湯村温泉:山陰の温泉地は今(2004)

湯村温泉:山陰の温泉地は今

伊達美徳

山陰の温泉地に行ってきました。湯村温泉と聞いて、ぴんときますか。

そう、NHKTVのドラマ「夢千代日記」の舞台となった、但馬の小さな盆地です。そこでまちづくりシンポジウムがあったので、聴衆として参加して一晩泊まってきました。

前の日、その旅館の予約をするために、案内パンフレットの旅館リストの、一番小さなところから電話をかけていきました。

ちょっと話はそれますが、以前に能登の和倉温泉で、大きな老舗旅館(岡田屋)に個人客として泊まったら、団体客と同じ飯を食わされて、まことに往生したことがあります。

だって、部屋にいて次から次へと出てくる宴会料理を一人で食えるもんですか。それも宴会の時間割で出てくるから、途中で退屈するほど時間がかかる。明日はもうやめてくれといっても、また同じことが続いて、もう2度と泊まるもんか、という経験があります。大規模旅館は団体客対応システムが整っていて、簡単には変えられないのでしょう。

というわけで、こんどの湯村では、小さいほうから2番目の旅館に予約が取れて、まあ、ごく普通の宿屋でしたが、お湯だけは立派で二十四時間流し放しの温泉風呂でした。

もっとも、わたしはそれほど風呂を好きじゃありませんが。

夕方から街に出ましたが、よかったのは、家々の前に雪で作った小さな灯篭を出すイベントでした。それぞれの家の人の工夫で、雪だるまの中や竹の中に仕込んだ灯りが、ほのかに道を照らしています。

その明るさというよりも、ほの暗さに感激しました。なんといっても、街の人たちによる手作りの明かりがならぶのに親しみを覚えました。浴衣の観光客たちも、その灯かりを訪ねて、街の中を歩いています。

また、行政の仕事でしょうが、街の中心を流れる川と橋には、石井幹子デザインによるライトアップがされており、明るすぎずに暗さの演出があり、それもなかなに美しいものでした。

山の上に「夢」という巨大文字が灯る広告ネオン看板仕掛けがあって、ライトアップの自慢らしいのですが、これはどうにもいただけませんでした。まさか石井デザインではないでしょう。

次の朝、明るい街を歩きましたが、昔から夜目遠目とはよく言ったもので、昨夜の美しい街はどこに行ったのかという、ごくありふれた温泉町になっていました。

昨夜は灯かりのイベントのせいでしょうか、それなりに大勢の人たちが街を歩いていました。熱海や飯坂温泉の惨状を見てきたものとして、ちょっとだけ救われた気分の温泉地でした。

ここも大規模旅館があるようで、熱海、伊豆、和倉のようなお客囲い込み型経営をしているのかどうかわかりませんが、毎夜、あのように街に人々が出ているのでしょうか、気になっています。 (2004・03・01)