学校から小児病院へのクリスマスプレゼント(文・角田百合子)
■クリスマスに欠かせないお菓子入りカレンダー
エアランゲン市(人口10万人、バイエルン州)の中心街の近くにあるロシュゲ小学校は小児病院と向きあっている。この小学校の窓がクリスマスの季節になると「アドベントカレンダー」に見立てられるのだ。
「アドベントカレンダー」とは耳慣れないが、毎朝クリスマスまで24個の窓を開けてカウントダウンしていくカレンダーのことをいう。様々な種類があるが、製菓会社などが売っているものでは、厚さ約1.5センチA3程度のパネル状のものをよく見かける。手で開けられる日付のついた窓をあけると、チョコレートやお菓子が入っているのだ。 他にも紅茶やレシピ、物語が入っているもの、はたまたお母さんの手作りというものもある。
このカレンダー、特に子供にとってシーズン中の楽しみにしている毎朝の「行事」で、クリスマスには欠かせないものだ。ちなみにアドベントというのはキリストの到来を意味し、「待降節」と訳される。
日本にはなじみのないアドベントカレンダーだが、ドイツの子供たちにとっては重要なクリスマスアイテムだ。
窓の部分に日付がついている。(写真=角田百合子)
■思いやりのアドベントカレンダー
クリスマスの時期の飾りつけも行っている同校の管理人によると、校舎の窓をアドベントカレンダーに見立てる取り組みを始めたのは2000年にまでさかのぼる。窓に12月1日から24日まで、世界中の童話をモチーフにした絵が飾られていき、さらに建物の外壁にも大きな光のクリスマスツリーが飾られる。
この取組みは大人の手によって行われ、飾られる絵も芸術の専門学校の学生によるものだが、対象にしているのは向かい側の小児病院。入院している子供たちが寂しくないようにというのがその趣旨だ。しかし同時に、小学校の子供たちにも、その日飾られる絵の題材になった童話について語られる。つまり、大人から子供たちへの大きな贈り物なのである。
■ただいま中断中
窓をアドベントカレンダーに見立てる例は決して珍しくはないが、このカレンダーの特別なところは対象が決まっていることだ。それゆえに2010年から2016年までこのプロジェクトは中断されている。というのも、小児病院が改装工事中だからだ。
とても残念である。中断しなくてもいいのに、とも思うのだが、明確な目的のもと、純粋に病院の子供たちへの贈り物をする姿を子供たちに見せるということが意味のあることだと判断したのかもしれない。小児病院側も本当に自分たちのためだけに行われているのだな、と考えるのではないか。
左側が小学校。右側が小児病院。取り組みの再開を願いたい。(写真=角田百合子)
■プロジェクトに見る「キリスト教圏」らしさ
このカレンダープロジェクト、実は他の小学校との共同で行っているものだ。病気の子供たちのためという目的を実現するために、この小学校の教室が選ばれた。つまり、小学校同士のつながり、小学校と小児病院のつながりから生まれたプロジェクトだ。
学校と地域の共同プロジェクトは散見されるし、世代間交流の機会の実現など意味合いも大きい。それに対して、クリスマスシーズンを見据えて、小児病院・小学校の子供を軸にするプロジェクトは、いかにもキリスト教圏らしいアイデアだ。というのもクリスマスは家族を思い、他者を思いやる時期で、日本での意味合いや様子がかなり異なる。この取組みはそんな趣旨がストレートに出ている。(了)
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執筆者 角田 百合子(つのだゆりこ)
1995年生まれ。平成28年度3月からドイツのエアランゲン市に約1年間交換留学生として滞在。海外生活を通して街づくりや環境問題、異文化の背景等を学んでいる。
滞在中、「インターローカル ジャーナル」主宰の高松さんのもとで記者の見習いをしながら、自分の疑問をひとつひとつ現地の人々へのインタビューをもとに考えてみようと思う。日本との比較や外からみた日本、日本からみたドイツ等様々な視点から深めることを目指している。留学前に高松さんの著書を読んだことをきっかけに連絡を取り、現在に至る。
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