グローバル化の世界を「教育」から映し出す

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グローバル化の世界を「教育」から映し出す

書籍『ノンフォーマル教育の可能性』の所感

2014年8月26日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

ンフォーマル教育の可能性 リアルな生活に根ざす教育へ』(丸山英樹・大田美幸 編 新評社、2013)を読んだ。グローバルな今日を教育という側面から映しだした1冊に思えた。所感を簡単に書いておきたい。

■世界の豊富な事例

ノンフォーマル教育とは、その名の通りフォーマルではない教育をさす。ではフォーマル教育とは何かといえば、『普通』に通う学校やその教授法など、公的制度のなかにある『教育』ということになろうか。本書では細かく言及しているが、だいたいそういう理解で読み進めばよいと思う。

本書は国内外のノンフォーマル教育のリサーチをもとにして書かれているが、事例の分量やバリエーションはかなりある。執筆者も複数だ。<ノンフォーマル教育の内実は多岐にわたる・・・教育学のみならず人類学、社会学、政治学などの学問領域の知見が有用であり、必然的にノンフォーマル教育は学際的になる。>(p220)と述べているのも納得がいく。

学際的にならざるを得ないことは目次をみるだけでもよくわかる。学校教育制度と対照のほか、生涯教育や多文化社会、はては社会運動、社会の持続可能性などの切り口でノンフォーマル教育を網羅することを試み、そして論じている。

■グローバルな世界の現状をあぶりだす

グローバル化した今日、地球規模でヒト・モノ・カネ・情報がものすごい勢いで移動する。それらは当然、既存の国家や社会のあり方、あるいはローカルの文化、伝統など固有の事情にインパクトを与える。機会の拡大もあるかと思えば、格差もおこる。

同書を裏返して読めば、グローバル化した複雑な世界の現状を教育という切り口からあぶりだしたようなかたちになっている。これが私には刺激的だった。加えて執筆者たちには『それでもヒトには教育が必要なのだ』という信念のようなものが共有されているのように思えた。

■信念、柔軟性、関係性

教育のあり方には変化が求められる。

昨今の日本国内をみるだけでも、人種的ルーツや外国のルーツを持つ多様な子弟が増えている。また、どうしても生徒のなかには既存の学校組織になじまないケースも少なくないなど、枠組みとしての公的制度の『教育』にほころびができているのだ。さらに本書では生涯教育といったキーワードもしばしば登場する。つまり『教育とは一体何なのか』ということを、幅広い視点で、頭を柔らかくして考えないといけない時代なのだ。

その一方、教育問題は専門外の人でも通常、『教育』をうけた体験があるので、口を挟みやすい分野でもある。しかし教育とは一体何かを問われる今日にあっては、『教育』についてコメントや議論をしたり、『教育』する側に立つ場合、自分の教育観の枠組みが何によって影響されていたか見る必要があるといえるだろう。

私事ではあるが、私の子供たちは、日本とドイツのルーツを持っている。こういう家族構成はグローバル化の現象のひとつとして捉えることができるが、我が家では継続的に夫婦で話し合って、教育についてはいろいろ考えてきた。それを通していえることは柔軟性と信念が必要ということ。そして、<関係性のなかで、本人にとって意味のあることを獲得していけるような教育をどうやってつくっていくか>(p218)といったような方向性は背景が多様になるほど重要になってくると思う。(了)

※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。