運動会運営から見えてくる、子育ての共助と互助(文・炭谷将史)
■運動会運営に100人以上!
昨年10月、私はPTA役員として我が子が通う小学校の運動会に、初めて関わらせていただいた。
やることは実に多い。前日の夕方から観覧席を用意し、テントを設営。立ち入り禁止区域のロープの設置、運動場の整備も行う。駐車場へは案内看板を立てる。そのあとも夜回りなど、日付が変わる頃にようやく終了。運動会当日も早朝から運営業務だ。私自身は、前日夜の校庭準備や当日早朝からの駐車場での交通整理のためにかけつけた。
運動会の運営業務に関わる人の数はPTA役員、こども会役員、自治会関係者を含め100名以上はいただろう。先生たちだけでなく、多くの地域住民が支えていることを初めて知った。
テントの設営作業。多くの地域住民の協力で運動会は成り立っている。(写真=炭谷将史)
■川和保育園の「みんなの運動会」
運動会で思い出すのが横浜市にある川和保育園だ。
同園は日本一とも言われる園庭を持つ有名な保育園で、寺田信太郎 園長は保育の世界でよく知られている。同氏に刺激を受けて園庭を工夫している人は、日本中にいると言って良い。
川和保育園では、保護者会も保育の担い手だ。さまざまな場面で、保護者会が園とタッグを組んで保育をしている。運動会においても同様で、保護者はこどもと同様参加者となる。
川和保育園の運動会は「みんなの運動会」と呼ばれており、この運動会では、保護者がずっとカメラを手に持ってモニターばかりを見ているということはない。保護者もこどもと一緒になって、本気で運動を楽しむ。また、参加賞(昨年は手作りの風車)をつくり、参加した人全員に配るのも保護者の役目だ。
寺田園長は「川和の保育は保護者の理解と協力があってこそ。それがなければ成り立たない」と言う。運動会に限らず川和保育園は「保護者は保育の協働者」と考えており、バザー、園庭キャンプなど様々な場面で保護者も保育に参加する。
幼稚園・保育園の行事に保護者の協力は不可欠。(写真は記事と関係ありません)
■地域には「共助」と「互助」の組織がある
私が参加した運動会運営、それから川和保育園のケースをみても分かるように、行事に多くの人の連携と支援がある。これらは「共助」「互助」という言葉で整理できる。
「共助」とはリスクを共有する仲間が、互いに協力しながら費用負担をしている制度をさす。介護保険などの社会保険制度は、共助のわかりやすい制度だ。地域組織でいうと、こども会、PTAなどが当てはまるだろう。
一方、「互助」とは、共助の一部だが、費用負担が制度設計されていない。つまり、より自発性が高く、ボランティア的な要素が強い。地域の組織では、老人会、青年団などがこれにあたるだろうか。私が住む地域では、上記の共助、互助団体が活動している。
短縮URL https://goo.gl/tbgxq5
表. 「共助」と「互助」
■「こどもの育ち」を中心に据えたネットワーキング型組織
ひるがえって、私が経験した運動会は強制的に少しの負担を多くの人員で分け合う側面が強い「共助スタイル」。それに対して、川和保育園は保護者の自発性が格段に高く、組織は「保護者会」だが、「(共助をベースにした)互助スタイル」と捉えることができるだろう。
今回取り上げた事例からは、「こどもの育ち」を中心に据えて地域住民(保護者)たちが手を取り、階層的というよりは横並び的で、緩やかな関係性に根付いた(ネットワーキング型)仕組みが形づくられていることがわかる。
私は「ローカル」といえば、つい物理的に区切られた地図上の空間で考えてしまう。しかし、今回の運動会の支援を通じて、こうした「こどもの育ち」を中心にしたローカルがあることに気づいた。ローカルとは、なんらかの目的を中心に据えて集まった緩やかなつながりを持つネットワーキング型組織のことかもしれない。(了)
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執筆者 炭谷 将史(すみや まさし)
聖泉大学人間学部准教授。専門は運動心理学、スポーツ心理学。主に子どもの運動遊びと心身の発達、スポーツとまちづくり、スポーツコーチングなどに関心を持って研究を進めている。また、一般社団法人スタジオふらっぷを主宰しており、子どもを対象としたスポーツ教室や福祉法人(保育園、高齢者施設等)のサポート事業(子どもの運動遊び活性化等)を展開している。関心のある方、記事のご感想等は炭谷(sum202122<at>gmail.com)まで。