アートもあり、ドイツのキッズ柔道プログラム│高松平藏/在独ジャーナリスト

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アートもあり、ドイツのキッズ柔道プログラム

「Judoサファリ」に見る複数の尺度

2017年5月23日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

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■ クイズにお絵かき、仮装大会

3つの「競技」終了後は得点を集計する。絵の評価は複数のトレーナーが行うが、「まあ、ぱっと見て、だいたいで決める」と代表のライナー・ブリンクマンさん。けっこういい加減ではある。が、「とにかく、柔道が強いとか身体能力が高いというだけで得点がつくのではないんだよ」と笑う。

集計した得点表は柔道連盟に送り、後日、得点に応じた動物のワッペンが送られてくる。(だから“サファリ”という名称だ)

柔道の試合以外の「競技」は各クラブが中身を決めればよいが、サッカーグラウンドでの競技とクイズ・お絵かきは同クラブのオリジナルだ。他のクラブの「文化的競技」を見ると仮装大会や作文など、いろいろ創意工夫している。

「文化的競技」として行われた「トレーナーの絵」。

■新しいスポーツ概念、戦後の国民の健康問題から

同プログラムはドイツ柔道連盟の「ブライテン・シュポルト(幅広いスポーツ の意)」の取り組だ。大雑把にいえば記録・勝利を重視した競技スポーツの対立概念と考えるとわかりやすい。

もともとドイツも競技指向は強かったが、旧西独の場合、戦後の急激な経済発展で国民の健康問題などが顕在化。それらを背景にスポーツ環境を整える「ゴールデン・プラン」なるものが打ち立てられた。1959年のことである。以来、子供の遊び場から体育館、プールなどの施設が旧西ドイツ全国で整備されていった。

同時に「第二の道」という取り組みが行われた。勝利・記録重視のアスリートが行うスポーツを「第一の道」とするならば、障害者も含む子供から成人、高齢者まであらゆる人々が行えるものが第二番目のスポーツというわけだ。この「第二の道」を発端に、スポーツが一部の人だけのためではないブライテン・シュポルト(幅広いスポーツ)の考え方が1970年代に形成された。

色々発言することもある。大事なことだ。

■「幅広いスポーツ」を柔道にも

「幅広い」ということは、自分にあった形でやればよい、ということであり、「スポーツ=勝利・記録の追求」というある種の狭量さから脱したといえるだろう。ここでのスポーツは余暇であり、スポーツを通してのコミュニティ作りであり、そして健康づくりだ。対象も子供から高齢者まで老若男女だれでもできる。

そして柔道でもこの概念が適用された。柔道サファリそのものは1980年代後半から。青少年向けに、一般的な競技や芸術の分野をブライテン・シュポルトの中に取り込むことが連盟の目的だったという。毎年400のクラブが開催している。(了)

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。