地域合宿プログラムで見えた、高校生の伸びしろ(文・ 木田悟史)


■ 学校とは違う、教育投資が必要だ

今年の夏、鳥取県大山町という所で、県内全域の高校生38名を集めた合宿を開催した。学校を離れて、自分が住んでいる地域において、純粋に自分が問題だと考えていること、興味を持っていることについて掘り下げ、何らかの形にしてもらうことが狙い。年長者によるサポートをしてもらいながら行うワークショップと議論がプログラムの中核だ。

数年前から、当財団は鳥取で地域づくりのお手伝いをしているが、高校生に投資することが、中長期的に大きなリターンが地域にあると考えた。というのも鳥取は、高校卒業後すぐに就職するケースもかなりの割合でいる。そのため、この時期におけるキャリア形成が非常に重要だ。ところが現状ではキャリアマッチングがあまりうまくいっておらず、高卒者の3年以内離職率が約半数近くあり、他県に比べても高い水準にある。 こういう現状を勘案すると、高校時代に何らかの介入施策を取ることは、その地域における生産性を考えていく上で、中長期的な重要テーマといえるだろう。これが合宿開催を考えた背景だ。

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地域合宿プログラムで見えた、高校生の伸びしろ

カギは「思い」の言語化と議論

2018年12月29日

執筆者 木田悟史 (日本財団 鳥取事務所所長

【鳥取県】日本財団鳥取事務所はこのほど、鳥取県内の高校生を対象に合宿プログラムを行った。 狙いは自分が住む地域に興味を持ってもらい、かつ 自分の関心を掘り下げて何らかの形にしてもらうこと。学校の授業とは異なるアプローチで、予想以上に参加者は熱心に取り組んだ。このプログラムの企画・実行を行った同財団の木田悟史さんに合宿の様子とその背景についてご紹介いただく。なお、この合宿プログラムには、同県の教育委員会も共催として名を連ねている。

自分が何に興味を持っているのか、真剣に考えている高校生達(写真=筆者)

■「思い」を言語化・構造化する援助が決め手

自分の思いや興味関心を形にしていくのは、大人でさえ難しい。今回の合宿では、

  1. 大学生によるサポート、

  2. 大人達による徹底したメンタリング

この2点をプログラムの中に組み込んだ。

高校生の思いを形にするためのサポートを行う地元の大学生(写真=筆者)

メンタリングは、本人が考えているもやもやとした思いや考えを整理をしていく作業のことだ。丁寧に言葉として解きほぐしていったり、概念化や構造化を行う。これができると、曖昧だったアイディアも、それなりの具体性をもって言語化されるようになってくる。

鳥取の高校生は比較的大人しくて、こうした企画をやってもあまり話しをしない子が多いのではないか、と始める前に指摘を受けたこともあった。しかし、実際にやってみると、こちらが想定していた以上に熱心に取り組んでくれた。2泊3日のプログラムだったのだが、1日目の夜も2日目の夜も2時、3時くらいまで残って議論をし続ける高校生の姿が見られた。

■「制限」が発想を自由にする

さて、プログラムを組み立てるにあたり、もうひとつ意識したのが「非認知能力」という考え方だ。これは、知識や思考など、数字で測ることが難しいコミュニケーション能力や忍耐力などのことをさす。社会的情緒スキルとも呼ばれるこの能力は、教育業界でも最近、注目されている。OECDの調査では、

  1. 長期的目標の達成

  2. 他者との協働

  3. 感情を管理する能力

上記の3つの能力が非認知能力として定義されている。こうした能力の有無が認知スキルにも影響していることが同調査で明らかになっている。

非認知能力の重要性が分かったが、では具体的にどうすればよいのだろうか。その手がかりに思えたのが「制限」である。

どういうことかというと、今回のプログラムは、発想は自由にしてもよいが、2泊3日という時間制限があり、大山という山の中で、使える資源も限られていた。おそらく普段は逆で、資源は豊富にあれど、発想は縛られているというのが多くの公共教育の現場ではないだろうか。

合宿期間中は、高校も地域も異なる子達が話し合う中で、時には衝突もしながら、お互いに自分の考えていることを形にしていくことを繰り返し行っていった。こうしたプロセスが、非認知能力の形成にも大きく寄与するのではないかと思う。

高校生達によるワークショップの模様(写真=筆者)

■日本の地方における高校生の伸びしろ

ここで内閣府が諸外国との比較を元にわが国の若者の状況について調査を見てみたい。「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2013)によると、解のない問いに対して前向きに取り組もうとする若者の数は諸外国に比べかなり低い。(図表1)

内閣府:平成25年度「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」より

人口が縮小し続ける中で生産性を高めていくためには、一人ひとりの能力開発が必要なことは論を待たないが、現状をドラスティックに変えていけるような人材を育成していける環境は、まだまだ発展途上といえる。

しかし、日本の若者達が持っている潜在的な能力は、こうした統計情報に現れてこないことを今回の合宿プログラムで実感した。これは大人達が想像する以上のものである。適切にガイドしてくれる人がいれば、本人達の能力はいくらでも伸ばせていける可能性がある。特に地方では、地域とのつながりや接点も多いことから、高校の周りにいる地域の大人達がうまく関わることで、高校生の持っている潜在的な能力を高められる余地はまだまだあるといえる。

折りしも、来年度から文科省では、各地の公立高校を核として、地域を支えていく人材育成事業をスタートするようだ。高校生達の可能性の芽が一つでも二つでも開いていくことに繋がっていくことを願わずにいられない。(了)

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執筆者 木田悟史(きだ さとし)

日本財団 鳥取事務所所長。

ソーシャル・イノベーション本部国内事業開発チーム チームリーダー。慶応義塾大学 環境情報学部卒業後、日本財団入団。総務部や助成事業部門を経て、NPO向けのポータル・コミュニティサイト「通称『CANPAN』カンパン」の立上げに関わる。企業のCSR情報の調査や、東日本大震発災後、支援物資の調達や企業と連携した水産業の復興支援事業の立上げを担当。その後、情報システムや財団内の業務改善プロジェクトを経て今に至る。

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