【資料】東京駅周辺地区総合整備基礎調査報告書(1988)
【資料】東京駅周辺地区総合整備基礎調査報告書(1988)
昭和62年度調査国土総合開発事業費調整費調査
昭和63年3月
国土庁大都市圏整備局・運輸省大臣官房国有鉄道改革推進部・建設省都市局
まえがき
本報告書は、昭和62年度国土総合開発事業調整費による調査として,国土庁,運輸省,建設省が共同して実施した「東京駅周辺地区総合整備基礎調査」の成果を取りまとめたものである.
東京駅は,東京の表玄関であると同時に,わが国を代表する交通ターミナルであり,赤レンガの駅舎から皇居に至る一帯はわが国のシンボルゾーンを形成している.
また,東京駅周辺地区は,丸の内,大手町等日本の中枢業務管理機能をもつ地区をひかえ,一方東北越新幹線等の乗り入れにより東京駅の交通ターミナルとしての役割がさらに大きくなるものと考えられ,国鉄清算事業団所有地等の有効活用等により,都心地域の改善に資する整備が求められている.
本調査は,以上の状況を冷まえ,東京駅周辺地区の総合的な整備にあたっての基本方針,構想を明らかにし,再開発事業の推進に資することを目的として実施したものである.
調査を進めるに当たっては,学識経験者,関係省庁等からなる「東京駅周辺地区再開発調査委員会」を設置し,活発なご議論をいただいた.多大なご示唆をいただいた八十島委員長をはじめ,委員各位,またご協力をいただいた関係各位の方々に厚くお礼申し上げる次第である.
昭和63年3月
国土庁大都市圏整備局・運輸省大臣官房国有鉄道改革推進部・建設省都市局
東京駅周辺地区再開発粛査委員会委員名簿
委員長 東京大学名誉教授 八十島 義之助
委 員 芦原 義信 武蔵野美大教授
同 石原 舜介 東京理科大学教授
同 井上 孝 東京大学名誉教授
同 内田 隆滋 (元)日本鉄鉄道建設公団総裁
同 日笠 端 東京理科大学教授
同 村松 貞次郎 法政大学教授
協力委員 中野 和義 国土庁大都市圏整備局計画課長
同 鶴井 哲夫 国土庁大都市圏整備局整備課長
同 宮崎 達彦
(岩村 敬) 運輸省大臣官房国有鉄遭改革推進部清算業務指導課長
同 澤田 諄 運輸省大臣官房国有鉄遭改革推進部施設課長
奥西 勝 運輸省地域交通局交通計画課長
同 江川 晃正 郵政省大臣官房企画課長
同 戸田 道男 郵政省大臣官房建築部設計課長
同 近藤 茂夫
(伴 襄) 建設省都市局都市計画課長
同 深水 正元
(佐藤 本次郎) 建設省都市局街路課長
同 斉藤 健次郎 建設省都市局下水道部公共下水道課長
同 柳澤 厚 建設省都市局土地利用調整官
同 島崎 勉
(梅野 捷一郎) 建設省住宅泉市街地建築住宅建設課長
同 森 欣貮 東京都都市計画局地域計画部長
同 長 祐二 東京耗都市計画局施設計画部長
同 西田 博 日本国有鉄道清算事業団用地企画部長
同 細谷 英二 東日本旅客鉄道㈱総合企画本部投資計画部長
同 志田 威 東海旅客鉄道㈱総合企画本部経営管理室長
目 次
(調査報告)
はじめに
1.東京駅周辺地区の現状と動向
2.東京駅周辺地区の位置づけと整備の必要性 8
3.東京駅周辺地区の整備方針
4.事業化に向けての検討課題
(資料編)
資料1 東京駅周辺地区の現況及び動向
資料2 東京駅周辺地区の都市基盤施詮の現況及び動向
資料3 鉄道施設の現況及び動向
資料4 東京駅周辺地区の広域的位置づけ
資料5 東京駅丸の内駅舎の位置づけ
資料6 東京駅周辺地区の整備方針
資料7 鉄道駅再開発の事例
調査報告書
はじめに
本報告は、昭和62年度に国土庁、運輸省、郵政省及び建設省が共同で国土総合開発事業調整費等により実施した「東京駅周辺地区総合整備基礎調査」の成果を取りまとめたものである.
東京駅周辺地区は、丸の内、大手町等日本の中枢業務管理機能をもつ地区をひかえ、一方当該地区の中心にあるわが国の代表的かつ重要な交通ターミナルである東京駅自体も今後東北・上越新幹線、京葉線等が乗り入れるなどの状況にあり、その役割はさらに大きくなるものと考えられる.また、都庁の新宿移転鉢地、国鉄清算事業団所有地の有効活用により今後の土地利用に大きな変化が予想されるところもある.
これらの動きを踏まえ、東京駅周辺地区においては、鉄道輸送上の重要拠点として、都心地域の改善に資する地区として、さらには首都東京の「顔」にふさわしい空間として、総合的に諸機能の整備、各種施設の整備を図っていくことが重要となっている.
本調査は、このような観点に基づき、今後この地区の整備に当たっての基本方針、構想を明らかにし、再開発事業の推進に資することを目的として実施したものである.
本調査の実施に当たっては、学識経験者、関係省庁、東京都、国鉄清算事業団、JR東日本及びJE東海からなる「東京駅周辺地区再開発調査委員会」(八十島義之助委員長)を設け、調査対象を下図の都心地区とし、そのうち再開発構想策定の対象地区は、高度利用が十分行われず、かつ今後一体的整備が期待される東京駅を含む街区、旧国鉄本社敷地及び東京中央郵便局敷地からなる面積約25haの範囲(以下「東京駅周辺地区」という)として検討を行った.
1.東京駅周辺地区の現状と動向
(1) 都心地区の諸機能の現状と動向
① 東京駅の西に隣接する丸の内、大手町地区は、有力企業の本社、国際金融機能等が集積したわが国の代表的な経済中枢管理センターであり、これらの地区におけるオフィス需要は極めて高い。近年、東京駅周辺におけるオフィス供給が比較的少ないこともあり、都心周辺部で業務地化が進行している状況にある.一方、丸の内、大手町地区においては、オフィスのインテリジェ シト化、会議施設等の交流施設に対するニーズも高く、今後、老朽化ビルの建替等により機能の更新が進むものと考えられる。
② 東京都庁舎の新宿移転に伴う捗地利用については、都の諮問機関である「東京都東京国際フォーラム建設等審議会」の昭和62年12月の答申によると、敷地のうち西側のブロツク(敷地面積2.7ha)においては東京国際フォーラムを昭和69年度に開設すべく建設を進めるものとされている.予定されている機能としては、総合的な文化活動拠点、総合的な情報の交流と創造の拠点 及び国挺交流の拠点として都民ホール、展示・イベントホール、文化情報センターがある.また、東側のブロック(敷地面積1.7ha)は現時点では恒久的利用計画を定めず、周辺の再開発等の動向と関連づけた利用を検討するものとされている。
③ 東京駅の東及び南東側に隣接する銀座・日本橋地区は、わが国を代表する商業・サービス・文化の一大拠点が形成されている.
④ また、東京駅から皇居に至る地区一帯は、近代日本の発展過程を通じて、わが国のシンボルゾーンとしての性格を持ち続けている.
(2)道機能の現状と将来見通し
東京駅は、大正3年の開業以来、首都東京の中央駅として、全国を結ぶ鉄道上の重要拠点となっている.当初、東海道線のターミナルとして出発して、中央線、山手線、京浜東北線の乗り入れ、丸の内駅舎の戦災・その復旧、八重洲駅舎の建築、地下鉄丸の内線・東海道新幹線の乗り入れ、地下駅の整備が逐次進められてきており、現在、東北・上越新幹線、京葉線の乗り入れ工事が進行中である。将来、長期的には、常磐新緑の建設、新幹線、在来線ホームの増設等が考えられ、そのための施設対応を考慮しておく必要がある.
(3)公共施設の整備状況
① 周辺の道路は、はぼ計画通りの整備がなされているが、現在交通混雑をおこしている区間があり、計画中の公共施設の整備の推進、周辺既存道路の改善、円滑な交通処理のための交通管理手法の適用が必要とされている.
② 交通広場は、現在、丸の内と八重洲の2カ所にあるが、なかでも八重洲の広場は、実質的に広場として機能している面積が狭いこと等から、交通処理が円滑に行われておらず、交通流動の増加等を考慮すると、その改善を行うことが強く求められている.
③ 当該地区の下水については、芝満水処理センターにおいて処理されている.現在、管渠について能力が十分でない状況であるため、芝浦幹線等の管渠の整備が進められているところである.
(4)現有機能等の現状と課題
東京駅周辺地区内に現在ある機能等の現状と課題として、次の事項があげられる.
① 地区内の業務ビルは、比較的老朽化が進んでおり、かつ高度利用が十分なされていない
② 東京中央郵便局の局舎は、昭和65年度には一部の機能が他に移転されること、周辺のニーズに対応した機能の付与が要請されることなどを勘案し、一層の有効活用が求められる.
③ 地区内には国鉄清算事業団所有地が約3.4haあり、この有効活用が求められる.
④ 丸の内駅舎は、駅舎施設機能が十分に発揮されていない一方、都市の歴史的ランドマークとして良く市民に親しまれてきており、保存を求める声もおこっている.最近では催物の場として活用されている面もある.
⑤ 八重洲側には現在、地域物産の展示機能があるが、魅力に乏しく、利用者も少ない.
(5)東京駅周辺地区の整備課題
都心地区は、首都圏整備計画、東京都長期計画等において、業務機能の過度の集中を抑制しつつ、金融・情報系を中心とする経済的中枢管理機能、文化的中心機能を担うものとされ、これを基本とした整備が求められる.
① 本地区は、周辺地区に比べて高度利用が十分に行われておらず、この空間を利用して都心の環境、機能の改善に資するような新たな機能整備が求められている.
② 鉄道輸送上の重要拠点である東京駅の交通ターミナル機能を整備し、またその整備とあわせて必要となる公共的施設の整備が求められている.
③ 東京の「頻」として、歴史的価値の高い建造物にも配慮しつつ、美しい都市景観、シンポリックな空間の保全あるいは新しい形成が求められている.
2.東京駅周辺地区の位置づけと整備の必要性
1・で述べた現状と課題を踏まえると、東京駅周辺地区は次のような観点から位置づけられ、その整備が求められている。
(1)首都東京の重要な交通ターミナルの形成
東京駅は、今後とも鉄道輸送上の重要な交通ターミナル機能を有するものであり、この機能に対応した鉄道施設を整備するはか、交通広場、歩行者空間、周辺交通施設等を整備する.
(2)都心地区の機能高度化を支える拠点の整備
本地区は、中枢業務地区等に隣接しているが、地区内には高度利用されていない空間が多い状況にある・今後、都心のかかえる問題の解決に貢献し、都心の機能増進、環境改善に資する拠点として位置づける.
(3)東京の「顔」、表玄関にふさわしい空間の構成
本地区は、東京駅をかかえ、さらに皇居に近接し、都心の中央部の位置にある。従って、これにふさわしい機能整備、空間構成、景観形成及び公共的施設整備を図る.
(4)周辺の中枢業務地区及び全国との情報の受発信、交流のための場の創設
本地区に近接する中枢業務地区に対し、高度情報化、インテリジェント化に対応する施設を整備するとともに、交流の場を提供することにより機能高度化に寄与させるものとする。また、全国的な交通ターミナルとしての立地を活用して、全国各地と情報受発信、交流の場を創設する.
3.東京駅周辺地区の整備方針
(1)機能整備の考え方
木地区の位置づけ及び整備の必要性並びに現存機能の維持・増進及び地区の抱える諸課題の解消を図る視点を踏まえ、以下の機能整備を行う.
①鉄道ターミナル機能
全国的な鉄道輸送上の中心拠点としての役割を果たすための機能増進を図っていく。ホーム容量の増強に対しては、将来は鉄道線の重層化等も検討する。また、交通の結節機能を強化するため、道路との接続を向上させる.
②業務機能
業務機能の過度の集中を避けながら、21世紀の中枢業務地区にふさわしいオフィス環境を実現するため、現存機能の高度化、インテリジェント化、環境改善を図るとともに、都心地区の業務空間の改善・更新にも寄与するための施設として整備する.
③業務交流機能、宿泊機能
国際規模の高度なビジネス活動をサポートするための高度・複合型ビジネス交流機能(ホテル、会議場、ショールーム、インテリジェントビル等の複合体)の導入を図る。この場合、東京国際フォーラムとの機能分担、連携化を行うものとする.宿泊施設については、業務交流機能と組合せつつ、鉄道ターミナルとしての立地を生かした整備を行う.
④情報通信機能
高度情報通信ネットワーク、高度情報通信サービスセンターを導入し、併せて周辺の地区の情報通信インフラの整備に資する。
⑤商業機能
現有機能の質の向上とイメージアップを図った施設の整備を行う.
⑥地域インキュベーション機能
首都東京の玄関口としての性格に基づく東京と地方の接点機能として、各地域の産業、観光、文化等の詩情報をイベント、ハイテク情報等の多様な方法でPRする等、地方の育成に資する拠点(ジャパンショーケース等)を形成する.
(2)空間構成の考え方
本地区の空間構成に関しては、中央駅としての駅機能の向上を図るとともに、首都東京の「顔」にふさわしい風格と魅力を持った地区として整備するため、以下の諸点に留意する必要がある.
① ホーム容量の増強等ターミナル機能の拡充に対しては、将来の鉄道線路の重層化等にそなえて必要な空間を確保しておくほか、鉄道と道路との接続牲を向上させるため、交通広場について八重洲口広場の改善及び北口広場の整備を図ること.
② 建築物の基本配置、主要動線等の基本的事項については、地区全体について-体的、総合的に計画することとし、具体の整備事業については、一定の単位ごとに部分的、段階的に実施できるように配慮すること.
③ 新たに発生する交通需要を的確に受け止めるため、地区内施設に対する鉄道からのアクセス条件の向上を図るはか、地区内外の歩行者動線の強化に配慮すること.また、下水道に対する負荷の軽減を図るため、下水処理水の循環利用を実施すること.
④ 中央駅としてのたたずまい、シンボル牲の特に高い地区での大規模開発としての特性等に留意した景観形成を図るとともに、周辺地区との調和に配慮すること。また、アメニティーの高い空間形成を図るため、特に歩行者空間の快適性の向上に配慮すること.
これを概念図として示すと次のとおりである.
(3)開発規模
開発規模は、東京における将来の事務所床需要がなお相当見込まれること、特に丸の内地区におけるニーズの大きいことに対応していく必要があるが、種々の条件等も考慮して想定することとする。
具体的には、本地区における開発可能な床面積は、特定街区制度等の活用による地区の一体的な開発の実施、整備中又は計画中の公共施設の早期完成、周辺既存道路への交通負荷の軽減策の実施、周辺既存道路の改善、下水処理水の循環利用の導入等を図ることとし、現行計画による周辺の公共施設容量、建築計画的制約等を考慮すれば、駅施設を除き、当面おおむね140ha(霞が関ビル8~9棟分)程度と想定される。 なお、今後の事業計画の具体的な検討の過程で必要に応じ臨海部開発等の動向を踏まえた広域的な道路網に対する影響を勘案して開発規模の精査を行う.
(4)丸の内駅舎の取扱いの方向
① 東京駅丸の内駅舎は、大正3年の開業時には三階建の建築であったが戦災を受け、昭和22年二階建に改修・復旧され現在に至っている.
② 近年、構造、設備の老朽化が進行するとともに、土地の高度利用の要請がある一方、保存を求める声もおこっており、適切な調和点を求めることが必要となっている.
③ 以上を踏まえ、丸の内駅舎の取扱いについては、次の方針により取り扱うことが望ましいものと考えられる.
丸の内駅舎は、長きにわたり国民に愛着のもたれる記念碑的建造物であり、また、本地区の都市景観を構成するランドマークとして評価されるため、現在地において形態保全を図る方針とし、今後、具体化に当たっては次のような点について検討するものとする.
イ 建物自体の耐力診断を踏まえ、形態保全の具体的な方法を検討するものとする.
ロ 土地の高度利用との調和については、駅舎の背後に駅舎の形態保全に十分配慮しなが ら新たな建物を建築する方法、駅舎の上空の容墳率を本地区内の他の敷地に移転する 方法等により実施する.
(5)公共施設の整備方針
①交通広場の整備
東京駅と周辺地域とのアクセス機能を強化するため、交通広場の整備、改善を行うものとする。この場合、将来の利用者数に対応して必要な規模・機能を有する広場を、丸の内口、八重洲口及び北口の3ヶ所に分散して適切に確保するものとする。
特に八重洲口広場については、現在の広場が実質的に機能している面積が狭く、また、その形状が細長いことに起因して問穎が生じていることから、地区の再開発にあわせて改善を図る必要がある。具体的な改善方策については、広場の立体的な利用を含め、そのあり方について早急に検討を行うものとする。
②周辺道路の整備の検討等
地区周辺の道路交通のより円滑な処理に資するため、整備中又は計画中の公共施設の早期完成、周辺既存道路への交通負荷の軽減策の実施、周辺既存道路の改善等を行うものとする.
(6)その他
① 再開発により建築される建物においては、水の循環利用、駅アクセスの強化、駐車場の設置等により下水道、道路等の公共施設への負担を軽減するものとする.
② 再開発により建築される建物においては、電波障害、風害等の環境的影響について配慮する。
4. 事業化に向けての検討課題
今後、本構想を踏まえ、事業化を進めるものとする。事業化を進めるに当たっては、関係部門において、
① 線路敷での建築構造、丸の内駅舎の保全等に関する技術的検討
② 丸の内駅舎の保全のためには多額な費用を要することが予想されることから、この費用の取扱いについて検討
③ 地権者等関係者間の協議、事業化計画(事業主体、事業手法、段階的整備を含む)の検討
④ 計画を実施するための都市計画上の対応、国有財産法制上の検討
⑤ 地区周辺の再開発、機能更新との連携・活用の検討
等を行っていく必要がある.
注:このほかに資料編(192ページ分)があるが省略した。
(資料の解説)
1980年代の東京開発ブームの中の大規模プロジェクトとして、政治的政策的になった開発構想の資料であり、その後、ほぼこの方針で今日に来ているので、この時点で全文公開しておく(もともと秘密資料ではない)。
東京駅再開発に関しては、1977年に当時の美濃部東京都知事と高木国鉄総裁とが会談して建て替え構想を発表して赤煉瓦駅舎の保存論争が起きたのが端緒である。その後たびたび取りざたされながらも赤煉瓦駅舎再開発はおきなかったが、1980年代から東京の業務都市としての地位が高くなってオフィス需要が拡大してきたことや、その後のバブル景気への気配などで、しだいに開発ポテンシャルが顕在化してきた中で、公共的な用地を開発することが政治的な話題となりつつあった。
特に東京湾埋立地の開発(13号地で現在のレンボータウン)をはじめとして、民営分割化する関係で処分する国鉄用地(汐留、品川など)が政治的焦点となり、当時の金丸副総理が、内需拡大の一環として、臨海部、汐留、東京駅周辺の開発を東京の三大プロジェクトとして位置づけて促進しようとした。
そのなかでも東京駅周辺は、国際的な業務都心のポテンシャルがあるために、国鉄民営化がらみもあって、再開発を図ろうとする空気が高まり、赤煉瓦駅舎再開発もその中のひとつとして狙いの的になった。
建設省にそれらの開発について内々の検討せよと政府自民党筋から出されたのは1986年のなかばであり、実は私はその頃から東京駅の内々検討について担当官の手伝いをしていた。都市計画を専門としていた私としては都心部再開発計画の重要性はもちろんだが、もともと大学を建築史で卒業したから赤煉瓦駅舎の行方と開発との関係に最も興味があった。
赤煉瓦駅舎を含む東京駅周辺地区は、国鉄民営化による土地処分方針とともに、長年の赤煉瓦東京駅舎開発か保全か、三菱地所による丸の内再開発(1988丸の内マンハッタン計画)等の特有の課題の中で、開発ポテンシャルが異様に高いという状況にあった。
1987年の半ばから学識経験者を委員とし、関係省庁の担当者を協力委員として、正式に検討が始まり、88年の秋にここに掲載した報告書が出された(3月となっているが実際は半年くらい後)。この委員会の作業班として、建設省の土地利用と国土庁のとりまとめ作業に関するコンサルタントを私(伊達美徳)が担当した。
この調査のもっとも特徴的なことは、赤煉瓦の東京駅に関して長年にわたって保存か再建て直しかという構想に対して、全体開発構想の中でひとつの結論を出したことである。
委員会メンバーの中で、赤煉瓦駅舎については、建築史専門家の村松貞次郎さんはもちろん保存を主張しておられたが、背後に金屏風ビルを建てることやファサード保存も含めて、かなり柔軟な対応もあることを言われて、とにかく何らかの形で保存第一という様子であった。
私は村松さんに何度か個人的に逢って保存への作戦を授けてもらい、委員会資料をつくったものである。また、大学時代の恩師である平井聖教授(建築史家)にもずいぶんとご教示を得た。
そのほかの委員は、程度の差はあるが、赤煉瓦駅舎を特に建て直せとも保存せよとも、概して拘泥しない様子であった。
実際に原案を決める官僚の協力委員のうち、赤煉瓦駅舎については建設省都市計画課の土地利用班の担当であり、ここは建築職が就くためか、検討作業中に人事異動もあったが赤煉瓦駅舎保存にいずれも理解があったと見受けた。
この報告書原案は建設省等の官僚が書いているが、その中で赤煉瓦駅舎を『現在地で形態保全』とするくだりは、私が最初に考え出した言葉だった。
書いた私個人としては、『現在あるその場所で、現在の形態で、保全(必要な機能に対応して改善しつつ活用)する』という考えだった。
復原はひとつの考えではあるが、第2次大戦と戦後の歴史を消すことは私には抵抗があったのだ。もちろん意図するところを明確に言うには社会的に時が熟していなかったので、報告書は若干玉虫色にも読めるようになっている。その後の現実は、復原へと計画は進んでいる。
『概念図』と『計画イメージ図』原案は私が描いたが、イメージ図の建物については配置のみで高さをあえて示していないのは、景観形成から考えて、超高層もあれば低層や中高層もあると考えていたからであり、あくまでも保存と開発の概念図である。
特徴的なことは、東京駅赤煉瓦駅舎の現地保全と丸の内と八重洲を結ぶ上空デッキの表現である。
計画論的にここでの重要なことは、景観形成、開発規模、敷地の設定、そして保存や鉄道用地の容積移転の手法などがあったが、その詳細検討はその後の関係者による委員会等へと移っていった。
1989年末に、わたしは所属していたコンサルタントオフィスを辞したので、その後の作業にはタッチしていない。 (200612伊達美徳)