広場の出店、統一デザインが全体の雰囲気を作る(文・角田百合子)

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広場の出店、統一デザインが全体の雰囲気を作る

なぜ街に品があるのか

2016年8月16日

執筆者 角田 百合子 (学生/ドイツ・エアランゲン大学留学中)

【ドイツ・エアランゲン】ドイツの小規模な街のマーケットはきれいな印象がある。その理由は各店のテントのデザインが統一されていること。エアランゲン市(人口10万人、バイエルン州)の広場をのぞいてみよう。

■エアランゲン市のマーケット

おそらくヨーロッパでは通常のことなのだが、エアランゲン市でも市街中心地のメインストリート沿いに広場があり、そこにマーケットがたつ(図参照)。月曜日から土曜日まで開店時間は店によって様々だが、朝の6時から夕方の18時までというのが一般的だ。土曜日は特に出店が多く、人も多く集まるが、14時ごろになると多くの店が片づけを始める。野菜や果物、花を中心に、パンやチーズ、調理器具を売っている時もある。

目を引くのが、各店が赤と白の縞模様の共通デザインのテントを使っていることだ。テントの色はエアランゲン市が決めている。店主たちは各自で縞模様のテントを買う。スタンダードなものでも800ユーロ(約9万円)するらしい。また、隣町のフュルト(Fürth)では緑と白の縞模様に決まっているという。野菜を売る店主が教えてくれた。

テントを揃えることは街の景観を保つことだ。広場を囲むように伝統的な建物があり、広場の中心に噴水がある。この噴水を囲むように赤白テントの各店が軒を連ねるが、非常に絵になる。さらに、広場とつながっているメインストリートの建物も、デザイン的に突出したものはない。その結果、市街中心地全体に統一感があり、品のいい雰囲気を作りだしている。

ヨーロッパの様々な都市を訪れマーケットを目にするが、大きめの都市ではテントがそろっていないことも多い。小規模の街だからこそ実現可能な美しさなのかもしれない。

エアランゲンの広場。共通デザインのテントが市街地全体の調和を生み出す。(写真=角田百合子)

■雰囲気のよさは広場だけではない

このマーケットに買い物に来るのは主婦や老夫婦が多い。のんびりと店を見て回り店主と世間話をしながら買い物をする。道路を挟んで向かいの広場では銅像の下で若者が座って話をしたり、子供が遊んでいる。

さらに広場と連結しているメインストリートには様々な年代向けのお店やカフェが並ぶ。その結果、市街地全体が店の中よりも屋外に人がいる状態で賑わいがある。実際このエリアは歩行者ゾーンになっており自動車も通らない。そのため単に「移動する」空間ではなくなっている。これが賑わいの重要なポイントではないだろうか。

しかも、広場の隣には宮殿庭園という緑あふれる広い公園があり、人々が思い思いに芝生の上で寝転がったり本を読んだりとくつろいでいる。

人が集まる広場やカフェなどが並ぶ通り、緑の中で落ち着ける公園が隣り合い、市街地全体が様々な要素がコンパクトにまとまったバランスの良い空間になっている。

エアランゲン市市街地の地図。

メインストリートを中心に様々な要素が揃う空間になっている。(角田百合子 作成)

■日本の市場とどう違う?

日本にも朝市のようなかたちの市場はある。しかし、マーケットも街から離れたところにあり、また、午前中で終わってしまう場合も少なくない。ドイツのマーケットとかなり違う。あえていえば道の駅はかろうじて雰囲気が近い。

しかし、ドイツのマーケットのほうが、道の駅よりも身近で性格が違うように思える。広場を備えた街の作りそのものが日本にないということもあるが、欧米が開放的なのに対し、日本は閉鎖的。「街の中のマーケット」というより、個別のバラバラとしたものが存在しているように思える。テントや建物の統一は個々の店の外見の個性は出しにくいが、街全体の個性づくりには効果的だと思う。(了)

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執筆者 角田 百合子(つのだゆりこ)

1995年生まれ。平成28年度3月からドイツのエアランゲン市に約1年間交換留学生として滞在。海外生活を通して街づくりや環境問題、異文化の背景等を学んでいる。

滞在中、「インターローカル ジャーナル」主宰の高松さんのもとで記者の見習いをしながら、自分の疑問をひとつひとつ現地の人々へのインタビューをもとに考えてみようと思う。日本との比較や外からみた日本、日本からみたドイツ等様々な視点から深めることを目指している。留学前に高松さんの著書を読んだことをきっかけに連絡を取り、現在に至る。