ドイツにおける日本文化リミックス丨高松平藏/在独ジャーナリスト

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ドイツにおける日本文化リミックス

舞踏がハイライト、『日本桜祭り』

2014年04月29日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

毎年、フュルト市(人口11万人、バイエルン州)で『日本桜祭り』なる日本フェスティバルが行われている。久々に訪問したので所感を記しておきたい。

■相撲、琴、コスプレ

このイベントは今月27日にフュルト市内のホールで半日だけ行われたもので、今年で10周年を迎えた。ホール内では独日協会のスタンドはじめ、大学の日本学部、生花、盆栽、絞り、刀、日本の伝統家具などのブースが並び、他にも茶道のブースではお茶を楽しめたり、子供向けの盆栽ワークショップ、指圧、囲碁などのコーナーもある。

ホール中央に設えられたメイン舞台では、剣道、相撲、合気道、居合道など武道のプレゼンテーションをはじめ、琴、尺八の演奏、日本の楽曲の演奏や歌、着物ショー、コスプレショーなどが行われる。また市内のシネマコンプレックス(複合映画館)では日本映画も上映された。

これらのプログラムの多くは地元のNPOや、同地域に住む日本人の有志が協力して盛り立てている。

■ハイライトに『舞踏』

今回、10週年のハイライトは『舞踏』だった。屋久島に住むダンスアーティスト、藤條虫丸(ふじえだむしまる)さんが義太夫や詩の朗読などを交えた音楽を背景に20分ほどのソロパフォーマンスを2度行なった。

はじまりは、舞台袖からゆっくり登場。指先や足先まで神経がピリピリするような動きもあれば、赤い長い布を使った外連味たっぷりの動きを交えたものだった。大ホールの仮設舞台で、どちらかといえばじっくり舞台を見るような設えにはなっていないが、人々の視線を釘付けにし、パフォーマンス終了後は拍手とともに『ブラボー!』の掛け声がかかった。

舞踏は日本の前衛舞踊で戦後、舞踊家の土方巽、大野一雄らによって、かたち作られてきた分野だ。1980年代に入って、白虎社、山海塾といった舞踏グループが世界的に活躍。日本のオリジナルの舞踊芸術『Butoh』として知られた。このため10周年の『ハイライト』として位置付けられるわけだ。

80年代に注目を浴びたということから、ドイツでも40代以上の世代だと舞踏を知っている人が比較的多く、それ以下だとそれほど一般的ではないように思える。それにしても『舞踏の名前は聞いたことがあったが、初めて見た。すごい』(20代女性)といった感想が聞かれた。また30代と思しきドイツ人男性から『今日のは演劇?ダンス? こういうのは日本でポピュラーなスタイルなのか?』といった基本的な質問をあびせかけられたが、最後には『幽霊みたいでちょっと怖かったが、死と再生を表現しているように思えた』といった感想が飛び出し、藤條さんの表現力の強さがうかがえた。

■日本にはない組み合わせだが・・・

こういったイベントの興味深いところは、文化受容のひとつの形が現れることだろう。

初代ドイツ・アマチュア相撲チャンピオンのヨルグ・ブリューマーさんら3人の『ドイツ力士』が場を沸かせたあとに、藤條さんが踊る。その舞台脇にはコスプレをした若者が熱心に見ている。そして舞台周りに盆栽や刀剣が展示されているのだ。ドイツで受け入れられたり、関心の高い日本文化が特定の空間に集められたかたちだ。日本ではまずない組み合わせだ。

例えていえば、開催地であるフュルト市および周辺地域の『日本』というキーワードにひっかかったものを集め、『ドイツにおける日本文化のリミックス』空間が作られた。そんなふうに解釈できるだろう。訪問者は同地域在住の日本人も多いが、むしろ日本人以外の日本ファンが集まっている印象がある。

日本企業が集まったデュッセルドルフには日本人が多く、この手のイベントの規模もかなり大きい。しかし、他の地域でも今回の『日本桜まつり』のようなイベントや、これよりもさらに小規模だが同様のイベントが行われることもある。文化外交という視点からいえば、こういった日本ファンの取り組みを把握することも必要だと思う。(了)

藤條虫丸さんのホームページ

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。