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一人前の大人とは?

社会的責任としての『親業』

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2012年05月01日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

子供を育てることは親の大切な仕事だが、『社会的責任』として家庭教育を見た場合、親はどうすべきだろうか。2つの『一人前ビジョン』とでもいえるものを挙げて考えてみる。

■一人前

『親』の日常は大変だ。子供が赤ん坊のときには授乳におしめの交換、寝静まったかと思うと、夜泣きで起こされる。幼稚園や学校へ行きだすと、『宿題したか』『歯を磨いたか』と、往年のドリフターズのカトちゃんのようなことを言わねばならない。思春期を迎えると、大きな心で反抗期の子供と対峙しようとするが、つまらないことでギクシャクすることもあるだろう。つまり親業の日常はけっこう細かいことが多い。それだけに『どういう大人に育てるべきか』というビジョンのようなものを時々考えるべきなのだと思う。

『一人前』という言葉がある。意味を見ると、『おとなになること。また、おとなとして扱われること』(広辞苑 第3版 昭和62年)とある。たとえば、昔の農村では十分に生産性のある仕事をすることかもしれない。今日であれば経済的自立、キレない、他人のことを考えられること、人様に迷惑をかけない、といったようなことが並ぶだろうか。あるいは英語が話せて、グローバルな人間に、というようなことも加わるかもしれない。(余談だが『グローバル人材』っていったい何だろうね。その昔は『国際人』というのが幅をきかせていたが・・・。)

よくよく考えると、『一人前』の定義は時代や条件によって人々のあいだでなんとなく共有されている大人像なのことなのだろう。では今日的な『一人前』とは何なのか考えてみよう。

■ヨーロッパの『一人前ビジョン』

興味深いのは欧州で『一人前ビジョン』とでもいえそうなことを考える動きが、この10年で活発化していることだ。例えばEUが2006年に定めた右のような『生涯学習のための重要な能力』では8つの能力を掲げている。

こうしたビジョンを定める背景には労働市場の変化、社会環境の変化などに対して、成長モデル、社会モデルの実現という課題があるのだが、それにしてもこれらの項目を見ると、欧州の文化や人間観につながっているようにも思える。2000年前後からEUが拡大してきたことを受けて、欧州の価値観を確認する必要もあったのだろう。

■言語と市民社会

さて、この8項目、相互に関連させながらじっくり検討すると面白いのだが、今回は『言語(母語と外国語)コミュニケーション』と『社会・市民活動への参加』を見てみよう。

1)言語(母語と外国語)コミュニケーション:

まず母語については感情や意見、概念を自分のしっくりしたかたちで扱えるということを述べている。私の実感でいっても、日本語、いや関西弁のほうが感情をうまく表現できることがあり、そんなことを勘案すると母語コミュニケーションは人間としてのアイデンティティの問題とも深く関わっていることがわかる。そして、習熟度にもよるが外国語を使えることで、異文化理解や調停の能力がつくとしている。

2)社会・市民活動への参加:

次に『社会・市民活動への参加能力』では、『他者・異文化に対応する能力』『社会と仕事に効果的に参加する能力』を重視しており、これらは個人のみならず社会の幸福にもつながっているという。加えて、民主主義、正義、平等、市民権、公民権といった概念と『社会的・政治的概念』についての知識を個人がもつことで積極的かつ民主的な参加ができるといったことを述べている。

言語(母語と外国語)コミュニケーション能力と市民として能力。このふたつは他者・異文化に対応する能力として考えると、相互に関係が深いといえる。そして、こういう能力は今後とても大切だと思う。

というのも昨今、欧州ばかりでなく日本でも宗教や価値観などバックボーンの異なる『市民』が増えていく方向にある。母語で自分の感情をきちんと扱い、その上で他者・異文化に対して寛容を持ちつつも調整できる能力がなければ摩擦しか残らない。別の言い方をすれば、阿吽の呼吸では通用しない相手と市民社会をつくっていかねばならない。したがってこうした能力は重要になってくるだろう。(次ページに続く

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。