町の文化施設と新聞社が進める地方デモクラシー丨在独ジャーナリスト・高松平藏
ジャーナリスト、政治家、市民活動家が町の政治トピックスについて文化施設で討論会。
■ビアガーデン風のテーブルで討論
4月22日、日曜日の11時から、エアランゲンの新聞社による討論会が市内の文化施設「E‐ヴェルク」で行われた。
普段から同紙は様々なテーマを掲げた討論会をここで行っている。 この日は施設内の庭の舞台上に、いかにもドイツのビアガーデン風のテーブルが設えられ(=写真上)、地元紙の編集長、文化担当記者、2名の政治家、2名の市民活動家がテーブルについて討論。始まりと中休みには音楽の演奏(=写真下)が行われた。
白熱した討論の中休みに音楽。この「間」がなんともよい。
■「地元紙」ゆえのテーマとキャスティング
日本の新聞事情は、いわゆる全国紙の存在が大きいが、それに対してドイツは地方紙、いや郷土紙クラスの新聞がメインだ。人口1万人ぐらいの自治体でも町の名前がついた新聞が発行されている。 日本の新聞社もそうだが、しばしば有名人や知識人を招聘し、時事的な問題について、討論会などを主催する。ドイツの「町の新聞」も同様のことを行っているかたちだ。
地元紙が主催すると、扱われるテーマがおのずと「町」の話になる。今回も同市の政治的トピックスだった。登壇するのも地方のキーパーソンになりやすい。今回も登壇した政治家や市民活動家も同市や同市周辺の人だ。
ジャーナリストも「地元の人」だ。討論会では編集長が政治家に対して、厳しく迫ることもあるが、そうかと思えば「ジャーナリストではなく、(エアランゲンの)市民として言うと・・・」と立場を変えた意見を述べることもある。 2000年代半ば、日本でも市民が記事を執筆する「市民ジャーナリズム」という動きがあったが、フォーラムの様子を見ていると、むしろ「ジャーナリストも市民」という姿が浮かび上がる。実際、市内には少なくとも25人以上のジャーナリストが住んでいる。
会場になった文化施設「E-ヴェルク」の庭。飲食ができる「ビアガーデン」だが、サッカーのパブリックビューイングはじめ、イベントにも使われる。
■草の根型デモクラシーを誘発
ドイツ(のみならずEU)では下から議論を積み上げ、問題の解決や、課題への取り組みを進めることを重視している。いわゆる補完性原理や草の根型デモクラシーだ。これを実現するには地元での言論活動がおこりやすくすることが必要がある。今回の討論会も地元紙が推進力のひとつになっているのがよくわかる。
会場になった同文化施設もこういう討論会にはぴったりだ。ここではライブや演劇、映画上映などが行われ、ディスコスペース、バーなどがる。週末は若者で溢れかえっている。設立は1982年、もともと発電所だった。昨今の日本でよく使われる「リノベ(リノベーション)」で、NPOとして出発。当時の「若者」だった中高年にとっても馴染みがあり、「自分たちが作った」という感覚を持つ人も少なくない。年間25~30万人の訪問者を数える。ちなみに同市の人口は約10万人。
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ところで、「今日はプライベート」と知り合いの記者やカメラマンが何人かふらりとやってきた。そうなると自然に、「今日の討論会の記事は誰が書くの?」といった、新聞社内にいるような会話が飛び込んできた。ただ、片手には皆ビールを持っている。(了)
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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。
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