奈良公園と言えば、シカを連想する方も多いと思います。
では、奈良公園にシカは何頭くらいいると思いますか?
(ア)500頭くらい (イ)800頭くらい (ウ)1000頭くらい (エ)もっと多い
天然記念物でもある奈良のシカ、2025年7月の調査では、頭数は過去最高で1465頭でした(2025/7/17NHKニュース)。
奈良公園のシカ1頭が120gの糞を1日6回すると仮定すると、1400頭では毎日約1トンの糞がまかれる計算になります。これだけ多量の糞が毎日まかれる奈良公園ですが、公園内が糞だらけになってはいません。シカの糞を掃除してくれている生き物がいるためです。
シカの糞を掃除する生き物は虫やキノコなどがいますが、中心的な役割をしているのが「糞虫」と総称されている糞食性コガネムシの仲間です。奈良公園には多種の糞虫が数多く暮らしています。日本で見られる糞虫(約170種類)のうち、40種類が奈良公園で見つかっているそうです。そんな奈良公園は「糞虫の聖地」とも呼ばれています。
奈良公園で見られる糞虫の中で特に大きくてキレイな種類、オオセンチコガネがいます。美しい金属光沢を持った虫で、低山地から山地にかけて広く見られます。地域によって体色の変異が知られていて、奈良公園付近では藍色から藍緑色の個体が多く見られ、ルリセンチコガネという呼称もあります。
左・下の写真は奈良公園での撮影ではありませんが、体長2cm前後のコガネムシで、シカの糞など獣糞によく集まります。
名前の「センチ」はトイレを意味する雪隠(せっちん)からきていて、昔の人はトイレに集まるこの虫を観察していたのでしょう。幼虫も成虫も糞などを食べています。秋に糞の地下に深い穴を掘り、その穴に糞を詰めて産卵します。生まれた幼虫は糞を食べて成長します。
奈良公園の近くに「ならまち糞虫館」という日本で唯一、糞虫に特化した私設の博物館があります。奈良公園だけでなく、世界の糞虫標本が展示された糞虫ギャラリーもあり、一見の価値ありです。
中学時代から糞虫に魅せられた館長さんがおられ、たまに奈良公園でも観察会を催されています。ポスターもお洒落ですね。
英名:Scarab beetle、学名:Scarabaeus typhon 『昆虫記』の著者、フランスの博物学者、ジャン=アンリ・カジミール・ファーブルが研究したとして有名な虫。
センチコガネ類は、ファーブルの『昆虫記』に登場する「糞転がし」と同じ仲間ですが、大きな糞玉を転がすような糞虫は、残念ながら日本にはいません。
標本の下にある細長い水槽は、メスの個体が産卵用に掘った穴で、なんと1m近くもあります。
館長さんに聞いたところ、奈良公園ではごく普通に見られたオオセンチコガネですが、近年あまり見れなくなっているそうです。観光客が増えすぎて公園内の地面が踏み固められたり、シカの増加で植物や腐植が減って林内が乾燥してきていることなどが影響しているのではないかと言うお話でした。
シカの食害や地球温暖化もあり、奈良公園の自然は少しずつ変わっていくのかもしれませんが、「糞虫の聖地」が長く続いてほしいなと思いました。糞虫が減ると、公園内がシカ糞だらけになるだろうし・・・。