チャールズ・ブロンソンは郊外住宅地を作る?│高松平藏・在独ジャーナリスト

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チャールズ・ブロンソンは郊外住宅地を作る?

アメリカの郊外化と都市化に関する映画2題

2017年4月18日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

たまたま「恋に落ちて」「狼よさらば」という アメリカ映画を2本見る機会があったのだが、所感を述べておきたい。両作品に共通しているのはニュヨークが舞台だが、「都市化」「郊外化」が前提になっている点だ。

■郊外化による通勤列車が舞台

「恋に落ちて」(1984 監督:ウール・グロスバード)はロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープが演じる、不倫恋愛映画。ニューヨーク郊外に住んでいる2人だが、フランク(デ・ニーロ)の職場はニューヨークで毎日通勤。モリー(ストリープ)もマンハッタンの病院へ入院している父のところに頻繁に通う。2人とも既婚者だ。

クリスマスにニューヨークの本屋さんで偶然ぶつかり、お互い買った本が入れ替わるというハプニングがある。後日また電車の中で出会い、そこから恋心が育まれるというお話。郊外とニューヨークを結ぶ鉄道が物語の舞台としてかなり重要だ。

■都市化がおこした社会秩序の崩壊

「狼よさらば」(1974 監督:マイケル・ウィナー)はチャールズ・ブロンソン主演の映画。ポール(ブロンソン)はニューヨークに住んでいるが、仕事中に、自宅に強盗が入る。妻が殺され、娘は陵辱され精神を病む。仕事で南部に出張するが、そこで自警の精神に感銘を受け、ニューヨークに戻ると犯罪者たちを自らの手で処刑しはじめるというストーリーだ。

オリジナルの英語のセリフはどうなっているのかはわからないが、日本語の吹き替えでは、ニューヨークはこんな町だから、都会で働いて、田舎で暮らすのが流行といった意味のセリフがある。ニューヨークが都市化によって、富裕層は郊外へ、そして社会秩序が崩壊しているという状態が物語の前提だ。

アメリカは入植者によって、先住民の排除とセットに「開拓」されてきた国だが、19世紀末になると産業化によって都市化がすすみ、やがて「郊外」が誕生する。「開拓」と「都市化」では空間を捉える文脈が違うはずだ。が、警察よりも開拓時代の自警精神のほうが効果的な解決方法という構図が読み取れるのが興味深いところだ。

■主人公は建築関係

都市化が進むことによって長距離通勤というライフスタイルが登場したり、都市のスラム化などで社会秩序の崩壊などの問題がおこる。そして 様々な都市論が登場するのだが、私はアメリカへは行ったことがなく、生活の匂いや社会の肌触りのようなものがわからない。そのため論文などを読んでも、想像力を働かせねばならない。「恋に落ちて」「狼よさらば」、両方とも若いときに見ているのだが、たまたま今見ると、アメリカの都市論が透けて見えるのであった。

ちなみに、「恋に落ちて」ではデ・ニーロ扮するフランクは建築技師で、ビルの工事現場がよく登場する。都市化を推進する仕事だ。「狼よさらば」の主人公ポール(ブロンソン)は設計士ということになっていて、彼が勤務する会社では住宅地の開発計画を行っている。会社でのシーンで住宅地の立体モデルなども出てきて、住宅をどのぐらい密集させるべきかというような話も出てくる。「郊外」を作る仕事をしている。

ほかにも、私自身見たことがある80年代のアメリカ映画を思い浮かべても、「メイフィールドの怪人たち」(1989年)は「郊外」が舞台になっているし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)では「郊外」の開発前後が時代の変化として表現されている。都市化、郊外化をものがたる映画は探せばもっとあるだろう。 (了)

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