ドイツで写真展を開いた話1丨在独ジャーナリスト・高松平藏

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ドイツで写真展を開いた話 1

日本では難しかっただろうなあ

2019年2月4日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

ドイツ・エアランゲン市(人口11万人)で小さな写真展を開いた。タイトルは「頭の布のアート(Kopf Tuch Kunst)」。おそらく日本社会では「いったい何?」というテーマだ。発端は近未来的に見えたドイツの町だった。

2019年1月12日から7月27日まで ドイツ・エアランゲン市の成人教育機関のカフェに展示されている。

■「スカーフ」とは何か?

展示作品は29点。人物を撮影したもので、オープンカーに乗った女性、尼僧、レストランで働く人、農家の女性、舞踏ダンスアーティストなど。彼ら、彼女らの行為やシチュエーションはバラバラ。共通点はただ一つ、頭に布を覆っていることである。これを強調するために布のみをカラーにし、それ以外はモノクロに加工した。

だが、これだけだと、「スカーフをアートとして写したもの?それが、何なの?」で終わってしまいそうだ。

見ていただきたいのはタイトル「頭の布」の部分、ドイツ語で「コップフトゥッフ(Kopftuch)」といって、直訳すれば頭巾とかスカーフだが、ムスリム系の女性がつける布を指す。

■近未来的に見えたが、現代ドイツだ

初めてドイツを訪ねたのは1990年代後半。結婚相手がたまたま狭義の「ドイツ人」だったことが彼の国との関わりの始まりだった。ドイツは私にとって欧州系(いわゆる白人)の国で、特別関心のある国でもなかった。

今の形で落ち着いたのは2002年だが、エアランゲンの市街地を歩くと、ムスリム女性が目についた。当時の日本で見かけることが少なかったこともあるのだが、とりわけ、スカーフをかぶった女性が、フォルクスワーゲンのハンドルを握る姿がなんとも印象的だった。

というのも、同社の自動車は、当初ヒトラーの国民車計画が発端で、「ナチス政権下の国民車」だった。「フォルク」は民族、国民といった意味だが、ガチガチのドイツ的「フォルク」とイスラム女性の組み合わせが近未来的に見えたのだ。だが、近未来ではなく、まぎれもなく21世紀初頭の現代のドイツの都市での風景だった。

フレームに写真を入れる作業が終わった! 2018年12月17日

■裸の王様の「子供」は日本で理解されないだろう

2002年といえば前年の9月にニューヨーク世界貿易センターへのテロがあった。 それ以降、「イスラム教」は特別な宗教になった。特にイスラム女性に布に対して「積極的なイスラム主義」「イスラム教徒の女性抑圧」「非デモクラシー」などのイメージが欧州でできてくる。時々、大きな議論もおこるが、いわば西側の価値観への脅威と感じ、アレルギーともとれるものになっている。

欧州のそういう事情をよく知らない外国人(私のことである)からいえば、過剰反応に思えることもあったのだ。同時に理屈でいえば、西欧の基本的な価値観「デモクラシー」からいえば、こういう反応はよくない。デモクラシーなんていうものは、実際脆いものなのだ。

その時「裸の王様」の最後に出てくる子供のように、「ただの布じゃないか」ということに意味があるように思えた。方法は様々な種類のスカーフを並べることで、「布の意味」を相対化すること。これが15年以上前に思いついた展覧会のアイデアだった。でもこれは、日本に向けて発表してもたぶん、理解されないだろう。そう逡巡しているうちに、月日はあっという間に流れていった。(つづく)

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。