・目貫・縁金・鍔・こじり)は雲龍で統一しています。
ところで、オーダーも限度があります。ある刀匠の方のHPに「極端に細かな指定をされると厭になる」というコメントを見ました。刀匠は職人さんなので自身の作品に高いプライドを持っています。あまり細かな注文を付けるとモチベーションが下がるようです。ある程度以上は刀匠にお任せにした方が良い刀が仕上がる感じがします。
そうは言っても、刃紋は好きなものに決めておきたいですね。乱れ刃(ミダレバ)が好きな人は、直刃(スグハ)では気に入らないでしょうから。
◎いつ真剣を購入するか?・・・
居合道の教本には「真剣を用いる」とありますが、入門時から高額なものはお奨めしません。私の経験からは「3段」になったくらいがその時期かと感じます。3段になるには最速4年で、この期間居合を続けた方は4段・5段へ続く可能性があります。
模擬刀を数年間振って真剣に切り替えた時のバランスの良さ、空気を斬る快感の違いなど新発見があります。初めから真剣を使うより、模擬刀でキチンと抜刀・納刀の練習をした方が怪我も少ないでしょう。家に伝わる日本刀を持っていても、それを居合に使うかどうかは先生に相談した方が良いと思います。
※大分県剣道連盟は5段の受験までは模擬刀の演武を認めています