20120706internationaljudo

Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏のウエブサイトです │前の記事記事一覧次の記事

ドイツにおける柔道の価値

幼稚園での発表会

2012年07月06日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

そんな雰囲気のところで、柔道コースのデモンストレーションを行った。

ただ、柔道コースといっても、幼稚園にはきちんとした練習場所もないし、子供たちも道着を持っているわけではない。したがって実際は柔道の枠組みで行う体操やゲームのようなメニューをつくっている。

それから柔道というと、日本での柔道は試合を前提に行われているケースが多いが、ドイツでは余暇や楽しみ、健康増進、コミュニケーションを目的にした『ブライテン(幅広い)スポーツ』という概念でも広く行われている。

また柔道には教育的価値があるが、柔道コースではそれをコンセプトにしているが、私のような『外国人』と接触することや、練習中に時々息子と話す日本語の会話など、それ自体も異文化と接することになる。つまり、私自身が『先生』として子供たちと接すること自体にも教育的価値があると考えている。柔道のオリジナルの発音が『ジュードー』であることを知るのもそのひとつだ。

ドイツの幼稚園で私は小さな柔道コースを担当している。このほど、幼稚園で行われた『インターナショナルフェスティバル』で柔道のデモンストレーションを行った。所感を書いておきたい。

(コースを担当していたのは2011-2012の1年間)

■インターナショナルフェスティバル

『さあ、みんな、ユードーやるぞ!』

『ナイン(NO) ユードー ではなく、正しくは ジュードーです』

このたび、幼稚園のフェスティバルの中で行った『柔道芝居』のようなデモンストレーションの開始の風景である。アルファベットで書いたJudoはドイツ語の発音では『ユードー』になってしまう。そこでわざわざ、私が大声で『ユードーやるぞ』と言い、子供たちが全員で声を揃えて『正しくはジュードーです』と発音を正すという、まさに学芸会のようなことから始めた。

そんなデモンストレーションのことを書く前に柔道コースと幼稚園について触れておこう。

私はドイツで柔道をはじめた。まさに『へっぽこ柔道家』なのだが、ひょんなことから、息子と一緒に近所の幼稚園で週一回、45分ほどの柔道コースをボランティアで担当している。また、この幼稚園は日本でいうところの『児童保育』のようなこともしている『キンダーセンター』だ。だから、コースには小学生もまじっている。蛇足ながら面白いのが、クラス分け。日本なら年長・年少とわけるところだが、年齢別にはしていないので、同じクラスに2歳から小学校4年生までまじっている。(ドイツの小学校は4年生まで)

そんな幼稚園で今年の6月の最終日に『インターナショナルフェスティバル』が行われた。実際、同園でも外国籍、あるいは親のどちらかが外国籍という子供も多く、その数は約20カ国にも及ぶ。

フェスティバルは『幼稚園の総力』とでもいおうか、今やニキビ面のティーンエージャーになっている卒園者や、その親もまた、なんらかの形で手伝いにやってくるので、『地元活力』的な雰囲気もある。

■どういう枠組みで『柔道』をするのか

■子供たちにコテンパン

柔道の教育的価値を表すのに、ドイツ柔道連盟が数年前に作成した『柔道の価値』というポスターを使った。多少意訳も含むが、礼儀、謙虚、親切、尊重、誠実、勇気、精進(まじめであること)、自制心、尊敬の9つを挙げていてわかりやすい。今回はデモンストレーションでもそのポスターを掲示し、子供たちと一緒にその価値を簡単に紹介した。

その後は実際の練習を見せるかたちで進めた。

正座、黙想、礼といったことからはじめ、技を実際にやってもらう。といっても、本格的にはできない。投技などは怪我のリスクがなく『投げる、投げられる』といった感覚を得られるような背負投の練習方法を見せるのみだ。

最後は『帯乱取り』。立膝のままで相手の帯を先にはずしたほうが勝ち、というルールの乱取りだ。ひと通り子供たちが乱取りを終えると、『子供たち』対『私』。毎回、『君たちは今、チームなんだから、私に勝てるように、誰々が私の手を封じ込めるとか、そういう(力をあわせてできる)戦略を立てなさい』といっている。これがどうも子供たちは好きらしく、私と子供たちが対面するかたちで礼をする前に、毎回こそこ作戦会議。そして私は子供たちに抑えこまれ、帯をとられてしまうのだ。今回もお約束どおり(?)にコテンパンにやられた。

以上のような、まるで『柔道芝居』という感じの短いデモンストレーションだったが、後日、一緒に手伝ってくれている先生によると、自分の子供も柔道やらせたいという親御さんが結構出てきたらしい。

もともと、ドイツの親たちは柔道に対して、規律などを学ばせるのに向いていると考える人が多いのだが、『柔道の価値』を提示したことで、教育的価値がクリアに確認できたのだろう。

一般に個人の生き方において、仕事・家族・社会のバランスが大切だと考えているが、私にとっての柔道コースは『社会』の部分と位置づけている。自分の住んでいるところで、『地域の向上』のような活動をすべきで、そのささやかな実践だ。デモンストレーションを通じて、保護者のそういう反応があったというのは、単純に嬉しい。同時にまた、西洋とは異なる思想体系を持つ柔道の可能性を感じて、非常に興味深い。

ただ当日、柔道デモンストレーションのあとには、ブラジルの格闘ダンス『カポエイラ』のデモンストレーションがあり、続いてサンバ。柔道コースとはまったく違い、大変な盛り上がりよう。この手のフェスティバルでは『ブラジル』は無敵という感じである。勝ち負けというような話ではないが、『ブラジル』には完敗である。(了)

デモンストレーションのラストは『帯乱取り』。私は子供たちに抑えこまれている。

■ブラジルに完敗!?

※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。