一人前の大人とは?2/2
Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです │前の記事│記事一覧│次の記事│
一人前の大人とは?
社会的責任としての『親業』
2015年12月22日
執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)
■ジェイン・ジェイコブスの『一人前ビジョン』
アメリカ/カナダのジャーナリストで作家、アクティビストとして知られるジェイン・ジェイコブス(1916-2006)の遺作に『壊れゆくアメリカ』(2004年、日本語訳は2006年に日経BP社から出ている)という著作がある。
彼女は都市計画思想に強い影響を与えた人で、同書では『コミュニティがしっかりしていないと、こういうことを子供に身につけるのが難しくなるでしょ。どうよ?』という趣旨のことを書いているが、ジャーナリストらしく、身近な例をあげている。整理して箇条書きしてみよう。ものすごくわかりやすい『一人前ビジョン』だ。
さらに親としては次ことを考えるべきだとしている。
軽い病気や怪我も自宅治療できる知識と経験
病気や怪我をしたとき、自宅治療可能な範囲か否かを即座に判断できる能力
生い立ち、環境、個性が自分の家族とは相容れない人たちとも用心深く丁重に接する能力
ギャンブルや浪費の誘惑に負けず、現実的に金を扱う能力
買い物の支払いを滞らせず、請求書や税金を支払う能力
普通の家庭用品は自分の手で修理し日ごろからメンテナンスに心がける
銀行や役所とはいい加減な付き合いはしない
他人を警戒しつつ誰でも疑ってはいけないと子供を訓練する能力と気配り
地域の向上や近隣の保護に対して家族として尽力する
子供たちが広い視野を持ち寛容であるよう教育する
子供の復習・予習を手助けできる能力
子供が薬物に手を出さないように注意
EUのビジョンとも重なるようなところもあり、ひじょうに興味深い。さらにジェイコブズは他の大人の付き合いがない夫婦は<社会から孤立して孤独になり、偏執的になり恨みがましく、ストレスにまみれてうつ病質に落ち込み・・・>とも続けて書いている。
■個人と社会の幸福の実現
EUやジェイコブズのビジョン『一人前』と考えてみると、今後重要だと思われる点を簡潔にあらわしており、こうした能力を持った『一人前』を育てることは、個人のみならず社会の幸福の実現をも期待できるわけで、『親業』の社会的責任というふうに考えてみてもいいと思う。
また楽観的にいえば、『一人前の大人』が親になったときに、その子供を一人前にできるなら幸福な社会が次世代へもつながるといえるだろう。
ただ、『一人前ビジョン』を見ると、『おれ、そんな立派な大人じゃないよ・・・』とつい漏らしたくなるが、『生涯教育』という言葉が高らかに叫ばれている時代である。そこは割りきって、親もトライ&エラーを繰り返して『一人前』を磨いていくしかない。
■ライフ・ワーク・ソーシャル バランス
『一人前ビジョン』を実現のためには戦術的な枠組みのようなものもいるだろう。たとえば、近年、仕事と生活のバランスをとるようにしようという『ライフ・ワークバランス』なる言葉があるが、私はさらに『社会』を加えるべきだと考える。
つまり『ライフ・ワーク・ソーシャル バランス』だ。
仕事、家庭、社会での活動といった3つのバランスを考えながら生きていくようなイメージだ。この3つのバランスをとることは子供を一人前にしていくだけではなく、親自身の『一人前』にも磨きがかかると思う。(了)
<ひょっとして関連するかもしれない記事>
※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。