20120531globalocal

Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏のウエブサイトです │前の記事記事一覧次の記事

グローバルヒット目指す国々、クールに進歩するローカル

欧州音楽コンテストとビール祭りのバンド

2012年05月31日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

毎年欧州で行われる音楽コンテストとエアランゲンのビール祭りに登場するバンドを対比すると、『ひたすらグローバルヒットを目指す音楽』と『クールに進歩するローカルな音楽』という対比が見いだせるように思う。これはグローバリゼーションの一面かもしれない。

■目立ちにくい国の独自性

毎年、欧州放送連合の加盟放送局による音楽コンテスト「ユーロ・ビジョン・コンテスト」が開催される。昨年はドイツで開催されたが、今年はアゼルバイジャンの首都バクーで開催され、私も家族とともに中継を見た。

コンテストでは各国代表のアーティストが楽曲を歌い、参加国の人々がSMSや電話で投票する仕組みだ。この時、投票者は自国のアーティストには票を投じることができないようになっているのだが、それでも各国の投票結果を見ると、隣国のアーティストが多いのが面白い。

さて、気になるのが楽曲だ。ほとんどの国の代表アーティストの曲はロック風、ポップス風、しかも英語の歌詞。今年はロシアの代表は民族衣装に身を固めた8人の高齢女性からなるグループが目をひいたが、それ以外はビジュアル的にもかっこよいアーティストたちがほとんどで、大半の楽曲も日本でいうところの『洋楽』のヒットソングという感じに聞こえる。

1950年代に始まった同コンテストは、歌詞の使用言語について、『国の公用語』か『制限なし』かのルールは何度か変わっている。ナショナリズムと国の文化を同一視された時代は国の文化を尊重する欧州的発想からいえば、『自国の公用語を使え』ということになるのは想像しやすい。

しかし言語制限のない現在は、結局のところほとんどが英語で歌うことになるのだろう。わかりやすくいえば、『全欧にむけて歌うのに、わざわざ自国の国の人にしかわからない公用語やなんて、いまどき流行らんで』といったところか。曲の作り手はどう考えているのか知るよしもないが、国の独自文化を主張するよりも欧州全体(の若者)にウケるかっこいい楽曲を作ることに注力したというふうに見える。

■伝統衣装でロック

一方、地域を見ると、地元文化を展開するようなサブカルチャーや流行が見受けられる。

毎年エアランゲンでは12日間にわたるビール祭りが行われる。近年、革のパンツやディルンドルというワンピース状の伝統的な服で行くのが流行しているのだが、日本でも数年前から浴衣などに人気が出ているのと同じような感じに私には見える。面白いのが、長女(中3相当)のクラスでディルンドルを着て登校してきたクラスメイトも数名いたらしい。

ビール祭りにあわせて伝統的な衣装が販売される。(エアランゲン市内の小売店のショーウインドウ)

こうした動向と並行に、音楽もアコーディオンを使った編成のバンドに人気が出てきているようだ。ビール祭りでは様々なバンドが祭りを盛りあげるが、昨年見たバンドの女性ボーカリストはロックを思わせる黒の革素材を組み合わせたディルンドルを着て、シャウトしていた。日本でいえば、革素材を組み合わせた浴衣でロックを歌う、そんな感覚だろうか。

ビール祭りは毎日23時で終わる。それで物足りない若者たちは市街のディスコやパーティルームへ向かう。

上のポスターは若者に人気のパーティルーム『ディルンドル(民族衣装のワンピース)・ダンシング』と銘打っている。

(撮影場所:エアランゲン市内)

同じくビール祭り終了後のパーティルームの広告。

ディルンドル(民族衣装のワンピース)を着た女性がメインにデザインされている。(撮影場所:エアランゲン市内)

今年ビール祭りで見たバンドといえば、男性ばかりのグループだったが伝統的な革パンツと伝統柄のシャツ。完全な『バイエルン楽団』という扮装(=写真)。楽器編成はドラムス、ベース、ギター、キーボードと通常のロックバンドを思わせるものだが、アコーディオンが加わっている。しかし楽曲はロックやポップス。定番のネーナが歌ったヒットソング『ロックバルーンは99』を演奏した時などは会場内は大合唱だ。

■グローバリズムの一面か?

ドイツには元々、郷土愛(ハイマート)という概念が社会・政治の中で一定の存在・影響力があるが、その文脈からいえば、『バイエルン楽団』のロックバンドや伝統衣装の流行も文化的な動きとしてそれほど違和感のあるものではない。

バイエルンの地元のラジオ局では自前の歌手にオリジナルソングを歌わせることがあるが、最近よく流れていたものをさらっと聞くとポップスだ。しかし歌詞はバイエルンの自然やスポーツ、サッカーチームなどが盛り込まれている。数々の愛郷歌(ハイマートリート)が各地にあるが、その系譜と見てもよいだろう。蛇足だが、サウンドもベースにチューバの音を使って、地元色を出しているのが面白い。

最近、人気がある(と思われる)バンド、『ドルフ・ロッカー(“村のロッカー”の意)』のポスター。

革パンツ、伝統柄のシャツを着て、やはりアコーディオンが加わっている。

それにしても、国の独自性をそれほど主張しないヨーロッパ音楽コンテストとサブカルチャーのかたちで地域文化を主張していく流れを対比するとなんとも面白い。

グローバリゼーションが進むと、分野によっては平板化をきたすような部分もあるが、一方でかえって地域の独自性や故郷というキーワードが重要なものとして浮き彫りになってくる面もある。ビール祭りの時期にヨーロッパの音楽コンテストを聞くと、そんな言説と重なって見えてくる。

一方で外国系市民はこうした地元文化色のサブカルチャー化にどう対応しているのか気になるところだが、それについては長くなるのでまたの機会にしたい。参考までに、昨年のビール祭りの時期に民族衣装について少し書いたので、もし興味があれば、読んでください。(了)

<ひょっとして関連するかもしれない記事>

※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。