16年前に作った『インターローカル』という概念│高松平藏・在独ジャーナリスト

Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです。

前の記事高松平藏の記事一覧次の記事

16年前に作った『インターローカル』という概念

輩出するか、ローカル ヒーロー・グローバル プレーヤー

2014年1月18日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

当サイト名はインターローカル ジャーナルとしているが、インターローカルという言葉は1998年の夏にふと思いついたものだった。

■グローバル時代のビジョン

今年にはいって、この言葉について問い合わせがあった。それで、『あ、昨年はこの言葉を使い出して15周年だったんだ』と気がついた。いい機会なのでここで、少し書いてみる。インターローカルとは私は次のような定義をしている概念だ。辞書風に書けばこんな感じか。

【インターローカル】

1)国境とは関係のない地域間の関係性

グローバル時代の地域のビジョン。ジェトロ(日本貿易振興機構)が早くから『ローカル トゥ ローカル』というような言い方で国境を越えた地域間の貿易を提唱しているが、よく似た考え方。

またグローバル時代の地域のビジョンというと、『グローカル』という言い方もある。私の理解でいうとグローカルの実現には『インターローカル』な関係性が有効ではないかと思う。

2)近隣の地域との関係性

具体的にいえば隣接する自治体や地域が連携するようなかたちだろうか。これは日本でも生活圏が重なる市町村が共同で図書館や劇場・ホールを持ったりするようなケースが散見される。スケールメリットが見込めるようなことは共同でやろうという場合に有効だ。またドイツの場合は主に経済・政治的な側面から戦略的に近隣都市連携をすすめている例が散見される。

『インターローカル』を使い始めたのは1998年にまで遡る。当時、言葉そのものはすでにあったかもしれないが、記事執筆を目的にある対談の進行中、私が思いついたものだった。ちなみに2000年代初頭に放送関係のコンテンツプロバイダー『インターローカルメディア』なる会社もできたりもしている。ただ前述のような定義を与えた例はなかったと思う。そして私自身のサイト、interlocal.orgのドメインは1999年に取得した。

おもしろいことに、『インターローカル、インターローカル』と同じことを言い続けていると、このアイデアに賛同してくださる方や、『面白い』と言ってくださる方、著作物に引用していただくこともあった。

■自治体の戦略としてのインターローカル

拙著『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』のあとがきでも触れているのだが、グローバリゼーションには様々な問題や議論があるが、かえって拠点地域の重要性を認識させるような側面もある。ドイツの地域に住みながらEUを見ていると、ことさらそれを実感することがある。実際ドイツ各都市の姉妹都市などは拡大したEUに対して地域の攻守戦略ともいえる面が見えてくるのが興味深い。

日本をみると、『国際化』という言葉が踊った時代に自治体が国外自治体と数多くの姉妹都市提携を結んでいる。ある意味オフィシャルな『インターローカル』な関係が作られており、経済、文化、教育、研究など様々な交流プラットフォームになりうる。政策としてもっと戦略的に展開すべきだろう。

■あなたの街はどうしてる?これがインターローカルジャーナルの核心

一方、私自身はジャーナリストとして、住んでいる地域のことを報道したいと考えていたが、『ドイツのローカル』から『日本のローカル』へという『インターローカル・ジャーナリズム』とでもいえるかたちの執筆・講演活動をしてきた。内容は、どちらかと言えば常態に着目したものである。ジャーナリスムにはある種のセンセーショリズムが伴いやすいが、それに比べると随分地味である。

地味ではあるが、常態を継続的に報じることで、日本の『ローカル』のあり方を議論するための刺激やヒントとなるだろうと考えた。というのも経済振興や環境問題、エネルギー、インフラ、文化、教育等々、どこの『ローカル』にも同じような課題や問題があるからだ。

課題に対してエアランゲン市の場合はどう進めているか、問題に対してどう解決しようとしているのかというのが私の報道だ。これによって読者の皆さんは自分たちの町では『どうしているのか』『どうすべきか』という議論をより活発にできるのではないか。

『あなたの街はどうしてる?』。この問いかけこそが、インタローカルな報道の核心だと考えている。

■単なる「事例報道」ではいけない

もっとも、取り組みだけを報じるのは単なる『事例報道』だ。それらの背後にはその国や地域の制度や歴史、価値観、文化、風土など様々な要因があり、それらを鑑みることは事例を正しく理解するために必要なことだ。また、そういう理解をすることで、ラディカル(根源的)な議論につながるはずだと考えている。

そういうことに着目して作ったのが、集中講義・議論・検証・発表をセットにした合宿型のプログラムが『エアランゲン インターローカル スクール』だった。インターローカルジャーナリズムのひとつの展開だと位置づけている。

※ ※

昨今、『グローバル人材』なる言葉が踊っているが、インターローカルという関係性が盛んになると『ローカルヒーロー・グローバルプレーヤー』のような人もたくさん出てくる可能性もある。また、国境を超えた無数の『インターローカル』な関係が増えることは、まともなグローバル化につながるように思う。(了)

<ひょっとして関連するかもしれない記事>

http://goo.gl/V0Uq8F

※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。