ドイツで愛犬を連れてレストランに入れるわけ(文・角田百合子)

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このページは「インターローカル」な発想から執筆していただいたゲスト執筆者の記事です。

ドイツで愛犬を連れてレストランに入れるわけ

犬を人間社会に適応させる

2016年7月31日

執筆者 角田 百合子 (学生/ドイツ・エアランゲン大学留学中)

【ドイツ・エアランゲン】今年3月にドイツ・エアランゲンへ留学に来た。初めての驚きは、レストランに犬がいたこと、日本にはまずない風景だ。ドイツではなぜこういうことができるのか考えてみたい。

■テーブルの下で待つ犬

ドイツの街を歩くと、犬を連れた人をよく見かけるのだが、レストランでもまた、犬を連れて来る人がけっこういる。日本の常識から考えると、ちょっと信じがたい。

驚いたことに、法的には商業施設、特に「食」を扱うところには動物は入れない。スーパーマーケットでは完全に禁止されており、これは日本ともほぼ同じだ。

それにもかかわらず、なぜレストランで犬を見かけるのか。現実的には店のオーナーが判断しており、他の客もまたそれを受け入れているのだが、この背景には「しつけ」があるようだ。

実際、レストランで飼い主が食事を楽しんでいる間、犬はテーブルの下で実におとなしく待っている。

商業施設内の犬用の水飲み場(写真=角田百合子)

■日独の「しつけ」の違い

日本でもドイツでも、犬は飼い主を癒してくれるペットであり、家族の一員のようでもある。筆者が住むあたりで、毎日犬を連れて散歩するガビドゥールさんと知り合ったが、「犬は私にとって家族同然」と誇らしげに言う。

毎日散歩をしているというガビドゥールさんと愛犬(写真=角田百合子)

だが、しつけといったときに、日独の考え方は少し違うようだ。

日本の場合、可愛さや賢さを他人に見せたいがために「お手」などの「芸」を覚えさせるのが「しつけ」と考えているふしがある。日本で犬は飼い主のものだ。

ところがドイツの犬たちは、飼い主に「芸」ではなく、外での「振る舞い」を教わっているように思える。飼い主が毎度指示を出さずとも、店の外で飼い主を待つ犬たちはほとんど吠えることなくきちんと座り、散歩中もリードにつながれずとも忠実に着いて行く。

スーパーマーケットの外で飼い主を待つ犬(写真=角田百合子)

■飼い主に求められているのは責任

ところで日本の愛犬家の中では、「見かけ」など表面的に飼い主と犬が似てくることがあると言われる。

ドイツでも飼い主と犬は似るという考え方があるが、礼儀のない犬は、飼い主もまた礼儀に欠く人物といったように、行動に焦点があたる。裏を返せば、犬にきちんとしたしつけを施すことで、飼い主の人柄や品位の評価にもつながるということらしい。つまり社会一般に、飼い主に求められているのは人間社会のルールにのっとた節度のある犬に育てる責任だ。

責任ある飼い主にしつけられた犬は、レストランのテーブルの下でおとなしく待つことができる。そして他の客にも不快感を与えない。レストランに犬を連れてくることの容認につながるのだ。

日本に目を転じると、愛犬を同伴できる飲食店といえば「ドッグカフェ」と呼ばれる特別な店が主流だ。これの良し悪しは別にして、ドイツと比べたときに、こういう専門の店が日本で必要になるというのは、人間社会のなかで犬をどう位置づけてきたかの違いがよく表れているように思う。(了)

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執筆者 角田 百合子(つのだゆりこ)

1995年生まれ。平成28年度3月からドイツのエアランゲン市に約1年間交換留学生として滞在。海外生活を通して街づくりや環境問題、異文化の背景等を学んでいる。

滞在中、「インターローカル ジャーナル」主宰の高松さんのもとで記者の見習いをしながら、自分の疑問をひとつひとつ現地の人々へのインタビューをもとに考えてみようと思う。日本との比較や外からみた日本、日本からみたドイツ等様々な視点から深めることを目指している。留学前に高松さんの著書を読んだことをきっかけに連絡を取り、現在に至る。