カルチャーギャップと自他共栄丨在独ジャーナリスト・高松平藏

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カルチャーギャップと自他共栄

蔵出し記事:ペルーで柔道指導、浦田太さん

2019年10月21日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

【蔵出し記事】2017年からペルー首都リマで道場を開き、子供たちに柔道を指導している浦田太さん(講道館柔道5段、全日本柔道連盟公認A指導員)がいる。きっかけになったのは海外青年協力隊としてペルーで2年間の柔道指導。私(高松)は2013年に一時帰国の際、浦田さんを取材した。(ベースボール・マガジン社「近代Judo」2013年10月号の連載「欧州のJudo」掲載分 )

海外青年協力隊時代の浦田太さん(写真=浦田さんより提供)

■現地の人の腑に落ちるように

当連載では柔道がドイツでどのように捉えられ、どんなふうに行われているのかという、一種の文化比較としてお伝えしてきた。筆者はこの夏一時帰国したが、2年間ペルーで柔道をしてきた浦田太さんから興味深い話がきけた。

同氏がペルーに滞在したのは2011年6月から今年の6月までの2年間。海外青年協力隊としてペルーのパイタとピウラという町で柔道を指導した。同氏は高校時代から柔道を行い、航空自衛隊に。ペルーに行く直前まで任地で職務として柔道の指導にあたっていた。ペルー行きはプロの指導者としてより経験を積みたいと考えたのがきっかけだ。

日本を離れると、「常識」だと思っていたことが通じなくなることはよくある。それは「柔道」をどう行うかという点でも同じで、浦田さんもカルチャーギャップは覚悟していた。ペルーで柔道は決してメジャーというわけではないが、それでも日本の柔道をぜひ知りたいという要望が強く、人々は浦田さんの話には耳を傾けた。それにしても、浦田さんも知恵をしぼった。

たとえば礼法がきちんとできていなかったが、相手への尊重の意を伝える作法だと説き、「恋人に『愛している』と言葉で伝えなければ通じないのと同じ」とペルーの人たちの腑に落ちるような説明をした。

■「自他共栄」コンセプトを実現

道場の感覚も異なった。「日本は建物自体道場だと考える。それに対してペルーの人たちは畳の上だけが道場。だから畳の外へツバを平気で吐いたりする」。さらに指導先の道場のスポンサー企業の人たちが道場に来たことがあったが土足で上がってきた。道場主はそれを咎めなかった。「靴文化ということはわかるが、これには違和感を覚えた」。また時間にルーズなのも気になった。

こういう現実に手をこまねいているわけではない。時計を道場に設置したほか、道場に出入りするときに嘉納師範に礼、道場はきれいにするなど「10のルール」を現地の指導者といっしょに考えて作成。道場に掲げた。浦田さんは10番目に「お父さん、お母さんを大切にしよう」という一言を加えた。ペルーの家族観ともよくあったのか子供たちの親も感心し、結果的に親からの協力も得られやすくなった。

任期中2つの柔道場に関わったが、日本大使館側から畳、柔道ソリダリティーから柔道着を寄付してもらうなど、できることはとにかくやった。子供たちを大都市へ試合に連れていったとき、自分が指導した子供たちは靴をきれいにそろえて畳にあがった。誇りだった。

筆者もドイツで常々感じているが、柔道は世界で共有できる素晴らしいものだ。自他共栄という「コンセプト」はカルチャーギャップがあっても相互に教えたり気付かされたり、一緒に汗を流しながら実現できる。(了)

浦田太さんのFacebook

浦田太さんの道場、KYOEI KAN 「共栄館」のFacebookページ

※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。