三刷重版、『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』

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三刷重版、『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』

この20年の日本の地域の議論は?

2015年12月31日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

出版不況と言われて久しいが、2015年の秋、拙著『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』(学芸出版 初版08年)が三刷出来となった。所感を述べておきたい。

■演歌のCDのように?

演歌のCDというのは、ドーンと売れることはないが、地味に何年も売れ続けることがけっこうあるらしい。

拙著は学術書ではないが、狭い分野の本だ。まちづくりに関わっている方や、行政関係、研究者、政治家、学生さんなど多くの方が拙著を手にとって下さり、演歌のCDのように売れ続けてくれた。

面白いのは、ドイツ語の教員の方が、ドイツ社会の実際を知る手がかりとして学生さんたちに勧めて下さっている例もあることだ。また熱い感想をくださる方、エアランゲンまで私を訪ねてくださる方、論文や著作に引用してくださるケースもあった。著者冥利につきる。皆さんに感謝したい。

他方、日本語の本であるにもかかわらず、同市のアーカイブにも資料として収蔵していただいた。町が潰れない限り、1000年前の文書類とともに残るわけで、想像もできない時間の長さに気が遠くなる。

■『都市の質』という視点

拙著で主に扱ったエアランゲン市は人口10万人だが、経済から文化、福祉、環境対策、教育・学術などあらゆるものが揃っており、『クオリティ・シティ(質の高い都市)』の条件を考えるにはぴったりの町だった。

しかし、これを『先行事例』と見るのは危険だ。あくまでも、この地方のこの都市の様々な歴史や文化、制度、メンタリティなどが絡み合っての結果だからだ。そして、それらを解きほぐして見えてきたのが、地方都市は規模ではなく、質の追求が肝心ということだった。

だから拙著を通して、ドイツの1つの『ローカル』の成り立ちを知り、日本の『ローカル』の質の議論を深める。そんな一助になればと思う。私は日本で講演や、エアランゲンでのセミナー『インターローカル・スクール プログラム』を行っているが、これもまた、議論を深めるための刺激を提供する機会だと思っている。

■20年の議論、『まちづくり』

ここ20年ほどの日本の地方に関する議論は玉石混淆だが、『まちづくり』という言葉からいえば、その中身は次のようなことを模索してきたという印象がある。

・市民参加のあり方

・地域における人々のネットワークづくり

・メインの資本主義に対する別の副次的な経済構造

そして、少しづつだが帰国するたびに、確実に変化しているのを感じる。しかし地域を鳥瞰的に捉える視点が物足りない印象を持つ事がしばしばあるのだが、どうだろう。

他方、この20年は世界情勢の変化や原発事故、経済力の低下などに伴い、国家そのものがリフォームを必要としている。そんな中、『質の高い地方』の集積が国家の健全な底力になるという視点があってもよいだろう。今後も拙著がそんな議論のために役に立てば嬉しい。(了)

※ ※

【批評・感想】

最後に新聞・雑誌、ブログなどに掲載いただいた拙著の批評や感想の一部を掲載しておきたい。

肩書などは執筆当時のものである。また、これ以外にも色々な方が批評・感想を書いてくださった。感謝したい。

(下記の批評・感想をまとめたものをこちらから閲覧できます)

  • ヨーロッパの地方都市に行くと…町並みの賑やかさは20年ぶりくらいで訪ねた場合でも全く変わりがない。…こういう状況に驚き“何故だろう”という疑問を持つ人にとっては…非常に面白い。あまりの面白さに、ついつい、ひと晩で読んでしまい、寝不足にさせられてしまった。…分析の仕方は広角的で、しかも分析内容は深く、短期間の調査でとても書けるような本ではない。(四日市大学総合政策学部教授 竹下譲氏

  • 国民国家に対する相当程度の自律性を備えたいわば全体として描かれる。同心円的な構図(世界/国民国家/地域)のなかの「地域」ではなく、国民国家を「越える」地域ないし「ローカルなもの」が、…著書で記述される「ローカルなもの」の現在である。(社会学者 内海博文氏

  • 地域間格差がはっきり出ている日本社会にとってこの本の題名はひどくショッキングである。(景観フォーラム 斉藤全彦氏

  • 地方が疲弊しているから、どう活性化するのか、という知恵を得る本ではない。(衆議院議員 太田昭宏氏による感想

  • 異国とはいえ非常に参考になるアイディアが随所に散りばめられています。(三条市長 国定勇人氏による感想

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。