歩道橋は素晴らしい

横断歩道橋は素晴らしい

伊達美徳

●横断歩道橋は安全安心社会を実現する

昇り降りが大変な歩道橋ですが、見方を変えるとこれは足腰を鍛えるために、自動車社会から人間へのありがたい贈りものですね。

健康のために一日一万歩は歩きましょうなんて時代に、毎日これを昇り降りして買い物やら通勤通学していると、老後への健康が保証されるのです。アスレティッククラブで走らない自転車こいだり、ベルトコンベアーの上を走ってるより、はるかに経済的です。

われらが税金の投資効果はここにも現れます。健康な老人が増えると、高齢者介護や保健の問題も解決します。

もちろん、横断歩道無視の車に轢かれなくてよくなるので、交通事故がなくなります。

大災害があって、道は燃える自動車にふさがれたとしても、横断歩道橋をわたって避難することもできます。

安全安心社会は横断歩道橋から、ということになりそうです。

●横断歩道橋は都市景観に個性をもたらす

何でもないストリートの風景を、横断歩道橋はひきしめています。単調な人どおりのない田んぼの中の道にかかっていると、特にいいですね。

街の入り口に建っていると、ゲート役割をします。橋桁に街の名前や案内が書いてあり、ここがどこかよくわかります。

でかい横断幕がかかっていて、上手な字で「呑んだら乗るな、、」なんて、ありがたい交通安全標語が書いてあったりして、その歩道橋も横断幕も風雨にさらされて、さびやらほころびやらでエイジングがゆきとどいたりしていると、そのまちの風格がよく見えてきます。

歩道橋の上に登ると、ちょっと違った風景が見えて、あらたな都市を眺める視点場を提供します。鎌倉の若宮大路の八幡宮の「一の鳥居」と「二の鳥居」との間にある横断歩道橋の上から眺めまわすと、この都市の歴史的な風土の構成ををひとめで理解することができます。

これも鎌倉のもっとも重要な歴史軸である若宮大路の上にかかっているからこそ、それがよくわかるのです。他の場所じゃだめで、うまいところを選んだものだと、道路事業者の眼のつけどころに敬服します。

ところでその位置からして、この橋にこそ「二の鳥居」の名前をあげて、今の「二の鳥居」と「三の鳥居」は、順送りに三、四と変えるべきでしょう。

道路でお祭りやら暴走族のイベントがあると、横断歩道橋は格好の高見の見物席になります。街の活性化の重要な仕掛けです。

横断歩道橋は、その街の都会度・田舎度をはかるバロメーターになります。もちろん橋の数がおおいほど都会であり、横断歩道橋がうちの街の田んぼ道にもついて、都会度が1ポイントあがった、なんて喜ぶようになるのです。

こうして横断歩道橋は、都市と田舎論をめぐる都市民俗学の研究にも今や影響をもたらしつつあります。

●横断歩道橋は日本経済に活力をもたらす

交差点という交差点には、すべて横断歩道橋をかけましょう。いや交差点ばかりか、とにかく車道を横断するところはすべて横断歩道橋をかけるように、道路法を改正を提案します。

こうすれば公共投資が全国に波及します。用地買収しなくてもよいし、するとしてもそれほど大規模な用地が要るわけじゃないので、やりやすい。しかも地方の中小建設業でもできますね。

今、横断歩道のあるところだって、設置すればよいのです。現にそういうところがあちこちにあります。誰も渡らないけど厳然とかかる橋、これを純粋歩道橋(赤瀬川原平さん流に)といいます。でも、公共投資でうるおっている人々もいるのです。

また、車椅子のために新しいエレベーターやらアプト式エスカレータとか、技術革新をもたらします。

車椅子ばかりじゃなく、自転車、乳母車、老人手押し車、子供三輪車、リヤカー、大八車など、どんどん横断歩道橋システムを開発しましょう。

外国にもそのうちに横断歩道橋を輸出する時代がくるでしょうから、世界に追随をゆるさない横断歩道橋先進国日本は、たとえばタイ向けには象の渡るシステムを今から開発しておくとよいでしょう。

この不況下の日本で、建設業にもメーカーにも活気をもたらすのが横断歩道橋、まことにけっこうなしろものです。

いっぽうで、横断歩道橋の大普及につれて横断歩道がなくなっていけば、道路の自動車渋滞がなくなって、経済への波及効果は大きいでしょう。

歩行者だって、どこでも横断歩道橋を渡ることができるようになれば、信号待ち時間がなくなるので、約束に遅れて商談に失敗することだってなくなり、まことにありがたいことです。

こうして横断歩道橋の及ぼす経済波及効果は、某M菱N村総研シンクタンクの計算によると800兆円とか。(完 990610 まち2ネット投稿)

*参考文献「横断歩道橋の文化経済学」(未来出版)ほか

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小論は、横断歩道橋への皮肉のつもりで書いたのだが、時に、真正面からお読みいただく方があって、投資効果(うそ800兆円)の根拠や参考文献を照会をされることがあって困惑した。当方の文才の至らなさを、お許しいただきたい。(020616追記)