ミュージアムで多文化共生を考える
■5校の生徒たちとミュージアムのプロジェクト
同市のミュージアムで行われている展覧会は『私のインターカルチャー・エアランゲン』と題するもので、今年3月から今月16 日まで行われている。これは外国にルーツを持つ市民が以前から増えていることが背景になっている。日本では多文化共生という概念で進められているが、ドイツにおいては社会的統合というかたちで継続的な課題として捉えられている。内容は同市内5校の小中高に相当する子供たちとミュージアムが3ヶ月以上かけて行なったプロジェクトの成果を展示している。各校の展示を見てみよう。
最初のブースで目に入ってくるのは、液晶モニター。外国にルーツを持つ9人の子供が親や祖父母にドイツにやって来たことについてインタビューした映像が流されているのだ。
そのまわりには装飾品や民族色の強い衣装、外国の紙幣などが並ぶ。『もし何らかの理由で逃げなければならず、準備時間に3時間ある。そんな時何を持って行くか』という質問に対しての答えである。
2番目のブースには民族衣装などが並ぶ。エアランゲン市内にはイタリアやベトナムなどの外国料理店が多数あるが、5人の学生が各国のレストランの外国人経営者に質問。『どこから、いつ、どうやってドイツに来たのか』『なぜエアランゲンなのか』『店の調子はどうか』『ドイツの良い所は』『故郷への思いは?』というインタビューの結果をパネルに表示。旧東西ドイツ統一前にやってきたベトナム出身の経営者などは、『(旧東独と)国同士の取り決めがあったから(来ることができた)』という回答をよせており、歴史の一端を垣間見ることができる。民族衣装などはその国の典型的なモノとして展示している。
ややステレオタイプのものが展示されているようにも思えるが、
市内のレストランを対象にすることで経営者の回答に、より現実味を帯びる
色とりどりの小さなプラスチックパネルがいくつもぶら下がっているのが3番めのブース。壁には鏡がとりつけられている。(写真下)
ここでは訪問者が自分の名前をパネルに書くことができる。多種多様な名前に色、そしてそれを眺める訪問者は鏡に映る自分の姿も見ることになる。そんなかたちの異文化交流をすることで空間全体が作品として成り立つ。オープニングの際には市長(当時)のシーグフリード・バライス博士も楽しそうに自分の名前を書いていた。筆者も漢字とアルファベット両方を書いた。(冒頭写真)
パネルに名前を書くバライス市長(当時)
4番目のブースにはポップアート風の作品が並ぶ。その作品には『幸福』『自由』『多様性』『リスペクト』『「フレンドリー』『寛容』『労働』『故郷』『不安』『心配』といった言葉が散りばめられている。移民、社会的統合といった言葉に対する、ネガティブ・ポジティブ両方のイメージを反映したもので、アートの専門家を招いて学生たちが作った。
多様性、敬意、寛容・・・・・
最後はイスラム圏の居間を思わせるペルシャじゅうたんが敷かれた小部屋。ドイツの人たちにとって明らかに異文化空間だ。
その中に子供たちが作ったアラビア語の文字のメモリーカードゲームがおかれている。また12種類のスパイスのサンプルがおかれ、その香りを嗅いでみることができるというものだ。
アラビア文字のメモリーカードで遊ぶ訪問者
■見えてくるミュージアムの役割
以上が会場の様子だ。決して大きな展覧会ではないが、ミュージアムが文化を通して都市の中で社会的課題を提示し、理解や議論を促すような役割を果たしている。プロジェクトに参加した子供たちにとっては、いうまでもなく教育的価値のあるプロジェクトだ。
3月のオープニングではミュージアムの一室で、様々な国の料理が並べられた『インターナショナルビュッフェ』が用意され、参加者たちは各国の料理に舌鼓を打ちながら歓談していた。
ちなみに同市の場合、約14%が外国人だ。社会的統合に関する議論は市内でも継続的に行われているが、ミュージアムのプロジェクトもそのひとつ。こういった取り組みを継続的に行うことで『都市の質』とでもいうものが向上していく可能性がある。『文化はケーキの上の生クリームではなく、生地の中の酵母である』(2003年、ヨハネス・ラウ大統領)という言葉を思い出させる。(了)
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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。