国土形成計画2007を読む

●国土形成計画2007を読む

伊達美徳

(2008年3月1日)

・全国総合開発から国土形成計画へ

「全国総合開発計画」(通称「全総」)なるものが1962年に最初につくられ、その後2次、3次、4次と改訂されて、1998年の第5次まで策定された。日本全国の国土をどのように構成するかという国家レベルの計画である。

第2次大戦中の「国土防衛策」をその端緒に持つものであるが、戦後のいろいろな復興政策を総合的にまとめて、経済高度成長政策に国土利用策として乗せたのが最初の「一全総」であるといえる。

1969年に策定した「二全総」は、いわゆる70年代の列島改造を推し進める政策となった。1977年の「三全総」は、列島改造の反省から田園国家構想を打ち出して地方定住圏を唱えたがうまく行かず、87年に「四全総」が出されたが、バブル経済とそのパンクでその後始末が大きな課題となったのであった。「五全総」は1998年に定められたが、低成長時代となってそれまでの開発指向型よりも理念型になった。こうして、戦後からの復興成長のための開発政策としての総合計画は既に終わったのであった。

そこで衣替えしたというか、新にというか「国土形成計画」なるものを策定することになったのである。2008年2月に「国土形成計画(全国計画)(案)」が、国から発表された。これから閣議決定するのだが、高速道路問題が国会で引っかかっているそうだ。

http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/soukei/0802toushin/0802keiseidraft.pdf

・国土形成計画の柱

国土形成計画(全国計画)(案)」を読んで見た。「国土」の「形成」であるから多分に則地的な計画といえるのだろうか、経済計画はないのである。経済計画のことはよく分からないが、それがなくても国土の形成について計画できるものだろうかと、気にはなる。それで思い出すのは、都市計画マスタープランをいくつかやっていた頃、その都市の産業計画マスタープランがないままにやってよいのかと、いつも気になっていた。

国土形成計画には4つの柱がある。

①人口減少が国の衰退につながらない国土づくり

②東アジアの中での書く地域の独自性の発揮

③地域づくりに向けた地域力の結集

④多様で自立的な広域ブロックからなる国土

このうち私が最も興味のあるのは、①の人口減少の進行において国土の構成をどうとらえるのかということであるが、これは読んだ感想を後に述べる。②についてはグローバルな時代を東アジアと日本の中の各地域との関係でとらえようとしていることが特徴的である。

③は要するに『新しい公共』とまちづくりにおいてこの10年くらいいわれてきたことを、「新しい公」と言い換えて記述しているのであり、現場での動きをようやく国レベルでも認識したのかという感じで、記述したことをそれなりに評価するが、いまさら感もある。④は要するに道州制への布石であろう。

全国総合開発法から国土形成法に根拠法が変ったから、法的にはこれまでの全総の改訂とは言わないにしても、全国計画としては「人口減少」を真正面に据えたことが大きな特徴である。

まちづくりの現場からのわたしとしては、人口減少がどのように国土の構成に影響をもたらし、どう政策的展開をするのかが最も興味のあることなので、「人口減少」をPCで用語検索して、特にその周辺を読んだのである。

結論から言えば、「人口が減るから居住圏域をまとめろ」なのか、「人口が減るから広域生活圏を構成しろ」なのか、どちらも書いてあって政策の基本方向が分からなかった。

・人口減少と人口移転

これからすすむ人口減少は、超高齢化とあいまった現象であり、それは人口移転(交通による移動と混同しないようにここでは移転という)を促進する。

すでに20年以上前から「呼び寄せ老人」といわれて、後期高齢者が首都圏に居住地を移転する傾向が現れている。それは、都会に移った息子たちが、高齢化した田舎の親を呼び寄せる現象である。超高齢化すると家族・家庭を維持できなくなるからである。

また人口減少は、地域社会を維持できなくなることは、過疎現象としてこれも20年以上も前から起きていることである。維持できなくなったところから、維持できる地域へと人口移転が起きる。過疎地の集落の消滅は、住民が高齢化して死ぬからではなく、他への移転が著しくなって消えるのである。

国土形成計画においてこの人口移転をどうとらえているか興味を持って読んだが、実はどこにも書いてないのである。

人口減少と人口配置の偏在が起きることは都道府県レベルでのトレンド予測してあるのだが、人口移転率が今後の人口減少と高齢化の進行でどのようにシフトするのかにつては検討がなくて、計画には込められていないのであるが、それでよいのだろうか。

ある地域で人口やその密度や年齢がある一定の値を過ぎると、急速に移転率が上がるように思うのである。集落が消えるときに消滅の道を行くのは直線的ではなく、あるところから急カーブになるはずである。わたしは学者ではないからこれを実証することはできないが、誰か研究していそうなものである。

かつて高度成長時代に都市への人口移転に対応して、公営、公団、公社という社会的な政策として居住及び居住地政策を進めたことがあった。これからは特に高齢者移転が多い時代となると、新たな居住及び居住地政策が重要な課題となるはずであるが、国土形成計画にはこれについては何も触れていないのである。

・人口減少と都市や地域の縮退

人口減少について国土形勢計画では基本的課題を次のようにとらえている。

「人口減少、高齢化にともない、地域の活力低下や高齢者単独世帯の増加、人口規模が縮小する中での豊かさの維持、労働力人口減少下における財やサービスの供給主体の確保、さらにはこれらを支えていく地方公共団体の財政状況の悪化など多方面にわたる課題が考えられる。政府として総合的な少子化対策に取り組む一方、総人口の減少は避けられないとから、本計画では、人口の減少等を前提として各種の課題にこたえていく必要がある」(第1部第1章第1節(1))

「本格的な人口減少社会の到来、東アジア各地域の経済成長等、経済社会情勢が大転換し、各地域がグローバル化に直面する中で、人口減少を克服する新たな成長戦略の構築が求められている」(第1部第1章第3節(1))

人口減少を前提としたうえで「人口減少を克服する新たな成長戦略」とは、いったいなんであろうか。

まず都市の集約、つまりコンパクトシティ化(この言葉は国土形成計画では使っていないが)を図るとしている。

「無秩序な拡散型から暮らしやすい集約型へ都市構造を転換することが地域により合理的と判断される場合には、円滑で機動的な都市交通体系の構築と、中心市街地に都市機能を集積する取組を重点的に支援するとともに、既存ストックを活用した集約化を進めていく。さらに、郊外における開発の抑制や都市内の低未利用地の有効利用に加え、市街地の縮退への対応と自然・田園環境再生など、都市と相互補完的な関係にある都市周辺の農山漁村も含めた広域的な土地利用のあり方について検討していく」(第1部第3章第2節)

「都市や農山漁村を含む国土における「生活の場」である生活圏域の中で、様々な生活支援機能や都市機能を維持増進していくことが必要である」(第2部第1章第2節)

ここで集約化、郊外開発抑制、市街地縮退、自然・田園再生、都市と農村の広域的土地利用計画などが重要なキイワードである。市街地をコンパクトにまとめて、そのほかは自然や田園に戻すことと、市街地と農山漁村を総合的に計画するということである。

これらの記述は、つまり人口移転を促すことになるのであるが、それについてはどこにも触れていない。このことは居住の自由について憲法22条に抵触するからだろうか。強制移転をさせるのではなく、選択の方向を政策として示すことであるから、憲法に抵触はしないだろうとわたしは思うのだが、。

なお、「二地域居住」として都会と田舎に2つの暮らしの場を設けるという意味での人口の半分移転についてはかなり熱心に記述しているが、わたしにはどうも人口のダブルカウントで、人口減少地域への彌縫策に思えるのである。ないよりあるほうがよいが、本質的な移転居住・居住地政策とは思えないのである。

私は「二地域居住」政策は、都会人を田舎に暮らさせるよりも、田舎人を都会に暮らさせる政策のほうが必要と考えている。それは、現在のように高齢化してから医療や介護問題でしかたなくなれない都会暮らしを始めるよりも、若いうちから都会と二地域居住していれば、高齢化移転も円滑に行くと思うのである。

生活コストがかかっても広域に住むことを社会として保証する政策か、集約することで便利でコスト削減となる生活圏を構成し、広域に住むにはそのコストは自己負担とする政策か。わたしは明らかに後者であるべきと思うのだ。市街地縮退、自然・田園再生はあるべき方向と思う。

・人口減少と広域生活圏

地域の規模や施設の配置情況により、「各地域がその実態に応じて地域交通網の再編や都市計画制度の活用などにより暮らしやすい生活圏域の形成を図っていく」(第2部第1章第2節)として、交通に関してはかなり詳細な記述が登場する。

地域交通・情報通信体系の構築に関する記述では、生活圏が広域化するとの記述が出てきて、だからその間を結ぶ交通や情報システムを整備せよ、となるのである。

先に人口減少化では生活圏を集約する方向の記述とは、どこでどう関係するのだろうか。矛盾しているような感がある。人口減少。高齢社会だからこそ、病院につながるように道路や電車ををつくれという論理だろうか。

「人口減少下で広域化が進む地域の生活圏において都市的サービスを確保するために必要な交通需要への対応や、高齢者等移動制約者のモビリティ及び医療等緊急輸送手段の確保、今後ますます維持に困難がともなうものと予想される地域公共交通の再生・活性化等、各地域の課題や実情を踏まえた多様な主体の連携による質の高い公共交通手段の経営に向けた取組が求められる」(第2部第4章第3節)

「都市圏等の規模や構造に適切に対応し、人口減少の時代においても持続的な経営の可能な公共交通手段を確保するために、総合的な交通施策の戦略的な推進により、地下鉄、LRT、モノレール、新交通システム、バス等の様々な交通手段を適切に選択し組み合わせ整備するとともに、それらの結節点において歩行者、自転車、自家用車、公共交通等の乗換えの円滑化を推進する。その際、複数の公共交通機関の事業者間の連携によるサービスの向上や、パークアンドライドやバスアンドライドの導入等を促進することが重要である」(第2部第4章第3節)

交通関係はやたらに詳しい記述があるのが、他と違う特徴があるが、これは計画担当が国土交通省であり、委員の重鎮に交通学者がいるからだろうか。

集約化なのか広域化なのか、地域によって違うことももあるだろうが、政策としては基本はどちらなのか、はっきりしてもらいたい。私はもちろん基本的には集約論者である。

・人口激減する農山村への視点

農山村、中山間地などが人口減少の最も最先端の地域であるが、そこについては国土形成計画ではどのように指針を出しているだろうか。

「過疎化、高齢化、混住化の進展、また農林水産業等の地域産業の低迷により農山漁村の活力は全般的に低下しており、多面的機能の発揮に支障を来すおそれがある。このような中で、地域住民の安全・安心な生活を確保する一方、農山漁村の魅力である地域資源を活かし、各々の地域がその主体性と創意工夫により活性化することが必要である。そのために、地域の基幹産業である農林漁業の振興や都市と農山漁村との地域間交流の促進といった取組を進めていく」(第2部第1章第3節)

ここに書かれていることは、これまでも行われてきていることでありながら、一向に集落の減少傾向はなくならないのが現実である。そこで次のように集落の再編統合等の荒療治についても、次のようにこわごわと触れている。

「地域特性に合わせて、基幹集落の拠点機能の維持・強化、集落機能の再編・統合といった基本的な対応の方向性を検討することが考えられる。その際、このような検討が必要な集落は県境地域に多く存在することから、この面においても、県境をまたぐ広域での取組の工夫が求められる」(第3部第2章第2節)

やむをえず舞台から立ち去る農民移転対策は、微妙な政治的農業問題もあるのでこれ以上は難しいのかもしれないが、農業における居住地と生産地の関係を、通勤就農を支援するような農民移転政策は考えられないものだろうか。

以上、はじめてまともに全国計画を読んだ感想である。これから地方計画が、各地方からの意見をまとめて作り上げられるようであるが、それは国からの視点をどうつながるのか、興味があるところだ。得てして地方の作る計画は地方エゴとなって、国全体の視点を失いやすい。特に人口減少については、国レベルと地方レベルでのとらえ方は、現場的に大きな違いがでそうである。(080301)