まちづくりNPO講義:東京理科大特別講義
まちづくりNPO講義
-東京理科大学公開講座特別講義記録-
2003前期第5回
日 時 :2003年6月24日(火)
タイトル :「まちづくりNPOと中間支援組織」
発表者 :伊達美徳(特定非営利活動法人 日本都市計画家協会 常務理事事務局長)
文責者 :足立信之
(0)はじめに
●渡辺教授 はじめに
みなさん、こんばんは。では講師の先生のご紹介を宮田先生にお願いします。
●宮田先生 はじめに
こんばんは。今期はNPOをいろいろな角度から勉強してきたわけですが、今日は、(NPO)日本都市計画家協会事務局長の伊達さんにお越しいただきました。
なぜ、この方をお呼びしたかというと理由は二つあります。
一つは、今回いろいろなNPOについて、タイプとかその成り立ちとかを勉強してきたわけですが、やはり最終的に、技術的な部分やプロフェッショナルなど、どれだけいろいろな物事に対応していくのか、あるいは集団のマネージメントといった部分で、どうしても一つ一つのNPOでは対応できないところがあります。
やはり、財務状況や処理の仕方、あるいは個別的、技術的なことなど・・・。そういうことは、行政と組む場合もあるでしょうけど、やはりそういうことをサポートする組織というのもNPOとして必要じゃないか、と思います。
そういうものを最近は、「中間支援組織」などという呼び方をしますが、都市計画家協会はそういう位置づけです。皆さんよくご存知の千葉まちづくりサポートセンター、あれも同じようなものです。
地域に根付いた活動もしていますが、やはりいろいろな援助といいますか、支援を必要としているNPOをどう助けていくか、そういう位置づけもあるでしょう。そういう意味では専門性というか、そういったところに少し重きを置いた集団というふうに考えてもいいのかなと思います。
それからもう一つ、NPOはやはり難しい集団だと思います。もともとはみんな善意とか、社会的な貢献とか、いろんな意味でみんな主旨を同じくして集まるのですが、集まってなんとなく法人になって当然お金も集まって面白い人材も集まったりする。団体をずっと続けていくということになると、やはりいろいろな難しさがあります。
この点で事務局というのは非常に重要なポジションとして、特に事務局長という立場は一言で言うとその人のパーソナリティでNPOの寿命が決まるくらい非常に重要なポジションなのです。
今日、お招きした伊達さんも、やはり都市計画家協会の要という存在ですので、その方のパーソナリティというものも、皆さんで楽しんでいただきたい。「なるほどNPOを支える人材はこういう人なんだ!」 そんな意味でも参考になるでしょう。
以上のことが理由です。では、伊達さんよろしくお願いします。
(1)伊達美徳氏講義
●自己紹介
こんばんは。今、宮田先生からの話ですと、わたしは重大な仕事をしているような気がしてきましたたが、実はかなりいい加減なことをしています。
まずは身の上話から自己紹介ですが、去年の今頃から左足が痛くなりまして、10月からこれ(ステッキ)をもち歩いています。これもって歩いていると面白い。口ではバリアフリーとか今流行のユニバーサルデザインとか言っても、やはり体でないと分らない。
ステッキで歩いていると、他人が自分をどう見ているかも分かるし、なかなか面白い社会だなと思います。転んでもただじゃ起きない。こうやってもうひとつの目で、まちづくりを、世の中をしっかり眺めて歩いています。
この杖はどこで売っているか見当つきますか? 実は100円ストアなんです。自分がそうなってみないと、こういうものがどこに売っているか全然目に入らない。そのつもりで街中を歩いていると、商店街なんかでも結構、傘とかと一緒に売っている。自分が用がないとなかなか目に付かない。非常に面白いものです。
この杖はオーラが出るらしくて、電車で座席に座る人がこれを見ると眠気がさすらしいです。今日も上野から乗ってきたら、優先席に座っている女性が、今までケータイいじっていたのに、突然グッーと寝てしまって・・・。
私自体はまちづくりでいろいろなことをやってきています。今は都市計画家ということで、NPO日本都市計画家家協会で事務局長常務理事をやっています。まあ都市計画を商売にしています。
学校時代は都市計画なんていうのはまだなくて、実は建築史を勉強しましたが、建築史では社会に出ても飯は食えませんので、設計事務所に入ってたまたま再開発をやったのです。まあ、そのころ再開発というのは共同建築ですね。
60年代ですけど防火帯建築という、今の再開発の前の前の頃の事業制度がありました。要するに商店街のような街を不燃の連続建築の防火帯を作るというまちづくりです。
それから始まって、だんだんと今の再開発になってきました。そこから入ったんですけど、再開発をやると都市計画をやらなきゃいけないということで、さかのぼって都市計画、都市政策のようなことをやってきました。
ただ、まちづくりは現場に出なくちゃしょうがないところがありまして、ですから今も私は現場の1つや2つは関わっています。
若い頃は、再開発の現場でヤーさんに殴られたという経験もあります。自分が昔やった防火建築帯、その後の防災建築街区等を、ときどき今でもまだ建っているかなあと訪ねます。この間40年ぶりに大阪の立売堀(いたちぼり)というところにいったのですが、まだ建っていました。ちょっと感激しました。
大阪では、大企業の「そごう」はつぶれてあの立派な建物を壊すそうですが、これらの中小企業の共同建築はいまだ健在なんだ、それなりに修理しながら中小企業のおっさんが今でもちゃんと使っている。
30数年前、群馬県の東武線太田市駅前で、連続の長さ1キロの商店街を防災建築街区でつくりました。この間たまたま夜9時頃、そこに降りたのです。あんな田舎なのに、その商店街だけがそんなに遅いのに煌々と明るいのです。
いまどきこんな商店街が夜中までやっているのは不思議と、歩いてみて分かったのですが、ここは群馬県でも有名な夜の街、夕方から開いて夜通しやる、お分かりですね、そういう風俗街になっていました。なかなか面白いですね、中心商店街が風俗街で生き残っているというのは。
横浜でも、これは私がやったのではないのですが、福富町という、防火建築帯で有名なところがあります。昔は問屋街だったのですが、今行くと風俗街としてすごく繁盛している。私は街づくりの残骸を見るというか、ある生き残り策を見るというか、大変興味深いと思います。
そんなことをやってきたのですが、ここ10数年やっている、今一番興味を持っていることは、まちづくり都市政策とものづくり産業政策のドッキングということです。
日本全国のいろいろな地場産業を、地域の中にいかに新たな産業として取り入れて再生するか。これまで都市政策と産業政策とは、ほとんど喧嘩ばかりしてきたのですが、これからはそれではだめということで、産業政策のほうと両立するうねりをつkりたい。
今一生懸命、経済産業省レベルの動きと国土交通省とを合わせるような、そんなことを話し合って産業都市を形成しようとしています。この話をすると、それだけで終ってしまいますので、やめます。
これが私のとりあえずの経歴ということになります。
●日本都市計画家協会とNPO
それで今日の話はNPOなのですが、ぼくは学者じゃないので、NPOの総論の話をしても仕方ありませんので、現場の話をします。
「日本都市計画家協会」という、宮田さんもアクティブ会員でいろいろやってもらっているNPOがあります。今日、お配りしている「プランナーズ」というそのNPOの機関紙をごらんください。この2冊は宮田さんの責任編集でございます。
この会の案内パンフレットもご覧下さい。中に入会申込書が入っていますので、ぜひお帰りの際にはよろしくお願いします。学生会員は5000円です。
「都市計画」という言葉については、渡辺先生の「都市計画の誕生」という名著があります。都市計画そのもの日本における出自の幸・不幸の話があると思いますが、今回は「都市計画家」という言葉についてです。
この会の「都市計画家」という言葉をどうするか、ということはいろいろあったようです。これは伊藤滋先生が東大を退官された時を機会に、都市計画を職能を確立するための専門家の会を作ろうということでした。伊藤滋先生のもう一つ上の都市計画大御所であった高山英華先生の構想であったようです。
都市計画をやっているものの職能をきちんと位置づけて、社会に認知させなきゃいけないということが基本にあるわけです。都市計画家という職能をちゃんとしなくちゃいけない、ということが出発点だったようです。わたしは伊藤スクールじゃないので、そこのところの内情はよく知りません。
建築家と言うのは結構な歴史を持っていて、それなりに社会的な位置づけも、良いも悪いも含めて日本にもあります。もっとも、日本の建築家なんて、外国に比べてまことにどうも権威がないのですが。
じゃあ(NPO)日本都市計画家協会では、都市計画家をどうとらえているか、家協会パンフレットの表紙を見てください。こういう文句が書いてあります。
「毎日の暮らしの場を、安全に快適にする約束ごと、それが「都市計画」です
わたくしたちは毎日、その約束ごとの世界で生きています
その約束ごとを守り、まちを愛するあなたは、「都市計画家」です
まちづくり、まちなおし、まちおこし、まちそだて、まちまもり・・・
どれも都市計画をやわらかく言い直した言葉です
まちは、市街地だけではありません
山村・田畑・山野・森林があってこそ、まちがあります
人口減少、超高層化、地球環境など課題の多い時代に、まちはどうあるべきか
まちを愛するあなたたも、わたくしたちも、一緒に考え、行動しましょう
美しく暮らし良いまちを、次の世代に引き継ぐために
(NPO)日本都市計画家協会は、こんな人たちが集まっています
プランナー(地域、都市、建築、商業、イベントなど)、ジャーナリスト、
学者・研究者、行政マン、まちづくり大好き人間たち・・・」
ということで、まずはこれが(NPO)日本都市計画家協会の真髄です。
これの意味するところがお分かりでしょうか。社会でいうところの専門家集団に固まらないことを宣言しています。この部分は、会員の中でもまだ葛藤があります。
素朴に言えば、今から10年前の出だしのころは、日本建築家協会の向こうを張ろうということであったらしい。日本建築家協会、ヨーロッパのサロン的な状況を日本に持ち込んで、自分たちは最も権威があると思っている建築家の団体です。
NPO法人となってからは2年ですが、会創立からは今年で10年が経っているわけです。かなり路線論争はありました。ようするに建築家のように、非常に専門性の高い職能として都市計画を、都市計画家の集団をやっていこうという派があります。
もう1つは、まちづくりというのは専門家だけがやるんじゃないし、もっと広い社会の中で誰もが都市計画家となって自分の街をつくりあげていくべき考える派です。専門家でございの態度では市民参加のまちづくりというのは似非ごとであるという派です。
これは誤解を恐れず、分りやすく2分類しましたが、もちろん、実際はいろいろな人たちがいます。
●都市計画家の専門家とNPO
まあ、その路線論争をどれぐらいやったんでしょうか、5年ぐらいやったのかな、始まりはかなり専門性の高い人たちが集まっていますけど、多様な職能の人たちも加わり、だんだんと、広い意識も入ってきました。
また、任意団体では社会的にも認知がなかなかされないということで、法人格をとろうと決めたのです。もう5年ぐらい前でしょうね。その法人格をとる時に日本建築家協会のように社団法人ですが、財団法人じゃなくて、人が集まって一つの公益的な集団を作ることです。
私たちとしては社団法人にするか、NPOにするか、ということで、路線論争になりました。つまり社団法人というのは分かりやすく、技術者としての業界団体のように職能団体として「たが」をもつことです。そういう意味で「社団法人日本都市計画家協会」というのは非常に明確であるといえるでしょう。
ところがNPO法人になると、基本的には垣根なし、壁を作ってはいけない。全く作っちゃいけないということではないのでしょうけど、基本的には垣根なしというものがNPOです。NPO会員は、自分たちの利益のためではなくて、まちづくりという活動によって社会に貢献する、ということになっています。
このあたりがいろいろありまして、今はある種の妥協点に至っており、裾野は非常に広い集団にして、その中に専門家集団もいるということでしょう。
いろいろな会員がいて、その中に専門家集団としての職能を確立しようという運動体もその中にはあってよい。この専門家集団が、別組織でなくてはならないという社会的状況がもしも出てきたならば、そのときはその専門家組織を作ればよろしい。
むしろ、できるだけ、まちづくりという職能を広くしていこうと、あるいは職能的には違う人たちをも巻き込んでいくことができるだろうし、まちづくりの社会的認知を広めていく、あるいはそういう人の重要性を社会に広めていくことから言えば、NPOという垣根のない組織をとるべきだという、図式的にはそっちの路線が勝ったということです。
ですから、NPOになるまでは会員の年会費は30,000円一種類でしたが、NPOになってからは学生会員5,000円、10,000円の賛助個人会員という制度を作りました。
3万円会費が高い、それだけの見返りがない、という人もいますが、それだけ高い会費を払っても社会貢献する人とたちの参加する団体なのだから、その見返りを期待してはいけない、むしろ会員は払った会費分を働くべき、と冗談も交えていっています。
それだけに、その会費をどう使っているか、情報だけはたっぷりと流しているつもりです。
●都市計画家の社会認知
ぼくとしては都市計画家はせまい専門家ではなく、都市計画はどこにでもある、都市計画家にはだれもがなるべき世界だというスタンスで、この事務局長をやっています。
最近は都市計画の専門家たちにも、都市計画という言葉に対するアレルギーというものがあるらしく、まちづくりはもう古い、まちおこしだ、まちおこしももう古い、まちなおしだ、いやもうまち育てだ、と勝手なことを言っているひとたちもいます。
でも、基本的には都市計画なんですよね。これは都市計画というのはある種の誤解をさせたということがまずいかもしれないが、それをきちんと解きほぐしていって、それらを含めて都市計画だ、と社会的に認知されるよう持っていくことが、この協会の基本的な役割だと思っています。それぞれの立場でやり方はあると思いますが、。
数年前、都市プランナーの肩書きで若井康彦さんが、千葉県知事選挙に立候補して落選しました。その選挙のときに、これは若井さんがそう言ったからだと思いますが、珍しく、都市計画家とか都市計画コンサルタントとかいてある新聞記事がありました。
都市計画の世界の人だから、落選した後、都市計画家協会にきていただき、いろいろみんなで聞いたんです。若井さんに「その肩書は、票を集めるのにどう働きましたか」と聞いたのです。その答えは、決してプラスにはならなかった、でしたね、残念ですが・・・。
どうも都市計画イコール公共事業悪玉論の妙な誤解の風が吹いていて、都市計画事業の道路を作る、高速道路を作るなんて、それらは全て都市計画のせいだと吹き寄せられているようです。都市計画家は、悪い公共事業の本家、そして土建屋の手先、という構図が働いているらしいです、本当に残念ですね。
そういう状況があるからといって、都市計画をまちづくりやまちなおしなどといい替えるなんて姑息なことをするじゃなくて、都市計画のあるべき本当の姿と都市計画家の職能とを、社会的にきちっと認知させたいものだ、と思っています。
●家協会賞を市民の都市計画に
それに関連して、「都市計画家協会賞」についての資料をご覧ください。第1回の表彰式を先週の6月21日の土曜日にやりました。
このときに、「まちづくりプロジェクト賞」を「メディコポリス観音寺/医療、福祉を軸としたまちづくり」ということで、医療法人社団和風会という橋本病院に、まちづくり部門の大賞を贈呈いました。この内容が僕は非常に面白くて、ほんとによかったと思います。
21日の受賞のときに経営するお医者さんに来ていただいて、どういう事業をやったのかいろいろ話を聞かせていただきました。たったの賞金20万円ですけど、非常に喜んでいただきました。
そのときおっしゃっていたことで印象的な言葉は、賞金があるのでとりあえず出したのだけど、「わたしのやっていることがどうして都市計画なんだろうと思いましたが、これもそうなのですね」ということです。つまり、こちらとして考える都市計画は、普通の人が考える都市計画とはかなりのギャップがあるということがわかりました。
なかなか面白かったことは、観音寺も地方都市の中心商店街でがらがらだけど、お金ががんと入ってアーケードやら舗装やら看板やらを毎年作り直しています。毎年やるんだけれど、人は歩かない、そういう商店街が日本全国いっぱいあるわけです。まさに経済産業省の金だけが動いて、人は動かないということなんです。根本的に間違っている中心市街地の活性化です。
橋本病院は、商店街のど真ん中のひとつ裏に高齢者ケア施設を作りました。そこの高齢者が積極的に商店街に出ていく、ということをやっておられます。高齢者の人たちも生まれてはじめて喫茶店に入った人もいて喜ぶ。商店街をうろちょろしてそれなりに活気もでる。商店街の経営者もやりがいが出る。高齢者が閉じこもるんじゃなくて社会に積極的に出て行く。
青梅市にいくとすごいですよ。奥多摩の山の中の谷間に高齢者ケア施設、特養老人ホームやらがいっぱいあります。怖いですね、これが本当に姨捨山です。
市街化調整区域開発の規制緩和の結果です。ああいうものを見ると、自分がここに来るかもしれないと思うと、ほんとに怖いですね。
こういう地方都市で中心市街地活性化と高齢者ケアとセットにしてやっていることに、私も感激しました。こういうように都市計画というものを広げていく役割が非常に重要だと、私は思っています。
鳥取大学の学生が、この「若手まちづくり部門賞」を受賞しました。学生が主体になって、湖山池という池を浄化していって地域の中心的な環境整備をしようという運動を起こしています。なかなか面白いですね。そうやって若い人たちとか、違う職能の人たちにまちづくり、都市計画というものを広げていこうということでやっています。
●NPO活動を支援するNPO
そういった都市計画を広げる役を、インタミディアリNPOの立場で実際やっていく、できるだけ支援型にしていきたいと思います。この賞も1種の支援なんですよね。
もう1つ、広めていくということで重要な事業として、「まちづくり人材支援事業」をやっています。配布資料「まちづくり人材の育成活用と雇用創出」を参考にして下さい。
配布資料「特定非営利活動法人 日本都市計画家協会 2003年度(第2回)通常総会」をご参照ください。総会の議案書はそっくりそのまま、何にも秘密はありませんとのでここに持ってきました。
特定非営利活動法人 日本都市計画家協会は、「調査研究」「政策提言」「普及啓発」「育成研修」「職能確立」「国際交流」「情報発信」という事業をやっております。
この中で調査研究の中に「人材支援国内NPO連携調査」、「人材支援海外実態調査」とあります。
まちづくりNPO団体は全部でたくさんあるけれど、内閣府のNPOのHPを見ていたら今日本でNPOが11474だそうです。このうち、まちづくりの推進を図る団体が4割あり、まちづくりを定款に挙げています。他にも挙げていますけれども、ダブっているのもあります。まあ少なくとも4割については何らかの形でまちづくりを挙げています。
そういうまちづくりNPOと私どもが連携して何がやれるか、という調査をやっている。海外でそういう都市計画の職能団体が活動しているのか、という調査もやっております。
実際に支援をやっている事業は、「まちづくり人材派遣助成事業」です。
これは、全国のまちづくり団体に公募し、寄付金の内から1000万円を原資として助成しました。「うちはこういう活動をやっているんだけれど、お金がない、人がいない」というまちづくり団体に対して、それならお金をだしましょう、人を貸しましょう、という事業をやっています。
専門家コンサルタント、プランナーなどを雇うお金がない、あるいは人材が見つからないということにならば、それに対して人材の支援をする、つまり人件費と交通費を助成するということです。
日本全国から結局9件の応募があり、そのうち市街地再開発事業準備組合と第3セクターから要請には、行政が支援すべきものとしてお断りしました。その外は、任意団体が2つ、残りはNPOで、支援をしています。
先日21日に中間報告会ということで、今どういうふうに動いているかを知るために、報告会に来てもらいました。いろいろ課題山積の時代でして、なかなか面白いものがありました。
なかなかに今の時代らしいものは、四国の今治市のNPOへの支援があります。市町村合併をすることになっていますが、関係市町村のNPO団体がいくつかか集まって、合併後の都市ビジョンをNPO側から出そう、という動きがあって、それにプランナーを派遣してくれというのです。これはなかなか先進的な使い方ですよね。
●カウンタープランへの支援も
私は、できればカウンタープランに対して支援するようになればいいなと思っています。市町村が作ったプランに対してアンチテーゼを出す。市民がアンチテーゼを出すのには、市町村から補助・助成なんか当然ありません。
カウンタープランにお金を出せるほど日本の行政団体が度量を持ってくれればいいのですが、なかなかそうはいきません。そこで、市町村に対するアンチテーゼの案を出すようなものの支援をするのは非常に面白いな、と思います。
国土交通省も、このような派遣事業を始めました。こちらはNPOや民間団体に出すのですが、国交省は基本的には地方自治体に出すという、役所側の話です。国交省も委員会をやっていて、カウンタープランについて整備してほしいと何回も委員会で言っているのですが、とてもそうはならないですね。
市民側としても、行政とは異なる案を責任持って出せる体質と力量を作らなくちゃいけない。それから行政のほうも、それらに対して受け入れて検討するような時代になってもいいと思いますよね。ドイツやアメリカなどではそのような制度がいろいろあると聞いています。
まあ、それに対しては市民側が、要求型の市民ではなくて提案型の市民に育たなければいけないという、こちら側の課題もあるでしょう。まだまだ要求型を抜け出せないという状況にあります。
●NPOの活動資金
ただし、問題があるのは基本的にはお金です。他の活動を支援するとかっこういいことを言っていますけど、この原資は寄付金によって動いています。
2002年決算というところを見てください。収入は、会費収入が、会員が今560人くらいで1428万5千円、事業収入は528万1075円、寄付金として2013万8570円、このうち2000万円がある不動産会社からの寄付金です。収入の合計が4000万ちょっとです。
経常支出の部、事業費が2797万9746円、管理費のところは何にもしなくとも出ていくオフィス賃借料や本部人件費、交通費で1867万2297円。
つまり会費収入という基本的な収入よりも、実は何にもしなくても出ていくお金のほうが多いのです。なかなかNPOの経営は難しいですね。
ほかにこの10年間、ためてきたお金約2000万円もあります。NPOの運営では、基本的にはお金がなければ事業ができない。わが(NPO)日本都市計画家協会の財政事情は、ご覧のとおりです。
受託事業はいまのところほとんどどやっておりません。寄付金は全く自由に使える寄付金ということで、使途を指定されていません。
ですから、誰かの指示で仕事を行う、ということは全くなく、独自路線でやっています。今のところ自分たちの意思で進路を決め、運営をしていっています。これからも、この使途を特に決定しない寄付金、社会的に貢献しようという企業からの寄付金をどのように集められるか、ということが重要になります。
●受託事業と職能
今一番NPOで多いのは、おそらく福祉介護関係だと思いますけど、いわゆる公共からの受託金が原資になって動いているということです。受託をすれば、その受託内容に対応して発注側の意向に沿ってやっていかなければならない。家協会が受託事業をやるかどうかという重要な課題です。
例えば、なんとか市の都市計画マスタープランを日本都市計画家協会に委託しよう、という話がこないとも限らない。あるいはどこかの再開発計画基本案を家協会に依頼したいとなるかもしれない。受託すれば、収入として入ってくるでしょう。
それで利益を得て独自事業に回すこともできるけど、それをやるかどうかということは、考え物なのです。
地方自治体からそういう特定の受託をすると、どういう問題があるか?。会員の多くはプランナーでありコンサルタントですから、日本都市計画家協会が仕事を受託すると、会員に直接行く仕事がそれだけ少なくなる。協会から経由して会員が仕事をすると、直接受託よりも協会経費分だけ金額が少なくなる。つまり家協会がピンはね団体になってしまいます。
この話は、いま財団法人の改革の話で出ているのですが、まさにそうなんですね。財団法人は、国や地方自治体の下部機関として、時には隠れ蓑機関としてつくられて、そこにOBを入れて、そこに仕事を発注し、2,3割ピンはねしてその人たちの給与などして、残りをコンサルタントの皆さんでいただく。こういうことをやってきているわけで、これと同じことをわがNPOがやっては、もうなんにもならないと思います。職能確立しようと思って一生懸命やってきたことが、職能の一部を使ってピンはねしようとすることはおかしい。
その一方では、協会会員には大勢の優秀なプランナーがいるので、都市計画家協会の事業にそのような広がりを持たせることで、力量のある人をその仕事に集めることができて、特定のコンサルタント会社が入札でとってやるよりも良い計画ができるかもしれない、という、積極的な論も当然あります。
だから悩ましいのですが、今のところ基本的には地方自治体や民間からの特定の事業の受託は受けない、ということでやっています。今のところはそれでも貧乏はしていないのですが、そのうち貧乏になるとどうなるかは分かりませんが。
受託事業をしないということではありません。今のところ受託したのは国と自治体の2種類あります。一つは国交省からの関係です。これは国交省が、国交省版まちづくり人材派遣システムで、国が地方自治体等に都市計画プランナーを派遣するときにどうあるべきか、そういう政策立案だったのでこれは受けました。
自治体からは、これは毎年受けていますが、「都市計画キャラバン」です。毎年、日本の中で一つだけ都市を選んで、出かけていって半年ぐらいをかけてまちづくりのお手伝いをするという活動をやっています。
去年は、長崎県の平戸、日本が最初にオランダと交易したときに開いた港町で、それなりに歴史的な街ですが、そこで半年間イベント的に地元の人たちと活動しました。こちらがプランを作るのではなくて、地域の人たちが頑張って街づくりのワークショップをやるのを支援しましょう、ということで行きました。その前は、毎年違いますが、福島、長岡、浜松、古河などでやっています。
これは、基本的には地方自治体からもお金を出して、家協会もお金を出し、地域と一緒にやっていますのが、形式上は地元の自治体から受諾をしています。
もう1つ、地方自治体の職員研修に、プランナーとして出かけていってやるということをやっています。これも受託します。今のところ3種類しか受託をしていない、ということです。
今後、このお金の部分をどう考えていくかは、どこのNPOでも財政上、大きな問題だろうと思います。このあたりは、ひも付きでないお金でこういうNPOが地域のまちづくりでカウンタープランをつくって、地方自治体と対立することも含めてできる、というNPOになりうるかということはあります。
今、まちづくりNPOでも、地方自治体から受諾をするためにNPOになる、というある種安易なNPO設立が結構あります。NPOはご存知のとおり資本金0円でもできますから、法人格をとりさえすればという安易なものもあるのでしょう。
今はある種のNPOに追い風があり、NPOなら善だろうという感じがありますが、私は非常に危険なことが起きるんじゃないかと危惧しています。そのうちに朝日新聞かなんかに、なんとかNPOが脱税隠れ蓑なんてぼろくそにかかれて、途端にNPOが社会的認知がどんと落ちる、というようなことが起きないことを祈っています。
NPOのことについて、一般論でない話ですが、今日私どもの団体の具体例をお見せしました。
●事務局体制とボランティア活動
資料にあるとおり、このようにたくさんの事業をやっています。今、事務局は、私が事務局長で週2,3日、常勤の職員が1人、半常勤が1人、非常勤で会計担当が1人、これが事務局体制です。これだけで、こんなにたくさんの事業を全部やるということになるととてもできません。
でも、とにかく動いているということは、そこはやはり会員のボランティア活動によるところが大きいのです。これは大変なものことと思います。お金に直すとすごい額が動いていると思います。
理事を見ていただくと、その世界の人が見るとそうそうたるメンバーばかりで、こういう人たちが本当に自分たちで動いている。
そのために何とか事務局もヒイヒイ言いながらもやれているという状況です。なお私は、事務局長で理事の中で私だけが有給で月給15万円、常勤も非常勤職員も有給ですが、他の理事はみんな無給です。
ちょっとなんか話が散漫でしたけど、なにか質問があったらしてください。質問とかご意見とか、ご助言いただけるといいですね。
(2)質疑応答
●宮田先生 はじめに
伊達さんには、都市計画家ご自身のいろいろな部分があると思います。それを含めて都市計画家協会の活動は、非常に多岐にわたっていますので、なかなか全体をつかみづらいかと思いますが、今聞いた範囲の中で何か質問がありますか?
正直に言って、今期のNPOの講師の中でかなりまちづくり都市計画家ということに関する話から、こういう説明をいただくということが始めてでした。林泰義さんにも来ていただいたんですが、そのときは大体NPO論、住民参加論ということが主旨だったと思います。今日の話は、そういう意味では新鮮であると同時に、まだ聞いた人の中で訳するのに時間がかかるということがありますね。
質問者:これは伊達さんがご存知だったとは思いますが、先ほど家協会賞の表彰の中で「週刊まちづくり」で表彰を受けた杉崎くん、彼はこの渡辺研の出身です。
このまちづくりの構成というか、こういったものを家協会としては、今限られた発行部数の機関誌の中だけですし、こういう誰が見るか分からないかもしれないけれど、こういう程度のものなのですね。
もっと広く受け入れるようなことをパンフレットに書いてあるのであれば、週刊誌の類のもの、刊行誌をもっと広く、ニュースペーパーでもいいですしね。そういうものをもっと今後広げていく予定はありますか?
伊達:今、この協会の会報「PLANNERS」は季刊ですが、会員のほかには全国市町村の都市計画課と都道府県全部に送っています。
月刊としては毎月1回、Eメールマガジンの「ニューズレター」を会員宛に送っていますが、100人ぐらいはペーパーで送っています。また日常的には、Eメールだけですけど、随時情報を送っています。多分かなりの量になると思います。あまり増やしすぎると見てくれないので、出し方が難しいと思います。
実は、こういうものの難しさがあって、事件がおきた話をしましょう。最初、私が「ほぼ週刊メールマガジン」を事務局長責任で出していました。ところが事務局長責任なのですが、私はこういう人間ですから、面白おかしく適当に勝手に書いていたものです。
そのときあった典型的なことは、わたしはそのマガジンに「こういう開かれた組織で、こういう世界がみんなには必要なのだから、会員は名刺に(NPO)都市計画家協会会員と刷りましょう」と書いてだした。
すると、こういう会ですからいろんな人が入ってきているから、非常に固い人がいらして、「事務局長がこういうことを発信してはいけない!、そういうことはきちんと理事会で決めるべきだ。その(NPO)都市計画家協会会員ということで、商売をして儲けよう、営利事業に使われる、というやつが出てくる。簡単にそういうことをしてはいけない」という厳重抗議が来て、事務局長譴責処分提案が理事会に出されました。
譴責処分理由は協会のメールを使って私事の発信をした、ということでしたが、これがもめにもめて、活動が一時停滞したことがありました。
こんなバカバカしくも難しい事件もおきます。こういう団体だと、一方で超まじめな人がいて、一方で僕のような「まあいいんじゃないの」というような人がいる。
僕はかなり「いいんじゃないの」の現場主義者で、その「現場主義者」対「原理主義者」の争いだったのですが、まあ、最後は現場主義者のほうが戻ってきて、いまこうしています。
このあたりが、情報公開というものに非常にナイーブな点を持っています。
例えば今日、この総会資料を配ってしまいましたけど、「会員じゃないところに総会資料を配っていいのか」という人がいるかもしれない、と思います。NPOはこういうのは全て公開であって、協会に誰か来て「見せろ」といわれれば見せなきゃいけないのですから、ここで配ってもいいのです。
情報公開はできるだけするべきと思っています。手間がかかりますが。
質問者:配布用紙の中に「誰もが都市計画家で、暮らしの中にはどこにも都市計画が・・・」ということが書かれていますが、「誰もが、その普通の市民が」というある意味当たり前のことと思うのですが、逆にこういう仮定がなされるということは、ここに問題点があると思うんです。
それについて当たり前のことと問題点を今後どのように展望しているか、今後市民はどうして行けばいいのかをお聞かせいただきたいと思います。
伊達:これに関しても当然このパンフレットを作ったときに、これも当然に理事会を通したのですが、それでも異論がありました。都市計画家がこういうものでいいのか、という面もありますね。
今、おっしゃっている趣旨はこれをどう解決するかということでしょうか。解決しないでしょうね。むしろ解決すべきことだろうか、ということもあります。
職能をきちっとしようと思う人たちと、それ以外の世の中の人たちがもっときちんと論争しながら組織を育てていくことが、やり方の基本だとぼくは思います。
渡辺:今のところは、非常に重要な点だと思います。家協会は、私は名前からしてプロフェッショナリズムの確立の団体だと思っていましたけど、今日これを見たらその路線闘争があって、そうでなくしたというお話でしたね。(伊達:なくしたということではないですね。それだけではない、ということです。)
私は、今の日本の都市計画の技術を広めて、それが市民のためにもなり、政府やデベロッパーのためにもなるということは非常によいことだと思っています。そのときに、例えば都市計画の制度、国の制度を直さなきゃいけないような気がしますが・・・、他にも肝心要のポイントがいくつかあります。
その中のひとつは、プロフェッショナリズムの確立だと思うのです。ですから、家協会さんがそれだけをやるのではない、ということはいいんですよ。ここの全体の中でそれについてはワンオブゼムとしてはかなりの力を得てやるといわれるのではないかと思ったらそうではないという感じに思えるのです。
まだよく分かりませんが、非常に仲良く活発にやっておられるようにお見受けします。プランナー方も楽しい、また市民と一緒にやる、そういう一つの社会的に大事な役割を果たしているように思われます。
けれど、プロフェッショナリズムを確立していくことに関して、プロフェッショナリズムはある意味市民とは別なんですよね。ある特定の権利と義務を持った人たち、そしてそういう特殊な技術、高度な技術を持ってなおかつ一定の厳しい倫理観をもって、自分たちの持ってる特権を市民的な価値判断で常にチェックしながらやるという人たちが出ないと、一国の都市計画の技術は進まないということが、たぶん欧米等でわかってきたことなのです。
ですから、プロフェッショナリズムの原則というものは、都市計画というけちな領域の話ではなくて、進学であるとか医学であるとかまあそのほかの領域でもある中の一つです。そういうところではプロの人ということに対する社会的な尊敬の念もあれば、また彼らも変に企業や政府や市民の一部の御用貸しじゃなくて、きちっとした独自性を持ちながらやっていく。そういうことの倫理観を非常に高く持っている。そういう人たちが出てくるんですよね。
そういうことに向けての取り組みというものは、この家教会の中ではおやりになっていると思いますけど、全体の中ではどうなっているのか?比重と申しますか、その戦略と申しますか、それをお聞かせください。
伊達:かなり痛いところをつかれているということを承知しています。というのは家協会にも「職能特別委員会」があって、今おっしゃられた職能を確立するために動かしている委員会を作っています。関係する他の4団体と共同で、都市計画についてわれわれの職業がどう対応していくかについて研究会を開いていました。
実は、半分は言い訳に過ぎないんですが、これをやっていた副会長の方が急死されまして、一時休止をせざるをえなかったのです。だからといって止めなくてもいいのですが、そんなこともあってまたほかのひともでられなくてということもあって、今年は立て直して職能確立についての委員会を再度立ち上げるように先だって総会の時にはきめました。ご要望というかご期待にこたえるように、という段階にしたいと思っています。
もう1つ職能について、われわれが社会に対してどうあるべきかという話で、職能を発揮して地方自治体および国への政策提言を、昨年から積極的にやろうとしています。
例えば、都市計画制度が変わって、市街化区域と市街化調整区域の線引きが選択性になって、地方自治体、都道府県を中心にかなり動いています。これがどうあるべきか、という政策提言について、各地方自治体職員、研究者、コンサルタントを集めて、半年以上かけてシンポジウムや研究会で意見を出し合い、それをまとめて出版物にしました。都市計画の線引きに関する制度をこれからどうあるべきか、ということで、「都市と農村の新しい土地利用戦略」という出版物にしました。
もうひとつの政策提言として、今の都市再生特区に関してです。われわれの専門的な職能の立場で、政策提言で切り込もうということをやっています。
伊達:こちらからお聞きしたいことがあります。
いろんな大学で話をしていて、学生たちからプランナーになるには就職どこにすればいいか、といった質問があります。都市計画で宮田さんのところに就職しようとしても、一般には宮田さんが何をやっているかがわからない、ということがあったり、私のところに就職しようとしても分からない。
建築家の方はそれなりにジャーナリズムがあるのですが、都市計画家のほうはほとんどない。その辺も職能確立ということで重要なんですけれど、この世界で生きていこうと思えば、みなさんはどこへ就職すればいいかわかりますか?
渡辺:われわれは優秀な人を都市計画へ、あるいはまちづくりへ育てても、行き場がないんですよ。で、今最近はシステム産業に行く人がいます。頭のいい人がいっぱいいるんです。私は、はっきり言ってもったいないと思うんですよね・・・。
これだけまちづくりに対する大きな裾野が広がっている中で、どうやったら食っていけるのか。そういう戦略をもっと家協会さんがしっかり考えてくれなきゃいけない。
まちづくりというものは、市民的なことですけど、市民の普通の人ができるという、そういう誤解を与えるのはまずいと思うんですよ。それは市民ができるということがいけないのと同時に、一般職の役人ができるというそういう風潮です。放置しておくこと事態が間違いだと思います。
日本の都市計画は、例えばマスタープランを3,4年かけて作るときに、その担当課の課長がプロじゃなくてもできるのです。そんなことは世界スタンダートで、欧米スタンダードから見たら考えられない。つまり都市計画に携わっていると証する人たちがプロでなくてやっているのです。そしてプロでなくても社会を説得するためにはどうしているかというと、プロの技術で持って説得しているのではなく、手続き上で説得している。
ですから、チョロチョロっと根回しをしておけば、どんな変な内容のものでも通るような、そういう技術体系になっているのです。そういうことを、高い技術を持っている人たちが文句を言ってほしいんですよ。
先ほど自治体との関係が出てきましたけれども、自治体との対応でもそのいろいろな提言をなさるのはいいんですが、現在ある枠組みを前提とした上でのチョロチョロっとした改善の提言ではなくて、それもいいですけど・・・。駄目だとは言いませんが・・・。例えば、任期制のポジションに家協会の、というか、または一定のプロの資格を持った人を入れるような制度をつくる。
端的に言うと自治体、小さな自治体で都市計画課長という重要なポジションがあったとしても、結局2年、3年やって次はとんでもないところに行くし、入ってくる人もとんでもないとこから来るわけです。はっきり言って、素人さんがやっているわけです。そういうことは駄目なんです。家協会の会員のようなしっかりした人を、その代わり3年、5年契約でいれていいとか、そういう制度をいれる。そういうことも含めて、少しこれからの大きな都市計画の流れの中で現在のパラダイムと変わったものでもやっていけるだけの精神的な自由を持ってやっていただきたい。
伊達:前半については若干の異論がありますが、後半について先ずお答えします。
いろいろ地方自治体のあるポジションに専門家が入る」このことについては、実は、先ほど国交省の人材派遣の話をしましたが、これと連動してやっています。
家協会としては民間のNPO団体等に派遣する、国交省としては助役あるいは都市計画部長等に派遣で市長のブレインとして、都市政策のブレインというシステムではいっていくということです。
そのことについて、私どもも国交省と一緒になって調査をしたりしています。現実問題として、受け入れ側の市町村には受け入れるだけの体制がないのです。
全国の地方自治体の都市計画課にアンケートしました。「どういったプランナー人材がほしいのか」。回答で一番の多かったのは、行政と市民の間に立ってコーディネートをやってくれる人材がほしい、でした。これを逆に言えば、それが市長村ではできていないということなんですけど・・・。
前半の件ですが、私は、地方自治体の都市計画マスタープランやまちづくりプランやその他いろいろな現場へいっていろいろな自治体の人と付き合ってきていますが、おっしゃるとおり、都市計画部課長はプロではない人が多い。昨日まで福祉にいて、今日から都市計画課長も珍しくない。
ただプロならばよいのかというと、これはかなり問題が大きいのです。プロであるだけに、ある一定の範囲でしかものを考えないひとがいる。私が建築学科を出たから建築系の悪口を平気で言いますが、特に建築職から出てきた人は非常に頭が固いというか、視野がせまい人が多い。土木職の人のほうが、はるかに力があります。
まちづくりは基本的にはゼネラルな仕事なのです。ぼくらが考える都市計画、市民と対話してどのように将来あるべきかについての都市計画は、基本的には総合的なゼネラルな能力がなければやってはいけない。
ところが技術職の人は、どうしてもある法律の範囲を抜けられない。ぼくらとしては問題あるなら、法律をこう変えればいいじゃないかといっても、ほとんど理解してくれない。
ぼくらはむしろ、事務職の人が都市計画の分野で、都市政策としてきちんとやってくれるべきだと思います。都市計画が技術専門職の世界であるというのは、どうも違うと思うんですよ。都市政策というくらいで、きちんととらえらえるべきだと思います。
ただ現実の問題として、市町村の都市計画課の多くは何をしているかというと、実は都市計画手続課になっているのですね。他の課で計画したことを都市計画決定するための書類ばっかり一生懸命作っている、都市の計画をやっていない、そういう問題がありますよね。
質問者:先ほど他の自治体の中でカウンタープランの重要性ということでおっしゃっていたのですが、そのことについてもうちょっと詳しくお聞かせ願いたいのですが・・・?
A:わたしは民間の仕事も行政の仕事もやっていますが、再開発のような行政と民間の中間に入っての仕事を結構やってきているんです。そうすると、行政の上位計画と地域から上がってくる下位計画とどうしても矛盾することも多いのです。
また、大きな跡地開発のようなものは、ほとんど市民とは無関係に都市計画手続き的に進むという状況がある。今、東京はまさにそうです。
その時に市民の側からアンチテーゼとして、全てじゃなくて構わないし、その延長上でもいいが、市民の側から独自の案をだす。出された案に対してどう扱うか、法手続きが必要です。今の法手続きは公聴会とかのようなものしかありえません。
そうではくて、市民のほうがそれと同じレベルの案を代案として行政に出していく。行政がその案をもってデベロッパーとちゃんとわたりり合える。そういう仕組みを作るべきだと思います。
その時に、例えば汐留や品川駅前開発のような馬鹿な計画ではなく、市民側として違う案を出そうとしてもつくるお金がない。行政はそんなものを出されても受ける体制が整っていない。
制度的には都市計画法は少しずつ変わってきていますが、市民側からの提案はまだハードルが高いのです。もっとフリーに提案できるような制度ができないか。それに対して支援をしていきたい。お金の制度だけでもやっていきたいと個人的には思っています。
渡辺:実は今質問をされた方は、日本で2つの市民版自治体マスタープランを作った唯一の人です。
いわゆる市民版マスタープランという領域、あるいはマスタープラン以外の地区計画なども含めて市民版まちづくりプラン、そういうものを考えてる方なんです。
私は今日おっしゃったことは、カウンターパートとしての役割を持つということだと、私は非常に大事なことだと思います。理由は、マスタープランは基本的に2つあって、1つは個別具体の都市計画決定を位置づけて、その根拠となることです。全体の中でこれはこうやるんだということを位置づける、そういう全体からみる、これは一番基本的な問題だと思います。
もう1つは、いきなり個別を決めるのではなくて、全体を考えることによって個別そのものの選択の余地が広がったり、こういう可能性もあるんだと思いつかせること、そういう外部の機能があると思うんです。そういう意味では、カウンタープランというものは、絶対正しいと思っていた、唯一絶対の答えと思っていたことに対して、そうじゃない、こういう可能性もあるよということを出すこと、しかもそれを市民的なオープンディベートの中でいろいろ議論することは、結果的にそれを捉えなくても今までやってきたこと、その弱点がわかり、弱点が分かるともう少し良くするというのもありますし、そういう意味では絶対化から相対化するという、非常にいいことだと思っております。そういう意味でおっしゃったことは大変いいことだと思います。
伊達:さきほど、家協会賞ということで、今年第1回目ですが、例の国立のマンション反対運動をやっている団体に賞を贈呈しました。
当然、家協会の審査員の中でもそれを賞とするか否か喧々諤々でありました。あの都市計画に対する異議申し立てであることを、都市計画家という職能としては賞としてよいものか、という話もありました。
それは今まさに先生がおっしゃっていたカウンターを出すことによって新たな都市計画のよさが、次の良い都市計画を突き動かしていく。その助成システムをきちんとしなければいけないでしょう。みんなであつまって自分でお金をだすことが基本的なことなんでしょうけど、やはりここは社会的な助成システムを確立すべきでしょう。
一番典型的なことでマンション反対運動でもいいと思うんですよ。鎌倉はマンション反対運動だらけで、マンション反対運動は反対運動をする側のエゴなんだということもある、確かにエゴもあるんだけれど、エゴでなにが悪いんですかというのがあって・・・。そういうことよりもいいことができれば、それをやってもいいわけです。
単に反対運動だと、声を上げているだけで、そいつは裏に回って実は取り込まれているのかもしれないし。やはりその辺を公的にきちんと反対運動に関して、支援するようなことがあってもいいと思います。そのことで反対運動もある種の社会的使命に寄与するのです。むしろそういう社会になってほしいなあ、と思っています。
宮田:ありがとうございました。
NPOの事務局長ということ、で今日はお話いただいたんですが、都市計画家が中心になっている集団、NPOをまとめる伊達さんという人物の中にある、彼の信念のようなものあるいはこだわりです。
こわもてで、いろモノでものを言うというようなどっちかというと照れ屋なものですから、茶化したりもするんですが、でも、やはり強いものがあるかなあと思います。正直言って、家協会に参加している何人かの人は、かなりそういう人間が愛想を尽かさずに家協会の中でやることをやろうとしている伊達さんのような人がいて、その人がここの土俵の中でやればそんなに怖いことはないんじゃないかなあと思います。そんなことで私も続けている。
最後はキーパーソンのキャラクター、パーソナリティはすごく大切で、いくら高慢な理想を掲げてもいくらすごいカリスマリーダーを抱えても、実際は団体を支えている人物の存在感が大切なんじゃないかなあと思います。
これは必ずしも建築、まちづくりそういうものに限らず、NPOという難しい集団を進めていくときは、その人物というのが非常に重要で、キーパーソンはちゃんと選ばないと簡単に壊れちゃうという難しさがあります。これから皆さんがNPOに携わるときには、そういう目を少し養ってもらえたとしたらよかったなあと思います。
渡辺:それでは大きな拍手を持って今日は終わりにしましょう、どうもありがとうございました。 (終)
注:この記録は、東京理科大学の公開講座(2003年6月24日 野田校舎)において、伊達が(NPO) 日本都市計画家協会常務理事事務局長の立場で講義をした記録である。すでに講義録はニフティの都市計画フォーラム19番会議室で理科大公開講座として公表ずみである。