新旭町:湖西の街の個性ある「クレープ・ビレッジ」になるか

新旭町:湖西の街の個性ある「クレープ・ビレッジ」になるか

伊達 美徳 委員

1.「MONOまち力」のある新旭町

琵琶湖の西にある新旭町は、湖西の美しい集落群の中に、地場産業の高島クレープが生きていて、まだ潜在しているが「MONOまち力」のある町である。

いくつかの小集落が、ほどよい離れ具合と、ほどよい結ばれ具合で、市街地が形成されている。集落の景観は、地域の伝統的な家屋群が、個性的な美しい町並みをつくり、のびやかな田園の中に浮かんでいる。

 集落の中には、ファッション素材としての高島ちぢみや産業資材としての重布などを織る伝統ある高島織物の地場産業工場が、生業として生きている。

 緑濃い山並み、伸びやかな田園、美しい集落、広がる琵琶湖…、一見してこの地域の豊かさを感じる景観があり、そこに伝統産業が生きていて、"MONOまちづくり」のポテンシャルを十分に秘めている町である。

2.アドバイザーへの期待とギャップ

1998年2月のこと、この町の求めに応じて、国土庁の{MONOまちづくりアドバイザー」として、ものづくりとまちづくりのドッキングの可能性を探るために、藤原肇氏とともに訪れた。

もっとも、そこで分かったことはアドバイザーに対して町が求めようとしていたアドバイズ内容の中心は、「新旭風車村公園」に設置して4月から動き出す「新旭テント村」の業態についてであったようだ。

新旭町でのMONOまちづくりという視点で、都市と産業のあり方から風車村リニューアルを考えようとするアドバイザー側のアプローチと、地域活性化イベントに即効性のある何かを期待する地元側との間に若干のギャップがあった。

新旭町MONOまちづくりへのアドバイザー側からの基本的なアプローチは、この町の大きな資産である「高島クレープファッション」を地域で生かすことと、これを「琵琶湖岸の集落景観」に結び付けて、伝統産業と伝統景観のドッキングによる個性的な地域の振興である。2回の派遣の話し合いの中で、この視点は町側にも理解されたと思う。

3.新旭町MONOまちづくり課題

新旭町における今後の「MONOまちづくり」について、いくつかの問題、課題、方向を述べておきたい。

京都、大阪の通勤圏として人口増加の傾向にあり、これに対応する新たな住宅開発が行われている。しかしそれらの多くは、田園を埋めるミニ開発が多く、個性的な集落景観が崩れてきている。

新旭駅周辺地区は、中心市街地の形成を目指して、土地区画整理事業がなされて、町内ここだけが都市計画用途地域指定がされている。しかし、ありふれた駅前風景あるいは商業開発による乱れた駅前風景のおそれもあり、今後の景観コントロール策が課題となる。

田園のなかの集落群が新旭町の個性の源泉であるが、都市計画のいわゆる白地地域であるために土地利用のコントロールがしにくい。新たな住宅の導入や産業構造の変化に適切に対応できるように、集落景観の保全策とその中の高島織物産業の振興策をテーマにした、地域にふさわしい土地利用コントロール政策が必要である。

特に、伝統産業の織物工場を集落から排除して工場団地に移転させる政策よりも、産業と生活とを集落の中で調和させる方向での、新しい土地利用誘導策が求められる。

集落の保全的整備策として、これまで約束ごと的に行われてきているベンガラ塗りや焼き板による住宅建築の伝統的工法の住宅群が、年月を重ねてつくり上げてきた集落景観を、これからも維持していくために建築の伝統工法の奨励策が必要である。工場建築についても、同様な伝統風景を継承するようなデザインの誘導策が必要である。

田園と集落との調和がこの湖西地域の個性的な景観を形成しているので、農業問題のあるなかで田園の保全策とその虫食い開発を規制する施策が必要である。

4.新旭町MONOまちづくりの方向

MONOまちづくりの基本方針としては、生業の場としての工場と生活の場としての住宅が、混在しながらも調和する集落を育成しようとするものである。

同行のアドバイザー藤原肇氏から、特産品「ちぢみ」がクレープとよばれるのだから、語源が同じであろうところのお菓子のクレープをも名産として導入してはどうかと提案があった。その延長上で、新旭町MONOまちづくりコンセプトを「クレープ・ビレッジ新旭」としてはどうか。この「クレープ」にはファッションとグルメを、「ビレッジ」には集落風景と産業コミュニティを、それぞれ込めている。

各集落の伝統的な美しい町並み風景を観賞し、各集落の中で製造販売する伝統産業のクレープファッション製品ショッピング、集落の中の伝統家屋を生かしたレストランで供する新名物のクレープグルメを味わう。

「クレープ・ビレッジ巡り」は、歩いて、レンタサイクルで、ミニバスで、乗用車で、それぞれコースを設定する。

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懇切丁寧にご案内して下さった新旭町役場の方々、活発な討議で存分に話合った商工業者や市民の方々に、厚くお礼申し上げます。

注ー小論は国土庁のMONOまちづくり研究会における1998年の報告である。なお、写真は本掲載にあたって編集した。