技術概念の転換を-再開発建築の技術問題

技術概念の転換を-再開発建築の技術問題

1973

伊達美徳

都市再開発,なかんずく市街地再開発の事業化は、建築という「もの」にすることを最後の段階としていることはいうまでもない。ここではその「もの」という形あるものにする段階での生産技術側の目からみた,再開発に対する具体的な諸問題をとりあげてみたい。

経済と技術の接点

都市の変転のスピードは加速度的に進む状況である。このなかでその作り替えをするという再開発事業も,そのスピードにのったものであることはいうまでもない。

特に市街地再開発は、そのはとんどが商業べ-スによるものであり,経済側の要請が前面に押出される。建築の技術と経済の要請との接点でものが決定されることになる。ここでの二面の問の相克がまず問題となる。

複合性と自然的属性

第2の技術的問題は,機能の複合性である。建築が都市再開発建築である。公共施設,商業施設,住宅等の、都市における構成要素はほとんど取込まれる。それらはそれぞれに都市における特有の問題をはらんで、複合的に展開しつつ,再開発建築をつくりあげてゆくのである。

一方,“建築”という概念が、単体的・純粋培養的な古典的なものとしての立場をとっているとき,再開発建築はこれに対立してくる。人工的な概念よりも,自然的な概念に近く,複合・連続・増殖・置換・再生などの属性が建築技術として要求される。

変転性への技術

都市の変化してゆく一般的状況と,再開発建築という典型的な都市の要素群の変転とは同次元のものであり,この変転という軸を建築技術に取入れなければならない。変転の時間を建築の要素群と対応させてゆくのである。

たとえば施設で分類すれば,変転度の高い順に,1.商業施設,2.住宅,3.公共施設という大別ができよう。さらに店舗に例をとれぼ,建築要素の変転度の高い順にいえば,1.インテリア,2.外皮(ファサード),3.設備,4.構造体という大まかな段階づけがあり,これに技術的な可能性を付与してゆくのである。

機能の複合性

市街地における再開発は公共施設の整備を伴い,都市の要素のあらゆるものを含みこんでくるので必然的に複合化してくる。これらを矛盾なく連続体としてゆくには,単体としての建築という概念は捨てさらねばならないので,技術的に全く新しいことに直面する。

全く異質の構造体の接続,防災上の方法,管理方法等について技術的に安定したものはなく,多くの技術的問題をはらんでいると同時に、それだけ可能性をもっているとも言える。

権利の複合性

さらに複雑な状況は,権利の置換という方法を前提として市街地再開発建築は成り立っていることである。権利の複合性とでもいう性格が建築でどこまで整理できるか、多くの問題を含んでいる。

土地に属していた所有に関する概念を、建築物の床に置換するということは,言うはやすく実際は技術的なフォローについて困難なことが多い。土地という自然的属性は,建築という人工的属性にはどのようにしても同一とはなりえない。技術革新がはたしてどこまでこれに対処できるであろうか興味のあるところである。

時間の複合性

タイミングの良し悪しで都市再開発の成否がきまることは、よく言われることである。そのタイミングの決定は、通常、建築技術と無関係とまで言わないにしても,かなり離れたところで定まることが多い。

最も多い例は工期の無理な条件である。建築生産のもつ速度と,経済的・社会的に要求される速さとが一致する例はまずないといってよい。しかし事業化の可能の成否がかかっているときは技術側で対応させていかざるをえないことになり,ここに非常に高度な技術が要求される。

とくに困難な点は、機能的複合性はそのままにそれらの要求する時間があり,それらが一致することはほとんどないといってよい。それらの時間的複合性を技術的に包含して進めてゆくことは,ソフトなものからハードなものへの一貫した予測の技術のうえに立つ方法の開発が要求される。

法律と技術

再開発に直接係わってくる法律は,一般の建築とは比べものにならない性ど多く、複雑をきわめる。その複雑なものを,複合的な機能と対応させて建築化していくことが要求される。

しかし再開発の場合は、もともと法の予測しない条件の付与された建築となる場合が多く,実情としては法が建築を追認していく形となる湯合もある。

たとえば防災技術をといあげても,複合化したものにはその全部を法(建築基準法,消防法等)にもり込むことは不可能であり,それゆえに建築家の側で法の精神をよみとってその延長上に技術を新しく構築していかねばならない。

また財産保全を前提としたいわゆる区分所有法を取上げても,その閉鎖的概念規定は,商業的な開放的性格の建築への適用において,その予測しないものが多く発生し,技術的解決にゆだねられてくる。

技術概念の転換

建築が自分自身を越えて,それ自体として都市そのものとなっていく再開発建築は,単機能から複合機能へ,固定的から変転的へ,一元的から多元的へ,独立的から連続的へというふうに,概念の転換がなされなければならない。

そしてこの概念に対応したソフトからハードへの技術上の諸問題は,まだまだ多くの解決されなければならないものをもっている。 (伊達美徳)

小論は、雑誌「建築文化」(1973年3月号 彰国社)に、「RIAレポート都市再開発1958-1972 街は蘇るか-現場からの都市論」として、RIAにおける都市計画の仕事をまとめて発表した中に掲載したものである。再開発初期における建築の問題点を指摘しており、現在でもそれは課題となっている。(2008年3月伊達美徳)