図書館は民主主義の道具として不可欠だ(文・ 木田悟史)
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図書館は民主主義の道具として不可欠だ
鳥取県立図書館にみる司書の活躍
2018年4月4日
執筆者 木田悟史 (日本財団 鳥取事務所所長)
【鳥取県】先進的な活動を行っている図書館に対して贈られるLibrary of the Yearという賞がある。鳥取県立図書館は2006年に第1回目大賞を受賞。2016年には国内の図書館としては初めて2度目の受賞を果たしている。図書館は設備や蔵書数なども大切だが、ライブラリアン(司書)たちがカギ。司書の1人高橋真太郎さんに話を聞いた。
公共図書館は、行政や有名建築家によってのみ、つくられるものではありません。そうではなく、そこへ通う市民ひとりひとりの参加が場所を形作り、新たなサービスの発想を生み、その内容に肉付けをしていくものなのです。(「知の広場」アントネッラ・アンニョリ)
■「サイダーについて調べたい」、寄せられる幅広い相談
調べ物について相談する窓口、レファレンスカウンターが同図書館にもあるが、日々、さまざま相談が持ち込まれる。高橋さんをはじめとする司書は、相談者に適切な参考書籍などを紹介するのが仕事だ。「カフェを立ち上げたいのだがメニュー開発はどのようにすればよいか」「家族が認知症になってしまったがその対応について調べたい」など実に幅広い。
そんな中に地場の商品開発につながる案件もある。たとえば「サイダーについて調べたい」という相談が持ち込まれたことがあった。
鳥取県八頭町には若桜(わかさ)鉄道の隼駅があり、実はスズキの大型バイク「隼」の愛好家にとって聖地になっている。これを踏まえ、地名にちなんだサイダーを作りたいというのが、相談の理由だった。高橋さんは詳しく話を聞いた上で、サイダーや商品づくりに参考になりそうな資料をセレクト。結果的にハヤブサイダーとして無事に商品化に結びついたそうだ。
ほかにも県会議員もご使命で高橋さんにリサーチを依頼されるケースもある。図書館が政策の質の向上にも貢献しているのだ。
鳥取県立図書館は県庁の目の前に位置し、蔵書冊数は人口一人当たりで全国1位。利用者は年間約30万人を数え、最近では図書館関係者や議員の視察も多い。(筆者撮影)
■図書館は利用者がいなければ、ただのハコ
同図書館のレファレンスカウンターが「よろず相談所」と化している。市民向けのイベントや勉強会、時には「出前図書館」などの諸活動が奏効しているのだろう。さらに同図書館にはモチベーションの高いスタッフが多いように思える。これも繰り返し図書館を利用する人を増やすのではないか。取材を通して、高橋さん自身の図書館の利用者に対する深い敬意と愛情が伝わってくる。
利用者が増えると、スタッフにとってもやり甲斐のある職場になるであろうし、当然経験値も高まる。つまり市民たちによって、図書館のレベルが引き上げられていくことになるのではないか。冒頭のアンニョリの言葉を地で行くかたちだ。
最近では、社会的弱者の方の「居場所」としての図書館の活用にも力を入れている。「本を読んだり、借りなくてもいい。ただそこに座って本を眺めてくれるだけでもいい。まずは図書館に足を運んでもらおうという情報を発信している」と高橋さんは言う。
図書館は決して限られた人達だけのものではなく、全ての市民、県民に開かれた場所であるという強いメッセージだ。言うまでもなく、多くの蔵書をかかえていても利用者のない図書館はただのハコだ。
ライブラリアン(司書)の高橋真太郎さん。同氏を頼りにしている利用者は多い。この日も取材を終えると、すぐにカウンターに戻られた。(写真はご本人からのご提供)
■図書館を民主主義の道具として使うために
最後に、私が働いている日本財団の活動も紹介したい。財団は地方の活性化のお手伝いを行っているが、今年の2月に同図書館と共同で、図書館のレファレンス機能を徹底的に使いこなそうというワークショップを実施した。私自身ワークショップを通じて初めて知る図書館の様々な機能もあり、これだけのサービスが全て無料で提供されていることに驚いた。
図書館法の第17条には、「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」とある。財源が税金なのだから当然なのかもしれないが、果たして私たち国民のどれだけがその価値に気づいているのだろうか。
「図書館の役割は、あくまで利用者に判断の材料を提供することであり、利用者が判断できる選択肢を広げるためのお手伝いをすること」と高橋さんは言う。最後にどういう判断をするのかは利用者である私たちに委ねられているのだ。
「図書館は民主主義の砦である」という言葉がある。民主主義には多様な意見や考え方を知り、場合によっては、ものごとを詳しく知る必要がでてくる。すなわち個人の「知的自立」が不可欠で図書館はそのためのサポートをする場所というわけだ。
また昨今、民主主義の姿が日本も含め、世界各地で危うげになりつつある。だからこそ、図書館の役割と使い方について、改めて理解を深める必要があるのかもしれない。(了)
人口減少の一方で日本の図書館、利用者数は年々増増加。誰もが「知」にアクセスすることを許されている図書館の存在は、市民社会を形づくっていく上で益々重要さを増す。(図.日本の図書館統計2017:日本図書館協会の資料を元に筆者作成)
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執筆者 木田悟史(きだ さとし)
日本財団 鳥取事務所所長。
ソーシャル・イノベーション本部国内事業開発チーム チームリーダー。慶応義塾大学 環境情報学部卒業後、日本財団入団。総務部や助成事業部門を経て、NPO向けのポータル・コミュニティサイト「通称『CANPAN』カンパン」の立上げに関わる。企業のCSR情報の調査や、東日本大震発災後、支援物資の調達や企業と連携した水産業の復興支援事業の立上げを担当。その後、情報システムや財団内の業務改善プロジェクトを経て今に至る。
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