赤レンガ東京駅復原はその原風景を失うものです-Xさんへの手紙2003

赤レンガ東京駅復原はその原風景を失うものです

Xさんへの手紙2003

伊達美徳

前略

そろそろ寒さを覚えそうな季節です。先日はいろいろとありがとうございました。

建造物や自然環境の保存問題に関しては、いろいろの立場、お考えの人たちががいて、保存運動する側の人たちも、時間がたつと四分五裂などして、一筋縄でいくものではないことは、あちこちに起きています。

最近出た本で「東京遺産」(森まゆみ 岩波新書)は、すでにご存知とはおもいますが、保存運動の多様なことを要領よく紹介していて、お役にたつでしょうとおもいます。

ただし、この本で東京駅赤レンガ駅舎の復原を礼賛しているのには、私は反対の立場です。 あれは「東の原爆ドーム」であり、復原してはならないのです。

そのあたりは森さんの保存の論理も、この本で言っておられる原風景を大切にしたいという観点からは、どうも矛盾しているようにおもいます。

東京駅の原風景を、現代に生きている私たちは、どこに求めるのでしょうか。

国土庁が1988年に発表した赤レンガ駅舎の方針に関する報告書の「記念碑的建造物であり・・・現在地において形態保全を計る方針・・・」(森さんの本では32ページ)のくだりがあります。これによって、東京駅の保全が政策的に方向付けられたのでした。

実はこのくだりは、わたしが当時の建設省担当官(今は民間プランナーのYさん)と相談しつつ、その原稿を書いたのでした。当時、わたしたちはその国土庁調査委員会の作業班だったからです。

玉虫色に読まれていますが、そこが苦心したところです。

この調査の時には、今はなき村松貞次郎先生には、委員の一員でもあられたので、たびたび相談して、懇切にご指導を受けたものです。私の恩師である平井聖先生にも、多くのご教示をいただきました。

さて、重要なくだり原案を書いた当人の私としては、「現在地で保全」であり、「形態を保全」するのですから、よく読めば、「今の場所で今の形を保ちながら使っていく」、と、読めるはずと思っています。

「形態」というところには、建物の機能・工法・材料は、技術革新と駅舎の使い方の変化で変わることを容認することを意味しています。

「保全」とは、凍結的な「保護」や「保存」でないこと意味しているのです。

ということで、私は実際に調査した立場から、当時から復原反対・現状形態維持派なのです。

ただし、これは、建て替え派に逆用されるおそれもあったので、私はその後は大きな声ではあまり言いませんでした。重要文化財指定となった今、あれから15年も経った今では、私も大きな声で言う時期がやっと来たと思っています。

東京駅保全の論理については、私のホームページから次をご覧ください。

東京駅復原反対論考集

(まちもりコラム2003年11月号)