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社交ダンスのお年ごろ

映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が今もドイツでウケるわけ

2013年5月2日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

社交ダンスは『いかにもヨーロッパ』のひとつ。私的なことからいえば、最近長女がダンスのコースに行くようになり、一気に家庭内に『ダンス』が流入。個人的な体験も含めてドイツ社会と社交ダンスについて書き留めておきたい。

たとえば『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)。毎年のようにテレビでよく放送される。この映画はビージーズの楽曲にあわせて踊る、白いスーツ姿のジョン・トラボルタのソロダンスが印象的だが、数年前にドイツで見たときにペアで踊るダンスシーンがあったのが驚きだった。映画でのダンスは当時、ドイツのダンススクールでもよく真似されたらしい。

■これは困った!

ペアダンス(社交ダンス)といえば、日本では鹿鳴館にはじまり、昭和初期のモボ・モガたちが楽しんだ。戦後は中川三郎などによる1960年代の普及。そして最近では、といってももう10年以上前のものであるが、映画『Shall we ダンス?』(1996年)あたりでペアダンスの認知度が高まった。

それに対して、ドイツにいると何かと舞踏会がある。

最近、長女も半年間のダンスコースに通った。それとともに10代の子供を持つ友人・知人と『ウチの子供はどこそこのコースに行ってる』といったことが話題になりやすい。子供ができると妊婦さんや赤ちゃんがやたらに目につくものだが、その感じに似ていて面白い。

コース終了のタイミングでダンススクールが市の大ホールで舞踏会を開催。長女にとっては初の舞踏会であるが、ここで大きな問題が発生した。

それは私も彼女と踊らねばならないということだった。

『ムム、これはなんとかせねば』と、舞踏会の1ヶ月ほど前から簡単なステップを覚え、練習。ダンススクールでもそんな親のために無料のコースを1度提供しているので、家人と一緒に参加した。

面白いのは別の友人夫妻ともここでばったり。『娘と踊らないといけないが、私のほうはすっかり忘れていてね』夫君のほうが笑う。が、『こっちはそんなもん、やったことありませんがな』と冷や汗だ。また市街にある文化施設で定期的にペアダンスのためにホールを開放しているのだが。家人と友人家族とともに数回足を運んだ。

ともあれ1ヶ月の血と汗と涙の特訓(?)のお陰で社交装置としてのダンスが肌感覚で少しづつ理解ができてきた。

■ペアダンスの層の厚さ

もっとも若い人全般にはペアダンスもそれほど人気があるわけでもない。また男の子は恥ずかしいのか、はたまたクールじゃないのか、ダンスに対して積極派は少なく、ダンス教室ではパートナーの男の子をいかに調達するかがけっこう課題になる。

それにしても、もうすこし社会全般を見渡すとペアダンスはまだまだ存在感がある。とりわけ長年、趣味としている夫婦はすごい。前述の文化施設では、でっぷりとお腹の出たオヤジさんや白髪の御仁が、憎らしいほど軽やかに、そして楽しそうにステップをふんでいるのだ。

またペアダンスで思い出すのが柔道のあるトレーナーだ。

私は定期的に柔道の練習に行くが、トレーナーの一人は足技をかけるタイミングを説明するときに、『ほれ、イチ、ニ、サン。イチ、ニ、サン。はい、(相手に)足を今かける』とおどけてダンスを模して説明することがある。これもペアダンスが普及しているからこそ出てくる練習方法といえるだろう。

こういったことを考えると、ダンス・スクールが盛況なのもよくわかる。また、靴に衣装、飲食、舞台設営、それにダンスのためのバンドなど『ペア・ダンス経済』もけっこうな規模になるのではないかと思える。

■社交装置としてのダンス

実際、ドイツの日常のなかでの『ダンスのシーン』をあげれば枚挙にいとまがない。

結婚式のパーティでは盛り上がってくるとダンスが始まるし、ほかにも経済関係、政党、研究所、教区などなど数々の括りの舞踏会がある。私が住むエアランゲン市では毎年スポーツ関係者などが集まる『スポーツマンのための舞踏会』などがあるが、取材で訪ねたところ市長夫妻も上手にこなしていた。

エアランゲン市は人口10万人の町だが、ダンス講師としてよく知られている人もいるし、議員のなかには職業がダンス講師という人もいる。ダンス人材の層の厚さも感じる。

また個人に帰すると、今日でもお年ごろになると嗜みとして必修という考え方があるのもよくわかる。また結婚のパーティでは新郎新婦も踊らねばならないので、ダンススクールのほうも結婚前集中コースを用意している。

こういったものをみていると、地域の中のフォーマル・インフォーマルな社交装置としての舞踏会が機能していることが容易に想像できる。

■繰り返して放送されるダンス映画

娘を通じてダンス事情の理解が進んだところで、ストンと腑に落ちたのが映画だ。

家族と共に夏休みを過ごす10代の女の子が、父親に逆らってまでダンス・インストラクターと恋に落ちるというストーリーの『ダーティ・ダンシング』(1987年)もよく放送される。名作とされている映画ではあったが、10年ほど前にて見た時は、ファンションや父親がユダヤ人医師という設定なども含め、中途半端に時代が古く、色あせた印象が強く残った。しかし、久しぶりに見ると、主人公たちによるダンスシーンの素晴らしさはもちろんのこと、(ドイツ人の大好きな?)休暇という設定、そして彼の地での舞踏会の展開という点が目についた。これらの条件が揃っているためにドイツ社会に馴染みやすいのだろう。

※ ※

話はもどって、娘の初舞踏会、女の子はこういう時に一気に別嬪さんになるが、男の子は『スーツの着こなしは、今からだね』という感じがお愛嬌。一方、大きな課題になっていた娘とのダンスは、簡単なステップはなんとかこなしたが、少しややこしくなると、とたんにガタガタ。スーツの着こなせていない若者のほうが上手い。(了)

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。