ドイツ、地域ボランティアの敷居が低いわけ

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ドイツ、地域ボランティアの敷居が低いわけ

異職能集団としてのスポーツクラブ

2015年5月3日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

地元の『一般の大人』がメンバーであるドイツのスポーツクラブ。この特徴を裏返してみると、職能を活かすボランティアの場になっていることが見えてくる。

スポーツクラブのメンバーのボランティアで作られる試合の予定表。

今年の写真は方向性がかわった。

■変えてみないかい?

私が所属している地元スポーツクラブの柔道部署で毎年試合の予定表を作成する。毎回そこで使われる写真は『どりゃ~』と投げ飛ばしているようなもので、まあ、なんだかんだ言って、皆そういうのが好きなのである。

私も柔道の写真は時々取材を兼ねて撮影しているので、予定表作成時『技をかけている写真ないか?』と問い合わせが来る。『そういうのもいいけど、柔道家の内面が出てるような写真にしないかい』と毎回提案する。で、私の提案が気に入ったのか、はたまた『どりゃ~』という写真が揃わなかったのか、今年はついに写真の方向性が変わって、私の撮影したものを採用してくれた。

■人材は多い

おもしろいのは、この予定表を作っているデザイナーもクラブのメンバーで、結構強い競技柔道家でもあること。スポーツクラブは今日の日本でいえばNPOのような法人形態だ。一般の現役の成人メンバーもかなり多く、それぞれの職能をクラブのために発揮することがけっこうある。

例えば道場のちょっとした改装を有志でしたことがあるが、この時は職人のメンバーが主導でプロの仕事をしてくれた。イベント時の会計係は銀行マンのメンバーがすることがよくある。試合の時には怪我などに対応する救急担当をおくが、先日行われた試合についていたのは男性医師。彼もクラブメンバーの柔道家だ。

■プロボノ、地域スポーツインフラを支える

こういう様子を見ると、クラブが職業上の能力や経験を社会貢献に転用する『プロボノ』の場になっているのがわかる。しかも普段スポーツをともに楽しむことを通じて、『こういう仕事は◯◯さんが最適』といった“Know-Who” 情報が流通しているし、声もかけやすい。私も時々クラブや州柔道連盟の広報部門からの依頼で撮影をすることがあるが、きっかけはなんてことのない談笑のなかでおこった。

さらに見るべきはクラブの多さだ。全国に9万以上あり、『地域のスポーツ分野』で大きな役割を担っている。私が住むエアランゲン市(人口10万人)をみても、自治体の健康・スポーツ関連の政策を一緒に進めている。結果的にさまざまな職能をもったメンバーが各クラブの活動を支え、ひいては地域のスポーツインフラを充実させているかたちだ。『ボランティアで地域へ貢献』『地域デビュー』などと肩肘をはらなくてもよい構造がそこにある。(了)

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。