スポーツクラブが都市の質を高める
■10万人都市に100のスポーツクラブ
取材・観察・調査を通して、ドイツの10万人都市・エアランゲン市を定点観測的に接していて、やたらにスポーツクラブが多いということが気になっていた。スポーツクラブとは今日の日本の感覚でいえばNPOなのだが、この街に100程度あるのだ。
スポーツクラブは19世紀からの長い歴史も手伝って、ドイツ全国では9万程度を数える。ちなみに日本ですべての分野のNPOが4、5万といったところだろうか。歴史が浅いことも考慮しなければならないが、ドイツのクラブの多さがよくわかるだろう。
統計でいえばドイツの全人口の3割程度が何らかのスポーツクラブのメンバーだ。老若男女、職業や立場も異なる人間がスポーツを共通項にしてクラブに参加している。
■地域で強い社会ができる
地域社会に視点を移すと、スポーツクラブは地域内の多様な社交の場になっている。どのような社交があるかといえば、普段のトレーニングやその前後のおしゃべりはいうまでもないが、さらに何らかのイベントがあれば、有志のメンバーが手弁当で手伝う。またトレーナーの仕事など普段のクラブ運営そのものも自由意志で手伝う人が出てくる。そしてこれは何も大人だけではない。学生もそうだ。
もちろん場合によっては経費や報酬も支払われる。が、いずれにせよ注目すべきは自分の日々の職場や学校以外で活躍の場があるということだ。
こういった多様な社交が地域社会で日常的に実現し、それによって信頼関係の網目が構築されていく。いわゆる社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)が地域内で育まれてくるわけだ。
他方、スポーツクラブには競技者として活躍する人も多いが、もっと多いのが余暇・健康を目的にした人だ。また子供にとっても大切な余暇・健康活動だが、親側から見ると、社会技能的(ソーシャル・スキル)の獲得といった教育効果を期待するようなところもある。
■都市の質を実現する装置としてのスポーツクラブ
私は地方都市に着目して執筆・講演を続けているが、都市の規模を追うよりも、質を追求するべきだというのが10年前からの主張だ。都市の質とは、経済力に加えて文化、福祉、教育、健康といった『生活の質』を実現している都市かどうか、ということである。余談めくが、拙著『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』(学芸出版)のサブタイトルに『小さな街の輝くクオリティ』と入れたのも、都市の質が高められるメカニズムを探ることが中心主題にしているからだ。
ひるがえって、ドイツ国内をみると、スポーツクラブにも愚痴レベルから重要な課題まであって、決して『完璧』というわけではない。それにしてもスポーツクラブは地域において健康増進、余暇活動、教育、多様な社交といった生活の質を高めるひとつのインフラになっており、都市の質を支える大きな装置になっている。(了)。
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【連載】ドイツのスポーツはなぜいじめ・体罰がないのか 記事一覧
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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。