地域作りのための「思考」をひっくりがえす丨在独ジャーナリスト・高松平藏

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地域作りのための「思考」をひっくりがえす

ドイツでの研修プログラム「インターローカル スクール」

2019年1月13日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

研修プログラムをエアランゲンで行っている。ドイツの都市の成り立ちは、日本とは全くといってもよいほど異なる。そのため、集中講義を受けていただくと、既存の思考が根底からひっくり返されることがおこるようだ。この1年ぐらいの受講者の方の様子から同プログラムで見えることをお伝えする。

■「頭が真っ白」という効果

「集中講義」と「街を歩いて議論」を行う研修プログラム「インターローカル スクール」を不定期でエアランゲンで行っている。人数は10人以内が理想。日程は1日~2日。少人数で濃密な講義と議論を行うのだ。

最大の効果は、既存の思考をひっくりがえされることだろう。

「先進事例のある国、ドイツ」を、表面的にコピーしようと思っている人には、たぶんそうとうきつい。「コピーするのは無理だ」ということがわかるからだ。

一方、「発展経緯の異なる国、ドイツ」を見るつもりでいくと、これもきつい。

たとえば「近郊交通」「地域の文化」「歩ける街」「地元経済」「NPOとの協働」などのキーワードを見ても、背景や基本的な価値観が異なるので、場合によっては「頭が真っ白」になる方もおられるようだ。

ドイツは「先進事例がある国」ではない。「発展経緯が異なる国」と見るのが妥当だ。

■まるで合宿だ

手前味噌だが、「頭が真っ白」になるようなところに、プログラムの価値があると思っている。

日本の地方にある同じような課題でも背景や価値観が異なることがある。─そんなことがわかると、根底から考え直す、あるいは深いレベルで熟考するきっかけになるからだ。

この研修プログラムを受講いただいて、「どんな役に立つのか?」といえば、役に立たないことのほうが多い。しかし、日本の地方に戻り、様々な議論を行うとき、問いの立て方に影響するのではないかと思う。

「どういう問いが立てられるか」、これは自律的な地方づくりの要だ。

また、集中講義で扱った「ドイツの街」を五感で感じながら、オープン・エア・クラス(街を歩きながら議論)を行うと頭がフル回転するようだ。というのも講義内容を咀嚼し、日本での仕事と比較対照、関連付けをしようとするからだ。

だからモチベーションの高い方などは、質問もすごい。もっとも答える側の私も必死だ。そんな具合なので、講義のときはもちろん、歩いても、食事しても、議論が絶えない。 まるで合宿である。

「実物」のある空間で時間をかけて聞くのとではかなり違う。

■日本では無理だ!が発端

このプログラムの発端は、日本での講演・講義に限界を感じることが多かったからだ。

日本の日常の中で、90分程度私の話を聞いていただいても、本質にまで触れるのがどうしても難しい。まあ、これは仕方がない。

そこで日本での日常から脱して、ドイツへお越しいただき、講義内容の「実物」の空間でインプットと咀嚼、そして吸収したことを言語化をしていただこうと思ったのだ。ここ数回の、20代から40代ぐらいまでの受講者の方を見ていると、頭が柔軟な方が多く、私も手応えを感じている。

このプログラム、<ドイツの「ローカル」で思考を鍛え、日本の「ローカル」で活躍>ということを念頭においている。(了)

同じ内容の講義も日本の日常の中で聞くのと、

「インターローカル スクール」で、この1年ぐらいで扱ったテーマ

    • エアランゲンの歩行者ゾーン

    • 元祖コンパクトシティとしてのドイツの都市

    • ドイツ都市における持続可能性とは何か

    • エアランゲンの文化政策

    • 中心市街地の発展

    • 都市の自律と公共空間

    • 地方都市のモビリティ

など

※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。