都市計画制度解説「市街地開発事業とは」

都市計画制度解説

第7講 市街地開発事業

伊達美徳

都市計画教科書「初めて学ぶ都市計画」技術・制度編第7講)

1.市街地開発事業の概要

(1)市街地開発事業とは

新たな市街地をつくる場合や既成市街地を改造する場合には、その計画から実施の事業そして出来上がった施設の維持管理にいたる一連の都市計画が必要となる。その市街地のめざす機能や規模により 、さまざまな事業手法がある。本書現況・展望編第7講の都市再生は、既成市街地の改造にあたる。

都市計画法を構成する土地利用計画、都市施設計画そして市街地開発事業の3種類の中の、市街地開発事業について主に述べる。

都市計画事業としての市街地開発事業は、日本の人口増加に対応して市街地の拡大、産業の近代化に対応する工業用地の確保、あるいは都市災害の復旧のために制度が整えられて 、時代に対応して効果を発揮してきた。

中でも土地区画整理事業は、耕地整理から始まる歴史のある事業手法であり、震災や戦災からの市街地復興に大きな役割を果たした。

市街地開発事業は、市街地の広い範囲で道路や公園、鉄道や河川、敷地や建築物まで含んで整備する面的で総合的まちづくりとなる都市計画事業で 、新市街地の建設あるいは既成市街地の再開発を目的としている。

事業を行う区域を面的に定め、事業主体は自治体、特殊法人、地権者による組合あるいは地権者の合意によって委託された民間事業者などが行うが 、その区域の地権者、住民、営業者等の多数の関係者が事業に参加することになる。

その事業推進には多数の住民等の合意形成、土地建物などの権利関係の調整、計画の練り直しなどに多くの時間と労力がかかるが、地域の状況に対応したまちづくりが 、きめ細かいところまで実現が可能となる。

まちづくりには望ましい手法であるために、それぞれ事業に対応して、その公正な実施方法を法によって制度化し、事業促進のインセンティブとなる優先的公共投資 、税制優遇、国庫補助金支給、低利融資、都市計画規制緩和などの事業支援制度を整えていることが特徴である。

(2)市街地開発事業の背景と現状

1960年代後半からの高度成長期時代には、都市における住宅需要の急速な増大は、都市施設整備を伴わないままに無秩序に住宅も工場も混在する市街地を拡大(スプロール)させたために 、交通渋滞、通勤地獄、生活環境悪化などの都市問題が起こった。

戦後の新しい都市計画法の公布は1968年であったが、その制定のおおきな動機は、都市の無秩序なスプロールの防止であった。

これに対応するための事業的な施策として、計画的な新市街地を効率的に整備する必要が生じ、市街地開発事業の制度が整えられてきた。当初は土地区画整理事業 、工業団地造成事業、新住宅市街地開発事業、市街地再開発事業の4種類であったのが、70年代に大都市での効率的な新市街地形成のために新都市基盤整備事業と住宅街区整備事業が加わった。

特に、新住宅市街地開発事業は、最初の大阪・千里ニュータウンをはじめ東京・多摩ニュータウン、千葉ニュータウン、筑波研究学園都市等の郊外地域における大規模開発にめざましい実績がある。しかし近年は 、住宅需要は量的には収まって、新規大規模開発の時代は過ぎ、この事業は役割を終えたといってよい。

同様に、1972年に加わった新都市基盤整備事業は実績がないままであるし、都市内農地を取り込む手法として1975年に新設した住宅街区整備事業もその実績はわずかである。

工業団地造成事業は、高度成長期に大都市圏で工業用地の急激な需要に対応するために設けられた。昨今では、産業構造の変化や国際化もあって工業用地供給も過剰傾向にあり 、一段落の状況にある。

(3)既成市街地を再生する事業

今や新市街地を形成するよりも、既成市街地の機能更新あるいは阪神淡路震災に見るような都市災害への対応のような、都市の再生が市街地開発事業のメインテーマになりつつある。

土地区画整理事業は、郊外開発に多くの適用をされてきたが、成功事例が多くある一方で、宅地需要増の収束により、事業行き詰まり状況にある例も多い。今後はむしろ都市基盤の整わないままに市街化した地域の再整備や 、災害復旧のような再開発に適用する方向となる。

第二次大戦直後からの日本の都市の復興事業の基本は、ほとんどが木造建築であった市街地を火災に強い不燃都市に改造することにあった。耐火建築促進法(1952)による防火建築帯づくり 、防災建築街区造成法(1961)と市街地改造法による共同建築づくり、そしてそれらの集大成法である都市再開発法(1969)による市街地再開発事業となって今日に来ている。

土地区画整理事業と市街地再開発事業が阪神淡路大震災復興事業に大きな役割を果たしたが、このときに木造住宅が密集して道路などの整わない地域の被災が大きかったことで 、それまでも課題となっていた大都市の密集市街地の再整備が、いまさらながら緊急の大課題として再認識されたのであった。

そこで密集市街地整備の防災に対応する使いやすい制度がもとめられ、密集市街地整備法の改正(2003年)により防災街区整備事業が市街地開発事業のメニューに加わったのである。

以下には、今後の都市再開発において重要と考えられる土地区画整理事業、市街地再開発事業、防災街区整備事業の3つの市街地開発事業についてその制度と技術について述べる。

●都市計画法による市街地開発事業一覧

7・2 土地区画整理事業

(1)土地区画整理事業の目的と施行者

「土地区画整理事業」は、「土地区画整理法」によって、未整備な市街地や市街地となる予定地で、宅地の利用を増進することと、道路や公園等の公共施設の整備をして 、健全な町につくりかえる事業である。

後で述べる市街地再開発事業と違うところは、この事業の中では建物の建設は原則として行わないで、土地のみ(道路、公園、水路、広場、宅地等)を対象とすることである。

土地区画整理事業の施行主体には、地権者、民間事業者、自治体など多様なものがなることができる。一般に民間事業者である個人や組合が行う場合は 、ニュータウンのように土地は広いが権利関係が複雑でない場合である。

既成市街地では都市計画道路や公園等を整備する公共事業があり、多数の関係者の複雑な権利関係の調整が必要なために長期にわたるので、自治体が行うことが多い。

最近では大規模な工場や鉄道操車場の跡地を土地区画整理事業で再整備して都市開発を行う例もある。都心での例としては、すでに歴史もある東京西新宿の新都心地区 、大阪のOBP、横浜のみなとみらい21地区等がある。

(2)土地区画整理事業の流れと仕組み

土地区画整理法には、都市計画決定、事業計画の認可、換地計画の認可、工事、換地処分、清算、完了という事業の手順を事細かに定める。

このように多くの手続きを段階的に必要とするのは、関係権利者の財産を公平かつ適正に扱わなければならないからである。

法律上は都市計画決定から始まるのであるが、実際にはその数年前から調査を行い、関係者との話し合いを相当に煮詰めて、機が熟してから法的な手続きに入る。

●事業の施行者になることができるもの

・個人:土地権利者(所有者、借地権者)が1人又は数人共同。土地権利者の同意を得たもの

・土地区画整理組合:土地権者が7人以上共同して設立する土地区画整理組合

・区画整理会社:土地権者が株主又は社員の区画整理会社

・地方公共団体:市町村 、都道府県

・国土交通大臣:災害発生など早急に施行する必要ある場合

・機構・公社:独立行政法人都市再生機構、住宅供給公社

●事業のプロセス(組合施行の場合)

○準備 ・組合設立準備 ・施行地区の設定

↓・現況測量、権利調査 ・定款、事業計画の作成

↓・同意書の取りまとめ

○組合設立 ・設立認可申請 ・認可および公告(組合成立)

↓・未登記の権利の申告(借地権等)

○総会 ・理事、監事の選出

↓・総会開催(組合の最高議決機関)

↓・総代会開催(必要に応じて設置)

○事業 ・測量(地区界、現況確定その他)

↓・工事の実施設計 ・換地設計

○仮換地 ・総会の同意

↓・仮換地の位置、地積、効力の発生日の決定

○工事 ・建築物等の移転除却(損失の補償)

↓・公共施設の工事 ・宅地の造成、整地工事

○保留地 ・保留地予定地の処分(総会で決定)

○換地計画 ・総会の議決 ・縦覧、意見書の提出

↓・換地計画の認可申請

○換地処分 ・換地計画を関係者に通知

↓・換地処分をした旨の公告

↓・換地処分公告の翌日から町名、地番の変更

○登記 ・法務局に換地処分の公告があった旨を通知

↓・土地等について一括して登記(一般登記閉鎖)

○清算 ・換地計画に基づき清算金の交付、徴収

○解散(終了) ・組合解散の申請

↓・解散の認可、公告 ・組合解散(総会の議決)

↓・事業の清算(清算人、清算事務)

○事業の終結

事業の基本的な仕組みは、ある一定の範囲で施行地区を定めて、その地区内で土地の形や利用の仕方を整理、整頓するのであるが、その方法として土地の交換や入替えを行う。これを「換地」という。

換地は原則として事業の前にあった状況と事業の後の状況とを大幅に変えないようにすることになっているが(換地照応の原則)、時には権利者が話し合って 、以前とは全く変えた新しい街にすることもある。

この換地で道路、公園、宅地(建物を建てることができる土地のこと)を、利用し易い形や規模でつくりかえて環境の良い便利な市街地が

できると、土地の利用価値があがってくる。

ところで、事業の前も後も事業区域の土地の広さは一定であるから、土地区画整理事業の前には無かった道路や公園が事業の後に生れるのはどのような仕組みであろうか。それは道路や公園の用地を施行者(市や県)がその所有者に金銭を支払って買収して確保するとともに 、最も特徴的なことは「減歩」方式である。

土地区画整理事業によって街が良くなり利用価値が増進すると、地区内の権利者は資産価値が上昇して利益を受けたことになる。その受益の範囲内で少しずつ土地を提供し合い 、その土地を集めて道路や公園等の公共施設に充てるのである。この少しずつ提供して元の広さよりも狭くなることを「減歩」という。このとき 、広さは減少しても資産価値は減少しないで、事業の前と後は同価値であることとする。

しかし、全員の権利者が事業の前と後で完全に資産価値が一致するように計画し事業を進めることは至難の技であり、どうしても若干の不公平がでる場合があるし 、大きな道路を通す場合は残りの宅地が狭くなりすぎて減価する場合もある。この場合は、金銭(清算金又は減価補償金)によって調整する。都心部の既成市街地での事業の多くは 、減価補償金を支払うことになる。

この様に土地買収ではなく、住民たちは資産を持ち寄って事業に参画し、道路や公園を整備し、事業後は元からの住民も地区内で新しい良好な環境で住むことができる総合的なまちづくりを行うのである。

(3)土地区画整理事業の事業費

事業を行うには工事費や事務費が必要であるが、これの調達財源は保留地処分金、公共施設管理者負担金及び補助金の3種類からなる。

保留地処分金とは、減歩によって土地を持ち出して道路や公園をつくるほかに、宅地(保留地)もつくり出して、これを第3者に売却して調達する資金である。

公共施設管理者負担金とは、重要な道路や公園等の用地費と築造費相当額であり、国、県、市町村が負担するもので、元は税金である。

補助金も税金であり、事務費や補償費等の各種の費用の一部に充てるようになっている。

これらの財源が大きな金額になればよいが、少ないと事業採算が悪く、なかなか権利者の同意を得られないこととなる。

(4)土地区画整理事業の意義と課題

例えば、ある街に道路や鉄道駅が新しくできるとして、これを単純に土地の買収のみで造るとすれば、たまたまその道路や鉄道用地にかかった土地の者は 、用地買収費を受け取って他に移転するだけで、道路や鉄道ができたことによる価値の増加の恩恵は受けられない。ところが偶然その道路や駅前に接した位置に土地を持っていた者は全く労せずにその恩恵を受けとることになり 、これは社会的に不公平である。

土地区画整理事業は(市街地再開発事業も)その様な不公平を無くし、道路や鉄道の付加価値を地域全体に相応に公平に分配し、負担させようとするものである。この負担は「減歩」に象徴されるが 、減歩率と増進率の比較で減歩があっても増進がさらに有利という権利者のコンセンサスが常に前提となっている。

事業のメリットは、権利者にとっては基本的には現在地を大きく動かずに総合的に良好な環境に変わり、かつ資産価値も上がることである。逆にいえば 、この事業後の資産価値の増進がないと事業が成立しない。

土地区画整理事業はあくまで土地を扱うのであって、建物は権利者等がそれぞれ建てるこになっている。街には土地と建物の両方があって環境が形成されるので 、道路や公園と敷地は整然となっても、建物の形態や機能が地域として不適当ならば街づくりとは言えない。

そこで、計画的な建築誘導の手法として地区計画を、建物建設事業手法として市街地再開発事業等の制度を積極的に併用して、総合的によい環境づくりによって地域の価値の増進を図ろうとするのである。

7・3 市街地再開発事業

(1)市街地再開発事業の目的と施行者

環境が悪い、宅地が細分化している、災害に弱い、道路や公園が足りない等の、都市として問題を抱えている地区で、建物と道路、広場、公園を一体的 、総合的につくりかえて、安全で快適な都市の環境を創造しようとする事業であり、都市再開発法によってその進め方が決められている。

土地区画整理事業と違って、土地の整備に合わせて必ず建築物を建てなければならない。

事業の仕組みとして権利変換方式による第1種事業と、全面買収方式による第2種事業があるが、ここでは第1種事業について述べる。

この事業の最も特徴とするところは、既成市街地の中で土地や建物の権利関係を調整して、新しい建物を建て、道路や公園等を整備して、元の権利を新しい土地建物に形を変えて移す(権利変換)ことである。

事業主体(施行者)になれるものは、重要な道路や公園の整備が伴うときは主に公共団体が施行者になることが多いが、権利者が作る組合(「○○地区市街地再開発組合」と称し 、民間団体であるが公的な法人として扱われる)の事業であることもある。権利者たち本人や権利者から事業委託された個人や会社(個人施行者) 、都市再生機構、住宅供給公社、特定の再開発会社も施行者になることができる。個人施行は都市計画決定をしないで施行もできる場合がある。

(2)事業手続きの流れと仕組み

市街地再開発事業は、土地区画整理事業と同様に都市計画事業として実施される。事業を行う区域と事業の内容(道路、公園、建物等の規模や内容 、位置、形状等)を都市計画で定めて、公共的な事業として適切な都市が公正なる手法によってできることを担保するのである。

法的にはこの都市計画決定によって初めて市街地再開発事業は始まるのであるが、実際はそれよりも数年も前から、調査、計画、話し合い、調整を行う。事業の流れは 、都市計画決定、事業認可、権利変換認可、工事、入居、精算、解散となるが、それぞれに厳密な公開手続きを法に定めている。

●市街地再開発事業地区の要件

○高度利用地区、都市再生特別地区または地区計画、防災街区整備地区計画もしくは沿道地区計画の区域内

○耐火建築物割合が建築面積で全体の約1/3以下、又は耐火建築物敷地面積の割合が宅地面積の約1/3以下

○土地の利用状況が著しく不健全

○土地の高度利用が都市機能の更新に資する

●事業の手続きの流れ

(公共団体施行第一種市街地再開発事業の場合)

○(都市再開発方針の策定)

○高度利用地区又は特定地区計画等の都市計画

○第一種市街地再開発事業に関する都市計画

↓・事業区域,・公共施設配置,・建物整備方針

○公共施設管理者の同意

○事業計画等の決定・同意

↓・事業施行地区 ・公共施設 ・施行期間

↓・再開発ビル設計概要 ・資金計画など

↓(事業計画決定等の公告の日以後30日)

○権利変換計画の決定

↓・従前資産を再開発ビル権利変換

↓・転出補償

○権利変換処分(権利変換期日)

↓・権利変換計画により土地帰属先決定

○工事着手

↓・地や物件の明渡し及び移転

↓・再開発ビルの建築工事

↓・道路・交通広場等公共施設の整備

○工事完了

↓・再開発ビル床の権利変換による所有者帰属

○清算

市街地再開発事業は、再開発事業前の大小様々の土地にある建物類を調査・評価して、それらの権利者と権利額を確定した上で、全面的に取り壊して(記念的・歴史的建造物等を保存する場合もある)整地する。そこに道路や共同建築等を建設整備し 、事業前の権利額や事業後の使い方に対応して、新たな共有土地と共同建物の一部に権利の形を変えて(権利床)移し替える(権利変換)仕組みの事業である。

権利者が事業後に受け取る権利床の規模は、再開発前に持っていた資産と等価とする。事業実施に伴って地区外へ転出する関係権利者に対しては 、土地や建物に関する権利に見合う補償金を施行者が支払う。これらを地区内の権利者、住民、営業者等の希望や意見を調整しながらまとめ、権利変換計画書として作成する。

土地区画整理事業では換地によって新たな土地に移行するが、市街地再開発事業では新たな土地と建物に移行するところに特徴がある。

事業費は、工事費、設計費、事務費、補償費等がかかるが、その調達は、公共施設管理者負担金、国庫補助金及び保留床処分金である。都市計画道路・公園等は公共施設として公共投資による。国庫補助金は 、区画道路や建築物等には共同施設部分の建設費の一部に入るが、それらの建設費の多くは事業主体が調達しなければならない。そこで土地区画整理事業における保留地に相当する保留床を権利床と合わせて建設し 、これを第三者等(権利者法人やデベロッパー等)に売却する保留床処分金によって建設資金を調達する方法が採られる。この保留床確保のために容積率の規制緩和制度もあり 、事業採算工場には補助金のほかに税の減免措置もある。

(3)市街地再開発事業の意義と課題

市街地再開発事業は、土地と建物を合わせて都市計画で整備することで、全国各地の都市中心部において、駅前広場や道路あるいは市民ホール等の公共施設整備とともに商業や居住施設整備で活力向上と環境整備に資する事業であったといえよう。

特に、高度成長期には大規模店舗が保留床を引き受ける事業が各地で行われたが、安定期に入り生産や流通形態の変化もあって、保留床処分で事業費を調達する方式の市街地再開発事業は行き詰まりを見せてきている。

大都市の都心部では住宅需要に支えられてそれなりに市街地再開発事業も可能であるが、地方都市では新規床需要がなくなってきている。また 、事業の仕組み上で規模が巨大になりがちな再開発ビルについては、そのまわりの環境や景観とのギャップの大きさに、社会的な批判にもさらされてきている。

大規模な保留床処分で短期採算型の巨大再開発時代はおわり、地域の実情に応じて権利者たちの力量に応じた身の丈にあった事業を行う方式が模索されている。

いずれにしても市街地再開発事業は、その地域に住み働く人たちが、自分の財産を投じて都市計画事業を行うという、究極の市民参画型まちづくりとも言えるので 、低成長時代にも可能な推進方策の整備が望まれている。

7・4 防災街区整備事業

(1)事業の基本

防災街区整備事業は、密集した市街地で老朽建築物の撤去、建築敷地を共同化して不燃建築へ建て替えをし、道路や公園などの公共施設整備を合わせて行う事業である。

その仕組みは市街地再開発事業を援用しているところが多いが、建物に権利が移行する権利変換ばかりでなく、市街地再開発事業では原則として認めていない土地から土地へ権利変換も可能としている。つまり市街地再開発事業と土地区画整理事業の抱き合わせであり 、密集地区改造のための柔軟な事業手法といえる。

防災街区整備事業を行うことができる区域要件は、特定防災街区整備地区又は防災街区整備地区計画の区域内であるほかは市街地再開発事業と同様である。特定防災街区整備地区とは 、都市計画における地域地区の一つで、密集市街地内の一定の区域について、防火上の構造制限、建築物の敷地面積の最低限度、壁面位置制限 、建築物の間口率の制定限度予備建築物の高さの最低限度等を定めるものである。

防災街区整備地区計画とは、密集市街地内の一定の区域について、整備の方針、防災公共施設の区域、地区施設及び建築物等の整備計画等を都市計画において定めるもの。整備計画においては 、防火上の制限、建築物等の高さの最高限度又は最低限度、建築物の用途の制限、容積率の最高限度又は最低限度、壁面の位置の制限等を定めることができる。

事業主体となる施行者は、市街地再開発事業と同様である。

(2)事業の方法

地区内の権利者たちが事業組合を設立して行うについて、事業を行う手続きは次のように進む。他の施行者の場合も大差はない。

まず、地区内の土地所有者と借地権者の各々2/3以上の方の同意を得て組合を設立する。組合を設立するためには、事業計画や組合の運営ルールである定款を作成する。「組合の設立」 、「事業計画」、「定款」の三つについては、都道府県知事の認可を得ることが必要である。知事は認可を行うにあたって事業計画の内容を縦覧手続きによって公表して意見書を受付ける。ここから防災街区整備事業が正式にスタートする。

続いて「権利変換計画」について同様に、縦覧・意見書受付などの手続きを行った上で、都道府県知事が認可をする。法律に定めた手続きを踏むことにより 、事業全体の流れが明確になり、公正な手続きが確保されることになる。

事業実施区域内にある事業前の土地や建物等の権利を、事業後の土地や建物に置き換えて移行する方法は、市街地再開発事業と同様の権利変換によって行う。敷地面積が一定規模以上ある場合には 、その土地の所有者などの申出により、個別に利用できる土地へ権利変換することができる。権利変換以後も市街地再開発事業と同様である。

事業の円滑な施行を図るため、市街地再開発事業等と同様の助成特例措置を講じている。

本事業は創設されてからまだ日が浅いが、大阪府の寝屋川萱島桜園町地区、東京都の板橋三丁目地区等で認可がされている。

小論は、「初めて学ぶ都市計画」(市ヶ谷出版社 2008年)に掲載した。

参照→都市を再生する(初めて学ぶ都市計画教科書)