投稿日: Jun 01, 2014 12:53:27 AM
今回取り上げるのは、昨冬から19路盤で打ち始めたKAT会員と私との19路盤9子局です。
囲碁は、「手談」とも呼ばれます。これは、対局中に会話を交わさなくても、盤上の一手一手が打ち手の意図や大局観を雄弁に語り、相手の手を意図を理解した上でそれに応じた手を打つことで一局がまるで一遍の対談のように完成するからでしょう。
ただ言葉を交わさないわけですから相手の意図は推測するしかなく、そうすると意図が見えないことや誤解してしまうこともあります。特に対局者の間に棋力差がある場合はそういうことが多いと思います。
そこで今回は、特に白の着手の意図を中心に解説します。
黒2は隅への侵入を防いだ手というよりは、白1を隅でさばかせないための手。下辺が黒の勢力圏である場合には有力。
白3,7に対する黒4,8は「鉄柱」と呼ばれる手で辺でのサバキを封じて攻める厳しい手。
白9の両ガカリに対する黒10は好手。特に6子以上の置碁ではこのように頭を出して他の置き石と有機的に関連するように打つことが重要。
白11は頭を出す(封鎖を避ける)一手だが、単純に出ないで、左辺の石に響かせながら飛び出すことで石を働かせようとしている。
黒12は形が緩んでいる。白11に響くように打って競り合いたい(たとえば白11の左又は上)。
白13は飛び出しただけのように見えるが、左下の封鎖を見ながら白5の逃げ出しを見ている(下辺の黒2子と競り合う)。
黒14は疑問手。せっかく頭を出した黒10がムダ手になる。なぜなら黒10が中央へ向かって頭を出す手である一方、黒14は隅で根拠を持とうという手だからです(一連の手はある方針に従って打たれるものなので、その方針が変わると前の手がムダになってしまうため)。
黒14では黒1と頭を出す一手。以下2と封鎖しようとしても黒9までで立派な根拠を持つ一方、白は7,11によって分断され苦しい。
白17は前譜5の石を動き出そうとする一手ですが、取りにくれば小さく捨てようという手。
黒18は弱気。17の2路左にトンで大きく攻めるべきだった。
白は19,21を利かして23に打ちました。左下隅には手がありますが(変化図2参照)、とにかく黒石が9個多いわけですから、あちらこちらと打って局面を拡大しなければ白は勝てません。
黒24は好手。白25は打ち過ぎ。
左下隅には白2と出を利かしてから4とツケコす手があります。黒4と遮ると6以下12までで黒石が取られます(だから黒7では8に打つことになる)。
この手があるから左下隅は放置できるので、よそへ打てると判断しました。
白25は白1と打つべき。黒が2と分断しにくれば3,5と打ってA,Bを見合いにする。
黒34は35と打てば取れていた(変化図4参照)。
黒40は本手。
白41は両ガカリして局面を拡大を目指した手。
黒42は右上隅と右辺の連絡を目指した手だが消極的。ここは頭を出して白石を分断したい。そうすると白が薄くなるので黒を攻めることができない(まさに「攻撃は最大の防御なり」)。
黒44では43の左に打ってキリ違える一手。
黒34では黒1と打つ一手。以下4まで打っても黒5と跳ね出す手が成立するので黒は捕まらない。
白は47から53を利かしながら白を強化しています。その強化がある程度までされたところで57,59と打って今度は上辺で戦いを起こします。
このように47から53が相手の受けを強要しながら白の強化になっていることに着目してください。具体的には、
47→48:右上隅の黒がいじめられる
49,51→50,52:黒石が取られる
53,55→54,56:右辺の石が死んでしまう
といった具合です。このように防戦一方の手は相手を強くしてしまうのです。
白59のボウシは「富士山」とも呼ばれる置碁でよく出て来る形。これに対して黒は60と受けましたが、これは悪手で頭を出すところ(変化図5参照)。
黒60では黒1とケイマに打って飛び出すところ。白2の押しに対して黒3とコスミツケるのが巧い手。白4には黒5とわざとアキ三角の愚形にするのが良い。これで上辺の黒を止める手はありません。この形は6子以上の置碁でよく出て来るので覚えておくと良いでしょう。
白61は左上隅と左辺を割ることでさらに局面の拡大を目指しています。
黒62は両者の連絡を見る手ですが、4線の石を連絡するのにこの手を打つのは良くない(3線であればよく打たれる)。
白は75までで分断に成功。
黒は84,86と上辺を捨てました。白は77から87までで左上隅を固めて89と打ちます。これは天元の黒1子を攻めながら得を図ろうという一手。
黒90はそれに反発した手。
黒92は小さい。94,96と中央を守った間に、97と右辺の眼を奪いました。これで右辺の大石の生きが心配になってきました。
白101は102のキリを防ぎながら上辺を盛り上げました。
白9で右辺の黒の大石には2眼がありません。
総譜。今回は手どころを紹介するよりも、特に白の着手の狙いを解説することで黒としてどのように打てば良いのかを考えてもらおうと思いました。
最後に23世本因坊栄寿(坂田栄男)の言葉を紹介します。
「...最初はある程度堅実に打ち進めるのが良い。しかしあまり堅実すぎると、いつの間にか石が萎縮してしまうので、上手はそこをつけこんで強く打ってくる。下手は易々ととしてまたヘコむ。こんな風では下手は勝てない。堅実と萎縮とを履き違えてはいけない。(中略)
さて下手が堅く打っている場合、上手のほうでも同様に堅く打っていたのでは間に合わないから、上手は手を抜いて好点にどんどん打ってくる。そうするとどうしても上手に手薄なところが出てくる。場合によっては二カ所も出てくる。そこが下手のつけ目なので、その薄みを狙って反撃に転ずる。(中略)
そのような時期が一局のうちに何度か訪れてくることだけは確かだといえる。」(「坂田の碁2」(坂田栄男著、MYCOM)より)