墨田区景観形成計画(序)

小論は、1990年に東京都墨田区からの委託調査「墨田区景観形成計画」(受託はアール・アイ・エーで、伊達が担当)の一部である。

バブル景気による景観破壊が懸念される時代の都市計画政策として、比較的早い時期の景観行政であったといえよう。

当時の景観への考え方は今も通用するし、むしろ重要でさえあるとも考えて、ここに掲載した。(2008年3月 伊達美徳)

パンフレット(1990年)

報告書(1990年)

すみ田風景づくり

「墨田区景観形成計画」

1990年3月

序 景観形成計画策定の背景と目的

1.景観形成計画を策定する背景

(1)背景その1・ハードからソフトに動く社会

景観形成計画東定にあたっての基本的認識として、まず都市社会一般的な背景を見ておくことにする。

①東京の都市計画百年で新しい都市計画の概念が出てきた

ここで「都市」を近代以降の概念としてとらえると、それは先ず働く場として出発し、都市の拡大とともに単に労働の場のみでなく生活の場として考えられるようになった。

そしてこの両面性は、わが国の近代化の中での多くの矛盾をそのままに抱いたまま現代に持込まれてきた。職住の近挨・分離の課題は、土地利用の混合・純化の課題として、近代都市計画の端緒を拓いた「東京市区改正計画」百年を経た現在も解決していない。

もちろん、この百年に多くの都市基盤がつくられ今では世界の経済大国として巨大な社会投資もされてきている。同時に、近代化ゐもたらした利便牲や清潔さの反面、失った遺産も大きいのではないかと、近代都市計画の理念への反省もでている。

②都市の近代化への反省点

都市はそれをそこまで育てた多くの蓄積の上に存在し、これらは簡単には否定できないものだとの基本的視点に立ちながらも、都市近代化への反省は次のようにまとめられよう。

第1には、工学的技術の過信への反省である。ひとつの都市的課題を工学的な技術力で解決したとしても、それが次の課題を呼び込むことになり、またその技術自体も永遠性を持っていない。そこにソウトな技術の可能性あるいは技術以前への問題提起がされている。

第2には、物理的ストックをのみ求めることへの反省である。都市を作ることはハードウェアつくりであることも事実だが、必ずソフトウェアとしてのストソクが必要とされる。

第3には、西欧型の階級社会的な都市像への反省である。明治以来、西欧の都市を形態として模倣することをめざし土地利用と社会構成の純粋化を図ろうとしてきた。しかし、日本的・東洋的な都市にとっての混合・複合のもつ意味の大きさが、見直され始めた。

③総体として快適な都市へ

これらの論点は、ひとり都市景醜だけのレベルの問題ではないが、都市景観に基本的に関わることがらであり、なにゆえに都市景観をとりあげるかの原点となる。

都市社会的にも個人生活のレベルにおいても、豊かさの時代であることが人々の共通の実感として定着し、フローの追及かストックの充実へと視点が移るにつれ、都市空間の公共性への認識が高まってきた。

そして多様な価値観が生まれるとともに、都市空間に対しては人間をとりまく環境として、質的な水準や総体的な快適性が問われ始めている。

(2)背景その2一墨田区らしい街をつくりたい

ここでは、本区の持つ都市構造に立脚して、景観形成計画策定の背景をとらえる。

①都市化の問題

都市としての出発点の江戸期から度重なる災害を克服して、本区のまちづくりは営々と行われてきた。そして大都市東京の中で、働くところ、住むところ、そして憩うところ、という3つの機能が調和する特色ある下町ゾーンを形成してきたのであった。

だが、一方で多くの都市問題を抱えており、地価高騰は地上げ型開発をよぴ、また、老朽化建造物の密集市街地の防災問題解決策として、建替え、マンション化が選択される。

一新された街区は、それまで都市が抱えていた問題を一挙に解決するかに見えるが、それが地域コミュニティへの配慮を欠いたものであるときには、やがて、地縁に支えられてきた地域コミュニティも地域文化をも壊すことにつながる恐れが大きい。

流通構造の変化や人口減少・高齢化は、地域産業の停滞や撤退をもたらしつつある。その跡地の巨大開発が都市構造の変革・ミニ開発の乱立を招き、都市環境問題を引き起こす。

産業が出ていって働く人がいなくなれば街も脹わいが無くなり、若者の少ない街はどこか活気も欠ける。いまや街は生き残り戦略を持たなければならない時代ともいわれる。その戦略として街に魅力を持たせようとする戦術のひとつが景観形成でもある。

②景観を作ることは街を作ること

こうして都市の構造が大きく変りつつある現況の中で、住商工の「混在」から「調和」への誘導、「定住化」、墨田区の「個性を生かす」まちづくりが重要な課題となっている。そのためには、まず、区民がわが街への愛着を持ち、誇りとすることのできるまちづくりを進めることが重要である。

さらに、区のイメージを高めることにより都市の活性化を図ることが今後の都市経営に方向づけられている。また、都市イメージの向上およびそれをより強いインパクトをもって広く伝えることにより、企業誘致や釆街者を呼び込むことも期待できる。こうして産業・文化の活性化および水準の向上を図り、国際化都市への方向性を探ろうとするものである。

都市景観形成とはそのような都市のはたらきが、心にも目にも快適に訴えるものとして構成されることである。

③行政が景観形成に乗り出す

本区内にいろいろな大規模・小規模のプロジェクトが、それぞれに独立して起きる時代となっているが、それらを都市の環填要素として位置づけ、しかも墨田区「らしさ」(アイデンティテイ)の確立の要素として構成することが求められる時代である。

ハード、ソフトの両面に亘り都市の構造が大きく変わる過渡期にあり、都市景観もまた大きく変わろうとしている今、これらを適切に誘導して良好な景観の形成を図るには行政の役割は大きいものとなっているp

それには、本区が作る行政の施設が景観形成の率先的なモデルとなるものであることも認識する必要があり、景観形成計画を策定する重要な背景となっている。

2.景観形成計画の目的と位置づけ

(1)策定の目的

①開発コントロールの基本的指針として

景観形成計画策定の目的の第1は、本区内の多くの開発をコントロールする指針を示すことにある。

巨大開発あるいはミニ開発の計画がめじろ押しであるとき、これらを単一の敷地の単独の施設やイベントとして見るのではなく、総合的な視点から良好な連合体となるように調整を行うべきである。この調整のための区としての基本的な姿勢を示すものとする。

②景観形成に多くの人が参加するために

目的の第2は、良好な景観づくりへの意識の啓蒙である。景観計画はまちづくり計画のソフトとハードとの両面を含むものであり、単に景観ができあがるというものでなく、継続的につくられ、維持・改良されていくものである。

区民全体が景観形成への認識を抱く必要があり、行政内においても同様であり、そのためには、日常的な啓蒙がまず必要とされるが、この計画はその中でも行政と区民へのテキストとなる役割を担う。

そして計画策定過程を通じて行政関係各課が景観計画に参加することは、啓蒙への第1

歩といえよう。

(2)景観形成とその構想・計画の位置づけ

①景観形成への全体像

都市景観の形成は、計画、事業化、維持管理、リニューアルへとサイクルをもってすすむ。

すなわち、景観形成計画から出発して啓蒙を経て、地区別の計画方針と形成手法を選定し、計画に従って設計しこれを事業として実現する。続いて、ヱれらの継続的進行とともに、形成された景観を良好に維持管理するということになる。

これは更に、次のリニューアル段階へと進む。形成された景観は永遠に良好であるとは限らない。それを改善、変更することは必ず生じる。この段階で、あるいはこれより前の段階で、景観形成計画の見直しから始め、再び同じようなサイクルを経ることになる。

この種た景観形成計画は、サイクルの出発点にかならず置かれるものとして位置付けられる。サイクル毎に見直される柔軟な姿勢が必要となろう。

(中略)

第1部 墨田区景観形成基本構想

1.景観形成に対する基本的考え方

(1)景観計画とは“関係の計画”である

景観形成計画における「景観」とは、景色あるいは風景として目で見える物的状況であるとのみ往々にして解されがちだが、それは景観の一面にすぎない。景観とは目に見える景色と同時にそれを支えている生態、人文、経済等の行為・活動と一体のものとして認識する必要がある。

ここでは“良好な景観”とは、

「人間の行為と自然の現象とについて、それぞれの中での関係及び相互の関係を良好に保っているありさま」

を言うこととしたい。

したがって、「景観計画」とはそのような状況を作り出すあるいは保つための計画であり、言わば“関係の計画”である。

(2)景観形成とは“作法秩序”である

このような基本的な立脚点に立つこととしたとき、生態学的な視点を汎用すれば、人と自然あるいは自然と自然の良好な関係についてはある秩序概念を見出しやすい。例えば植物相互の関係では、植物生態学によって埴生秩序が明確にされており、人と自然の関係については複雑ながらも生態環境と言う面での秩序がある。

しかし、人と人との関係に関しては複雑をきわめることになる。そこで「作法秩序」(中村良夫氏)という言葉に示される。公共の資産としての都市空間における調和性と識別性を基本とした秩序が求められるのである。

この「作法」とは、人と人との関係の中で営まれる都市空間が、多様な価値感のもとで常に変転していく都市機能への要請を満たしつつも、都市の生活者にとっての拠り所となり、調和と安寧をもたらす環填を形成することを主眼とするものである。

(3)景観形成計画は“アメニティープラン”である

第1の生態学的立場に続いて、第2の人と人の作法秩序を都市空間にはめこむと、都市景観形成計画は

「都市が育ててきた街の文脈に従いっつ、それぞれの場所の持っている特色(場所牲)を見分けることができる都市空間の実現をめざす方策」となる。

両方の定義を合わせると言わば「アメニティプラン」といえる考え方となり、景観形成は都市のアメニティーを作り出すものであるとすると、単に物を作るというハード面だけでなく、経済文化あるいは生活というソフト面と一体となり進んでいくものである。

2.景観形成の目標

(1)景観形成の目標

①歴史と自然をいかした個性豊かな景観をつくる

本区の特色となっている数多くの特徴ある自然、歴史、文化、街並み、生活等の景観を形作っている資源を、これから動いていく都市空間の中でも十分に生かして、人々の心に描かれる墨田区像をより印象的なものに育てていく。

そこで、本区の特色を明確にするために

ア.本区の中心を表す景観

イ.本区の領域を表す景観

ウ.本区の構造を表す景観

を求め、それらが区民にも来訪者にも、視覚的にも心象風景としても印象深く訴えかけ、人々に共有される都市像を鮮明に描き出す個性豊かな都市景観を形成する。

②区民が世界に誇れる風格ある景観をつくる

本区を訪れた人々がその景観によって感銘を受け、本区に住み働く人々はこの街に根拠地を持つことを誇りに思うような、街の風格と魅力を育てていくために、

ア.地域の文化が身埠に感じられ、活発な文化活動が行われて世界に発信し世界と交流 する場としての街の景観

イ.世界から訪れる人々が、快いもてなしをうけ交流の続く場としての街の景観

ウ.育まれてきた特徴ある文化を生かし継承する場としての街の景観

を求め、術に関わる人々が活動する舞台として都市空間を認識しながら、都市の風格を表す都市景観を形成する。

③生活の場としての親しみとやすらぎのある景観をつくる

歴史・文化と自然的環境によって培われてきた街の特徴を生かしながら、より快適な生活環境を形成していくために、

ア.近隣社会の生活様式を支えてきた街並みと地形の構造を、より安全で親しみある生活の場として生かす街の景観

イ.自然のサイクルである季節や時間を感じさせる緑や水の自然環境を、より快適な都心生活の場に生かす街の景観を求め、「わが街」への愛着を高める都市景観を形成する。

④暮しの場と働く場が融和する生き生きとした景観をつくる

暮しの場と一体となって街の発展を支えてきた特徴ある産業を、街の個性と活力を育む源動力として、都市景観に生かすために、

ア.街の個性を守り育てつつ活気を生みだしてきた、働く場(商業、工業)と暮しの 場とが調和した街の景観

イ.伝紘を生かしつつ新しい時代に対応するしなやかさを兼ね備えた産業の場が都市 活動のダイナミックな魅力をつくりだす街の景観

ウ.本区の街を訪れる人々が、街を歩き人に出会う時、快さと活気を感じ、この街に 住み働くことを望むような街の景観

を求め、住商工の調和する生き生きとした都市の活動を生かして都市景観を形成する。

(2)景観形成のテーマ

①“旗じるし”としてのテーマの必要性

景観形成を進めるにあたっては、その計画を策定することから始まって、各種の整備事業での景観形成の推進、そして作られたあるいは保たれている景観の維持管理から、更にその再整備(リニューアル)に至るまで、数多くのプロセスを経ていくため、区民、行政、企業等の様々な立場の人々がこれに関わり参画することとなる。

このように多くのプロセスと多くの人々が関わるために、景観形成への共通の認識を持つことが必要になる。そのためにはまず共通の立脚点にたたせる“旗じるし”ともいうべき「テーマ」がほしい。その旗じるしの下に、墨田区の景観形成へスクラムを組んで取組むのである。

②テーマヘのアプローチ

景観形成の目標設定には、日常の場を快適にする景観形成という、働き暮らす生活者の側からのいわば内向きの視点と、墨田区のアイデンティティを高める景観形成という、区民全体からのいわば表向きの視点とがある。

定住社会としての居心地の良さを求める内向きの視点の上に、それを区外にも誇りとするに足る普遍性を持つものとして価値を重ねるのが外向きの視点である。

後に述べるように、景観形成の基本的な考えかたは、本区の特色を最大に生かしながらも新しい時代への都市のあり方を表現する景観を形成することである。

テーマは、こめような二つの大きな視点からアプローチして、それを簡潔に分り易くフレーズとしてまとめ、これからの本区の景観形成の標語としようとするものである。

③テーマ<その1>「ふるさとは街」

内向きの視点を「ふるさと」というキーワードにより表現すると、定住社会としての都市が見えてくる。

一般に故郷という言葉は、都会との対照となる言葉として表される。それはわが国の近代化の中で地方と中央という関係から成立した概念であるが、本区の場合は江戸時代初期からの定住社会があり、この「街」が故郷であり中央であったのである。

ここではもともと“ふるさとが街”であったので、都市化現象が後から追いかけて来たのである。この街をふるさととして住み働く立場を、「ふるさとは街」と表現することとする。

④テーマ<その2>「街はミュージアム」

内向きの「ふるさと」に重ねて、表向きの視点を「ミュージアム」というキーワードで表現すると、生き生きした個性のある街が普遍性を持って見えてくる。

「ミュージアム」とは、美術館と訳されることが多いが、元の意味には美術館もあれば博物館、科学技術館も含んでいる。つまりあるコンセプトで、ある一群の事物をまとまりとして展示する場である。ここで特定のコンセプトが与えられることが重要であり、それがないと単なる事物の羅列であってミュージアムではないのである。

河川、史跡、街並み、道等の本区の持っている特色ある景観要素群を、コンセプトを持って再編成しながら個性を生かすように新しい創造を取り込んで、街をミュージアムとするのである。美術館を建てることを意味するのではなく、街そのものをミュージアムにするのである。

その街が個別に、あるいは本区が全体として抱いているミュージアムのコンセプトが、街をふるさととして働き暮らしている区民がわが街を誇りとする源泉となり、その表現の結果として日常の街を美術館や博物館として鑑賞の対象にするというような表向きの額づくりとなる。ただし単に表向きの額づくりとしてのみとらえるのでなく、その観賞にたえ得る風景が身近になることで快適なふるさとの景観が形成されるのである。

(3)「すみだ風景づくり」

本計画は「墨田区景観形成計画」であるが、テーマフレーズと抱き合わせるときあまりにも堅いので、「すみだ風景づくり」と称することとしたい。景観よりも風景のほうがなじみやすい言葉である。

社会学者の内田芳明氏によれば、『「風景」とは都市や建物や樹木や原野に人が出会うとき、それらは一つの諸連関と構造を持った生きた全体であり、個体であって、歴史的・文化的人間の生と、自然的・風土的生との一つの総合、一つの結合として生命的構造関連を持つ生きた全体の現象である』という(「風景の現象学」1985)。しかも『「風情」をもった「情景」である「風景」は、間に「情」を隠し持っていて、見事に人間の生きた心の投影した現象である』とされ、これは初めに述べた景観が単に目で見える事物のこと

3.景観形成の基本方針一設定の考え方-

(1)基本方針の設定

景観形成の4つの目標をうけて、本区の都市景観形成は墨田区独自の街らしさ(アイデンティテイ)を高めるものとしていくことが基本的な立脚点となり、そのためには、本区固有の資源を都市の個性をつくりあげる役割を担う要素として見直し、生かしていくことが重要である。

都市の個性をつくりあげる資源には、建築物・工作物や地形等の、都市空間を構成しているハードな要素とともに、都市で展開されている様々な活動やこれに関わるソフトな要素、広い意味での地域文化等も含まれている。また、地域の歴史の中で育まれ親しまれてきたものと、今後新たに育成されつつあるものとを新旧にわたってとらえ、広く知られているものとともに、潜在している要素を発掘することも大切である。

本区には特徴的な魅力ある景観資源が豊富にあり、都市景観形成においてはまずこれらのもつ魅力を再認識するととともに、日棲へ向けてこれらをより効果的に生かすことが基本的かつ重要な視点である。

そこで本区の都市景観を、様々な価値観を持つ多くの主体が関わりながら形成していく上で最も基本的な共通の理解を促す役割を果たすものとして、次の5つの柱からなる「墨田区景観形成の基本方針」を設定した。

●墨田区景観形成の基本方針

一資源を生かす景観形成-

①都市的自然を生かす

②文化・芸術を生かす

③街の骨格を生かす

④人間味ある地域景観を生かす

⑤景観相互の関係を生かす

(2)基本方針5項目の概要

①都市的自然を生かす

水や緑に代表される自然資源については、人間のつくった環填と生態的環境とが適切に共生した自然環填という視点が必要であり、それについてここでは「都市的自然」という言葉を用いている。

「都市的自然」資源が都市景観の魅力をどのような面で高めているかについて、その高い価値を示すとともに、都市景観形成にこれをどのように生かしていくかの方向性を示した。

②文化・芸術を生かす

多様な都市活動のありさまはそのものが都市景観としてとらえられるが、それが普遍性あるいは型を持つようになるまで成熟すると、地域文化と呼ばれるものとなり、より親しみやすい地域景観が形成されてくる。

本区では江戸期以来、多くの優れた文化芸術が育まれ、伝統芸能や地名などに継承されている。また、現在は埋もれ忘れられがちな様々な由緒等も、歴更ある街の都市空間の文脈を見失わずに親しみある景観を継承していくために欠かせない重要な要素である。

一方で本区は東京都心都に近い立地にあり、今後ますます、より高度な都市機能の集中とともに、より新しく質の高い文化・芸術・情報の発信地としての役割が期待されている。 こうしたことから、地域の歴史牲と新たな文化牲とが調和する本区独自の「文化・芸術」を生かしながら、景観形成をはかるための考え方を示した。

③街の骨格を生かす

都市骨格動線・交通結節点等の、中枢的な流通機能を担う施設あるいは都市拠点やその周辺では、高度な機能の集中が優先されがちであるため、例えば歩行者にとってのゆとりや居心地の良さ等といったヒューマンスケールな視点を重視しての環境形成は難しい場合も多い。

しかし、こうした空間こそが街の頻となり、また多くの区民の日常生活に身近な場、地域コミュニティの交流の場でもあり、これにふさわしい景観形成に重点的に取り組んでいくことが求められる場所である。

このほか、河川に周璃を囲まれた本区では、橋が区への玄関口として景観形成の要所として取り上げられ、さらに、景観形成に大きなインパクトを持つ要素として、本区に多く立地する工場・集合住宅等の大規模施設が上げられる。

こうした、都市の骨格を構成する要素に関して、都市景観への配慮をどの様に取り入れていくかについての方向性を示した。

④人間味ある地域景観を生かす

巨大都市の多くの街が昼夜の人口バランスを欠き、人の住まない、あるいは夜間にのみ人が戻ってくる街となっているのに対し、本区では住商工が混在し職住一体の街がつくられ、商店街やまちなか工場の作業光景も住み働く街のなじみある景観を形成している。

また、高密度に密集し空間のゆとりのないことから路地も生活空間として活用され、現在の都市居住では得難い親しい近隣コミュニティが形成されている。

しかしこうした市街地は特に防災面では様々な課題を残しており、防災街づくりによる街区整備・改良が徐々に進められている。

また、白嶺防災拠点に象徴される高層化・敷地集約化の傾向もさらに速度を増している他、大規模敷地の跡地活用も促進されている。

こうした面整備や大規模な建設を伴う整備は都市景勧を一変させるが、その際、本区全域に亘って青まれてきた住み働く街の活力や培われてきた地域コミュニティを継承し、また、南北地域を特色付ける個性的な地域景観を継承しつつ、新たな都市整備を進め環境向上を図るための基本的な考え方を示した。

⑤景観相互の関係を生かす

都市空間をかたちづくる請書素は、必ず相互に空間的・時間的な連続牲を持っており、時間的な背景や周辺空間と無関係に独立して存在しているものはない。都市景観が、そこに住み、あるいは訪れる人々にとって親しみやすい環墳をつくるものとなるためには、こうした都市の空間的・時間的な秩序が形成され、その都市空間の持つ独自の「物語」が読み取れるように表現されて、いわば街から人に対しての語りかけのあることが重要である。

また、単独では魅カに乏しい資源も連携することにより重要な位置を得ることができ、景観資源の個々の魅力を高め、奥行きのある旬柿景観を形成することになるのである。

こうしたことから、立地に関わる関連づけを「空間的な関係」、地域の成り立ちに関わる歴史的背景を「時間的関係」として整理し、本区に生きているあるいは残っている忘れられキ資源を再生して生かし、また、資源を連携して都市の回遊を促すための基本的な方向牲を示した。

(以下略)